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小池啓子(2020)中堅看護師の行動変容を促す院内教育担当者向け研修支援パッケージの開発 - キャリアラダーとアクションプラン活用型研修の提案 - .熊本大学大学院 社会文化科学研究科 教授システム学専攻 2019年度提出修士論文
看護師の能力やキャリア開発の指標・評価システムの 1 つであるキャリアラダーを活用し, 中堅期にある看護師(以下, 中堅看護師)の行動変容を促す研修パッケージを開発することを研究全体の目的とした. パッケージの開発は 5 つの過程を踏んだ.中堅看護師がキャリアラダーIIIの活動を促進するための院内研修の改善を検討していた
A 病院において, 研修改善と実践, および評価までの過程を 「phase 1 :A 病院の従来の中堅研修における課題を洗い出し,改善. 新設計研修を開発する」, 「phase 2 :A 病院中堅研修の実践」, 「phase 3 :phase2 の実践を通じて新設計研修の評価を得る」とし, 次いで「phase4 :phase1∼3 のエキスパートレビューを得て内製研修に向けた準備をする」, 「phase 5 :研修資材と活用ガイドを梱包したパッケージを開発し, 実用可能か SME レビューを得る」の過程を本研究では辿っている.
従来の A 病院の中堅研修を ID 第一原理と経験学習モデルを援用し新設計研修(以下, 新設計)に改善した. 新設計で 2018 年度に研修を実施した結果, 受講者の 8 名は自部署でキャリアラダーレベルIIIに相応した役割発揮を果たした. また, 研修修了半年後も活動を維持・促進していることが明らかになった. この成果を考察し, 汎用性が期待できる研修支援パッケージを開発した. この開発は, 新設計が A 病院の中堅看護師育成に寄与できたとい
う成果検証を経て, 中堅看護師育成を担当する教育担当者が本研修の再現を可能にするための支援を目的としている. 中堅看護師の行動変容を促す研修支援パッケージを活用し,院内の教育担当者による内製研修を可能にすることで, 中規模病院の人材育成上の課題である「教育を担う人材の確保」, 「中途入職者への教育内容や体制の整備」, 「中堅看護師への教育内容や体制の整備」への一助となる. 本稿では, A 病院の従来の中堅研修を新設
計に改善, 実践した成果から, 院内の教育担当者による内製研修を可能にするために活用ガイドを梱包した研修支援パッケージの開発経緯を示し, 活用の提案準備を整えたことを報告する.
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清水久輝(2020)ルーブリック評価における評価者と被評価者間のバラツキを抑制するためのチェックリスト開発と研修設計.熊本大学大学院 社会文化科学教育部 教授システム学専攻 2019年度提出修士論文
現在所属している企業においては,医薬情報担当者(以下 MR)の育成が急務となっている.2018 年からは MR の育成を目的に,MR の高業績者の行動を基にした企業内のコンピテンシーである「Top MR Competency(仮称)(以下 Top MR Competency)」が導入されている.「Top MR Competency」は 21 項目から成り,それぞれルーブリック評価としてレベル1〜4の目標行動が記載されている.「Top MR Competency」の評価は,現在年 2 回実施されており評価者である MR の 上司(以下 DM)と MR 本人によるルーブリック評価を行い 21 項目毎のレベルをつけ日々のコーチング 等に役立てられている.しかし,「Top MR Competency」のルーブリック評価を行う際に評価者である DM と被評価者である MR との評価にバラツキが発生しており,「Top MR Competency」を基にした 質の高いコーチングや面談が行われていない.その理由として,各コンピテンシーのルーブリックの記載内容が抽象的で実際の行動に落とし込まれていないためであると考えられる.この問題を解決するために,ルーブリックレベルに具体的な目標行動を記載した「目標行動チェックリスト」を設計・開発することとした. また目標行動チェックリストを使用した研修の設計・開発も行う.研修については研修パイロットを行うこととし,目標行動チェックリストの使用によるバラツキの抑制状況の確認を行う.研修パイロットの方法は,オンライン教材と対面研修を実施する.具体的な方法として,2名の MR にオンライン教材で自己学習を進めてもらい,架空 MR の活動について「Top MR Competency」のレベル評価を実施してもらう. その上で,目標行動チェックリストの使用法を学び,最後に目標行動チェックリストを用いて自己評価を実施する.オンライン教材終了後は,対面研修で他 MR の活動について目標行動チェックリストを用いて他者評価を実施する.対面研修には DM も参加して改めて目標行動チェックリストを用いて評価を行った場合にバラツキが出ないかどうかの確認を行う.万が一,バラツキが確認される場合は改めてレベル 評価の目線合わせを行い MR と DM の3者でレベル評価を決定する.最後に研修パイロットのアンケートを実施し,さらなる改善項目を特定し,来年度以降全社展開できるようにする.以上の取り組みにより MR と DM のルーブリック評価のバラツキを抑制し,質の高いコーチングや面談を実施し Top MR 育成に繋げる.
