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森本秀樹(2023)災害初期対応アクション・カード活用のための GBS 理論に基づくトレーニング教材の開発.熊本大学大学院 社会文化科学教育部 教授システム学専攻 2022年度提出修士論文
災害発生時に災害拠点病院の夜間管理看護師と救命救急センター看護師は、病院災害対策本部が設置されるまでの間、病院対応方針を含めた初期対応を遂行する必要がある。非日 常業務への対応力向上を目的に災害訓練は効果的であるが、全ての看護師が均一に経験は できない。その災害訓練では行動指針として既存事業継続計画(BCP)やアクション・カー ドを活用することが望ましいが、その活用と検証を含めた訓練が実施できていない。そのた め、自らその存在を確認する機会もない。さらに、アクション・カードが災害種別や対応時 期別ではなかったため、本研究では設定は地震災害とし、病院災害対策本部が設置されるま での初期対応の行動と判断を促すアクション・カードを開発した。全ての看護師が開発した アクション・カードを活用する機会を持つために、シナリオを通した失敗から学びを得る GBS 理論に基づくシナリオ型トレーング教材を開発することが望ましいと考えられた。
本研究では、夜間管理看護師、救命救急センター看護師が、地震災害発生から病院災害対 策本部が設置されるまでの初期対応に、アクション・カードが効果的に活用できるシナリオ 型トレーニング教材を開発し、学習到達度から活用熟達度と学習効果の検証を目的とした。
アクション・カードは、災害初期対応の手順分析図を基に作成した。教材は ID 第一原理 を援用し、パッケージした。評価は教材学習修了後にアンケート調査を行い単純集計した。 結果はアクション・カードの所在が知り、活用しながらの教材学習が達成できた。興味、 やりがい、満足感は全て高評価であった。アクション・カードを活用し判断と支援を行うこ とは中評価であった。これは教材学習から危機感を感じ、自信の低下が影響していた。一方で、学習への動機づけや災害初期対応のレディネス形成に寄与できたと示唆された。
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山本菜穂子(2023)個別化教授システムモデルに基づく授業を運用するための プロクターのスキル養成 − 専門学校における情報リテラシー科目の実践 −.熊本大学大学院 社会文化科学教育部 教授システム学専攻 2022年度提出修士論文
専門学校では、現場で即戦力になる人材を育てることを目的とした職業教育が行われている。 専門学校では実習を中心とした対面授業が重視されており、コロナ禍の遠隔教育で得た知見を 活かしつつも対面授業の改善の必要性が増している。
本研究は、専門学校における実習系情報リテラシー科目の対面授業が実践の場である。情報 リテラシー科目では、個人のそれまでの経験などにより学習前のレベルが様々で、一斉授業内で 個別対応する時間を十分に確保できず、一斉授業で完全習得を保証することは難しかった。
一斉授業を使い完全習得学習を指向したモデルに、個別化教授システム(PSI)モデルがある。 PSI はプロクターと呼ばれる指導役からの支援を通して、学習者が自己ペースで学習内容を完全 に習得することを目指したモデルである。本研究では現状の授業に PSI モデルを援用した改善を 行い、PSI モデルに基づく授業を運用するためのプロクターのスキルを養成することを目的とする。
本論文の構成は次の通りである。
第 1 章は、研究の背景と実践現場での課題をまとめ、PSI 授業実践に関する先行研究を調査 し、本研究の目的を示した。
第 2 章では、PSI モデルに基づく授業に必要な要素の設計を行った。本研究で設計する PSI モ デルに基づく授業を担当する講師は、自社のラーニング マネージャー(以下 LM)である。既存の LM に、「学習者への支援」に必要なプロクターの役割を期待したが、LM との面談を通して十分な プロクターの役割を果たしていないことがわかった。今までの社内研修では、学習者に対する振 る舞いについてはほとんど扱ってこなかった。そのため、学習者を支援するプロクターのスキル養 成をゴールとする新たな研修を開発することにした。
