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川島孝太(2022)看護管理者のフィードバックを支援するジョブエイドと行動特性に応じた思考と対応を習得するeラーニング教材の開発~多様な部下の問題行動の修正に焦点をあてて~.熊本大学大学院 社会文化科学教育部 教授システム学専攻 2021年度提出修士論文
看護管理者の役割にはスタッフ看護師の人材育成があり、一般的に目標管理面接や個別
面談を教育機会としている。それらは同時に問題行動修正の機会となるが、そこで用いられ
る指導法は看護管理者個々の自学や経験に基づいていることが多い。そのため、指導対象と
なるスタッフ看護師背景が多様化する中、個人的な経験やスキルに基づくだけの指導では
問題行動が修正されず、看護管理者はスタッフ看護師の個別指導に難渋している現状があ
る。
一方、効果的な指導法の一つであるフィードバック技法に関する研究は行われているが、
看護領域の特性に対応したフィードバック技法の教育プログラムに関する研究はない。
そこで、フィードバック技法に基づいて必要な事前準備を行い、行動プロセス・マインド
を整えることを補助するジョブエイドとして、基本モデルに沿ったチェックリストを作成
した。さらに部下看護師の問題行動修正と個人行動特性に応じた思考と対応を練習するた
めのノベルゲーム式のeラーニング教材を開発した。
ノベルゲーム式 e ラーニング教材の特徴として、シナリオの差し替えにより事前・事後確
認テストや練習教材に転用できるように設計し、プロトタイプを作成し、その妥当性を検証
した。
その結果、プロトタイプにおけるシナリオの整合性・妥当性、ノベルゲームの妥当性、チ
ェックリストの援用性が証明できた。つまり、同形式のノベルゲームに多様なシナリオを差
し替えることにより、練習教材やテストとして利用できるため、本教材は基本的フィードバ
ック技法と個人行動特性に応じた思考と対応が習得できるものと考えられた。
今後は教材全体を完成させ、シナリオ作成のシステム化やカテゴリー化、問題行動修正以
外の医療安全や教育指導領域への拡大によって、看護管理者のためのナレッジバンクとし
て発展させていく。
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三枝澄絵(2022)PLE30 を評価指標および行動指標とした肯定的学習環境構築のプロセス設計と実践―活動支援主体の段階的委譲―.熊本大学大学院 社会文化科学教育部 教授システム学専攻 2021年度提出修士論文
企業の人財育成は、個々人のパフォーマンスを向上させ、経営に資することが目的
である。育成現場においては、研修を始めとした学びを職場で活かして行動変容につ
なげ、学習効果を高めていくことが期待されるが、その実現には職場の肯定的な学習
環境づくりが重要である。昨今、学習環境として職場が持つ可能性への関心の高まり
はある一方、学習環境を自組織が自ら評価する指標や、その改善サイクルを職場が
主体で実践する方法によって実効力を上げた報告はあまり見られない。
本研究では「職場が肯定的学習環境かどうかを見極めることができる 30 の指標(以
下、PLE30)」を評価指標および行動指標として用いて、段階的に育成担当者から当
該職場の上司に活動支援を委譲するプロセスの設計と実践を行い、自律的な肯定的
学習環境の構築を目指すものである。
自律的な肯定的学習環境を構築するために、対象期間を 2 つのフェーズに分けて
プロセスを設計した。フェーズ 1 は、PLE30 を評価指標および行動指標とし、職場に
学習基盤が根づくように育成担当者が主導して、人財育成のためのルーブリック(以
下、育成ルーブリック)の開発や、学習プロセスの実践を行った。フェーズ2では、フェ
ーズ1の結果を受けて、職場の上司職にある人物(以下、上司)に活動の主体を委譲
し、学習プロセスを上司が主導する方法で、自律的な肯定的学習環境の構築を図っ
た。肯定的学習環境であるかの評価は、各フェーズの前後で、PLE30 及び育成ルー
ブリックで行い、評価値の向上を確認した。
PLE30 が示す行動指標そのものを実行するだけでなく、PLE30 の背景となる考え
