本書はeラーニングに特化して言及しているというより、対面授業もeラーニングも実際は人対人なのだと言うことや、eラーニングにおいて、メンタを配置する際の組織的なマネジメントまでを紹介しており、教育業界全般においても応用が利く「メンタリングの入門書」という印象である。入門書とは言っても、専門用語が多く、教育分野においての初学者には難しいかもしれない。IDを学ぶ我々にとっては、専門用語の再確認と共に、メンタリングの知識を得る機会となるだろう。
本書の「はじめに」で作者は『eラーニングをソフトウェア開発や、インフラ整備の観点から、つまり「e」の部分に注目してとらえている技術者や、「eラーニングの方が対面授業より人としての交流が少ない」と信じている先生方に読んで欲しいと考えています。』と述べている。このことからも分かるように、eラーニングとは機械的な学習方法だと考えている人の意識を覆す1冊となるだろう。
今まで何年か学校教育で児童生徒と携わり、最近eラーニングについて学び出し
た私は、eラーニングの業務の中でも特にメンタやチューターという役割に、何かしらの魅力を感じていた。対面授業においても、教員の個人レベルでのばらつきがあるにせよ、メンタリング活動を行っていると言えるが、あくまでも教員個人に任せられ、学校内での組織的継続的なメンタリング活動がされているとは言い難い。
本書を読み、eラーニングおいて、インストラクショナルデザイナーやeメンタの個々の存在だけが大事なのではなく、その役割を考えることを通して、組織・チームの在り方を再考することが重要なのだと感じた。大事なのは「個人レベルで持つ暗黙知を、組織で共有して、解決・改善を図る(ナレッジマネジメント)」ということ。
eラーニングは学習者にとって「いつでも・どこでも」学べる便利な学習環境ではあるが、それを支援する側も常に対応できる体制を整えている必要がある。
本書27pではSalmonとSimpsonのメンタリング活動の分類を紹介している。その分類での活動内容は以下の通りである。
・何を教えるコースなのかを明示
・学習内容や教員の指示について説明
・学習成果をフィードバック
・進捗をモニタリング
・学習方法の改善を支援
・付加的情報を供与
・正確でタイムリーな情報提供
・適切な選択肢の提示
・学習者の決断を支援
これらを見る限りは、教員が個人レベルで行っている業務と何ら変わりがないように思うが、本書で述べているeラーニングにおけるメンタリングは、これらを体系的に見直し、ガイドラインを作成し、組織的に学習者を支援していくという体制の違いを示していると感じた。作者の意に反するかもしれないが、私は本書を読み、eラーニングを成功させるために取り組むガイドラインの作成や組織作りこそ、伝統的授業を行っている学校教育において必要なのではないかと考えさせられた。
鈴木克明教授の帯上の推薦文は以下の通り。
eラーニングのペースメーカー
「インストラクショナルデザインかeメンタリングか……」二者択一ではなかった!eラーニングにとって、どちらも大事だとわかる本です
最後に、鈴木教授の帯の言葉を受けて…、先生なら「IDが完璧ならメンタリングは不要」と言い出すかと思っていたが、どちらも大事だということ、IDだけでは完璧じゃないのかも知れない、IDを補うにはどんな学習環境を提供すればよいのか…と妄想することとなった。その答えがeメンタリングなのだろうか。
(熊本大学大学院教授システム学専攻 博士前期課程修了 福山美穂)