今回は、ユニット2で紹介されている5つの主要な教授法(direct-instruction, discussion, experiential, problem-based, and simulation)のうち、直接的教授法(direct-instruction)について紹介します。
GB1や2でも多くのID理論が紹介されてきましたが、GB3ではID理論を大きく二つに分けて紹介しています。ひとつは教授法単位、つまりどのような教え方をとるかという視点から理論を紹介しており、これがユニット2に相当します。もうひとつは何を教えたいのかという学習成果の種類ごとに理論を紹介しているユニット3です。今回はユニット2の最初のID理論「直接的教授法」について紹介します。
下記では項目ごとに理論の説明をしていますが、最後にどのように実施すればよいかの重要なヒントとなる「一般共通の方法」と「状況的原理」の二項目があります。「一般共通の手法」は実施する環境がどのような場合にも共通に利用できる方法、ステップ、ヒントなどをまとめています。一方、「状況的原理」はある特定の実施環境において考慮・追加されるべき手法についてまとめてあります。これはGB3で新しくライゲルース氏がID理論紹介するために用いた方法です。理論と言っても同じ実践は教育の中ではあり得ませんので、それを意識して整理したものです。
<概要>
直接的教授法(DI)とは、よく検討された教材を用いて行う授業法です。教室で学習のために与えられた時間は限界がある一方、学生の前提知識やスキルには幅があります。これらの制約の中で学習者の能力を最大限に高めようとするものがDIです。DIは50-60年代に作られそれを70年代に見直されたもの。引用されている参考文献にはCarrollのものもありました。
<対象者>小・中・高校生向け
<学習内容>情報、スキル、理解力、高次思考
<学習方法:一般共通の手法>
提示、練習、評価、そして観察とフィードバックの4フェーズで構成されて、これらを繰り返し行うものです。提示、練習、評価の学習活動をモニタリングし、フィードバックを返していくという決して新しいやり方ではありませんが、教師がしっかりと学習全体を管理し、このDIを用いることで学習した内容を学習者に定着させる仕組みを提供しています。学習者主体というと学び手に経験させるところから始まる方法が多いですが、このDIは教師がしっかりと必要な情報を学習者へ提示し教えることから始めるのが特徴です。
―直接的教授法(DI)の基本モデル―
1.提示:1)既存知識の確認、2)学習スキルや知識の提示、3)関連性の説明、4)学習スキルや知識のはっきりとした説明、5)例示
2.練習:1)教員監視下での練習、2)個人での確認、3)詳細確認
3.評価:1)毎日の進捗確認、2)週・月など長期的なデータ
4.モニタリング&フィードバック:1)ヒントの提示、2)矯正するためのフィードバック
<学習方法:状況的原理>
今回はDIを用いた事例としてスクリプトを用いた学習方法について紹介されています。短いスクリプトを用意し学習者に提示し、その中にある用意された質問を教師は学習者に問い、その質問に学習者はその場で回答することが求められます。この短いやり取りが何度か繰り返し行われるのがスクリプトを用いた学習です。これは、上記で紹介した一般共通の手法の4つの手法に基づいて実施されますが、その中でも質問とその対応のやり取りに特化している部分が本学習法の特徴です。英語学習で短い場面の説明などが出てきてそれに対して考え、質問に回答をする学習方法を経験したことがありますか。それがここで紹介されている方法に近いと思います。教師から提示されるスクリプトにはこれまで習ったことの復習が多く含まれており、新しい情報は10-15%ぐらいにします。1話完結型ではなく複数のスクリプトを繰り返し学習することが基本ですので、同じ内容を何度か繰り返し学習しながら理解を深めていくのが重要です。この部分は一般共通の手法で求められるものと同じです。しかし、1回の学習は短く、長期間実施することが成功のスクリプト学習独自のポイントです。
(熊本大学大学院 根本淳子)