方の理解や実行が、肯定的学習環境構築において重要であると考え、PLE30原典を
要約して抽象度をあげたメタ概念を抽出し、その概念が職場に根付いているかをイン
タビューから確認し、肯定的学習環境が構築できていることを検証した。
実践を踏まえた改善として、実践を始める前に、当該組織が自らメタ概念を例にし
て、PLE 向上の目標を決める活動を、プロセスに追加する提案をした。この提案は、当
該組織の目的理解や意欲向上に寄与するものと考える。今後は、新プロセスを他部署
にも展開して、組織因子の違う場合の効果を検証するとともに、事例やベンチマーク
データを蓄積して、プロセスの精度・品質の向上を図ることで、企業内における学習環
境構築のひとつの方法として確立していくことが期待される。
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植草恵(2022)臨床推論・臨床判断の思考過程の習得を目指した学習支援~救急外来に配置転換を希望する看護師のレディネス形成を目指して~.熊本大学大学院 社会文化科学教育部 教授システム学専攻 2021年度提出修士論文
救急外来での看護実践は、少ない情報から患者の訴えの他に実際に患者の症状や経緯な
どから病態を捉え、診療にも遅れがないように予測し検査や処置の準備を行わなければな
らない。また、状態が安定化していない患者は急変しやすい。経時的に観察し患者の変化に
気づき、医師と情報を共有し、患者の状態を安定化できるように協働して診療を行うことも
重要な役割である。そこで、必要になってくる看護実践能力は、臨床推論、臨床判断である。
救急外来では、診断がつく前の段階であり症状から臨床推論を進めていく。一方で救急 ICU
での看護実践は、入院時に患者の診断がついていることがほとんどである。そのため、疾患
から病態を捉え、看護実践する。また、臨床推論には、その疾患に見られる症状や所見、そ
の疾患に特異的な症状や所見を関連付けた知識が必要となる。若手看護師は、知識が体系化
されていないことがあり、起きた事象だけ捉えて臨床判断し、エビデンスに欠けることもあ
る。これらの理由から、配置転換後の看護師は思考をシフトするまでに時間を要し、戸惑い
がある。
本研究では、救急外来に配置転換を希望している看護師を対象に、救急外来で必要な臨床
推論・臨床判断の思考過程を習得し、症状や所見に関連する知識の定着に向けた学習支援を
目的とした。
代表的な臨床推論アプローチである仮説演繹法を基に救急外来における臨床推論のプロ
セスに沿って 6 つの学習目標を設定し、プロセスを図式化した。付随する知識は、リンクを
貼り付け、学習者が必要と感じた場合に選択できるように e-learning 教材を開発した。TOTE
モデルを援用し、症例ベースのテストを作成した。学習前に事前テストを実施し、事前テス
トで提示した症例について学習し、確認テストを実施する。事後テストは、別の症例でテス
トを行い、到達点に達するまで何度でも繰り返しテストを実施するようにした。
救急 ICU 看護師 6 名に対し、小集団評価を実施した。各実施者による各学習の事前テス
ト・1 回目の事後テストの結果は、1 名のみ事後テストが事前テストより片麻痺 0.13 点、胸
痛 0.57 点評点を下回る結果となったが、その他の実施者はいずれも事前テストより 1 回目
の事後テストの方が評点を上回る結果となった。アンケート結果は、学習の難易度に対する
質問に対し、「呼吸困難」「片麻痺」に対し、難しかったと回答したものは、1 名(16.67%)、
「胸痛」難しかったと回答したものは 2 名(33.33%)であった。その他の者は、適当だっ
たと回答しており学習内容の難易度は妥当であった。「学習の深化」「学習の転移」「学習へ
の興味」「学習のやりがい」「自己効力感」「学習の有用性」に対する質問に対し、「そう思う」、
6
「とてもそう思う」のいずれかの回答であった。「満足感」「期待感」の質問は、全員が「と
てもそう思う」と回答していた。「自己効力感」だけは、「どちらともいえない」と 2 名(33.33%)
回答していた。概ね高評価の回答を得ることができた。
学習方略シートの各フェーズで学習者が振り返り、学習後の学習目標と計画を考えるこ
