トップIDマガジンIDマガジン記事[036-02] ヒゲ講師のID活動日誌(32) ~季節外れのフロリダ:デイトナ州立大学訪問~

[036-02] ヒゲ講師のID活動日誌(32) ~季節外れのフロリダ:デイトナ州立大学訪問~

ヒゲ講師は、2011年1月4日米国フロリダ州にあるデイトナ州立大学(Daytona State College)にいた。アカデミック支援センターを視察するためである。改築したばかりの3階建のビル入口脇のコーヒーショップを通ると、そこには220台のパソコンが設置されたセンターがあった。学期が始まる前ということもあり、センター長のキャンベル博士以下、十数名のスタッフの出迎えを受け、1日かけて見学させてもらった。ただ広々として自由に机の配置が可能なセンターの入口には学生が来室時に利用登録するキオスクが6台、数台のパソコンが島型に配置されている学習スペースやパソコンが置いていない丸いテーブル、20人ほどが一斉に学習できるコーナーなどが見渡せた。奥には10人ぐらい入れる小部屋が5つあった。

学期が始まると、センターは学生で溢れ、座る席もないような状態が続くという。何か分からないことがある場合、手を挙げるとすぐに助けに来てくれる学習アシスタントやチューターが常駐し、学生を支援する。勉強をするには居心地の良い空間だ。この部屋は主に数学系の支援をする場所で、同じビルの2階と3階には数学の授業が行われる教室がある。そのため、とくに授業後には列をなして入室してくるという。この部屋の他にも語学系の支援を行う部屋が、図書館の1階に100台ほどのパソコンを備えたセンター別室として配置されている。ここ数年の間に規模も大きく拡充し、施設も増えた、という。

大学のユニバーサル化が進むアメリカでは、学生支援センター、学生センター、アカデミックセンターなどの呼称で、授業外に学習を手助けする活動が各大学で組織化されている。我が国の大学における教育方法の改善の切り口として、授業改善を主たるターゲットとするファカルティデベロップメント(FD)の他に何があるだろうか。科研費の研究班でこのことを議論して行きついたのが学生支援センター活動の組織化であった。今回の視察は、昨年の10月に引き続いて2度目になる。前回のは、大学学習センター学会(NCLCA)の全国大会を視察した。そこで2007年度に優秀センターとして同学会から表彰された大学がその後どう発展したかをぜひ見てみよう、ということで今回、フロリダ州の2つの大学を訪れることにした。

この大学は、長く短大として存在してきたが、近年、少しずつ4年制の課程を増やしている学生数1万7千人(うちフルタイム55%)規模の州立大学である。
いわゆる18歳人口の他にも、30-50代の学び直しのニーズにも答えるために、多様なカリキュラムを提供してきた。いきよい学生の準備状況に格差があり、学習を支援する機能の充実が図られてきたという。各種の資金的支援を受けながらも、大学独自の予算も充てて、センター活動を発展進化させてきた。この大学ほど大学全体の教育機能の中核を担う役割が期待され、またそれに答えているとの印象を持ったのは初めてだった。スタッフの一人は、「このセンターがなくなったら中退率も上がるでしょうし、学生は学業に成功せずに大学を去っていくことになる。投資効果に見合う以上の成果を上げてきた」と誇らしげに語ってくれた。

なるほど、成功を支えてきたいろいろな仕掛けがあることが分かった。数学は入学時にプレースメントテストを受けて実力を判定され、大学レベルに未達成と判定された者は卒業単位にならない基礎科目の受講が義務づけられる。その科目の成績のうち20%はセンターでの演習で評価されるため、毎学期1000人もの学生が基礎科目の単位をとるためにセンターを利用するという。基礎科目が終わったら大学レベルの数学に進むことができるようになるが、そこでも成績の10%がセンターでの演習で評価される。これならば、学生は来ますわな・・・。

学生を助けることを生甲斐にしているとてもフレンドリーな専任職員を学習アシスタントとして常駐させている(数学系6名でシフト制勤務)。彼らの監督下で、近隣の大学院生や退職高校教諭などのプロのチューターやすでに当該科目の単位を修得して科目担当教員から推薦を受けた上級生(ピアチューター)もいる。答えを教えないように、でも学び方をしっかり示してあげるように仕込まれた支援者がいる。成績にカウントされるという強制力から利用し始めた学生も、これは便利だと思って利用し続けるような仕組みになっていますね。

さらに、授業担当教員もセンターに顔を出して質問に答えることも多いという。教員のノルマとなっている週10時間のオフィスアワーの一部に充当できるという制度に支えられて(学科によってはそのうち週5時間はセンターでチュータリングすることを義務づけている)、教員にとってもセンターの存在が認知されている。ある学科長は、「学生と二人称の関係が構築できるので、授業もやりやすくなるんだ」と話してくれた。講義しているだけでは見えてこない学生の苦労に接する機会として貴重なんだろうな。きっと講義にもいい影響を与えるはずだ、と思った。

昼食には学長も顔を出してくれ、家庭的な雰囲気で歓待を受けた心地よい思い出とたくさんの収穫とともに、一行は季節外れのデイトナ海岸を後にした。もう一つの大学訪問については、次回のIDマガジンにてお知らせしたい。

(参考)デイトナ州立大学アカデミック支援センター
http://www.daytonastate.edu/asc/

(ヒゲ講師記す)

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