第 3 章では、プロクターのスキル養成のための研修開発を行った。プロクターの役割に対応す るようプロクターに必要なスキルを定め、業務上設定できる時間の範囲で研修可能なスキルを選 んで研修を実施することにした。
第 4 章では、PSI モデルに基づく授業実践の結果をまとめた。3校4クラスで実践した結果を分 析し、一定の学習効果を確認できた。次に RQ を検証するため、PSI 授業を担当した LM7 名にイ ンタビューした結果を分析した。その結果、LM は本研究で開発した研修で、プロクターの役割が PSI 授業の特徴とどう関連するかを理解し、研修で養成したスキル「授業中に質問しやすい雰囲 気を作ることができる」と「授業結果や気づきをチームに報告し共有できる」を実行し、授業でプロ クターの役割を果たせたことが確認できた。
第 5 章では、本研究で得られた成果や今後の課題をまとめ、本論文の結論とした。
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濵田佳奈子(2023)企業選択支援のためのワークシート開発と 個別カウンセリングを通した自己効力感の強化 ―大学生の就職活動支援講座に着目して―.熊本大学大学院 社会文化科学教育部 教授システム学専攻 2022年度提出修士論文
就職活動生にとって,自分自身で受験企業を選択することは,自律的なキャリア形成を 行う上でも,就職後のミスマッチや早期離職を防止する上でも重要である.しかし,筆者 が担当している正課外の就職活動支援講座に参加する大学生の多くが,志望企業を決める ことができず,「就活がうまくいくかわからない」,「内定をもらえるのだろうか」といっ た不安をもち,就職活動への意欲低下が低下している.
これまで大学 3 年生向けの就職活動支援講座では,志望企業が決まっている前提で,応募 書類の書き方や面接対策といった就職活動の実践的な対策を指導する内容を行っており, 受験企業の選択に悩む学生への支援や課題解決のための教育的介入ができていなかった. また,進路選択において自己効力感の重要性がさまざまな先行研究で示唆されている中で, 「やってみよう」「うまくいくだろう」といった自己効力感を持たせ,自ら進んで企業選択 を行えるようなアプローチを行っていなかった.
そこで,企業選択ができないという問題解決のために,特性因子理論に基づいた授業プロ セスを構成した.特性因子理論とは,その人を構成する特性(スキル,能力,性格,価値観 等)と,その職業の条件(仕事内容や仕事に必要な要件)を上手くマッチングさせることが 重要であるというキャリア理論の一つである.
学習活動では,職業選択研究の一つである特性因子理論の自己理解・職業理解・両者の マッチングという 3 要素を実践し,それらを 3 回(3 社分)練習することで,自己理解や 職業理解をふまえた受験企業を挙げ,自己と企業のマッチングを言語化できることを目指 した.また,講座終了後や就職活動開始後も一人でマッチングを行えるようにするため に,特性因子理論の 3 要素の項目と,それぞれの関係性を整理,明確にするためのワーク シートを開発し,学習活動に用いた.さらに,職業選択をしたことのない学生が,自己と 職業や企業のマッチングに対して合理的な推論を行い,自信を持って企業選択できるよう に,自己効力感を高めるアプローチとして,全 12 回の講座の中盤に,個別カウンセリン グを設定した.
本研究では,筆者が担当する大学 3 年生対象の就職活動支援講座において,これら設 計・開発した講座を実践した結果から,講座やワークシート,講座中盤での個別カウンセ リングによる企業選択支援への有効性を示すことができた.また,講座中盤の個別カウン セリングが自己効力感向上を促し,自信を持って企業選択ができるようになることが示唆 されたことから,企業選択への支援,指導方法の一つの方向性も示すことができた.