とができた。
配置転換前の看護師を対象に臨床推論の思考過程を学習することにより、看護師が臨床
で実践する際に救急外来看護師の思考や行動が整理でき、救急外来での実践に必要な知識
が何か個々の学習者が明確にすることができた。また、個々の学習者が不足している知識を
整理し、今後の学習目標と計画を見出すことができた。これにより、レディネス形成を促進
することも期待できる。救急外来に配置転換を希望する看護師に対し、学習の有用であるこ
とが示唆された。
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荻野禎之(2022)実験教育 TA が経験学習を通じて学生との関わり方を習得する学習環境の構築.熊本大学大学院 社会文化科学教育部 教授システム学専攻 2021年度提出修士論文
高等教育機関において、ティーチング・アシスタント(TA)の活用は質の高い授業を運
営するために必要不可欠である。TA は主として大学院生が担当しており、海外の大学にお
いては業務の仕組みや育成制度が以前から構築されているが、日本では諸外国とは違う形
で独自に TA 制度が運用されてきた。早稲田大学では、通常の TA と比較してより高度な業
務を行う高度授業 TA という制度が運用されており、授業中のディスカッションのファシリ
テーションや、教員とともにチームティーチングによる指導を行っている。特に実験・実習
授業では、安全に配慮した密度の濃い授業を展開するため、担当教員と高度授業 TA に加え
て、実験室を管理する技術職員の三者が協働して授業を運営している。高度授業 TA の研修
として、制度の概要や FD の基礎に関する e ラーニングと、授業開始前に実験室にて行われ
る実験技術習得のための事前練習が用意されている。
高度授業 TA の育成の仕組みはそれぞれの部署で独自に行われているものもあるが、授業
中の学習支援として重要な学生とのコミュニケーションスキルのトレーニングの機会が十
分に設けられていない。さらに、授業中に高度授業 TA の最も近くでともに業務にあたって
いる技術職員の支援の質も一定ではないという問題もある。そこで本研究では、高度授業
TA が学生とのコミュニケーションスキルを効率的に身につけられるようにすることを目的
として、e ラーニングと対面でのディスカッションを取り入れた新しい高度授業 TA 向けの
研修を開発し、長期的な視点で高度授業 TA が経験学習によりスキルを身につけることので
きる学習環境を構築した。
まず TA 育成や企業などの組織における経験学習に関する先行研究を踏まえ、本学におけ
る高度授業 TA 育成に関する課題を分析し、その課題を解決するための本研究におけるリサ
ーチクエスチョンを設定した。リサーチクエスチョンへの解を得るため、まず高度授業 TA
が独学で学生とのコミュニケーションを学ぶための導入教材と、授業中に起こりうる、高度
授業 TA として対応しなければならない事例を含んだストーリー型教材を開発した。次に、
高度授業 TA が実際の業務において振り返りを行うためのリフレクションシートを開発し
た。また、これらの教材やツールの使用方法のマニュアルも作成した。これらの教材やツー
ルについて研究協力者の大学院生や技術職員、教育工学専門家の形成的評価を受け、内容を
修正した。
実際に高度授業 TA に教材やツールを実践してもらい、これらの効果について検証するた
め、半構造的面接を実施した。面接内容を修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチに
基づいて分析し、面接内容の逐語録から高度授業 TA の成長・学習に関係する概念やカテゴ
リを生成して、それらの関係性から成長・学習の仮設モデルを構築した。その結果、本研究
で開発した教材は、そこで取り扱っている内容と、高度授業 TA が過去に「教える」ことに
関する記憶を関連付けスキーマを形成することを促進し、実際の授業での業務に向けた準
備の機会となっていたこと、またリフレクションによって高度授業 TA の経験学習が促進さ
れ、次のトライアルにつなげやすくなっていたことが示された。また授業での高度授業 TA
