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新垣知輝(2024)数式を日本語として表現し質的な理解を高めるe ラーニング教材の開発
.熊本大学大学院 社会文化科学教育部 教授システム学専攻 2023年度提出修士論文
要旨(日本語)
近年,大学のユニバーサル化とともに入学者の基礎学力の低下が叫ばれており,各大学
においてリメディアル教育の取り組みが盛んに行われている.薬学部においてもリメディ
アル教育として数学や化学などを提供しているが,高校 3 年間の内容を数ヶ月で終える必
要があるため,自主的な練習の場として e-ラーニング教材が提供されることも多い.し
かしながら,e-ラーニングでは自律性を有さない学習者に対して低い履修率となることが
課題であり,継続して学習してもらうためには動機づけを高めることが必須となる。
そこで本研究では,学習意欲の低い学習者に対しては自己決定理論の観点より外的調整
から行うのが有効と考え,ゲーム的な要素を学習に取り入れることで,学習者の学習意欲
を向上させるような教材開発を行った。
教材の対象者は大学 1 年生とし、対象分野は、聞き取りの結果、苦手意識が強い指数及
び対数分野とした。当該分野に対し課題分析図を作成し、これに基づき 200 題以上の演習
問題を作成した。これらの問題をゲーミフィケーション要素である想起練習が行えるよう
に配置し、課題分析図に合わせて問題のセットを作成した。この教材に対し、ゲーミフィ
ケーション要素の完了実績の可視化及び達成度の可視化を加え、内発的動機づけの醸成を
行えるよう設計した。
本教材について、専門家(SME)による形成的評価を受け、内容に誤りがないことを確
認したのち、大学 1 年生 5 名に対し形成的評価を行った。その結果、学習を完遂した学生
について、事前テストと事後テストを比較すると 22 点満点中、指数の平均点 12 点から
203.点、対数の平均点が 11 点から 22 点満点となり、教材の完遂によって学習効果があ
がっていることが確認できた。また、学習の履歴を解析したところ、1 回の学習でいくつ
もの問題集を連続して解いているものが複数おり、ゲーミフィケーションの効果によって、
1 回学習を始めるとついやり続けたくなることが示唆された。
その一方で、学習を完遂できていないものも 2 名おり、止まってしまったところについ
ては改善の余地がある。内発的動機づけを大きく高めるところまで十分に至っておらず、
自律性、有能性から内発的動機づけを高めるための方略に更なる改善が必要である。
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濱崎あゆみ(2024)ブレンド型学習を用いた PBL 型授業の設計-日中間ビジネスをテーマとした協同学習-
.熊本大学大学院 社会文化科学教育部 教授システム学専攻 2023年度提出修士論文
要旨(日本語)
近年、グローバル化が進展する中で、異なる文化背景や価値観、国籍を持つ者同士
による共同作業の中でよりよい成果を生み出すことができるグローバル人材育成に向
けた取り組みが重要となる。
しかしながら、異なる文化背景を持つもの同士がグループ構成されたとしても、双方
にとって「見せかけの学習グループ」になってしまい、「異文化理解」を実現することが
難しく、チームで協力し、課題達成に向けチーム全員で働きかける中で仲間意識の醸
成や達成感を味わいづらいという課題がある。
そこで、本研究では、日中間ビジネスをテーマとした協同学習を題材にした産学連
携による PBL 型授業の設計・開発を行う。学習者同士が、オフラインの対面授業とオ
ンラインの Moodle の中で、異なる文化背景を持つ者同士がディスカッションを通し
て、学び合えるコミュニケーションの場の中で課題解決をする、e ラーニングと対面授
業を組み合わせたブレンド型学習を用いた PBL 型授業の設計・開発を行い、学修効
果の有用性を検証した。
その結果、学習目標の到達度を測定するために、事前テスト・事後テストによる平均
点を比較したところ、事前テストより事後テストの得点の方が有意に高く、学生たちが
本授業を通して達成感を味わえたという結果を得ることができた。また、協同作業にお
ける認識について「共同作業認識尺度」を用いて定量的測定を行ったところ、「個人志
向」因子と「互恵懸念」因子が授業の実施前と実施後で比較したところ、数値が低下
し、「協同効用」因子に上昇がみられた。
今回の研究では、異なる文化背景を持つ者同士で協同学習を上手く進めるための
工夫をしながらディスカッションを進めていくことが、有益であり、協同学習においてみ
んな違う価値観のなかで課題解決をしていくための経験から得る深い学び学びを強く
望んでいることが明らかになった。
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猪田京子(2024)新規事業組織における製品課題改善のための組織学習開発
.熊本大学大学院 社会文化科学教育部 教授システム学専攻 2023年度提出修士論文
要旨
企業はコロナや戦争などさまざまな外部のリスクに対処し、経営を安定させるために新しい分野