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外山隆一(2023)企業内実践コミュニティの「初期設計支援ツール」プロトタイプの開発.熊本大学大学院 社会文化科学教育部 教授システム学専攻 2022年度提出修士論文
急激な環境変化にタイムリーに適応するため、企業において実践コミュニティ (Community of practice, CoP)を活用した学習が着目されている。
権藤、合田(2013)は、実践コミュニティの企画テンプレートを開発したが、コミュニ ティの設計を支援するものの、実際の運用に必要な部分まではカバーされておらず、その細 部設計は、コミュニティを運用する個人の能力に委ねられていた。
そこで本研究では、実践コミュニティの細部設計を、個人の能力によらず安定して行うた め、初期設計支援ツール(プロトタイプ)を開発し、その効果を検証することとした。
本研究では、実践コミュニティは、その活動を通じてメンバー共通の学習目標を達成する もと捉え、ID モデルのうち、ガニェの学習成果分類とメーガーの 3 つの質問を応用して、 初期設計支援ツールを開発している。
初期設計支援ツールは、ツール1「学びのゴールと実現方法の明確化」、ツール2「学び の実現方法の精緻化」、ツール3「その他細部の設計」の3つで構成されており、ツール1 ⇒2⇒3と順に使うことで、設計が精緻化される。
これらの初期設計支援ツールの有効性を確認する為に、形成的評価を行った。 形成的評価は計 2 回行い、それぞれの回で協力者 2 名ずつ、計 4 名に対し実施した。 協力者は筆者が所属する企業の人事部または教育部門に所属し、コミュニティの運営経験
のあるメンバーを選択した。(コミュニティ運営経験 2 年=1 名、1 年=2 名、1 か月=1 名)
評価方法は、2種類の仮想コミュニティ案を作成し、それらに対して協力者に初期設計支 援ツールを用いた場合、用いない場合のそれぞれについて、実践コミュニティの初期設計を 行ってもらった。そしてそれらの設計結果と、あらかじめ実践コミュニティのエキスパート により設計した結果とを比較して、その一致率によって有効性の評価を行った。
その結果、形成的評価 1 回目では 2 名中 1 名において、エキスパートとの設計結果との 一致率が向上した。{38.5%⇒84.6%(+46.1%)、55.6%⇒55.6%(0%)}
さらに形成的評価 1 回目の結果を踏まえて修正を施した初期設計支援ツールを用いて、形 成的評価 2 回目を行ったところ、2 名中 2 名において、エキスパートとの設計結果との一致 率が向上した。{0%⇒69.2%(+69.2%)、11.1%⇒88.9%(+77.8%)}
今回形成的評価の 1 回目で効果が確認できなかった協力者 1 名は、コミュニティ事務歴 1 か月ほどの初心者であった。本初期設計支援ツールを活用するメンバーには、事前にツール の使い方の基本的なトレーニングやコミュニティに関する基礎知識を教育すると、より効果 が向上する可能性がある。
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田嶋 晶子(2023)GBS理論に基づく「旅行の文脈で学ぶ日本文化学習コース」の設計.熊本大学大学院 社会文化科学教育部 教授システム学専攻 2022年度提出修士論文
本研究は, スイスの語学学校における学習者を対象に, 現在, 旅行の日本語コースとし て存在するコースを, 旅行の文脈を残しながら日本文化を中心に学ぶコースへと改善, 提 案するものである. 短期集中型の旅行の日本語コースには旅行に特化した教科書がなく, 各教師がそれぞれカリキュラムを設計するため, 学習目標や評価がさまざまである. ゆえ に, 一定の学習効果や魅力あるコースとして提供できていない.
そこで, 本コースをインストラクショナルデザインの知見に沿って設計し, 学習の効 果, 効率, 魅力をあげる改善に取り組んだ. 本研究では教科書がないことへの対応とし て, Moodleを利用してeラーニング教材を設計・開発した. 主教材としたのはGBS理論 (Goal-Based Scenarios Theory)を使用したストーリー型教材である. ストーリー型教 材を用いて学習者に日本旅行を疑似体験させることで, 学習の魅力をあげる. ストーリー のなかで問題提起された文化的事象を先行させて学ぶ形式となっている. また, ストーリ ー型教材を用いることでインパクトを与え, 学習内容が想起されやすくなるようにして学 習効果をあげることを試みた. 本コースは全7回で, 第2回から第6回はeラーニングで の事前学習を基本とし, Moodleで課題をしてから授業に臨むというブレンド型コースにし た. オンライン同期セッションでの授業では, 事前課題で疑問が解消しなかったことにつ いて取り上げて話すことや, 各回で取りあげた場面で使用される日本語について協働で会 話や表現を考える活動を取り入れた. さらに, コースの最後にはGBS理論の使命に沿って 日本旅行で失敗しないためのヒント等が完成し, 実際の旅行に役立てられる成果物になる ように設計した.
