トップIDマガジンIDマガジン記事[008-05]第4弾 TfU(Teaching for Understanding)フレームワークの紹介です。

[008-05]第4弾 TfU(Teaching for Understanding)フレームワークの紹介です。

岩手県立大学鈴木研究室では、ID理論に関する通称GreenBook(みどり本)と呼ばれる”Instructional-design theories and models.”のVolume2を輪読しています。今回はその中で第5章のDavid N. Perkins とChris UngerによるTfU(Teaching for Understanding)フレームワークについて紹介します。

◆概要
「TfU(Teaching for Understanding)フレームワーク」は、教師や大学教授、カリキュラム開発者などが活用対象者であり、学習者が『理解のための学習活動(Understanding performances)』を行うように授業を設計・開発することが目的です。これは、ハーバード大学大学院教育学研究科のzeroプロジェクトにおいて何年間にも渡り、学校の教師と共に実践を重ねて作られました。筆者らは「理解」の重要性を説いており、「理解」は教育の成果としてすべての学習者に求められる基本であると位置づけています。この理解を導くための授業を設計・開発するために作られたのがTfUです。理解が優先される学習にはどこにでも適しており、授業実施前、実施中、実施後にTfUフレームワークを当てはめてみて、必要なものは何かを確かめたり、自分の教授法が正しいものだったかを認識したりする、という使用法が考えられます。
TfUフレームワークは4つのカテゴリー『発展性のある題材』『理解のための目標』『理解のための学習活動』『学習中の評価』から構成されており、設計や教授方略を考えるための実践的なツールになるものとして紹介されています。各カテゴリーについては、「体の関節(joints of the body)」という例を取りあげて詳しく記述されています。

◆4つのカテゴリーとは
I.発展性のある題材(Generative topics)
『発展性のある題材』を考えることは、教師やカリキュラム開発者が、豊富で啓発するような題材が選択できることを支援します。『発展性のある題材』の選択基準には以下の4つがあります。
[1]専門領域の中心となるもの:例えば、「体の関節」という題材を考えた場合、自動車を学習する時は台車の部品と捉えることができます。また、スポーツや医学的な内容を学習する時は、人体の関節と捉えることができます。このように「体の関節」という題材は様々な分野における中心的なものと捉えることができます。[2]学習者にとって利用しやすくおもしろいもの:学習者にとって利用しやすく、おもしろい題材であれば、学生は熱中しつつ、効果的に題材に取り組むことができます。[3]教師にとっておもしろいもの:題材に対して情熱を持っている教師は、より熱意を持って、想像的に取り組むでしょう。そして、その題材の準備を念入りにして、学生を真剣に取り組ませ、深い学習を行わせることができます。[4]種々の専門領域や文脈へつながりやすいもの:良い発展性のある題材とは専門領域を越えて、様々なテーマに関連させることができ、「底なし」の特徴を持っています。

II.理解のための目標(Understanding goals)
『発展性のある題材』を考ると、多くの題材が出てくるため、焦点を絞るために『理解のための目標』が必要となります。『理解のための目標』の基準には、以下の3つがあります。
[1]明白で誰にでもわかる目標:分かりやすい目的は、公共性という特徴を持っています。黒板に書いたり、プリントとして配ったりすると目標と一緒に学習全体像も把握することができます。[2]入れ子にされた目標:TfUフレームワークを使った教授活動が、半年間や1年間という期間に渡る場合、目標が複数設定され入れ子になります。 [3]専門領域の中心となる目標:専門領域の中心となる目標を保持するには、「専門領域内の内容知識」「専門領域内の方法」「専門領域の目的」「専門領域内の表現」の4つの視点でチェックすることが大切です。

III.理解のための学習活動(Understanding performances)
『理解のための学習活動』には特徴が二つあります。計画された学習活動には学習者の(1)現段階の理解を表示することと、(2)理解を進めることです。『理解のための学習活動』を選択するために5つの基準が設けられています。
[1]理解のための目的に直接つながるもの:『理解のための学習活動』は、授業の単位ごとに決められた『理解のための目的』につながる必要があります。[2]練習を通しての理解の発展と応用:具体的な活動としては、学生が草案を書いたり、批判したり、さらに訂正したりすることなどです。[3]多様な学習スタイルや形の表現の確保:グループ学習、個別学習どちらにおいても、理解のための学習活動は異なる学習スタイルや表現を認めるべきです。[4]挑戦的で、取り組みやすい作業における熟考した取り組みの促進:『理解のための学習活動』はただ行動するだけではなく、しっかり考えることを要求すべきです。そして、ただ親しみやすい学習活動だけではなく、試行錯誤させるような学習活動も必要です。[5]誰にでもわかる理解の明示:学習者は自分自身がしていることを把握するためにも、学習活動は可視的である必要があります。そして、他の人(同僚の学生、教師、親)はフィードバックを提供できるような位置にいる必要があります。

IIII.学習中の評価(Ongoing Assessment)
学習者は有益なフィードバックを受けることで学習活動を洗練することができます。学習中の評価は教師や開発者に学習過程において常に素早く有益なフィードバックをする計画を立てることを求めています。『学習中の評価』設定の基準として以下の4つが挙げられています。
[1]明白で誰にでもわかる適切な基準:学習活動のために、明白な基準を持つことは学習者を非常に助けます。例えば、ルーブリック(rubric)を作成すると明白な基準を示すことができます。[2]高頻度の評価:学習中にはさまざまな形で評価が常に行われていることが大切です。[3]フィードバックの多様な情報源:グループの仲間同士の議論の中にあったり、家で親と話している中でなどフィードバックは教師だけではなく、他の学生や親などからもなされます。また、教師は評定をつけるといった公式のフィードバックも行う必要もあります。[4]進展の測定をしたり計画を満たしたりする評価:進行状況を評価することや、計画を活気付けることが『学習中の評価』には必要です。教師は、個々の学生がどのようにうまく学習活動を行っているかを見ることで、彼らの特有のニーズに対応することができます。クラス全体がどのように動いているかをよく見ることによって、緊急な問題に対処したり、新たに察知したチャンスを汲み取ったりすることができます。

以上、大まかに紹介しましたが、さらに詳しい内容は、鈴木研究室「輪読の輪」のページ(http://www.et.soft.iwate-pu.ac.jp/~core/)の「輪読の輪 第2弾 インストラクショナルデザイン 理論とモデル 2」の第5章の項目に例・図表などと合わせてまとめたものが載っていますのでご覧下さい。

参考文献:
David N. Perkins & Chris Unger(1999) .”Teaching and Learning for Understanding”. In C. M. Reigeluth (Ed.). [Instructional-Design Theories and Models Vol.||(pp425-453.;Chapter 5)]: A New Paradigm of Instructional Theory.illsdale,NJ:Lawrence Erlbaum Associates.

(岩手県立大学大学院:岡本 恭介)

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