の経験を、それ以外の「教える」ことに関連した経験と往還させて、高度授業 TA の業務で
学んだことを外化させている傾向も見られた。
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長山琢磨(2022)実践コミュニティ設計テンプレートによる継続的な学習コミュニティ運用の再設計.熊本大学大学院 社会文化科学教育部 教授システム学専攻 2021年度提出修士論文
1. 研究でやったこと
権藤,合田(2013)による「実践コミュニティ設計テンプレート」に基づき、2020 年
9 月から実践していた大学教職員 5 名で構成される「大学教育の質保証研究会(J-QA
研究会)」を実践コミュニティに再設計した。再設計後のコミュニティでは、参加者の
経験に基づく大学設置認可申請のナレッジ生成と改訂を行った。
2. 成果
実践コミュニティ設計テンプレートの作成過程において、明文化されたコミュニティ
の目標等を議論した結果、行うべき目標・メンバー間の役割が整理され、正統な実践コ
ミュニティへの転換を行うことができた。
また、その副次的効果として「大学の設置等に係る提出書類の作成の手引」の読み方
を解説するナレッジを生成し、公表することに繋がった。
再設計後のコミュニティにより、参加者がナレッジの生成と改訂を繰り返しながら成
長を実感できるような継続的なコミュニティの運用が可能となった。
3. 特徴
実践コミュニティ設計テンプレートの有用性を検証し、大学設置認可申請のナレッジ
生成と改訂を構造化した。
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吉田文子(2022)キャリアコンサルティング面談における問題把握を支援するジョブエイドの開発~初学者キャリアコンサルタントの問題把握の実践知獲得を目指して~.熊本大学大学院 社会文化科学教育部 教授システム学専攻 2021年度提出修士論文
キャリアコンサルタント資格は国家資格であるが、面談の質に関する客観的評価は行わ
れておらず、質的格差が指摘されている。
養成課程における学習が知識の習得に重きがおかれ、面談スキル習得のための練習時間
が十分でないことが原因の一つと考えられる。また、先行研究において、キャリアコンサ
ルティング面談の意義などの研究は見られるが、面談の質を向上させるために研究者が直
接的に介入した形で効果を測定している研究事例はまだ見られない。
そこで本研究は、初学者キャリアコンサルタントが面談においてクライアントの
①問題把握
②目標設定
③解決のための具体的方策の提案
を支援するジョブエイドの開発・評価を目的とする。
ジョブエイドは、面談中に使用する「面談メモ」、問題把握の視点を示した「面談支援
シート」、ジョブエイドを正しく使用するための使用説明書の 3 点を、キャリアコンサル
ティング理論、カウンセリング理論、インストラクショナルデザイン理論および熟練者の
実践知に基づき開発した。「面談メモ」は、システマティックアプローチのステップをジョ
ブエイドに沿って面談を行うことで、ステップごとに必要事項をヌケ・モレなく面談を展
開できる設計にした。「面談支援シート」は、クライアントの問題把握を支援する視点をツ
リー図で表現した。
ジョブエイドはキャリアコンサルティングの専門家、インストラクショナル・デザイナ
ーのレビューとキャリアコンサルタントによる試用により、妥当性と有効性があるとの評
価を得た。その後、初学者のキャリアコンサルタント 3 名が模擬面談で使用した。
ジョブエイドを使用した模擬面談を評価した結果、当初の目的通り、クライアントの問
題把握、問題解決のための目標設定、具体的な方策の提案の支援に有効であることが明ら
かになった。
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用田歩(2022)リハビリテーションにおける動機づけ介入の体系化を目指した動機づけ方略集の開発と研修設計.熊本大学大学院 社会文化科学教育部 教授システム学専攻 2021年度提出修士論文
リハビリテーションにおいて、動機づけが患者の帰結の決定要因となり得ることが示
されており、リハビリテーションに対する患者の意欲は、治療効果を高める重要な要因
