IDマガジン発行どころじゃなく年度末が終わってしまいました。ゼミ合宿を経て修論・卒論完成から卒業式とあっという間に4月を迎えました。今頃は新入生オリエンテーションだろうなぁ、と岩手に思いを馳せながら、ヒゲ講師は今、JICA沖縄国際センターで12人の外国人研修員を相手に、彼らが製作中のマルチメディア作品をより良くするための道具としてIDを紹介する業務に従事しています。せめて、1年生が最初に研究室にやってくる日には挨拶を、と遠隔ゼミのために設置したシステムで沖縄と岩手をつなぎました。
参考:井ノ上憲司・高橋充・鈴木克明(2004.9)「多地点間の遠隔地双方向ゼミナールを支援するシステムの構築」『日本教育工学会第20回講演論文集』15-3a-933-3
IDマガジンご愛読の皆様も、新しい年度を迎えて、気分も新たに(新しい職場で、あるいは新しい業務に、はたまたいつもどおりのルーチンに新しい気分で)お過ごしのことと存じます。遅れていますeラーニング関連3講座の第2弾・第3弾に邁進します。邁進する環境をまずは整えないとなりませんが(他にやることが多いのが悩み)。
今回は、メリルのID第一原理に基づく教授方略例をご紹介します。去年のeラーニングコンソシアム通常総会で少しお話ししましたが、メリルはID研究者の長老で、TICCITを支えたCDT(画面構成理論:REIGELUTH,1983,鈴木 1989)や学習オブジェクトの考え方を採用した教授トランザクション理論(REIGELUTH,1999,鈴木 2005)を提唱している研究者。構成主義理論を背景に提案されている近年のIDモデルに共通して見られる特徴を「ID第一原理(First Principles)」として次の5つにまとめています(通称:5つ星IDの要件)。
●メリルのID第一原理に基づく教授方略例
1)問題(Problem):現実に起こりそうな問題に挑戦する
□現実世界で起こりそうな問題解決に学習者を引き込め
□研修コース・モジュールを修了するとどのような問題が解決できるようになるの、どのような業務できるようになるのかを示せ
□単に操作手順や方法論のレベルよりも深いレベルに学習者を誘え
□解決すべき問題を徐々に難しくして何度もチャレンジさせ、問題同士で何が違うのかを明らかに示せ
2)活性化(Activation):すでに知っている知識を動員する
□学習者の過去の関連する経験を思い起こさせよ
□新しく学ぶ知識の基礎になりそうな過去の経験から得た知識を思い出させ、関連づけ、記述させ、用させるように仕向けよ
□新しく学ぶ知識の基礎になるような関連する経験を学習者に与えよ
□学習者がすでに知っている知識やスキルを使う機会を与えよ
3)例示(Demonstration):例示がある(Tell meでなくShow me)
□新しく学ぶことを単に情報として「伝える」のではなく「例示」せよ
□学習目的に合致した例示方法を採用せよ:(a)概念学習には例になるものと例ではないものを対比させて,(b)手順の学習には「やってみせる」ことを,(c)プロセスの学習には可視化を,そして (e)行動の学習にはモデルを示せ
□次のいくつかを含む適切なガイダンス(指針)を学習者に与えよ: (a)関係する情報に学習者を導く,(b)例示には複数の事例・提示方法を用いる, あるいは(c)複数の例示を比較して相違点を明らかにする
□メディアに教授上の意味を持たせて適切に活用せよ
4)応用(Application):応用するチャンスがある(Let me)
□新しく学んだ知識やスキルを使うような問題解決を学習者にさせよ
□応用(練習)と事後テストをあらかじめ記述された(あるいは暗示された)学習目標と合致させよ(a)「~についての情報」の練習には、情報の再生(記述式)か再認(選択式),(b)「~の部分」の練習には、その部分を指し示す・名前を言わせる・説明させること,(c)「~の一種」の練習には、その種類の新しい事例を選ばせること,(d)「~のやり方」の練習には、手順を実演させること、そして(e) 「何が起きたか」の練習には、与えられた条件で何が起きるかを予測させるか、予測できなかった結末の原因は何だったかを発見させること
□学習者の問題解決を導くために、誤りを発見して修正したり、徐々に援助の手を少なくしていくことを含めて、適切なフィードバックとコーチングを実施せよ
□学習者に異なる問題を連続的に解くことを要求せよ
5)統合(Integration):現場で活用し、振り返るチャンスがある
□学習者が新しい知識やスキルを日常生活の中に統合(転移)することを奨励せよ
□学習者が新しい知識やスキルをみんなの前でデモンストレーションする機会を与えよ
□学習者が新しい知識やスキルについて振り返り、話し合い、肩を持つように仕向けよ
□学習者が新しい知識やスキルの使い方について自分なりのアイディアを考え、探索し、創出するように仕向けよ
最近ユタ州立大学を退官されてハワイに移ったメリル教授に、6月はじめにインタビュー訪問が実現します。放送大学大学院で来年度から開講予定の「人間情報科学とeラーニング」で取材のチャンスをいただき、とても楽しみにしています。というわけで、一足お先に、ご紹介です。詳細情報は、http://cito.byuh.edu/merrill/をどうぞ。鮮明なメッセージで始まるイントロやメリル教授自身が5つ星IDについて語るビデオも用意されています。
(ヒゲ講師 記す)