トップIDマガジンIDマガジン記事[063-02]【連載】ヒゲ講師のID活動日誌(59) ~ゲーミフィケーション設計3つの誤り~

[063-02]【連載】ヒゲ講師のID活動日誌(59) ~ゲーミフィケーション設計3つの誤り~

ゲーミフィケーション(Gamification)という言葉はいつ頃から使われ始めましたかね?つい最近まではシリアスゲームという言葉が新しかったけど、最近はゲーミフィケーションの方がより頻繁に目にする言葉になったようです。ゲーム化する(Gemify)の名詞形だから、ゲームの要素を入れて(退屈な教育を?)楽しく没入できるものにしましょう、ということなのかと思ったら、最広義には、「社会的な活動にとってゲームが役に立つこと」「ゲームの社会化」だという。「社会のゲーム化」じゃなくてその逆?
みんな熱心にプレイしているゲームだから、その設計技法を取り入れれば、ゲームと同じように夢中になれるものになるという「夢物語」でなければよいのですが・・・。
その昔はエデュテイメントとかいう文脈を無視したドリル内蔵型のRPGなんかもあったし、シリアスな目的のためにゲーム技法を使うことが注目を集めた文字通りシリアスゲームや、マニュアルを読まないでもプレイの仕方が分かるゲームニクスというジャンルもあった。何と呼ばれても、教育がより効果的・効率的・魅力的にデザインできるヒントになるんだったら何でも使いましょう。そう考えるのがIDのベースとなる折衷主義。ただし、下手するとマイナス効果をもたらすので注意が必要ということですね。
最近パラパラめくっていた「Training」誌に「ゲーミフィケーション設計を最初にするすべての人が陥るミス3つ」という記事(Cornetti, 2016)があった。それを紹介してみようと思う。

第1のミスは、ゲームが誰のためのものかを確認し忘れること。自分と相手の動機は異なることを忘れるな、という教訓。まぁそりゃそうですね。自分がプレイするゲームを作っているのならば別ですが、ユーザが誰かを忘れちゃ困る。アーティストは自分が作りたいものを作る。デザイナーはクライアントが望むものを実現する。しかも、クライアントが最初はどんなものが欲しいかを明らかにできないものを実現し、「そう、こういうものが欲しかったんだ」と言わせるのがデザイナーの使命だという(これはこの記事に書いてあったことではありません。詳細は、鈴木・根本,2016を参照ください)。まぁ、基本ですね。

第2のミスは、ゲーミフィケーションでダメな製品やサービスを立て直そうとすること。製品やサービスをまず修理してからゲーム的要素を入れるべきであり、作り損ねたケーキをアイシング《菓子にかける砂糖・卵白・牛乳で作る糖衣》でごまかそうとしてもケーキを変えなければおいしくはならないと忠告。ARCSモデルの提唱者ケラーがよく言うことに、動機づけの作戦は必要な時に必要なものだけを選択的に使うのがよい、というガイドラインがある。動機づけの作戦が要らないもの(すなわち、作り損ねてないケーキ)があれば、それだけで十分。どうやってゲーム的要素を入れるかを考える前に、素材そのものの魅力を最大限に発揮させることを考える。教育は耐え忍ぶものだ、という経験しかしてこなかった人が教育をデザインすると、アイシングだらけのケーキが出来上がる。そういう例が多いですよね。外発的動機付けに頼る前に、まず内発的動機付けを考えましょう。

第3のミスは、PBLsがゲーミフィケーションだと信じること。ここでPBLとはPointsとBadgesとLeaderboards《獲得スコア、クリアタイム、プレイ回数等を競い合う為のスコアランキング機能》のこと。Problem-based Learningのことじゃないらしい。ゲーミフィケーションの市販プラットフォームの多くは、単純すぎて没入できないメカニズムに始まり、それで終わってしまう。PBLsはゲーミフィケーションの一部ではあるが、PBLsだけに終始すると8割に上る失敗組の仲間入りをすることになると忠告している。例えば、報酬のつもりで導入したメカニズムが、上司から常に監視されているというネガティブな受け止め方につながる例もあると指摘。確かにデジタルバッジが本来果たすべき参照機能(学習成果が芋づる式にバッジの裏に紐づけられていて確認可能なこと=ポートフォリオ的活用)を果たさずに、バッジそのものを収集する目的にしか使われていない事例も多い。あるだけじゃぁダメだということですよね(この点は、Amano, et al., 2016を参照ください)。
この記事の結論は、「きちんと設計されたゲーミフィケーションは、学習者に達成感をもたらし、スキルが向上し、習得と目的を与える」ということ。時を忘れるほどに没入しても、その結果として何も学んだことがないとすれば、それは単なる暇つぶし。ゲーミフィケーションであれ何であれ、教育実践の効果・効率・魅力を高めるために活用しましょう!
(ヒゲ講師記す)

(参考文献)
Cornetti, M. (2016). The 3 mistakes every first-timer makes with gamification design. Training, July/August, p.60.
鈴木克明・根本淳子(2016.8)教育工学をデザイン研究の系譜で再定義するための萌芽的研究の着想と目標.教育システム情報学会第41回全国大会(帝京大学)発表論文集,343-344
http://idportal.gsis.kumamoto-u.ac.jp/wp-content/uploads/sites/3/2016/09/suzuki2016.pdf
Amano, K., Suzuki, K., Tsuzuku, S., & Hiraoka, N. (2016, August)Designing a Digital Badge as a Reflection Tool for an Instructional Design Workshop. A paper presented at ICoME 2016 (International Conference on Media in Education), Kyoto University of Foreign Studies, Japan. (Proceedings, 536-541)
http://idportal.gsis.kumamoto-u.ac.jp/wp-content/uploads/sites/3/2016/09/amano.pdf

カテゴリー

IDマガジン購読

定期購読ご希望の方はメールアドレスを登録してください。

定期購読の解除をご希望の方は以下からお願いします。

IDマガジンに関するお問い合わせは、id_magazineあっとmls.gsis.kumamoto-u.ac.jpにお願いします。(あっとは@に置換)

リンクリスト

おすすめ情報

教授システム学専攻の公開科目でIDの基礎を学習できます。おすすめ科目は以下です。

謝辞

本サイトは、JSPS科研費「教育設計基礎力養成環境の構築とデザイン原則の導出に関する統合的研究(23300305)」の助成を受け、研究開発を行いました。

このページの
先頭へ