トップIDマガジンIDマガジン記事[103-03]【ブックレビュー】GB4輪読シリーズ:第15章「ジャストインタイム指導法のデザイン」(グレガー・M・ノバク,ブライアン・J・ビーティ)

[103-03]【ブックレビュー】GB4輪読シリーズ:第15章「ジャストインタイム指導法のデザイン」(グレガー・M・ノバク,ブライアン・J・ビーティ)

インストラクショナルデザインを学ぶ方の必読書である『学習者中心の教育を実現するインストラクショナルデザインの理論とモデル』のブックレビューが前号から始まっています。原著の装丁が緑色なので通称「グリーンブック4」とも呼ばれる本書の、今回は第15章をご紹介します。

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本章のタイトルとなっている、ジャストインタイムティーチング(JiTT)は、「クラス内での能動的学習(active learning)とWebを用いた準備作業とを融合させた帰納的教育方法」と定義されています。オンライン(通常はLMSを使用)で「授業前学習課題」「学習者の回答」「指導者による分析」が行われ、それをもとに対面授業で「授業内フィードバック」「授業内コンテンツ」が提供されます。

 

具体例を一つ、ご紹介しましょう。

 

ある大規模な基礎生物学クラスでは、遺伝学に関する最初の入門レッスンの準備として、コースの授業ページに以下のような授業前課題が用意されています。

 

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 アリソンが両親とドライブを楽しんでいるとき、突然重大な交通事故に巻き込まれてしまいました。救急室にて医師がアリソンに、あなたの母親は大丈夫だが、父親のボブは大量に出血していて輸血が必要になる、と言いました。アリソンは献血を志願し、自分の血液がAB型であることを初めて知りました。ボブはO型です。

 

 a.アリソンはボブに輸血することができますか?できる理由、もしくはできない理由を述べなさい。

 b.生物学の学習者であるアリソンは、自分は養子なのではないかと疑問に思い始めます。あなたは彼女に何と言いますか、それはなぜですか?

 (p.408)

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これが典型的なJiTTのウォームアップ質問とされています。インタラクティブで魅力的な教室内授業のために用意される、授業前の学習課題として次の4つの特徴が示されています。

 

・簡単に調べることができない答えを要求すること

・既有知識と経験を思い出すことを推奨すること

・基盤となる概念を含めて、学習者が自分の言葉で答を導き出すことを求めること

・質問に明示されていない情報を補うことを学習者に求めるために、十分なあいまいさが含まれていること

 

学習者は、この授業前課題に対して電子的に回答をします。

 

そして教員は、授業の前に学習者の回答を取得し、いくつかの代表的な回答を選びます。また、学習者の回答に応じて、授業の流れを調整します。実際の学習者の回答を使うことで、具体的な授業の流れがほぼ決まっていたとしても、学習者にとって新鮮で面白いものになるとされています。最も重要なのは「生の声」を使うということですね。

 

そして、授業内で事前課題の回答に対してフィードバックを与え、さらに新しいコンテンツの提示とディスカッションが展開されます。ディスカッションでも、学習者の声は常にその後の課題に含まれる質問につなげていきます。そしてさらに次のレッスン(次の授業前学習課題)へとつながり、ぐるぐるとループをしていきます。

 

以上が、JiTTの基本的な構成になります。

 

JiTTの理論的基盤はいくつかありますが、その一つとして、おそらく皆様にもおなじみの「ガニェの9教授事象」との比較が示されています(表15.1)。

 

表15.1 ガニェの9教授事象とJiTTフィードバックループの比較

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ガニェの9教授事象      JiTTフィードバックループ

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1.学習者の注意を喚起する  授業前学習課題

2.学習者に目標を知らせる

3.前提条件を思い出させる

4.新しい事項を提示する   授業内コンテンツ

5.学習の指針を与える

6.練習の機会を作る     授業前学習課題

7.フィードバックを与える  授業内フィードバック

8.学習の成果を評価する

9.保持と転移を高める    次の授業前学習課題

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JiTTはループになっているのがポイントで、授業内コンテンツで示された「4.新しい事項」は次の授業前学習課題につながるので、授業前学習課題は、事象1~3と事象6、そして事象9に対応しているのだと思います。また、事象7や8をオンライン上ではなくて授業内に行うことで、学習者と教員がその場で(ジャストインタイムで)、共に学習を評価し、授業を評価していく様子がうかがえます。

 

本章の冒頭を読んだとき、JiTTは反転授業と何が違うのかが気になりました。オンラインと対面授業を組み合わせるという枠組みは似ています。反転授業(完全習得型)は、授業前の予習で新しい知識を与え、対面授業でその評価をして理解度の低い(高い)学習者に合わせた練習とフィードバックを実施するタイプが多いでしょう。一方で、表15.1によると、JiTTは対面授業で新し知識を与え、その練習はオンラインで行い、また対面でフィードバックと次の新たな知識を与える・・・というループになっています。よって、JiTTと反転授業は、教授事象と学習環境(オンライン・対面)の組み合わせ方が違うのだと思われます。9教授事象の何を対面で行うのか(行わないのか)を考えていくと、さらに発展形が考えられそうです。

 

本章には、JiTTを実施する際のヒントがさらに細かく掲載されていますので、興味がある方はぜひご一読ください。反転授業を実施している方にも大いに参考になりそうです。

 

(熊本大学大学院教授システム学専攻 博士2期修了 高橋暁子)

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