今回の研究による期待される成果は「目標行動チェックリスト」のよる目標行動の明確化により,ルーブリック評価の評価者と被評価者間のバラツキを無くすことである.またこの成果から得られるベネフィットとしてコーチングや面談の質が高まり結果的にコンピテンシー達成者いわゆる Top MR が増加すると考える.
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富永志津江(2020)職業訓練受講生のキャリアシート作成を支援するジョブエイドの開発 ―コンセプトマップ表現による職業情報提示の試み―.熊本大学大学院 社会文化科学教育部 教授システム学専攻 2019年度提出修士論文
近年,少子高齢化に伴う労働力不足および個人の職業生活の長期化への対応として,労働者のキャリア形成支援が喫緊の課題となり,多くの政策的キャリア形成支援が行われている.生き方・働き方の変化と多様性の中で,労働者がエンプロイアビリティの維持・向上を図り,満足度の高い生涯を過ごすためには,キャリアコンサルティングが実践・普及されることが必要である(厚生労働省 2018a)とされ,平成 28 年のキャリアコンサルタント国家資格化・登録制度をはじめとして様々な人材開発施策が行われるようになった.
キャリア形成支援に関する先行研究は,キャリア教育や人材育成,労働行政において数多く存在し,様々な技法の開発が行われてきた.ビジネススクール学生のキャリア開発の事例では,職務分析の視点と職務内容および職務行動表現の獲得が効果的であると指摘されている(R A. Cheramie 2014).また,公共職業訓練における就職支援の報告では,受講生が採用可能性および職務遂行の見通しを持てることが,特に,業界未経験者の意思決定に有効であることが明 らかになっている(松本 2018).
一方,職業訓練機関等におけるキャリア形成支援者については,定められた講習の受講のみでキャリアコンサルティングを実施しているケースにおいて,「相談者からうまく話を引き出せな い」,「強みを的確な言葉で言い表せない相談者に適切に対応できない」,「相談者への情報提供が必要だが最新の情報・知識が不足」など支援者側の知識・経験の不足による課題が指摘されてき た(厚生労働省 2016b).平成30年には,厚生労働省において,労働者属性ごとの課題に対応した新たなキャリアコンサルティング技法の研究・開発が行われ,さまざまなツールの活用による効果が示されている(厚生労働省 2018b).しかし,支援の効率および魅力を高める介入手法に関する研究はほとんど見られない.
筆者は,公共職業訓練における就職支援に従事し,キャリアシートの作成にあたり「どう書 いたらいいかわからない」「自己アピールできない」といった相談が寄せられること,多くの 受講生に業種・職種・職務の混同や,職務経験の体系的把握および標準的理解といった基本的 職業理解に不足や偏りが見られることを経験している.そのため,これまでは個別支援におけ る職務経験の棚卸しや言語化の支援,および集団研修による職務分析スキルの指導を行ってきた.しかし,限られた時間の中で職務分析の視点や職務内容・行動表現のスキルを習得することは,多くの受講生にとって認知的負荷が高く,容易ではないことが課題であった.
そこで,標準的な職業情報を簡易に利用できるようデザインしたジョブエイドを開発・導入し,受講生の認知的負荷を軽減しつつマッチングポイントの発見を促し,自己アピールの言語化を支援することで,個別支援の効率化・省力化を図ることができるのではないかと考えた.
本研究は,職業訓練受講生のエンプロイアビリティを高めるために,職務分析の視点で自己 理解とアピールポイントの発見を促し,キャリアシートの作成を支援するジョブエイド(以下, ジョブエイド)を開発・評価した.
ジョブエイドは,希望職種に求められるスキルや経験に関する情報をコンセプトマップ表現 により提示し,これまでの職務経験・職務行動とのマッチングポイントの発見を促す「職務経 験マップ(以下,マップ)」と,マップに記載した各項目に必要とされる知識と技術・技能を列挙した「添付資料」,マップと添付資料の使用方法および記入例を示した「指示書」の3点を試作した.