に進出している。筆者の所属する企業では、社員の知見を活かし研修の提供を行う教育事業を立
ち上げた。その中の製品の1つとして、客室乗務員の知見を活用し、顧客の接遇対応評価を行い、
分析を行うサービスを提供している。しかしながら、業務効率化や商品競争力に課題が生じたため、
WBS(Work Breakdown Structure)作成による作業明確化およびサービス担当者に対する半構造イ
ンタビューによる業務の現状分析、半構造インタビューを行った。その結果、担当者個人の経験や
知見にのみに依存した業務遂行体制になっているうえ、個人・組織ともに学習機会がなく、業務の
標準化、サービスの強化や拡充、といった、学習上の課題が明らかになった。本研究はこの製品
課題を改善するために本製品実施担当者向けに、組織学習を開発すること目的としている。
先行研究調査から、企業が持続可能な成長を達成するために、既存の事業モデルを守りつつも
柔軟性を持って新しいアイデイアを創出し対応する両利きの経営論を用いている企業が複数見受
けられた。そこで組織学習の開発方針として「両利きの経営論」を援用し、知の深化(現事業強化
のための知識の共有、業務の標準化活動)をシングルループ学習で行い、知の探索(新規提供メ
ニューの拡充、新規顧客開拓のための新たなアイデイアを創出する活動)をダブルループ学習で
平行して実施することとした。
学習環境として WEB 上に学習プラットフォームを構築し、学習者および活動リーダーである筆
者との双方向性を確保した同期、非同期を組み合わせた学習環境を実現し、筆者と 6 名の学習者
で 3 か月間、週 1 回 1 時間の学習を実施しした。
シングルループ学習型の組織学習の成果物は、業務のシステム化と効率化を実現する業務支
援ツール(業務マニュアル、報告書テンプレート)である。また、ダブルループ学習型の組織学習の
成果物は、顧客の接遇対応評価においてこれまでのサービスメニューになかった非対面及び異業
種対応の評価項目の創出とそれを活用した新たな事業製品計画案であり、筆者が所属する組織
において新たな価値創造となった。
今回この組織学習を開発したことで、解決すべき製品の課題に貢献する成果物が創出された。
成果物の効果として、業務支援ツールによって担当個人の知見やスキルに依存している事業が標
準化・効率化し、また、新たな製品サービスの提案により事業の売上や利益向上に資することが期
待される。
今後は、開発した戦略的組織学習を社内で紹介し、組織の課題解決や新しい価値の創造に寄与
していきたい。
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駒崎知永理(2024)インストラクショナルデザインの自動化を志向した図書館情報リテラシー教材作成ツールの開発.熊本大学大学院 社会文化科学教育部 教授システム学専攻 2023年度提出修士論文
要旨(日本語)
現在,多くの大学図書館では,学生等を対象に,情報の探索,入手,管理方法などを
教える情報リテラシー教育を実施している。しかし,文献調査を行った結果,大学図書館
が行う情報リテラシー教育には,次の 5 点の課題があることが分かった。
1. 情報リテラシー教育を行う図書館員に,教授設計に関する全般的な知識やスキルが
不足している
2. 情報リテラシー教育の内容が,スキルの獲得ではなく知識の伝達にとどまっている
3. 情報リテラシー教育の評価が十分に行われていない
4. 情報リテラシー教育を大学図書館が同期型で行うには限界がある
5. 情報リテラシー教育が,大学の中で組織的,体系的に行われていない
そこで,本研究では,インストラクショナルデザイン(以下,ID)を知らない図書館
員であっても,ID について学び,情報リテラシー教育のための独学用教材を作成できる
ようになるための AID(Automating / Automated Instructional Design)ツールの開発を
行った。本ツールのユーザーは,全国の大学図書館員を想定している。そのため,全国的
に活用されるような汎用的 Web ツールになるよう設計を行い,ID の専門家が側にいなく
ても,図書館員のみで教材開発(特に,分析・設計・評価)を行うことができる仕組みを
整えた。
本ツールは,「チェックリスト」,「ワークシート」,「クイズ」,「解説」の 4 つのコンテ
ンツから構成されている。「チェックリスト」とは,教材を ID の観点から評価するため
のものである。既存のチェックリストを参考に項目の加除を行い,再分類を行うことで図
書館員向けの新しいチェックリストを作成した。「ワークシート」とは,新規の教材を設
計したり,既存の教材の設計を見直したりするものである。「クイズ」とは,「チェックリ
スト」や「ワークシート」を正しく使うためのトレーニングツールという位置づけであ
る。トレーニングツールを配置することにより,ID の専門家が不在の状況においても,
図書館員のみである程度のレベルまで教材の分析・設計・評価を行うことができる仕組み
になっている。最後に,「解説」とは,それ以外のコンテンツの利用をサポートするため
のものである。