であると考えられている。しかし、臨床現場において療法士が患者への動機づけ方略を
どのように選択しているのかに関しては、療法士個々に委ねられているのが現状である。
一方、教育分野においては、学習者の動機づけを設計する枠組みモデルとして、ARCS
モデルが活用されている。
そこで、療法士のリハビリテーションにおける患者動機づけにおいて、患者の状況に合
わせて動機づけができるようになるために ARCS モデルを活用した「リハビリ動機づけ
方略集」を開発し、方略集が使えるようになる研修を設計することを本研究の目的とし
た。
動機づけ方略集の作成方法として、現役理学療法士に動機づけ方略をインタビュー調
査し、データを収集し、方略集を作成した。また、方略集以外の動機づけ支援ツールと
して「記録表」や、研修資料としての「説明書」「ペーパーペイシェント」を作成し、ID
の第一原理を用いて、研修を設計した。開発、設計した動機づけ支援ツールや研修内容
は、内容領域専門家、ID 専門家のレビューを実施することで妥当性を確認した。有用性
においては、研修対象の新人理学療法士に 1 対 1 評価を実施した。医療倫理の観点から、
開発段階の動機付け支援ツールを実際の患者に適応させることは困難であったため、本
研究では、臨床現場に近い状況を想定したペーパペイシェントを研修に事例問題で用い
ることで、動機づけ方略集の活用能力を評価した。
学習者の事前・事後アンケートの結果から、療法士の患者動機づけに対する自信が向上
したことが示唆された。また、動機づけ支援ツールとその研修を実施することで、手順
に従い患者の状況に合わせた動機づけが選択できるようになり、動機づけを体系化でき
るようになったのではないかと考える。
今回の研究限界として、動機づけ方略が各疾患や様々な病院施設に対応できるもので
あるかどうか、現場の患者に対して有効性があるものかどうかは検証できていない。今
後は、疾患や病期などの特性における動機づけを大規模調査にて明確にし、臨床現場で
患者適応することで、現場での有効性を検証していく予定である。
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栗山俊之(2022)GBS 理論に基づくエラー誘発型ロールプレイ教材の開発−失敗から学ぶ対外折衝スキル−.熊本大学大学院 社会文化科学教育部 教授システム学専攻 2021年度提出修士論文
国内の大学・研究機関において、URA の体制整備が進んでいる。URA の職務は研究資
金の導入支援、研究プロジェクトの運営管理など多岐にわたり、企業、公的機関、地域社
会など多様なステークホルダーとの連携・調整を担う職務に従事している。
一方で、URA の能力開発の機会は限定的である。特に、URA の職務に必要な対外折衝
スキルを組織的に研修することが課題である。
本研究では、URA の対外折衝スキルを効果的、効率的に習得するために、実際の研究現
場で起こりうる業務場面を想定し、シナリオ型の研修教材を開発することを目的とする。
本論文の構成は次の通りである。
第 1 章は、研究の背景として、日本国内における URA の体制整備状況について概説し
た。
第 2 章は、URA 向け研修プログラムの先行事例について分析するとともに、立命館大学
の URA を対象に研修ニーズについてインタビュー調査を行い、その分析結果をまとめ
た。
第 3 章は、本研究で開発した研修プログラムの設計プロセスと、GBS 理論を応用したシ
ナリオ型の研修教材の内容を記載した。
第 4 章は、開発した研修プログラムのエキスパートレビューと形成的評価の結果を示
し、研修プログラムの改善点を分析した。
第 5 章は、本研究で得られた成果や今後の課題、将来展望についてまとめ、本論文の結
論とした。
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加藤圭太(2022)通信制高校の数学における個別化教授システム(PSI)を用いた単位修得のための包括的支援設計による面接指導の改善.熊本大学大学院 社会文化科学教育部 教授システム学専攻 2021年度提出修士論文