コース全体の設計とeラーニング教材作成後, ID専門家2名と日本語教育専門家2名の 協力を得てコース全体や教材が妥当であるか形成的評価を実施した. その後, スイス人学 習者6名にコースや教材の効果を確かめるため小集団評価を実施した.
小集団評価の結果から, 主教材としたストーリー型教材だけでは中程度の学習効果とな り, ストーリー型教材と課題, オンライン授業への参加, 振り返り等を組み合わせた学習 では高度な学習効果をあげられることが示唆された. また, ストーリー型教材による疑似 体験は, 学習の魅力を向上させられることが示唆された.
今後の課題としては, さらなる改善を経て学習者が確実に学習内容を習得し, 自ら興味 をもって取り組めるコースにすることである. 最終的には勤務校で教材を共有することで 勤務校の課題解決に寄与することを目指す.
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小野晃裕(2023)管理職のための 1on1 ミーティングジョブエイドの開発 プランナーとサイドキックの併用で高い研修効果を目指して.熊本大学大学院 社会文化科学教育部 教授システム学専攻 2022年度提出修士論文
企業をはじめとした様々な組織内で 1on1 ミーティングと呼ばれる面談が行われるようになってきた。
これは効果的に人材育成することを目的に管理職である上司と部下の間で行われているものである。 関連したテーマの研修サービスを提供する業者も増えており、筆者が現在所属している企業内にお いても数年前より外部業者による研修を提供してきた。しかしながら一定の割合でそのスキルを身に着 けられない層がある。他社においても一定の割合でこれがうまくできず、機能しないという声を複数の研
修提供業者から耳にしていた。 これには以下の2つが原因ではないかと考えられた。
1)研修で取り扱うテーマが課題を解決するための内容と合致していないのではないか 2)研修方法が管理職にとって効果的にスキルを身に着けるアプローチになっていないのではないか
先行研究において 1on1 ミーティングの構造や一部スキルについては報告されている。しかし具体的 な面談プロセスや面談の各ステップで必要なスキルについて特定された報告はない。また面談の質を向 上させるために研究者が直接的に介入し、効果を測定した研究事例も報告がない。
そこで本研究では、1on1 ミーティングの全体像や面談プロセス、各ステップで必要なスキルを明らか にし、その上でこれまでに実施してきた研修内容、研修方法は適切だったのかを検証する。
自組織内の管理職へのアンケート結果から、部下の現状分析を行い、目標を立てさせ、現状と目 標の間にあるギャップを埋める際に使用する質問スキルがうまく使えていないことがわかった。そこで特に 質問をテーマにしたジョブエイドの開発を行った。
ジョブエイドは SME、ID 専門家によるレビューとハイパフォーマーの上司によるレビューを受けて妥当 性、有効性があるとの評価を得た。その後、これまでに研修を受けてきたが社内サーベイのスコア結果 からスキルが身に着いていないと考えられる上司に実際の面談でこれを使用してもらった。
ジョブエイドを使用した 1on1 ミーティングを評価した結果、当初の目的通り、部下の日常業務の 課題に対して気づきを与える質問を投げかける支援に有効であることが明らかになった。
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川上亮子(2023)Can-do チェックリストを使った独習と対面学習の設計と開発 ―コロンビアの日本語教育におけるストラテジー能力の修得を目的としてー.熊本大学大学院 社会文化科学教育部 教授システム学専攻 2022年度提出修士論文
