トップIDマガジンIDマガジン記事[091-02]【連載】ヒゲ講師のID活動日誌(84) :学習支援のトップ10デザイン原理:メリル・ライゲルース対談@AECT2020

[091-02]【連載】ヒゲ講師のID活動日誌(84) :学習支援のトップ10デザイン原理:メリル・ライゲルース対談@AECT2020

今年のAECTはフロリダ州で開催予定で、久しぶりに恩師たちに再会できるチャンスと楽しみにしていたが、コロナ禍でオンライン開催。自分の発表は日本時間で同じ日の朝5時と夜11時に割り当てられて、結局両方ともお茶を濁した形で終わった。あぁあ、と思っていたら、ビデオ配信が開始された。それならば、ということで物色していたところに、メリルとライゲルースの対談を発見、さっそく視聴した。二人がトップ5のデザイン原理を出し合い、合計10個にして対談する、というもの。以下はその時のメモと雑感であります。

メリルのトップ5
1.例示:これから学ぶスキルの例示を観察すること。TellとShowの両方があるが「事例を見せること」が最も大切
2.応用:新しく獲得した知識やスキルを応用する(Do)。多肢選択問題に答えることではない
3.問題中心:現実世界の全体課題に、難易度を上げながら、足場かけを減らしながら、取り組む
4.活性化:新しく学ぶことの基礎として既有知識のメンタルモデルを活性化する(何を知っているの?)
5.統合:仲間との協働や仲間からの批判で学んだことを共有・省察・弁護する。私を見て!(Watch me!)

メリルは、IDの第一原理でおなじみの巨匠。彼が5つ出すならば、当然、第一原理だよね。ライゲルースもこれに合わせて自分のトップ5を出そう、という話になったに違いない。そう思っていたら、予想は的中。しかし、「いつもとは違う順序で話す」という。順序が違うのは、優先度の高い順に並べた結果だという。もちろん、この順序でインストラクションに組み込むという意味ではない。まず着手するとすれば例示(例示がなけば、まず例を入れろ)、その次は練習(練習がなけば、次に問題を入れろ)、この2つがなければ話にならない。その次が問題中心。問題から入ると(今の教え方を大きく変える必要が生じて)混乱する場合があるので、問題中心よりも例示と練習を優先して示したという。活性化と統合は事例と応用がなければ入れる意味がない(何を活性化・統合しろというのか)、よって優先度は他に比べて低くした。なるほど。

でも、そうだとすれば、これまでのヒゲの解釈は、いささか偏っていたかもしれない。例示と練習が重要な要素であることには同意できるが、それ以前の問題として「何を」例示して、「何を」練習するのか、の「何を」にあたるもの、すなわち現実世界の課題を取り上げることが何をおいても重要だ、と解釈していた。些細なことを取り上げて、例示と練習を重ねても仕方ない、むしろそれは避けるべきだという思いが強すぎたのかもしれない。教育方法よりは教育内容(設定する学習目標)に踏み込みすぎた、余計なお世話だったかもしれない。が、「そんなことを目指して教えて意味があるんでしょうか、現実世界の課題に挑戦させましょうよ」と言って、余計なお世話を焼きたかったのだろう。

もう一つの気づきは、活性化である。教える前にやらせてみることは、学び手の立ち位置を確認してからインストラクションを開始するために不可欠である。いわゆる「人を見て法を説け」で、事前テストや診断テストに相当することを、TOTEモデルに依拠して入れる。長々とした説明を開始する前に据え、現状でできていないことは何かを確認し、残された差分だけ教えることができれば、効率化にもつながる。それが活性化の果たすべき役割であり、この段階でできていることが確認できれば残りの3つは不要で、合格・修了とすべきだ、と解釈していた(たぶん『研修設計マニュアル』あたりからその色が濃く表現されるようになり、書籍にはまだ反映されていないがp37の教授方略表も表現を改めた)。もともと活性化の原理には前提テストレベルのチェックしか入っていない(メリルはガニェに強い影響を受けたとこの日も述べていた、つまり事象3に相当)。しかし、現実世界の問題を冒頭で提示して「やってみなはれ」とけしかけたら「案外できるじゃん」となることは大いに想像できる。それもあって、前提テスト相当から事前テスト相当を含む広範囲の活性化になるべきではないか、と勝手に色を付けて拡張していた。確かにそうだ、と気づいた。