ツールのプロトタイプ完成後,ID の専門家 2 名によるエキスパートレビュー及び図書
館員 2 名による形成的評価を実施し,ツールの有用性等の検証を行った。今後は,評価
の結果をもとに,さらにツールを使いやすくするための改善を行うことが課題である。
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久保田文子(2024)行動中心アプローチに基づいた日本語授業を実践するための ID の第一原理を活用した設計―日本語教育機関の事例から―.熊本大学大学院 社会文化科学教育部 教授システム学専攻 2023年度提出修士論文
要旨(日本語)
現在、日本語教育機関で行われている日本語教育は、言語構造の定着に注目した教師主導
の授業が中心となっている場合が多い。「行動中心アプローチ」に基づく言語教育は、学習
者がそれぞれの社会で求められる課題を遂行できるようになることを目指しており、日本
語教育機関の学生にとっても意義深いものである。
本研究は、「行動中心アプローチ」と「ID の第一原理」の相関に着目したデザイン研究で
ある。日本語教育機関の学生が学びを実際の場面に転移させるための行動中心アプローチ
に基づく授業を、ID の第一原理を活用して設計する手順や設計のポイントを明らかにする
ことを目的として行った。
まず、第 1 期対象授業(2023 年 4 月~6 月実施)として筆者が行った授業を行動中心ア
プローチの原理で分析したうえで ID の第一原理を活用して授業設計を改善した。その改善
で得られた授業設計の手順を用いて、第 2 期対象授業(2023 年 10 月~12 月実施)を設計
した。第 2 期対象授業では3つのタスクを設定し、それぞれに分析と改善を繰り返しなが
ら実施した。その結果、学生への授業実施後のアンケートとインタビューから、授業設計上
の工夫と学習の転移の相関が示唆された。
最後に、「日本語教育機関の学生が、教室で学んだことを実際の場面に転移させ、社会で
求められる課題を遂行できるようになる」という文脈の範囲で、「行動中心アプローチに基
づく授業を、ID の第一原理を活用して設計する際の手順とポイント」をまとめ、本研究の
成果とした。今後はさらにデザイン研究の手法で研究を続け、行動中心アプローチに基づく
授業のデザイン原則を提案したいと考えている。
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松本幸子(2024)国際人道・開発支援従事者に向けた性暴力サバイバー対応の分岐シナリオ型 e ラーニング教材の開発.熊本大学大学院 社会文化科学教育部 教授システム学専攻 2023年度提出修士論文
要旨(日本語)
近年、国際人道・開発支援現場での支援者による受益者に対する性的搾取・虐待の不正
行為を根絶する取り組みは、性的搾取・虐待(SEA)および性的ハラスメント(SH)から
の保護(PSEAH:Protection from Sexual Exploitation, Abuse and Sexual Harassment)と
よばれる。PSEAH の普及は、専門人材の育成だけではなく、PSEAH が組織の行動規範に
含められ、全ての支援関係者が性的不正行為を正しく理解すること、不正行為の発生時に
備えた対応ができることを目指す。支援者全般に対する教育は、国連と国際 NGO のコン
ソーシアムである機関間常設委員会(IASC)が開発した研修モジュールを用いて世界中で
実施されている。日本の関係者に向けた研修は 2022 年から開始した。同研修は、性的不
正行為の問題を理解し、PSEAH に取り組みを促すことを目的とし、知識向上や態度の変
化に一定の効果がある。一方で職場(支援現場)での行動を変えるような学びが得られな
いことが示唆された。
本研究では、PSEAH の理念や原則は理解しているけれど、実際に現場でどのような行
動をとるべきか具体的なイメージができないという日本の支援関係者が抱える問題に応え
る。具体的には、性暴力専門家や PSEAH 担当者ではない支援関係者が、性的不正行為の
サバイバーに被害を打ち明けられた際の対応スキルと通報義務を遵守するスキルを習得す
るための日本の学習者に向けたシナリオ型 e ラーニング(SBeL)の教材開発を行った。本
研究では、始めに先行研究・事例を調査し、教材設計・開発方法の概念的フレームワーク
を設定した。次に、概念的フレームワークを用いて本研究課題に関するシナリオ型 e ラー
ニング教材のプロトタイプを作成した。プロトタイプの形成的評価は、1)分野専門家(性
暴力と PSEAH 領域、及びインストラクショナル・デザイン領域)によるレビュー、2)学
習者との 1 対 1 評価、3)小集団による実地試用の 3 段階で行い、評価結果を分析した。
その結果、事前・事後テストやアンケートから、学習成果が確認でき、学習トピックは深
刻でセンシティブな内容であるものの、魅力的な学習機会の提供や有用性において概ね高
い評価が得られた。今後の展望は、状況・文脈を変えた異なるシナリオを開発すること、
効率的な学びを促進するために対人スキル習得の対面研修の事前練習として本教材を活用