公立通信制高校では,私立通信制高校と比較して単位修得率が低いという課題があり,公
立通信制の実践校でも約半数の生徒が必修科目「数学I」の単位を修得できていなかった。
また,対面指導の機会である「面接指導」の本来の在り方は個別指導であるが,多くの学校
は一斉授業形式をとっているという課題もある。個別指導を重視する面接指導の方法とし
て,個別化教授システム(PSI)が有効であると考え,実践校の数学Iでは,PSI を参考に
した実践に取り組んできたが,完全習得が指向されていない,出席できなかった回の学習機
会が保障されていないという課題が残されていた。
本研究では,PSI を用いて単位修得要件のレポート・面接指導・試験を自宅での自学自習
と学校での面接指導の両面から包括的に支援する設計を行い,単位修得率の向上と面接指
導の改善を目指した。2021 年度後期に半期間の試行的な実践と評価を行い,設計の改善も
行った。
2021 年 11 月に教育工学専門家による設計の形成的評価を行い,設計が教育工学の観点
から単位修得率の向上や面接指導の改善に有効であるか(または有効でありそうか)を評価
し,設計には一定の効果が期待できると評価された。評価結果から設計の改善についても検
討した。
2021 年度後期に4回の面接指導の実践を行い,改善すべき課題を整理した。実践の評価
はアンケート調査の結果,通過テストの結果,単位修得要件と単位修得率によって行い,単
位修得率の向上や面接指導の改善につながることが示唆された。アンケート調査の結果,面
接指導の出席やレポートの提出への意欲向上を図ることができたが,試験への自信があま
りつかなかったということが課題として明らかになった。また,後期の面接指導と前期の面
接指導の比較について質問した結果,「次回の出席への意欲」「レポート提出への動機づけ」
「試験への自信」の3つの項目において,後期の面接指導が前期よりも改善されたことが示
唆された。通過テストの結果については,後期最初の第5回通過テストに合格した生徒は全
体の3分の1程度と少なく,通過テストに合格できなかったことが,試験への自信につなが
らなかった要因だと考えられた。単位修得要件に関しては,レポートに関しては筆者以外の
教員と大きな差はなかったが,面接指導の出席要件を満たせなかった生徒はおらず,試験の
得点は筆者以外の教員よりも 14.1 点高い結果となった。後期開始時に単位修得が可能であ
った生徒の内,単位修得者の割合が筆者担当は 89.1%であるのに対して,筆者以外の教員
担当が 78.7%であり,筆者の方が 10.4 ポイント高い結果となった。このことから,本設計
による実践が単位修得率の向上につながることが示唆された。
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立山愛(2022)外国人児童生徒等教育における校内連携体制づくりのためのシナリオ型研修の設計.熊本大学大学院 社会文化科学教育部 教授システム学専攻 2021年度提出修士論文
日本社会のグローバル化を背景に、公立学校に在籍する外国人児童生徒や日本語指導が必要
な日本国籍の児童生徒(以下「外国人児童生徒等」)は増加している。外国人児童生徒等教育に
あたっては、児童生徒の言語や文化的背景、家庭環境などを踏まえた受け入れ体制づくり、適切な
生活適応指導、日本語指導や教科指導等、教員に求められる内容は多岐にわたっている。そのた
め、それらを担う管理職、学級担任、日本語支援や母語支援に関わる教職員等、校内のさまざまな
立場には多様かつ専門的な役割と、担当者同士の連携が求められている。しかしながら、外国人児
童生徒等が少数で散在する地域では、どこの学校に、どのようなタイミングで転入してくるか予測
が難しく、外国人児童生徒等教育に携わることになる教員が果たすべき役割や連携に必要な知
識・スキルを習得するための教育・研修の機会は保証されておらず、転入してから手探り状態で対
応せざるを得ないという課題がある。
こうした中、文部科学省は「外国人児童生徒等教育を担う教員の養成・研修モデルプログラム
開発事業」を 2017 年から 3 か年計画で実施した。この事業では、外国人児童生徒等教育を担う
人材を育成するため、学校現場の実践課題の解決に必要な教員の資質・能力として「捉える力」