日本語で会話ができるよう日本語を長年学習しているが、実際に会話となると会話の目標 を達成せずに諦めてしまう学生が多い。一方、学習期間が短くとも自分の持っている実力以 上の力を発揮し、会話の目標を達成する学生もいる。理由はいくつかあるであろうが、両者 の顕著な違いは、既習の単語や文法等の知識ではなく、それらを活用するストラテジー能力 不足だと考える。ストラテジー能力とは、会話の問題を修復するための単なるテクニックで はなく、コミュニケーションにおける課題を遂行するため、学習者の様々な知的能力資源を 使用し、バランスをとり、技能を活性化し、手順を決めるための手段であり、コミュニケー ション能力の基幹である。また、本稿でのコミュニケーションとは、情報伝達のみではなく、 双方向性のある、非言語コミュニケーションも含んだ感情共有、意思疎通や相互理解のため に行われる営みのことである。これまで、ストラテジー能力については、学習者が日本語の 会話で使用するストラテジー能力の種類とその効果についての研究が主要であった。スト ラテジー能力の学習については、取り上げられているも、ストラテジー能力をコミュニケー ション能力の基幹としている研究の例はない。
そこで本研究では、Can-do チェックリストを活用したストラテジー能力の修得を目的と した独習と対面学習の設計と開発を行った。 コロンビアの日本語学習者を対象として、既存の第一言語のストラテジー能力と日本語使 用時のストラテジー能力を比較。第一言語で既存している技能は、日本語でもできるよう、 両言語で使用できないストラテジー能力については、両方で使用できるよう教材を鈴木 (1988)の 3 段階モデルを使って開発。
いくつか課題はあるものの、多くの学習者が知的能力資源を使用し、バランスをとり、技 能を活性化し、手順を決めるための手段として学習したストラテジー能力を両言語で使用 できると回答。コミュニケーション能力の基幹となるストラテジー能力の学習のためのチ ェックリストの開発を行う。
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ストレスレ梓(2023)継承日本語学習児の自律的漢字学習に繋げる思考シス テムの育成 -プログラミング・デジタルスケッチブックを使用した授業の提案-.熊本大学大学院 社会文化科学教育部 教授システム学専攻 2022年度提出修士論文
本研究の目的は、日本語を継承語として学ぶ子ども(JHL児)の漢字教授について の提案である。継承語は、幼少時に第一言語だったものが社会生活の広がりによって 優勢でなくなった言語で母語(国語)とも外国語とも異なるが、継承日本語教育の歴 史は浅く、学習者の実態にあった教授法・評価法・教材の開発が急務となっている。 本稿には、JHL児が自らの意欲と目標を自覚した自律的な漢字学習者になるための思 考シス テムの育成を目指し、インス トラクショナル・デザインの手法で設計、実践し た授業成果をまとめた。 序論として、第1章で研究の概要を述べる。第2章では、先行研究の分析と問題提 起を行う。国語教育・日本語教育における漢字教授法や教材研究を収集し、それらを 継承日本語教育に転用することによって起こる問題を検討した。 本論では、第3章で介入授業開始前の設計を、第4章で結果と考察を述べる。第3 章では学習者分析と介入授業前の漢字教授分析から問題点を整理し、問題解決に向け た学習目標の設定および授業設計を検討した。問題点の整理と目標設定には、「漢字 学力の構造」を使用した。「漢字学力の構造」はマルザーノの学習目標の新分類体系 を参考に、冨安によって作成されたものである。本研究では、長期的自律的に漢字を 学んだり使ったりする際に必要な力を、「思考シス テムの処理」の「自律シス テム」 および「メタ認知シス テム」の2つであると仮定し、その育成を目指した。授業デザ インに際し、ガニェの学習成果の5分類とマルザーノを比較分析し「態度」が「自律 シス テム」、「認知的方略」が「メタ認知シス テム」にあたるとして、課題分析を行 なっている。授業実践を経た第4章では、授業前後のアンケート・プレゼンテーショ ン・インタビューそして作品のデータから、学習者の自律シス テムとメタ認知シス テ ムを分析した。 結論として、第5章で2つの学習目標の達成度を述べる。授業前後の変化比較から 得た結論は、進んで日本語・漢字学習の継続を選択する態度は全員が獲得(または維 持)できたが、自分の学習をメタ認知し、現実的な目標設計と到達手段を考える認知 的方略の獲得には個人差が大きいということである。プログラミング・デジタルス ケッチブックアプリSpringin’を使った作品作りの効果としては、保護者介入の減少、 相互コメントによる作品のブラッシュアップ、社会的・文脈的な漢字学習がある。最 後に、残された課題と今後の展望をまとめた。