すること、執務参考資料となる GBV ポケットガイドを日本語翻訳することが望まれる。
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中垣達(2024)市中病院において一次救命処置の知識・技術を習得することができる学習環境の設計と評価.熊本大学大学院 社会文化科学教育部 教授システム学専攻 2023年度提出修士論文
要旨(日本語)
心肺停止の患者に対して心肺蘇生法を実施し自動体外式除細動器(AED)を使用すること
で自発的な血液循環の回復を目指す処置は一次救命処置(BLS)と呼ばれ、患者の生存に直
結する介入である。病院内では看護師はその数が多く患者の近くにいる確率が高いことか
ら BLS における看護師の役割は大きい。しかし本研究の対象である X 病院は市中病院であ
り大学病院に比べてシミュレータなどの教育資源は十分ではなく、また各部署における教
育は経験的に行われており、さらに医療現場は多忙であるため集合研修による BLS の教育
には限界がある。そこで市中病院において教育担当者が直接指導することなく、各部署の看
護師が自身で学習することができる環境を設計し、必要な学習のみを効率良く行えるよう
にすることで看護師の知識・技術の不足を補う仕組みを構築することを目的に研究を行っ
た。
BLS の学習環境設計に関する先行研究を調査したところ、必ずしも必要な学習成果が含ま
れていない、あるいは評価がされていないという傾向が見られた。また BLS の自己学習に
関する先行研究を調査したところ、学習者のレベルのばらつきへの対応や集合研修を前提
としているなどの課題が残されていることが明らかになった。さらに運動技能の自己学習
に関する先行研究を調査したところインストラクターがいないため修正的フィードバック
を通した適切な手技の習得、モチベーション維持といった課題が残されていることが明ら
かになった。
BLS の学習環境を設計するに当たっては適切な BLS の実践に必要な学習成果について課
題分析図を作成し整理した。次に TOTE モデルの考え方に沿って学習フローチャートを作
成し、学習が必要かどうかテストを行って判定し3つの学習項目のうち適切にできていな
かった学習項目のみ学習させることで効率化を図った。さらに学習成果ごとに学習支援を
設計した。
BLS の学習環境を開発するに当たっては言語情報および知的技能は e ラーニングで学習
し、運動技能は e ラーニングで各手順の動画を視聴し誤りがあればそれを特定できるよう
に訓練してからフィードバック機能があるマネキンを用いた自己学習ステーションで学習
する仕組みとした。自己学習に当たっては ARCS モデルに基づいた動機付けシートにより
モチベーション向上を図った。専門家レビューでは妥当性であるとの評価を受け、形成的評
価で設計した BLS の学習環境が機能することを確認した。
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落合道夫(2024)学習者の概念理解と能動性を高めることを目的とした JiTT による高校物理授業の実践~その方法と効果~.熊本大学大学院 社会文化科学教育部 教授システム学専攻 2023年度提出修士論文
詳細はありません。
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大西 克樹(2024)カレッジ・レディネスを高める入学準備としての e ラーニングプログラムの設計と実践-高校から大学へのトランジション支援-.熊本大学大学院 社会文化科学教育部 教授システム学専攻 2023年度提出修士論文
要 旨
高校から大学への移行は,学びの環境だけでなく,より一層の自立性が求められるなど大
きな変化を伴う難しい時期である.4 年間の大学生活の中心が学びであることから,ほとん
どの大学では,入学前の生徒を対象に入学前教育を実施している.しかしながら,学力維持
や底上げを目指すリメディアル型の取り組みが主で,多くが総合型選抜(旧 AO 入試)を対
象としたものとなっている.ほぼ全ての学生が初めて大学生になる中で,入試の形態や学力
に関係なく,リメディアルではない大学生になるためのトランジション支援は見られない.
本研究では,米国で研究されたカレッジ・レディネスに着目し,大学入学予定者が大学生
になるための入学準備を支援し,スムーズにトランジションできるようにすることを目的
とした e ラーニングプログラムを設計し,実践した。まずは,プログラムの可能性を探るた
め,暫定的なプログラムを試行実施した.その結果を踏まえ,学習スキルとテクニックに関
する⾃⼰評価ルーブリックを作成するなどカレッジ・レディネスの要素を強化したプログ
ラムとして改善設計し,専門家らによるレビューを得た.
本研究により,リメディアルではない大学生になるためのトランジション支援はニーズ
があり,カレッジ・レディネスの要素が大学入学予定者の入学準備として一定の効果がある
ことは明らかとなった.ただ,実践環境が英語課程の学部であったため,他の学部や大学に
おいて汎用的に実践できるものではなく,別環境での実践やより委細な受講者分析を行う
など,今後の研究に可能性を残す結果となった.