試作したジョブエイドは,デザインの妥当性を評価するため専門家によるレビューを受け,その結果をもとに改訂を行った.その後,改訂したジョブエイドの有用性を評価するため,受 講生のうち希望者を研究協力者とし,1 対 1 評価を行った.その結果,本ジョブエイドは使用 者にとって使いやすく,簡易な作業でアピールポイントの発見,およびキャリアシートの記述 を充実させることが可能であることが示され,「キャリアシートの作成を支援する」という目 的は達成された.
また,有用性を多角的に評価するため,個人面談においてジョブエイド使用者群と不使用者 群に分けた各群の求職票の記述と作成に要した時間の比較,および作成支援者(職業訓練指導 員)へのインタビューを行った.そこで得られた結果から,ジョブエイド使用者群は,不使用者群と比較して,個人面談時間の短縮は見られなかったものの,アピールポイントの記述に個別のばらつきが少ないことが明らかとなった.また,訓練指導員へのインタビューにおいて, タスクベースで表現する言葉の獲得や行動面への肯定的な変化が見られ,本ジョブエイドの有用性が示唆された.
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立和名房子(2020)初任日本語教師のための教案作成支援ツールの開発 - 学習目標・評価・練習の整合性の取れた授業設計を目指して -.熊本大学大学院 社会文化科学教育部 教授システム学専攻 2019年度提出修士論文
本稿の筆者が勤務する日本語教育機関に所属する初任教師とその初任教師を指導する教師の間で行われている教案指導を支援するため、教案作成支援ツールの開発を行った。
開発に先立ち、教案指導の課題を明らかにするための予備調査として初任者 4 名と教案指導担当者 2 名にインタビューを実施した。さらに詳細な情報を得るために、筆者を含む勤務校の教案指導担当者にこれまでに提出された初任者 12 人分の教案と教案に対するフィ ードバックを分析した。この分析の結果、授業の目標・評価・練習の不一致がもっとも多く指摘を受けている点であることが分かった。次に、これらの結果から得られた情報をもとに教案作成時に使用する1教案記入シート、2教案チェックリストとそれらの付属資料であ る教案の記入例(3教案記入シート使用前、4使用後)、5教案記入例についての説明、6教案記入シート使用前(3)と教案記入シート使用後(4)を比較したもの、7チェックリストの記入例、8チェックリスト記入例についての説明を開発した。 ツールの開発後はインストラクショナルデザインの専門家 2 名と内容領域の専門家 2 名 にレビューを実施し、その結果を受けてツールの改訂とそれらの使い方を説明した9マニュアルの作成を行った。そして、次の段階として、初任者による有用性についての形成的評 価を行い、本稿の筆者本人が教案指導担当者の視点でチェックリストを使用した。その結果 にもとづき、さらに支援ツールを改訂した。再度、改訂した支援ツールのエキスパートレビューを実施した。
レビューを経て改訂した支援ツールは初任者と本稿筆者間で試用し、教案作成支援ツールの効果を検証した。本ツールの開発目的は教案作成時に初任者自身が教案を自己点検する際のガイドとなるツールの開発であったが、この点について有用性が確認できた。また、本ツール使用の効果として、教案作成の負担軽減、授業の質向上につながるよりよい授業設 計、効率的、効果的な教案指導の実現も目指していた。これらについても一定の成果が得られる結果となった。
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工藤由美子(2020)小学校教員と ALT との授業打合せのための研修設計 ―外国語不安の軽減を中心に―.熊本大学大学院 社会文化科学教育部 教授システム学専攻 2019年度提出修士論文
2020 年から小学校の外国語活動が教科になることを受けて、文部科学省は新な学習目標として、「英語コミュニケーションの素地を養う」ことを指し示した。これにより教師は、これまでの訳読スタイルの授業や、インターラクションがない一斉授業の教授法とは異なる、「英語コミュニケーション」を目的とした英語の指導・運用、ALT(外国人指導助手)とのティーム・ティーチングなど、新しいスキルの習得が急務となった。小学校の教員は、英語免許状の取得は義務ではなかったこともあり、英語の指導力や運用力、教員自身の英語力向上を目指した研修の必要性が高まってきている。新たに学習項目に加わった「英語コミュニケーション」の指導に、不安を抱えている者は少なくない。新しい学習目標を教えるために、必要な英語のスキル研修はまだ組織的な運用が始まったばかりである。