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馬塲友子(2023)低頻度高リスク疾患・症状の看護実践のジョブエイドおよび GBS(Goal-Based Scenarios)に基づく研修の開発
.熊本大学大学院 社会文化科学教育部 教授システム学専攻 2022年度提出修士論文
救急外来では患者の状態に合わせた迅速な対応が求められる。そのようななか、二次救急病院において 救急医の数は少なく、看護師も必ずしも救急に長けている看護師ばかりが勤務しているわけではない。 そのため、来院頻度が少ない疾患に関しては以前対応した経験を思い出しながら、あるいは手探りで対 応していることもある。その結果、生命に危険を及ぼす疾患や症状の患者に対して自信がない中で看護 を提供している事態が懸念される。そこで救急看護師に対して来院頻度は低いが生命のリスクは高い疾 患や症状の患者の看護を行う際のパフォーマンスが向上できるような取り組みをしたいと考えた。現状 では、どの病院にも看護手順書や疾患の手順書などは存在しているが、大多数は文字が多いため、一刻を 争う救急現場では活用されないことが多い。そのような状況下でパフォーマンスが向上できるようにジ ョブエイドを作成し活用してもらうことで、看護師の決断を支援し助言し導くことで患者の対応に自信 が持てるように支援したいと考えた。また、来院頻度が低い疾患はジョブエイドの作成だけではそれを 活用するに至ることが難しいと考え、パフォーマンス支援システムを参考に GBS 理論に基づいたシナリ オ研修を開発しセット化することとした。
低頻度高リスク疾患・症状に対して、今回は低体温症の看護実践のジョブエイドを作成した。また、シ ナリオ研修は、実際の看護場面で遭遇するようなストーリーとして真正性を重視して作成した。シナリ オは GBS(Goal-Based Scenarios)理論に基づきゴールに向けて学習者自身が看護実践の行動を選択 しながら進められるような学習スタイルとした。ストーリーに関しては3パターン用意し、重症度に応 じた対応ができるように工夫した。そのようなシナリオ研修の中で、選択肢で判断に迷う時などにジョ ブエイドを活用してもらい使用方法を体感してもらった。学習者全員がジョブエイドは稀な来院でも活 用できると回答した。また、学習者の 80%が「自信がついた」「やや自信がついた」と回答しており失敗 から繰り返し学習しながら知識を深めることができたと考えられた。さらにシナリオに対する取り組み を要した時間に関しては、重症や最重症患者の対応でもジョブエイドを活用しながら軽症患者よりも短 時間で看護実践を選択できておりジョブエイドの活用が有用であったことが示唆された。
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天野裕香(2023)「経験学習に基づいた中堅看護師 ACP ファシリテーター育成研修の開発」
.熊本大学大学院 社会文化科学教育部 教授システム学専攻 2022年度提出修士論文
Advance Care Planning(以下、ACP とする)は、自分の価値や意思を踏まえ、医療者と患者 家族間で話し合い今後の治療・ケア計画を決めるものである(厚生労働省 2018)。ACP の遂 行にあたりファシリテーターとして介入する中堅看護師には、
研修はいくつか行われているが、ACP におけるマネジメントを行うのに必要な ファシリテーション・スキルを育成する研修報告はない。現状の ACP 実践研修の成果は「知識 の向上」「自信につながった」などで評価される一方、「知識にはつながったがすぐには実践で きない」と臨床実践での転用が困難な状況である。
ACP は、対話の繰り返しであり社会的構成主義に位置付けられる。その特性から相互学習 の研修がほとんどであり、外部リソースで行われている。ACP ファシリテーターの研修は、座 学・事例検討とロールプレイが中心で設計される。既存研修を Kolb の経験学習モデルで検 証すると、具体的経験と内省における特に「描写」「外化」(中原 2021)が不足しており省察が 不十分であることや抽象的概念化の支援がないことがわかった。経験学習は、具体的経験だ けでは、職場での能力向上には結び付かず、内省と概念化が重要であると言われており(池 尻ら 2022)実践への活用に至っていない要因であることが示唆される。