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佐藤尋美(2024)看護教育場面における GBS 理論に基づいたシナリオ型教材作成支援のためのワークシートの開発 .熊本大学大学院 社会文化科学教育部 教授システム学専攻 2023年度提出修士論文
要旨(日本語)
看護師の業務遂行場面は、その場での判断・選択・行動の連続である。看護師は、その
連続の中で患者の命を危機から守るために最善を尽くし、その責務を全うするために自己
の能力を研鑽し続ける努力を求められる。
新人看護職員の臨床判断能力を高める必要性に関して、厚生労働省(2014)は、新人看
護職員の看護実践能力の低下が臨床現場で必要とされる臨床判断能力との間で乖離を生じ、
離職の一因となっていることを指摘し、その必要性について言及した。また、厚生労働省
(2011)は、新人看護職員に対する教育方法としてシミュレーションを用いた模擬体験で
状況設定に応じたトレーニングや侵襲的技術を学習することを推奨した。このような社会
の動きを受け、看護教育場面においてはシミュレーションによる教育が行われるようにな
ったものの、シミュレーションは、より多くの意思決定と選択の結果によって複数の学習
経路が設定されるため、設計が複雑になり、時間も費用も必要になるという側面がある。
一方で、シナリオによる学習はシミュレーションのように複雑な学習はできないが、学習
設計を可能にするストーリーを展開できる。意思決定場面を提供するシナリオ型教材を提
供するための設計理論であるゴールベースシナリオ(Goal-Based Scenario,以下,GBS)理
論を用いた問題解決型の学習による思考を訓練する教育は、看護師の臨床判断能力の育成
に有効である。そのために GBS 理論に基づいたシナリオ型教材を用いた研修による学習機
会につながる支援を行いたいと考え、多くの看護師から事例を提供してもらえるようなシ
ステムの構築と、事例を効率良く教材として活用できる形で提供してもらう方法として、
シナリオ型教材作成を支援する書きやすいワークシートの開発に臨んだ。
ワークシートの開発では、筆者が看護領域の内容領域専門家(SME)兼 ID 専門家として、
1 つの簡単な事例についてシナリオを作成し、作成したシナリオをもとにワークシート(案)
とシナリオ型教材を作成しながら、シナリオに必要な事項の過不足を点検して、シナリオ
の改善とワークシート(案)の改善を繰り返した。作成したシナリオ、ワークシートにつ
いて、GBS の7つの構成要素を含んでいるか確認してさらに改善を行い、エキスパートレ
ビューと専門家レビューによる形成的評価を経て、ワークシートおよびシナリオ、シナリ
オ型教材を改善した。さらに、別の事例を対象にワークシートを使用し、内容領域専門家
(SME)と協力して GBS に基づいたシナリオを作成できるか確認し、開発したワークシート
の有用性について考察した。
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杉達郎(2024)訪問看護師がケアマネージャーと連携して業務を遂⾏するためのGBS 理論を⽤いたシナリオ型 e ラーニング教材の開発.熊本大学大学院 社会文化科学教育部 教授システム学専攻 2023年度提出修士論文
要旨
超⾼齢社会の⽇本において, 地域包括ケアシステムの構築が推進されており, 療養者が
さまざまな社会資源サービスを活⽤しながら住み慣れた地域で暮らせるよう, 訪問看護師
の需要は⾼まっている. そのような背景から, 看護基礎教育において, 「他職種連携」や「社
会資源の活⽤」の学習機会は拡充されているものの, 訪問看護分野へ就業間もない看護師に
おいて, それらの知識不⾜が報告されており, 業務遂⾏における課題となっている.
そのような課題において, 従来のテキストや講義ではなく, 学習者の⽂脈を活⽤するこ
とで, より実践的な学習となることが報告されている (Bransford, J. D 1990). 根本 (2005)
は, その⼿法を3つに整理しており, 本研究ではシナリオを採⽤した. シナリオは学習者に
ある⼀定の役割を与え, 学習者の既知の情報や⽤意された情報から必要な部分を抽出し活
⽤させ, ⼀つの判断をさせる学習⼿法である. 訪問看護経験の浅い看護師であっても, シナ
リオを通じて学習することで, 業務へ効果的に活⽤できる実践的なスキルを習得できると
考えた. シナリオを学習に⽤いる上で, 効果的に活⽤するための下⽀えとなるのが, インス
トラクショナル・デザイン (以下 ID) のひとつである Goal Based Scinario 理論 (以下 GBS
理論) である (Roger C. Schank 1993). そこで, GBS 理論を⽤いたシナリオ型教材を開発す
ることとした.
本研究では, 訪問看護師に必要な「社会資源の活⽤」や「他職種連携」を実践するために,
シナリオを活⽤したオンライン/⾮同期型学習に加え, 対⾯/同期型のリフレクションを取
り⼊れた新しい学習設計を提案している. このアプローチにより, 実際の現場で必要とさ
れる思考プロセスを学習し, 学習者の判断⼒向上を図る. 既存の GBS 理論に基づく教材開
発には多くの事例があるが, 本研究の独⾃性は, リアルタイムのリフレクションを統合し
たことにある.
シナリオのプロトタイプを作成し, Subject Matter Expert (SME) ・ケアマネージャーに
インタビューを実施した. 課題設定に相違がないことを確認し, シナリオ型教材のプロト
タイプの開発に着⼿した. 実際の業務における展開や⾒え⽅でリアリティを⾼め, 学習者
の選択に応じたシナリオが展開できるよう, Google Forms に実装した. また, 教材は
Google Sites にまとめることで, 学習のユーザビリティを⾼めた.
開発したシナリオ型教材を含む学習設計に関して, SME・IDer からエキスパートレビュ
ーを受けた. SME より, シナリオは現実感があると評価を受けたものの, ⼀部シナリオに不
⾃然さがあると指摘を受け修正した. IDer からは学習⽬標の明確性と評価⽅法について指
摘を受け修正した.