しかし、研修の多くは、英語指導力に関するものがほとんどであり、教員自身の「英語のコミュニケーション力向上」を主とした研修はまだ確認できていない。また、研修は宿泊型や集合研修が主流で、日程の調整や研修時間の確保、および交通費などのコスト面で研修に参加することが困難なケースもある。本研究は、小学校教員のニーズにあった効果・効率的かつ研修の魅力を高めるために、インストラクショナルデザイン (以下,ID)の手法を取り入れ、「外国語」の指導に不安を抱えている教員の不安軽減に焦点をあて、研修の設計・開発をおこなった。ARCS モデルをベースに研修を設計することで、教員の学習意欲を高めることが外国語不安軽減へのアプローチになると考えた。よって、研修には、教員が現場で使う英語と関連性の高い、「ALT との授業打合せ(外国語)」の場面を設定した。研修開発は、迅速に課題解決を提案するためにも、短期間で学習効果の高い研修を目指した。そこで、研修開発に ID プロセスを短縮化した「ラピッド・プロトタイピング・モデル(分析・開発・実施・評価)を取り入れた。このモデルは、学習者のニーズに的確に対応した教材の試作品を作成し、何度も実施して改善するため、学習効果の高い教育システム開発をすることが期待できる。
学習内容に最適だと思われるIDの方略をもちいて、パイロット版として1回目を実施した。そして、データ分析に基づいた教材の改善をおこなった。それに基づいて、2回目の研修を実施した。各フェーズで実施したアンケート調査の結果、ARCS モデルをベースにした同期型の研修は、学習意欲を高めることが示唆された。また、研修期間中に学習した英語を現場で活用するという行動が見られた。現場のニーズにあった関連性の高い研修であったことを示唆している。一方で、小学校教員の IT リテラシーの課題も大きく、十分な学習支援が提供できなかったことは、少ならからず学習効果に影響をおよぼした。期待していた外国語不安軽減には至らなかったことから、研修環境の設定の課題も見えてきた。
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宮道亮輔(2020)コンピテンシーに基づいた経験学習の実践支援 - ICLS 指導者養成ワークショップの設計・開発 -.熊本大学大学院 社会文化科学教育部 教授システム学専攻 2019年度提出修士論文
本研究は、Immediate Cardiac Life Support(以下、ICLS)インストラクターが自身の経験学習のサイクルを循環させることができるようになる ICLS 指導者養成ワークショップを設計・開発することが目的である。
ICLS コースは、突然の心停止に対する最初の 10 分間の対応と適切なチーム蘇生を習得することを目標とした医療従事者対象の医療シミュレーションコースである。ICLS コースの指導者(インストラクター)を養成するための ICLS 指導者養成ワークショップ(以下、WS)も開催されているが、WS の学習目標は提示されておらず、明らかでない。
本研究では、ibstpi®インストラクターコンピテンシーを参考に 41 項目からなる WS の学習目標を作成した。ICLS インストラクターに調査した結果、インストラクターとしての経験回数が少ないグループは 41 項目中 18 項目(44%)の到達度が低かった。インストラクターとしての経験回数が多いグループでは多くの項目で到達度は高いが、自己の経験学習についての項目などは、経験回数が増しても到達度は低いままだった。既存のテキストや先行研究の WS 内容が学習目標 41 項目を充足しているか確認したが、両者とも 5 割程度しか記載されていなかった。これらの結果から、より多くの学習目標を達成し、特に自身の経験学習について扱う WS の開発が必要と考えた。
経験学習を支援するための手段として、先行研究や文献を参考にして、経験を記述し、発表して討議し、まとめるという手順を採用した。また、内省的観察と抽象的概念化を効果的・効率的に行うための経験学習支援ツールを開発した。そして、学習者自身が経験学習のサイクルを回せるよう、実践事例の提示、eラーニングでの実践、ロールプレイによる実践という 3 つの段階を含む WS を設計・開発した。開発したツールや WS は、専門家
のレビューと形成的評価を行い、内容を改善した。5 名に WS を受講してもらった結果、受講者は学習目標を達成でき、経験学習尺度も上昇した。このことから、作成したツールや WS は、経験学習のサイクルを循環させることにつながると考えられた。今後は WS 修了後、時間をおいても経験学習のサイクルを循環させられているかを確認する必要がある。その上で、日本救急医学会などで報告し、著者以外も実施できるようにして普及をはかる。さらに、ツールや WS が他の医療シミュレーションコースにも展開できるか確認する。