「育む力」「つなぐ力」「変える/変わる力」という 4 要素と実践場面が提示され、これらの力を養う
ためのモデルプログラムが開発された。しかしながら、提示された 4 要素について学ぶ研修の提供
の場やあり方は各地域や教育委員会、学校単位で開拓していかねばならない。また、4 要素の中で
も、異なる立場や担当者同士の連携した校内体制づくりに必要な「つなぐ力」は、先行研究や既存
の研修プログラムに練習できるものはなく、担当者別の研修で定着している。
そこで、本研究では、学校現場で外国人児童生徒等教育に関わる多様な立場の教員が共に参
加することができる校内研修を学びの場として設定し、現実的なシナリオに沿って連携して外国人
児童生徒等の受入れ場面に必要な「つなぐ力」を中心に学ぶ校内研修を設計・開発した。研修は、
GBS 理論(Goal-Based Scenarios Theory 行動することによって学ぶシナリオ型教材を設計
するためのインストラクションデザイン理論)を活用した。
今後、校内連携体制づくりを学ぶ効果的で効率的な研修モデルとして筆者の勤務する小学校で
実践し、その後同市内および県内の小・中学校の校内研修として普及させることで、外国人児童生
徒等教育の知識・スキル・態度を持つ教員の育成に寄与することを目指す。
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奥野将太(2022)課題分析図に基づき紙媒体とデジタル媒体を融合した改訂版ジョブエイドの設計と開発〜在宅酸素療法導入時の理学療法士の役割に着目して〜.熊本大学大学院 社会文化科学教育部 教授システム学専攻 2021年度提出修士論文
在宅酸素療法導入時の理学療法士の役割は、患者の生活背景や身体機能を考慮して、酸素
流量やデバイス、運搬方法などを調整して、元の日常生活動作能力を再獲得することにある。
このような役割は、手順が複雑で失敗の影響が大きく、多くの情報が必要であり、導入自体
の頻度が少ないなど先行研究で報告されているジョブエイド使用条件と一致していた。そ
こで、2019 年よりジョブエイドを導入していたが、作成したジョブエイドとマニュアルは
34 枚の紙媒体となっており、ユーザビリティが低く有効に機能していない現状があった。
ジョブエイドは、パフォーマンスを支援するツールとして古くから使用されており、その有
効性は多くの研究で示されている。このパフォーマンスの支援は、遂行中の支援である「サ
イドキック」と、遂行前後の支援である「プランナー」の 2 つに分けられる。一般的なジョ
ブエイドは「サイドキック」のみで開発されている場合が多く、プランナーまで含めたジョ
ブエイドの開発の報告は少ない。そこで本研究は、課題分析図を用いてプランナーまで含め
た業務全体を網羅して支援する改訂版ジョブエイドの開発を行うことを目的とした。
開発は ADDIE モデルに従って実施した。分析では、まず課題分析図を作成した。課題分
析図は、課題分析により抽出された 72 個の課題と 5 つのゴールを概念化した。課題分析図
を基に分析した結果、既存のジョブエイドは、課題を 20 個しか支援できていなかったこと
が明らかとなった。分析結果を踏まえて改訂版ジョブエイドは、サイドキックとプランナー
に分けて、全ての課題を支援できるように設計した。また、プランナー部分は 2 次元バーコ
ードを使用してデジタル化した。開発されたジョブエイドは、形成的評価を受けて改訂して
1 対 1 評価まで実施した。1 対 1 評価では、紙面上での評価として、シミュレーションテス
トを実施して正答率は 97%、設計通りにジョブエイドを使用したかの一致率は 94%と高い
成果を示した。実際の現場での評価では、パフォーマンスチェックリストを用いて指導者が
観察によって評価した。結果は、全ての項目が指導者の「助言が必要ない」もしくは、「少
しの助言で実行できる」という回答であった。
今後は、評価対象を拡大して、より効果的でユーザビリティの高いジョブエイドへ改訂し
ていくことで、在宅酸素療法導入時の経験が少ない理学療法士でも熟達者と同じパフォー
マンスを発揮できる人材の育成に寄与する研究に発展させたい。