今後, 開発した研修を学習対象者へ1対1評価を実施し, 形成的評価をする予定である.
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谷内祐樹(2024)OPTIMAL モデルを用いた学習指導案検討を支援する教材の開発.熊本大学大学院 社会文化科学教育部 教授システム学専攻 2023年度提出修士論文
要旨
本研究では,中学校教師の学習指導案検討を支援する「学習指導案検討シート」を開発
した。開発にあたって,ブレンド型学習を設計するための ID モデルである OPTIMAL モ
デルを参照したことに本研究の独自性がある。
第 1 章では,現在,教師による「協働的な学び」と「個別最適な学び」との往還が求め
られていることを示した。しかし,中学校では,小学校と比べて実践的な研修が行われて
いない状況を指摘した。そこで,OPTIMAL モデルを参照した教材を開発し,中学校教師
の「個別最適な学び」を改善するという本研究の位置付けを明確にした。
第 2 章では,中学校教師の「個別最適な学び」を改善するために,インターネットの活
用が有効であることを示した。また,「協働的な学び」との往還を図るため,OPTIMAL モ
デルを参照した教材開発の有効性を見いだした。一方,同モデルには先行研究が少ないた
め,この効果や課題を指摘する上でも意義があることを示した。
第 3 章では,教材の学習目標を設定するため,中学校で行われる学習指導案検討の発話
状況を調査した。このような「協働的な学び」の機会では,他者が作成したプランの問題
点を指摘し,代案を述べることが有効である。しかし,発話状況を分析した結果,「非同意」
や「提起」に関する発話が少ないことが分かった。
第 4 章から第 6 章は,中学校教師の学習指導案検討を支援する教材の開発プロセスを示
した。開発にあたっては,ブレンド型教材を開発するために考案された「ブレンド型用教
材企画書」と「OPTIMAL モデルチェックリスト」を援用した。これによってブレンド型
学習の課題が明らかになり,改善が進むことを示した。
これまでの議論をまとめると,教師による「協働的な学び」と「個別最適な学び」の往
還を図るための方策として,OPTIMAL モデル等の知見を生かしたブレンド型学習の有効
性が指摘できる。ただし,教師の「個別最適な学び」を実現するためとはいえ,教師を孤
立させてはならない。インターネットを活用する個別の学習であっても,教材に「他者参
照」等の機能を備えることで,学習者は個別のニーズに沿った学習をしながらも,協働的
に学習することが可能となる。本研究を通して,教師による「協働的な学び」と「個別最
適な学び」との往還のための一つの方策を見いだすことができた。
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德永恵理子(2024)遠隔学習における動機づけ強化のための対話型 Moodle メッセージプラグイン開発-ChatGPT による Relevance/Confidence を喚起するメッセージの自動作成-.熊本大学大学院 社会文化科学教育部 教授システム学専攻 2023年度提出修士論文
要 旨
本研究では,遠隔学習において,ARCS 動機づけモデルと ChatGPT を活用して学習者
の学習意欲と学習継続可能性を向上させる支援を行うための新たなアプローチを提案す
る.
本研究は,成果物として Moodle メッセージプラグインを開発し,学習者からのヘルプ
シーキングに相当するメッセージ受信時の機会をとらえ,支援メッセージ草案を
ChatGPT の API を活用して自動生成し,学習者の Relevance(関連性)と Confidence
(自信)を喚起することを目指している.
本研究では,学習者の学習継続に効果的な,対話による学習支援を行うための,Moodle
を中心とした取り扱いやすく汎用性のあるシステム構成を構築し,ChatGPT を用いた学
習支援の効率化に寄与する.