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加嶋多恵(2020)GBS教材を用いた患者対応スキル向上のための授業設計 ―看護学生のための患者安全教育―.熊本大学大学院 社会文化科学教育部 教授システム学専攻 2019年度提出修士論文
詳細はありません。
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高瀬良重(2020)小学校教員のための学校図書館活用支援ツールの開発と評価 ―授業における学校図書館活用のための知的技能の習得を目指して ―.熊本大学大学院 社会文化科学教育部 教授システム学専攻 2019年度提出修士論文
詳細はありません。
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金武雅美(2020)GBS理論を応用した日本語支援員養成プログラムの eラーニングの教材 -外国人児童生徒等の支援を目的として -.熊本大学大学院 社会文化科学教育部 教授システム学専攻 2019年度提出修士論文
詳細はありません。
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伊藤洋一(2020)合意形成過程を伴う研修の精緻化理論に基づく再設計 - データモデリング入門コースを題材にして –.熊本大学大学院 社会文化科学教育部 教授システム学専攻 2019年度提出修士論文
本研究は,反転学習導入による新たな問題を解決するために,精緻化理論で再設計した場合の有効性について検証した。研究題材は,データベース設計で使われるデータモデリング入門コースとした。本研究の背景にあたる反転学習導入の問題点は,反転学習導入以前に使っていた詰め込み教育のテキストを学習者に読んでもらいながら,独学で個人課題に取り組む大変さであった。精緻化理論導入前の研修設計は,階層化された知識構造で系列化されていた。学習目標は学習課題を通じて複雑なタスクができるようになることであった。しかし,インストラクショナルデザインの視点では,階層化された研修を通じて,複雑なタスクができるようになるには,学習者への負担が大きく,推奨されていなかった。そこで,本研究では,精緻化理論を導入することで,学習者が全体像を掴みながら,必要最小限の知識を使って,基礎的なタスクから複雑なタスクへ進めることができるため,学習者にとって負担の少ない研修ができると考えた。先行研究では,個人学習による精緻化理論の効果は得られていたため,データモデリング入門コースにおける個人課題についても効果が得られると予想した。合意形成が必要なチーム課題については,精緻化理論の先行研究が見当たらなかったため,協調学習の教授法で
工夫した。研究結果は,個人課題では学習効果が得られたが,合意形成過程が伴うチーム課題では変
化がなく,今後の研究課題として残った。今後の研究テーマは,合意形成過程が伴う研修におけるデザイン原則を見出すことを目的に,データモデリング入門コースで研究を進めたいと考えている。
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増永恵子(2020)ID第一原理を活用したリーダー看護師育成の事前教育教材の開発 -マネジメント業務に焦点をあてて-.熊本大学大学院 社会文化科学教育部 教授システム学専攻 2019年度提出修士論文
P、Benner(P、Benner 1984、井部2005)によれば、臨床経験年数2、3年目看護師は、意図的に立てた⻑期の目標や計画を踏まえて自分の看護実践を捉え始める時期であるとしている。この時期は、指導体制が整った環境下で臨床実践を経験した後、ほぼ1人前とみなされ、病棟業務における役割が課せられる。その1つとして、勤務帯リーダーがある。勤務帯リーダーとは、各勤務帯で、リーダー役割を担う看護師のことであり、医師の指示等の情報を収集し、入室している患者の全体像を把握し、起こりえる状況を予測すると共に様々な状況下でチームメンバーの実践能力や業務内容、業務量などを総合的に判断しマネジメントを行ない、その勤務帯に提供する看護の責任を担う。経営学者であるジョン・ P・コッター(2002)は、「複雑な環境にうまく対処していくのがマネジメントの役割である。これに対してリーダーシップとは、変革を成し遂げる力量を指す」と述べ、リーダーシップとマネジメントは根本的に異なると述べている。リーダーシップの機能は、組織の方向性の明確化・共有・浸透に加え、フォロワーを動機付け鼓舞することで、変革を起こすことであり、一方で、マネジメントは、計画策定、人材配置、予実管理・修正をおこない、確実に組織で業務を遂行していくことである。リーダーシップよりもテクニカルなことがメインの機能と述べているように、勤務帯リーダーはマネジメント的要素が多く含まれている。しかし、現状はマネジメントに対するフォーマルな研修や学習機会はなく、リーダートレーニング(以下、LT とする)を受けるスタッフにとって、LT がマネジメントの視点や業務をはじめて集中的に体験することであるといえる。