ACP ファシリテーターに必要な前提知識を完全習得させる学習支援と経験学習に基づい た内省的観察と抽象的概念化の学習支援を強化することで、OJT に必要な知識とスキルを習 得することを目指した研修の開発を行う。開発した研修の専門家レビューでは、IDer の専門家 レビューを受け学習目標と研修評価の方法の改善を行った。また、ACP ファシリテーター経験 を多く持つ専門家レビューでは、現場で ACP の実施においての看護師に求められるニーズと 学習目標が概ね合致しており、ロールプレイシナリオは、現場でも汎用性があることを受けた が、研修時間や研修内容の難易度が高いとの懸念があった。形成的評価では、個人学習と 集合学習ともに1対1の形成的評価を行った。個人学習では、概ね問題なく取り組めたが、事 例問題には正解がないため自己での答え合わせに不安があった。集合研修では、前提テスト で想定より大幅に時間を要したことや話し合いや個人ワークの時間が足りず中途半端になっ てしまい、概念化のワークシートはほとんど記載するまでに至らなかったなどの課題が上がっ た。ロールプレイにおいては、実践をビデオでとり自分のファシリテーターの姿を「描写」するこ とができたとの意見が多く、リフレクション後にもう 1 度実施する機会があることでより深い学び につながるのではと、受講生からの意見があった。
本研修は、ACP ファシリテーターとしての必要な知識と業務スキルを習得するのに有用であ り、ロールプレイの実践を描写することで効果的なリフレクションに繋がった。課題は、研修時
の合意形成と協調的に対立を解消させ、患者にとって最善の医療・ケアを導く、高度な能力を
患者・家族らの意思と医療者間
必要であり、人材育成が必要である。
ACP に関する間の再構成と前提テストと事前学習の相関性についてである。また、評価方法と行動目標の 整合性を上げることも重要な課題である。
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菅広信(2023)ジョブエイドを組み込んだ人工呼吸器のアラーム設定学習プログラムの開発
.熊本大学大学院 社会文化科学教育部 教授システム学専攻 2022年度提出修士論文
2019 年 12 月からの新型コロナウィルスのパンデミックの影響により人工呼吸器や
ECMO(体外式膜型人工肺)などの治療法が注目された。生命を維持する機能をもった人 工呼吸器は、同時に管理する側に高度な知識と実践能力が求められ、医療事故を防止する 必要もある。その際、人工呼吸器を使用している患者の引継ぎの際は、人工呼吸器保守点 検チェックリストを用いて、問題がないことを確認してから、自分の勤務を始めることが 鉄則となっている。
この人工呼吸器保守点検チェックリストは目視で確認するような部分と、換気条件や換 気状態など、見るだけでは正しいかどうか分からない部分がある。一方、見るだけでは正 しいかどうか分からない部分は、換気条件の中の「モード」や「アラーム設定」が挙げら れる。このアラーム項目は、患者の症例によって、正しいアラーム設定が変化する。例え ば、発熱や疾患の特徴により、呼吸回数が増加する場合、それ以上悪化したときに看護師 がアラームにより気付くことができるように数値を設定する必要がある。したがって、チ ェックリストでデフォルトの設定値を確認できても、患者の症例の特徴に合わせたモード やアラーム設定は経験や学習が必要であり、新人看護師や集中治療室に異動したばかりの 看護師には難しいことが、部署の教育担当者及び、リスクマネジメント委員、そして新人 看護師へのニーズ分析で明らかになった。
本研究はこの「症例に合ったアラーム設定を行うことができる能力」を新人看護師・集 中治療室に異動したての看護師でも行えるようにジョブエイドを開発する。この能力は経 験上、就職後 24 ヶ月〜36 ヶ月以上実践して得られる能力であり、難しい能力である。こ の能力をサポートするジョブエイドを作る際には、症例とアラーム設定に、ある程度のパ ターンが存在し「症例に合ったアラーム設定を行うことができる」ようになると予測され るが、ジョブエイドを使う上で疑問となる医療用語が存在し、これらの学習も行う必要が 生じる。したがって、ジョブエイドを組み込んだ、人工呼吸器のアラーム設定学習プログ ラム(ジョブエイドを組み込んだアプリケーションを含む)を開発し、その効果を検証し た。