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馬場政尚(2024)家庭での防災対策をナッジにより促す高校生向け防災教育プログラムの開発.熊本大学大学院 社会文化科学教育部 教授システム学専攻 2023年度提出修士論文
防災教育のねらいの 1 つとして「日常的な備え」が掲げられており、日常生活の場である
家庭における防災対策の促進が防災教育上の一課題である。高校生が家庭における防災対策
を進めるためには、家族の協力が必要となる。そのため、学校で実施する防災教育によって
高校生が防災知識を獲得し、防災意識が高まったとしても、防災対策の実践の場である家庭
において、思春期特有の親子関係や本人、家族の多忙といった外部要因によって、防災対策
行動に結びつかない可能性がある。
このように、高校生を対象とした学校における防災教育を通じて「日常的な備え」を実現
することには困難が伴うが、家庭における生徒の防災対策行動の変容について蓄積は十分な
されておらず、学校現場での取り組みは停滞している。
そこで、本研究では、「日常的な備え」の実現を目指し、高校生を対象として家庭におけ
る防災対策行動(家具家電の固定対策)を促進する防災教育プログラムを開発した。とりわ
け、外部要因の存在に着目し、家庭における防災対策行動を促進するために、行動経済学に
おけるナッジを援用した防災教育プログラムを開発した。
防災教育プログラムは、教科教育を通じた防災行動意図、家庭防災への態度の向上を目的
とした学習活動(Phase1)、ナッジ介入を伴う家庭における実践活動(Phase2)、実践活動の
振り返り(Phase3)の 3 つのフェーズで構成される。Phase1の授業開発はガニェの 9 教授
事象を用いて行い、Phase2で用いるナッジの開発には OECD BASIC ツールキットを用い
た。
開発した教材は、防災教育の専門家、ID の専門家による形成的評価、高校 1 年生 7 名を
対象に小集団評価を行い、所要の修正を行った。
修正した教材を基に、高校 2 年生 269 名を対象に防災教育プログラムを実施し、形成的
評価を行った。
評価の結果、Phase1では生徒のリスク認知、防災行動意図、家庭防災への態度が有意に
高まった。Phase2では、家庭において家具家電の防災対策が促進されたことが確認され、
ナッジを組み込んだ防災教育プログラムが、家庭における防災行動を促進することが示唆された。
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堀田雄大(2024)教員の研修動画の視聴と他者コメント及びナッジ理論を活用した研修プログラムの開発と評価.熊本大学大学院 社会文化科学教育部 教授システム学専攻 2023年度提出修士論文
子供たちの多様化と社会の変化に伴い,教師の新しい学びや教職員集団の改革が求められて
いる.子供一人一人の教育ニーズに応えられる教師の力量と,多様化する現状に対応できる教
員集団が求められ,変化を前向きに受け止め,学び続けることが重要となる.今後は,教師の
研修履歴の記録作成とその履歴を活用した資質向上のための指導・助言の仕組みが導入され,
教員が主体的に学ぶことが求められる.学校現場の多忙さが課題となる中,集合型の対面研修
だけでなく,教員が自分のペースで,時間を見つけて自主的に研修を進めることのできる研修
として,オンラインによる受講環境を活用した研修プログラムが注目されており,今後は教職
員用のデジタルコンテンツを活用したオンライン研修の開発が期待される.オンライン研修の
問題点として,自律的な学習の困難さや先延ばしが指摘されている.そのため,時間と場所の
制約がないオンライン環境における自己管理の重要性が強調されており,特に,相互評価の導
入が学習動機の向上に期待できるとされる.しかしながら,これらの知見の多くは学生を対象
としており,教員向けオンライン研修に関する知見はまだ不十分である.教員と学生では学習
内容や環境が大きく異なり,特に教員の場合は勤務と研修の両立が課題となる.教員の働き方
に合わせた研修プログラムの開発が必要である.
そこで,本研究では,教員が自主的に学習を進めるためのオンライン研修の要件を検討し
た.具体的には,動画視聴と振り返り,他者コメントを組み合わせた非同期のオンライン研修
プログラムを開発し,その効果を検討した.このプロセスを通じて,教師が自主的に研修を進
めるために必要な研修プログラムの要件について示唆を得ようと考えた.研修プログラムの開
発では,教員の個々のニーズや勤務環境を考慮し,自律的な学習を促進する要素を組み込むこ
とが重要である.また,相互評価や他者との交流を取り入れることで,学習者間の協働と内省
を促すことも研究の焦点となっている.開発した教育研修プログラムを実施・評価した結果,
教師の学習方法と振り返りのスタイルについての知見を得た.振り返りの内容には,視聴内容
の要約,個人的な感想,動機,省察,提案が含まれ,これらが教師の学習ニーズや自己課題の
発見,教育方法の改善につながることが分かった.ナッジを用いたコメント投稿意欲の向上や
新たな視点の獲得も評価されたが,全員に効果的であるわけではなく,焦燥感を引き起こす可
能性もあることが示された.さらに,学習者の学習戦略の採用状況を調査し,高群と低群の学
習者間で差異があり,自身の学習スタイルや戦略に気づく過程が明らかになった.
この研究により,オンラインを活用し,教員が自主的な研修を進めていくための研修づくり
に関して次の示唆を得た.振り返りへの働き掛け,ナッジの活用,フィードバックのシステム
構築,多様な学習方略への対応,定期的なメンタリングの導入が挙げられる.これらの示唆
は,教師が学習過程を自覚し,効果的に学び続けるための支援体制の構築につながると考えられる.