そこで、LT の事前学習となる教材を提供することで、LT 受講者が自信と期待をもって LT に臨むことが できると共に LT の事前学習と LT の組み合わせで学習効果のある LT を構成していくことを目的にマネジメント業務に焦点を当てて、メリルの第一原理を用いた教材を開発することとした。
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生田正美(2020)急臨床現場で役立つ新聞デジタルアーカイブの開発 ~二次救急看護師のための研修以外 での人材育成~.熊本大学大学院 社会文化科学教育部 教授システム学専攻 2019年度提出修士論文
救急看護師が救急現場や自己学習の場で活用できる、新聞形式資料のデジタルアーカイブを開発した。この新聞デジタルアーカイブを活用、作成することによって、研修以外の人材育成を考察する研究である。
二次救急医療施設で勤務する救急看護師は、資源も人員も限られた環境下にある。救急看護は看護師個々の知識やスキルが患者の生命に直結する場面が多く存在する。迅速・的確に救急患者の緊急度・重症度を判断し、患者の状況をアセスメントしていくことが求められる。そこで救急 看護師の知識向上を目指し、対面型学習会と新聞形式の資料作成を 7 年間で 40 回行った。新聞形式の資料は A4 用紙 1 枚で完結し、学習会に出席できないスタッフにも簡潔明瞭に学習会の内容を伝える手段として作成した。新聞形式の資料は、救急搬送までの数分の間に疾患や観察事項の再確認に利活用されており、スタッフ個々がスクラップやファイリングして活用している現状である。
しかし,長年開催してきたことによって、新聞枚数が多くなるにつれ過去に作成した資料の更なる活用が十分にされていないことなどが問題であった。
そこで蓄積された新聞形式の資料を効果的に利活用できるよう、新聞デジタルアーカイブを開発した。この新聞デジタルアーカイブは、仕事中や職場以外での自己学習の際に活用でき、欲しい時に欲しい情報が、いつでもどこでも入手できるように開発した。
さらに、新聞デジタルアーカイブの中で、学習者同士で事例を共有し、学び会えるフォーラムを設けた。
この一連の学習のサイクルは、看護のナレッジマネジメントであり、学習者同士がともに教え学びあえる場となり、研修以外の人材育成を実現すると考察した。
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高畠(倉本)知佳(2020)ARCS モデルに基づく歯科矯正治療の患者教育用オンラインコンテンツの開発.熊本大学大学院 社会文化科学教育部 教授システム学専攻 2019年度提出修士論文
現在、歯科矯正治療分野に新しい治療方法であるマウスピース矯正治療が急速に普及している。
歯科矯正治療は、不正歯列と咬合機能、顎関節機能等の顎顔面機能と口腔関係領域の顎顔面形態の劣成長の改善・回復を行う治療であり、その病態形成を見ると慢性疾患と位置づけられる。その為、現状の臨床での矯正治療に必要な治療期間は長期となっている。
治療期間が長期となる歯科矯正治療では、歯科医師が患者に配慮してインフォームドコンセントにおける治療説明義務を果たすことが患者からの治療全体の評価に大いに 関係する。
しかしマウスピース矯正治療においては、治療に使用する矯正用マウスピースが患者自身で装着・取り外しが可能な治療である為、患者が治療に積極的に参加する治療参加型矯正治療とも言え、患者のマウスピース矯正治療の知識の有無や理解の程度が矯正治 療結果の良不良や治療期間の長短など治療全体に大きく影響してくる。
本研究では、マウスピース矯正治療を開始する前に患者が理解することが望まれる知識に焦点を当て、患者教育用オンラインコンテンツの開発を行う。
患者のマウスピース矯正治療での理解度が不十分とされる1患者自身の努力が必要 となる態度2患者自身が必要となる知識3患者自身が改善すべき生活習慣などの具体例を挙げた教材を ARCS モデルに基づいて作成する。
患者自身が独学で学ぶことで患者の治療への主体性を意識させ、教材を通して生じた 疑問点を個別相談で解消することで、医療者の治療説明の質と効率を向上させる。形成的評価と教材の改善を行い、実施テストを行う。