トップIDマガジンIDマガジン記事[063-03]【ブックレビュー】GB3輪読シリーズ:第3章「IDの第一原理」 (M.デイビッド・メリル)

[063-03]【ブックレビュー】GB3輪読シリーズ:第3章「IDの第一原理」 (M.デイビッド・メリル)

第3章は、皆さんよくご存じの「IDの第一原理」です。本著第2部以降で、様々なインストラクションを分析する際の指標として登場しますので、前提知識として最初におさえておいてね、ということで第1部にて取り上げられています。
さて、IDの第一原理といえば、皆さんの頭に浮かぶのはこのリストでしょう。
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1. 現実に起こりそうな問題に挑戦する(Problem)
2. すでに知っている知識を動員する(Activation)
3. 例示がある(Tell me でなく Show me)
4. 応用するチャンスがある(Let me)
5. 現場で応用し,振り返るチャンスがある(Integration)
(出典:鈴木克明(2015)『研修設計マニュアル』北大路書房)
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もしくは、こんな図でしょうか?
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統 合 活性化
課題中心(or問題)
応 用 例示
—–
ところで、それぞれの原理についての詳しい説明は見たことがない、という方は、実は結構多いのでは?英文文献なら、「First principles of instruction」で検索してみると、Merrill(2002)をはじめ、幾つか見られます。しかし、和文ではこれまで見かけなかったのではないでしょうか。この章では、IDの第一原理の提案者であるメリル自身が筆を取って、各原理や活用方法について解説されているのです。興味が惹かれますね。
という前ふりからの、本文中のショッキングなメッセージをまずご紹介しましょう。
「IDの第一原理は広く知られている一方で、多くのインストラクションが(IDの第一原理を)適切に実行することに失敗していることは、最新動向に詳しくない人にさえ明らかである」!!(p61)
IDの第一原理は、2002年に初めて提唱された後、多くの実践で活用失敗に終わっているというのです。ホントにそうなの?!はい、本人がそう言われています。
そもそもIDの第一原理とはなにかというと、メリルがレビューしたID理論の大部分に含まれていた「効果的な学習」のための要因(=共通した要因)としてこの5つの原理が選択されたのです。「あれ?○○の原理って、なんかほかのモデルと被っているよね」と感じられたことがあるとしたら、こういう成り立ちなのでそれで相違ないのです。
では、多くのIDモデルに共通する要因だからこそ、すべてを正しく実践するのが困難だということなのでしょうか。メリルは、我々に方策を提示しています。下記のレベルをひとつずつ進んでいけばよい、とのことです。ほう。
レベル0:情報一辺倒型の授業(tell me & ask me)
レベル1:情報に合致した例示を加えた授業(show me)
レベル2:情報に合致した応用と修正的フィードバックを例示に加えた授業(let me)
レベル3:課題中心の教授方略を活用した授業
プラスα その1:活性化を行う授業(特に,深層サイクルを実施)
プラスα その2:個人的活用と他者への例示を共に含む統合
(ちなみに、Merrill(2002)は、「統合」で「Watch me」と表現しています。これは統合の原理をイメージしやすいかも。)
じゃ、これをやればいいだけなの?というとそれが簡単でもなさそう。ちゃんと設計しないとそれぞれの原理はうまく活用できません。例えば、例示の原理では、・・・おっと、この先は本文をご覧くださいませ。もしかしたらランチョンセミナーでの会話や資料もプラスになるかもしれません。http://cvs.ield.kumamoto-u.ac.jp/wpk/?p=3715
あと、本文中にあるもうひとつメリルのメッセージを。「課題中心」と「問題解決型」を一緒にするなよ、とあります。(Task-Centered vs Problem based)
自由度の高い問題解決の方法では非効率的だから、課題中心の原理では、真正で、現実に起こりうる問題や課題の文脈の中で行うんだよ、ということが強調されています。2002年時点では「問題(Problem)」とされていた原理の見出しが、2009年に「課題中心(Task-Centered)」と変更されているのは、この辺りが理由なのでしょうね。
最後になりますが、みなさんの実践されている授業でもIDの第一原理を活用されてみてはいかがでしょうか?よい実践が実現できたら、メリルの研究にも貢献することになり、ID研究の発展に貢献することになりますのでぜひ!

参考文献:M.D.Merrill (2002).First Principles of Instruction, ETR&D, 50 (3), 43-59
参考文献:ライゲルース・カー=シェルマン(編著)、鈴木克明・林雄介(監訳)(2016)『インストラクショナルデザインの理論とモデルー共通知識基盤の構築に向けてー』.北大路書房
(熊本大学大学院教授システム学専攻 修士2期修了 中嶌康二)

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