例示については、「Tell meでなくShow me」と表現してきたが、メリルは両方必要だという。例示する際には、枠組みを示しながら「どこの例を示しているのか」を説明(Tell)する方が効果的であることを考えると、確かに両方必要だ。「Tell meだけでなくShow meも」あるいは「Tell meにShow meを伴うことが大切」と言うべきだったかもしれないですね。能書きだけしゃべっているのでは例示になりませんよ、ということを強調したいがためのバイアス入りの表現だったと思うが、Tell meが不要だ、との誤解は避ける必要があったと今更ながら思う。いろんな気づきがあり、これまでに私の好きな方向へ(知ってか知らずか)誘導していたこと、紹介者としての正確さを欠いていた点について、この場を借りてお詫びします。今後も止めるつもりはありませんが・・・(なんたる確信犯!)。IDの第一原理(ヒゲの脚色付き)という表現はして来なかったが、実態はそういうことだった。

ライゲルースのトップ5
1.動機づけ:達成動機(完全習得学習)、親和動機(協調学習)、権力動機(自己主導学習、権限移譲)、関連性(世界貢献+個人的興味)、ARCS
2.課題・プロジェクト:複雑で現実の、学習者が所有する、個人に合わせた、協働的なもの
3.足場かけ:調整(精緻化理論を用いる)、コーチング(学習活動中の助言)、個人指導(学習活動から離した教授)
4.理解に向けて教える:概念モデル、因果モデル、自然プロセスモデル
5.文化:ケアする、興奮する、好奇心をそそられる、他者を助ける

ライゲルースは、ご存じグリーンブックで有名なIDの巨匠。ハーバード大学を卒業してからメリルの薫陶を受けた高弟の代表。とても仲の良い二人である(だからこその対談)。ライゲルースは、メリルの第一原理と別物ではなく再構成したものだと断った上で、上の5つを示した。今、何に着目すべきか、その重要なものを並べたという。4は重要なのに注目されていないから入れたそうだ。なるほど。多くはグリーンブックIIIとIVで語られていたことと符合する、と思った。

ライゲルースは筆頭原理に動機づけを掲げた。動機づけがあればデザインがひどくても学べるというライゲルースの発言を、すかさずメリルは否定。それには反対だ、優秀な人にしか当てはまらない、と声を上げた。メリル曰く、動機づけはデザインの結果でありデザイナーが直接なんとかできる要素ではないからデザイン原理とは位置づけない。私は例示に選ぶ事例を選択するときにARCSモデルなどを参照して動機づけには注意を払っている。しかし、私がやっていることは動機づけの設計ではなく、事例の選択なのだ。私の5原理はデザイナーとして直接できることを列挙したもので、デザインの結果もたらされることを並べたものではない。動機づけはデザインがうまくいったかどうかを確認するための試金石であり、動機づけをデザインすることを優先すべきではない。メリルらしい、と感じた。

ライゲルースにとってはデザインとは青写真を描くこと。昔からそうだった。デザイナーが何をどの順序でするかを扱ったADDIEモデルやDick&Careyモデルは開発工程を示すモデルで青写真を示していないからという理由で、グリーンブックには取り上げなかった。そんなライゲルースにとってデザイン原理とは、デザイナーが何をするか、ではなく、デザインされたもの(青写真)にどんな特徴が入っているか(つまりデザインの結果を示すもの)であることはとても自然に思えた。一方のメリルは新しいインストラクションを考えるとき、あるいは既存のインストラクションを修正しようとするとき、デザイナーはまずどの要素に着目して何を入れるべきかに注目している。これも開発工程ではなく、結局は「入れるべきもの」(青写真)の要素を並べていることであり、ライゲルースとの相違はそんなにない(本人は違う、と言っていたが)。しかし、第一原理の全部を投入することが困難なケースも想定し、まず何を入れようとすべきかという優先順位を大事にしている。それで5原理の提示順を今回は変えたんだな、と思った。

フロアから(チャット欄)の質問で、「脳科学の知見をどのように取り入れるか」と聞かれたとき、メリルは「最新動向に精通していないので答える立場にはない」と明言し、ドリルコールの最新書に書いてある「神話」を読んではどうか、と回答していた。何でも一人でやろうとせずに、専門家同士互いの知見を参照しあう(でも何を参照すべきかはしっかり推薦できる)、さすがメリルですね。そう思ったヒゲは、しっかりこの二人の記念すべき対談を紹介する役目を全うせねば、と感じたのでした。いろいろ手を付けてますが、このあたりがヒゲの中核なので。

この対談の記録が今後、AECTでWeb公開されることになることを願っている。メリルはAECTから出版することになった自身の最新書が今朝手元に届いたと言っていた(Webサイトでは現時点で入手不可)。一方のライゲルースは3冊で終わるとの断言をやぶって4冊目のグリーンブックを出しただけでなく、娘さんと共著で2冊も実践書を書いた。さらにそれだけでなく、学習者中心の理論と開発工程を統合する「Holistic 4D」モデルを提唱した書籍もこの10月に出したようだ。どこまで続くのこの巨匠たち、と思いつつも、どこまでも続いてほしいと願うヒゲがそこにいた。

(ヒゲ講師記す)

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