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鵜澤威夫(2024)バングラデシュの初級日本語学習者と日本の高校生との COIL 型教育プログラムの開発.熊本大学大学院 社会文化科学教育部 教授システム学専攻 2023年度提出修士論文
本研究においては、現在筆者が従事している「外国人 ICT 技術者人材育成プログラム(BJET)」内で取り組んでいる COIL 型教育プログラムである B-JET CAFE を、インストラクショナル
デザイン専門家、日本語教師、高校教師の本研究に関わる 3 分野の専門家によるエキスパートレビ
ューを受け、その結果を分析し、初級日本語学習者であるバングラデシュ人と、ICT 初心者かつ異
文化交流の機会の少ない日本人中等教育学生であっても、双方の学習目標を達成することができ、
導入へのストレスの少ない方法での、COIL 型教育プログラムを開発することを研究目的としてい
る。
本研究の研究対象としている、初級日本語学習者の多くは、教室外で日本語と接触のない学習環
境に置かれていることに課題がある。また、日本の高等学校における国際理解教育の現状として
は、1対生徒の講演型の教育が多く、 海外の人との少人数の双方向型のコミュニケーション教育
を展開できている教育機関は少ない。
以上に挙げたように、海外在住日本語学習者と日本の中等教育の生徒にはそれぞれの課題がある
中で、筆者は現在、B-JET CAFE に取り組んでいる。
これまでの B-JET CAFE の実践結果としては、学習者からのアンケート結果から、双方に満足度
が高く、一定の成果があることが明らかになった。また、具体的に獲得できる知識やスキルとして
は、全体に共通して異文化理解が高く、日本側は ICT スキル、バングラデシュ側は日本語能力向上
が顕著に見られた。
さらに、エキスパートレビューでは、インストラクショナルデザイン専門家からは、プログラム
修了後の目標設定を学習者が行うことで更に自己調整学習が促進されるとの意見が挙がった。日本
語教師からは、B-JET の研修生が既習事項である日本語を日本人との対話の中で実践的にアウトプ
ットできる仕組みになっている点が評価された。高校教師からは、学校内のリソースだけでは本プ
ログラムのような協働型の国際理解教育や探求学習の実践は困難であるため、本プログラムへの広
がりを期待された。また、ワークシートがあることで英語に苦手意識を持った生徒であっても参加
しやすくなるという意見が挙がった。
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朝田晴子(2024)高等学校家庭科におけるシナリオ型eラーニング教材の開発−−「自立」するための課題解決力の育成を目指して−−.熊本大学大学院 社会文化科学教育部 教授システム学専攻 2023年度提出修士論文
高等学校家庭科では、「生活の営みに係る見方・考え方を働かせ、実践的・体験的な学
習活動を通して、様々な人々と協働し、よりよい社会の構築に向けて、男女が協力して主
体的に家庭や地域の生活を創造する資質・能力」を育成することが目指されており、この
資質・能力の1つとして「習得した知識や技能を活用して課題を解決する力」が挙げられ
ている。また、「令和の日本型教育」の姿として、個に応じた指導や自己調整学習などの
個別最適な学びと、他者と関わり合い、様々な場面でリアルな体験を通じて学ぶ協働的な
学びの重要性が示されている。
一方で、高等学校の共通教科「家庭」の授業では、家庭科教員の7〜8割が全体の指導
時間が足りないと感じているため、リアルな体験の機会が一部に限定されていたり、問題
解決的な学習の導入割合が低く課題解決力を育成するための学習活動が実施できていなか
ったりするのが現状である。この現状の問題を解決するためには、より現実的な体験がで
き、他者と協働しながら、課題解決力を育むことのできる授業を実践する必要がある。
そこで、限られた授業時間の中で、個別最適な学びと協働的な学びを実現し、課題解決
力を向上させるために、ゴールベースシナリオ理論に基づくシナリオ型教材に着目した。
本研究の目的は、高等学校家庭科において、シナリオ型 e ラーニング教材を開発し、授業
に導入することで、より現実的な体験ができ、他者と協働しながら、課題解決力を身に付
ける授業が実現できるかを明らかにすることである。特に、高校生の課題の1つである
「自立」をテーマとし、家庭科の知識や技能を学びながら、自立するために必要なことを
思考・判断・表現できる教材の開発を目指した。
本研究では、経済生活領域におけるプロトタイプのシナリオ型 e ラーニング教材を試作
し、開発方法のモデルを作成した上で、住生活領域におけるシナリオ型 e ラーニング教材
を開発した。形成的評価を実施して、改良を加えた教材を使って授業を行った。シナリオ
型 e ラーニング教材の効果を確かめるために、シナリオ型 e ラーニング教材を用いた家庭
基礎2クラスと、シナリオなしの e ラーニング教材を用いた家庭総合2クラスの成果物の
評価を比較し、2回実施したアンケートの結果を分析した。
本研究の成果は、シナリオ型 e ラーニング教材を導入することで、現実的な文脈のシナ
リオのある教材に、個人のペースで取り組ませることができ、他者と協働する課題も設定
することができたことである。また、成果物の評価から、事前に設定した学習目標に到達できた生徒がほとんどであったことが分かり、シナリオ型 e ラーニング教材への取り組み
を通して、課題を解決する力を向上させることができた。さらに、観点別評価にも対応で
きる教材であることが分かったことも成果である。
しかし、アンケート結果の分析から、今回実施したシナリオ型 e ラーニング教材と、シ
ナリオなしの e ラーニング教材は、ともに一人暮らしへの自信やイメージの向上にはつな
がらなかったことが分かった。一人暮らしは、自立のうち、生活的自立や経済的自立に関
係する。高校生が自分の生活と重ね合わせ、自立をイメージできるようなシナリオ型 e ラ
ーニング教材に改良していくことが今後の課題である。