トップIDマガジンIDマガジン記事[143-03]【ブックレビュー】『不登校でも学べる:学校に行きたくないと言えたとき』おおたとしまさ(2022)集英社

[143-03]【ブックレビュー】『不登校でも学べる:学校に行きたくないと言えたとき』おおたとしまさ(2022)集英社

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【ブックレビュー】『不登校でも学べる:学校に行きたくないと言えたとき』おおたとしまさ(2022)集英社
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皆さんもニュース等でご存知かもしれませんが、令和5年(2023)度の文部科学省の調査によれば、小・中学校に年30日以上登校しない不登校の児童・生徒(以下「不登校生徒」という。)の数は、過去最多の346,482人となり、前年度から47,434人(15.9%)増加しています。増加は11年連続となっており、初めて30万人を超えたわけです。

本書は、このようないわゆる「不登校」の児童・生徒に対する支援にはどのような方法があるのかについてのヒントが示してあります。具体的には、不登校特例校、教育支援センター、フリースクール、通信制高校、不登校専門塾、ホームスクール、平日昼間の居場所などについて学校以外の場所で学ぶことができることを丹念な取材から明らかにしています。そのベースになるのが、「学びの環境のコーディネーション」という概念です。現代社会では、子どもの育成や学習の多くの部分を学校が担っています。しかしながら、学校というシステムとの相性が悪い子どもがいるのも事実です。この場合、学校に頼らなくても子どもに合った育成や学習環境をコーディネイトすれば良いと提案されています。

著者のおおたとしまさ氏は、教育ジャーナリストです。株式会社リクルートから独立し、数々の育児誌、教育誌の編集に関わり、主に中学受験業界を専門に評論されています。また、心理カウンセラーの資格を持ち、小学校での教員経験もあるため現場の取材には定評があります。

第1章は、不登校に関する文科省の調査にもとづく現状の理解とZoomをはじめとするインフラの整備によるオンラインの活用や必ずしも学校復帰をゴールとしないといった社会的変化が起きていることについて解説されています。

第2章は、スポット的な利用が可能な塾や居場所、ホームスクールの紹介です。印象に残ったのは、「ビーンズ」という学習塾です。ここでは、こどもの心理状態に特化した経験を言語化しており、これを「ビーンズメソッド」と名づけています。傷ついた経験をもつ子どもたちに接するには、それなりの知識やスキルが必要であるのに、スキルがないままに想いだけが強いのがいちばん怖いという理由からまとめられたものです。塾のスタッフには、3か月間マンツーマンでビーンズメソッドを学ぶことが義務付けられ、クリアした者だけが一人で生徒に接することができるという徹底ぶりです。ただし、このように、子どもたちに接するには、コストつまり人件費と時間がかかるという課題も避けて通れないと考えられます。

第3章は、学校に所属しながら利用できる組織の紹介です。room-Kというプログラムは、認定NPO法人カタリバが運営しており、アバターを用いたオンライン支援を行います。つまり、利用者は顔を出さなくても良いということです。また、個別支援計画の作成や保護者支援は、支援計画コーディネーターのスタッフが実施します。

次に主に自治体が運営する「教育支援センター」です。在籍している学校と連携しながら、学校への復帰を目的とする組織です。文科省によれば大学等のそれとは全く性格が異なります。すなわち、学校に登校できない「不適応な生徒」を指導して、学校への復帰を支援することが目的となっているわけです。私は、2022年に半年ほどある自治体の「学習支援センター」で不登校生徒(中学生)の指導をする機会がありました。当初オンラインによる学習支援を行うということでしたが、現場には、オンライン支援に係るツール(ハード、ソフト)や人材が圧倒的に不足しており何もできない状況でした。なにより疑問に思ったのが、生徒を学校に登校させる日を設定して、スタッフが援助するという方法です。生徒は、もともと学校というシステムとの相性が悪いわけですから無理に登校させるということの効果が分かりませんでした。設置目的に合致するということは分かりますが、学校に行かなくてもちゃんと学習支援をしてくれる場所に転換したほうが生徒のニーズに合致するのではないでしょうか。これは、文科省の調査で示された学習支援センター自体の利用率が低いという理由の一つだと考えることができます。

最後に、校内フリースクールや公設民営フリースクールが紹介されています。後者は、自治体がNPOへ業務委託をしています。学校教育法第一条の規定にある正式な学校(以下「一条校」という。)であれば適用される法人税や消費税の免除が受けられません。ここが、前者との相違点になります。そのため、業務委託費よりも運営費の方が大幅に多くなり赤字を抱えるという課題があるようです。

第4章は、不登校経験者が集う学校の紹介です。フリースクールとは、「一条校」ではない組織です。星槎ジュニアハイスクールPALは通信制高校の校舎の一部を利用しています。ここでは教科はもちろんですが、自立のための学習権として、皆で掃除や生活の授業で実習するという集団生活の経験も重要だと考えられています。

次に不登校特例校は、「一条校」ですが、カリキュラムの弾力性を大幅に認められている学校です。不登校の実態に配慮したプログラムを提供できます。2022年度では全国で21校でしたが、2024年度では、35校になっており、そのうち公立校が21校、私立校が14校です。なかでも開校前から評判になったのが、2021年開校の岐阜市立草潤中学校です。旧小学校の施設をリノベーションしたモダンな作りとITC機器が充実している施設等も魅力的ですが、特筆すべきは、生徒が自己決定できるシステムにあります。具体的には、登校時間、時間割、担任(途中で変更可能)、通知表の形式、校則、行事内容(学校側と共同)について生徒が選択できます。もちろん制服はないので自由です。自己決定による成功体験が自信や安心につながるといいます。もし私が中学生ならば入学したいなと思いました。

第5章は、通信制高校についてです。ひと昔と異なり現在は、オンラインでのサポートが当たり前になっていますが、通える通信制高校が2000年代からメジャーになっていることを知りました。この通学コースは、自校通学コースと提携通学コースに分かれます。学校基本調査では、2021年度の通信制高校は260校で、生徒数は約22万人です。これは毎年増え続け2024年は303校、29万人を突破しています。当然学校によりそのコンセプトは様々ですが、大きく3つのパターンに分けることができます。一つ目はまず学校に来させて社会性を身につけさせる学校、二つ目はカリキュラムの自由度を最大限に活かした学校、三つ目は、一般的な高校にできるだけ近い生活を送ることを目的とした学校です。ここでのポイントは、やはりカリキュラムの自由度が高いという点に生徒が惹かれているということだと推測されます。そうでなければこの少子化の時代に毎年入学者数が増加することはあり得ません。

第6章では、学びの環境整備や学習指導要領の弾力化などの提案をされています。

筆者は、「学校だけに頼らない学習スタイル」が当たり前になれば、「不登校」という概念がなくなり、これが不登校に対する根本的な解決になると提言しています。GSISで推進している学習スタイルもこれに合致していると思います。このような考え方が広がり、子どもたちにとって心地良い学習環境が広がることを願わずにいられません。

(参考文献)

  • こどもとIT 「不登校の小中学生、過去最多の34.6万人 文科省調べ」https://edu.watch.impress.co.jp/docs/news/1636116.html
  • KATARIBA 「オンライン不登校プログラム room-K」https://futoko.katariba.online
  • 岐阜県PTA連合会 「不登校特例校『草潤中学校』ってどんな学校!?」https://gifu-pta.jp/magazin/sojun-chugakko/
  • 文部科学省 「学びの多様化学校(いわゆる不登校特例校)の設置者一覧」https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/1387004.htm

(熊本大学教授システム学専攻同窓生 渡邊浩之)

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