1 対 1 評価の結果、学習者はジョブエイドを使いながら「症例にあったアラーム設定を 行う」ことができた。しかし、その目標を達成するまでに必要な時間が多くかかること で、ジョブエイドとしての効率性、学習者が、自分の力で達成したと思えず、満足感が得 られていないことが課題として挙げられた。
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月足由香(2023)企業内教育における実務スキル育成を支援する学習プログラムの開発―対話テキストを用いた構造化ワークによる商談スキルの習得―
.熊本大学大学院 社会文化科学教育部 教授システム学専攻 2022年度提出修士論文
詳細はありません。
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坂本昌宏(2023)地方自治体職員の業務関連性に着目したDX人材育成eラーニングの開発
.熊本大学大学院 社会文化科学教育部 教授システム学専攻 2022年度提出修士論文
要旨(日本語)
ネットワークの高速化やコンピュータの処理能力の向上、そしてスマートデバイスの浸
透による社会の変革を受けて、2016 年 1 月に狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society
2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く新たな社会モデルとして、
Society5.0 を目指すことが閣議決定された。
これにより社会全体で「DX(= Digital Transformation)」の推進が課題とされ、社会機構
のデジタル化を推進することが強く求められることとなった。
しかし、従前は住民基本台帳カードと呼ばれる部分的なデジタル化は推進されていたも
のの、地方自治体の2~3年で異動を行うジェネラリスト型人事制度と、それに基づき情報
システムは外部委託をするという基本的な方針により、地方自治体において特にデジタル
専門人材という枠で職員を養成することはされておらず、単に「情報部門の担当者」として
「委託先事業者との調整を行う職員」としての能力しか求められてこなかったことから、現
在 DX 推進を担当する「DX人材不足」が課題としてクローズアップされている。
そして、地方自治体にとって、DX推進及びデジタル人材確保はここ数年間対応が必要な
課題ではなく、Society5.0 時代の地域を支える存在となる全ての地方自治体にとって、継続
的に取り組むべき課題であることから、有効なDX人材育成の手法の必要性は高まってい
るが、これといったものが提供されておらず、全国的に試行錯誤しているのが現状である。
ところで、過去自組織で委託により実施した情報セキュリティ及び情報化において、民間
事業者を対象とした教材をそのまま実施した場合と、特に自治体業務での事例を説明しそ
れを取り入れて実施した場合について理解度の差が生じた。この差を生む要因を考察した
ところ、民間事業者のデジタル化と地方自治体のそれを比較し、それぞれの職員における
「情報化経験」に大きな開きがあるのではないかと考えた。
この結果を踏まえ、地方自治体職員の業務関連性に着目した e ラーニングコースを作
成し、広島市・広島広域都市圏職員に提供。その受講データを元に改善を重ねた結果、学習
目標である「受講者のDX推進に関する意識を改善する」ことについて全ての受講者から肯
定的な回答を得られるコースの作成に成功した。また、そもそもデジタルは難しいものだと
思っている地方公務員から「とっつきやすさ」に関する評価が、肯定的・否定的に二分され
ていた教材から全ての受講者から肯定的な評価を得るものへと改善することに成功した。
また、これらのとりくみの研修効果について、カークパトリックの4段階評価を用いて
測定したところ、第3段階に到達しているといえる、つまり十分な研修効果を得るコースを
作成できたことも確認した。
一方で課題として、コース完走者を対象とした形成的評価による改善であったことか
ら、離脱者への対応が取れていないこと。その前提となるスキルサーベイが必要であること
が判明した。
今後も本研究の成果をもとに、判明した課題の解決を図るとともに、DX の各分野に関し
地方自治体の業務関連性に注目した「とっつきやすい」e ラーニングコースを順次作成し、
改善を重ねることで「学習者中心の DX 人材育成プログラム」を作成する手法を確立したい
と考えている。