トップIDマガジンIDマガジン記事[104-03]【ブックレビュー】GB4輪読シリーズ:第10章「教育的コーチングのデザイン」(デビッド・S・ナイト,マイケル・ホック,ジム・ナイト)

[104-03]【ブックレビュー】GB4輪読シリーズ:第10章「教育的コーチングのデザイン」(デビッド・S・ナイト,マイケル・ホック,ジム・ナイト)

インストラクショナルデザインを学ぶ方の必読書である『学習者中心の教育を実現するインストラクショナルデザインの理論とモデル』のブックレビュー「GB4輪読シリーズ」、今回は第10章を取り上げます。
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「コーチング」は、スポーツやビジネスの世界では盛んに使われていますが、教育の文脈でもその必要性を耳にする機会が増えてきました。本章の著者らは、教育者(教師)を対象とした研究や実践を行う専門家であり、コーチングの対象は「教師」です。以前、私は高等教育機関でFDの一環で教員コーチのような仕事をした経験があり、あの時にもしこの本に出合っていたら、もう少し違う形でのFD支援ができたかもしれないと思いながら、読み進めました。

本章では、コーチングを『教師の指導と学習者の学習を改善することを目的としたコーチによる教師に対する1対1のトレーニングのこと(p268)』と定義しています。教育現場でコーチングが期待される背景には、従来型の教員研修に特有な関係、つまり専門家(効果的な実践方法を教える者)と初心者(教師)の関係の不平等性が、教師の抵抗や疑い、失敗の恐れをもたらし、実践に至る可能性を妨げるという、研修の非効率性が存在します。それらを認識した専門家は、教師のプロ意識を尊重し、自分のアイデアを共有せず、教師自身の中に自らの挑戦への答えを持っていることを信じる方法を採りますが、残念ながら、効果的な実践を教師が学ぶことを助ける設計は含まれません。

そこで登場するのが、「教育的コーチング」です。教育的コーチングは、教師をたたえるだけでなく、教師がベストプラクティスを確実に学習できるようにも設計されている(p270)のが特徴で、1対1コーチングの「ゴール設定、問いかけ、データ収集」と、他章でも紹介されている「説明、モデリング、フィードバック」が統合されます。コーチと教師の関係は、対等な真のパートナーシップ(パートナーシップアプローチ:p270-271)である必要があります。

教育的コーチングのデザインの6つの構成要素(p271-277)を、見てみましょう。
1.観察とゴール
現在の現実を明確に把握するため、コーチはデータ(学習者の達成度、学習者の意見やビデオデータなど)を収集する。収集データをコーチと教師が確認し、一緒にゴールを設定する。効果的なゴールは、(1)具体的、(2)測定可能、(3)ゴールを設定した人々に納得感があるものである。

2.投資効果が高い実践
コーチは、ゴールを達成するために教師が実施する可能性のある根拠に基づいた実践を提案する。これらの実践は(1)学習内容の計画、(2)形成的評価の実践、(3)指導の実践、(4)共同体構築の4つの領域を中心に構成される。

3.明示的な説明
コーチは、新しい教育実践を詳細に説明するだけではなく、個々の学習者や教師の強みやニーズを満たすため、何らかの方法でそれらの実践を適応させる必要があるかを教師に尋ねる。

4.モデリング
実践を実行する準備をするため、教師はコーチが教室で行う実演を実際に見る。コーチは、授業のすべては教えず、特定の実践がどのように実施できるかを示すだけである。教師はコーチを観察し、チェックリストや観察プロトコルを用いてノートを取る。

5.意図的な練習とゴールに向けた進捗
教師は新しい実践を練習し、コーチは実践の影響に関するデータを収集して共有する。

6.省察
コーチングプロセスを通じ、教師は新しい教育実践法を学び、コーチは教師との連携に関連した新しいスキルや洞察を学ぶ。プロセス全体を通して省察することは、新しいゴールを設定するために重要なステップである。

冒頭の教員コーチをしていた当時をふり返ってみると、6つの構成要素のうち、教師が効果的な実践を学ぶ支援に関わる4・5はあまりできていなかったなと深く反省しました。本章はコーチに限らず、学校全体の教育改善に関わる方々が遭遇する多くの問題を解決するためのヒントが詰まっているように思います。教育改善の関係者が集まり、この本を手にしながら、自分たちの学校でやるとしたらどんなことができそうかを、わいわい話し合ってみるのも面白そうだなと思いました。

(熊本大学大学院教授システム学専攻同窓生 石田百合子)

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