本書では,2008年時点での11歳から31歳(1977年~1997年生まれ)までをネット世代(=デジタルネイティブ)と呼んでいる。ネット世代のテクノロジー活用法は親の世代とは異なり,電子メールすらも過去のテクノロジーとなるそうだ。そんなネット世代の中でも生まれが早い人たちは、すでに成人になって久しい。本書は、ネット世代に対する400万ドル規模の米国での調査をもとにしながら、独自の調査も加えて書き下ろされたものである。なお、デジタルネイティブという言葉は、シリアスゲームの文献にもよく登場し、関連が深い。
本書の中心は、ネット世代の「8つの行動基準」である。この行動基準は、親の世代と比べて特に異なっていて、ネット世代を特徴づける姿勢や行動を表したものである。
<ネット世代の8つの行動基準>
1.自由
ネット世代は選択の自由を求め、多様性を当たり前の状況と捉える。親の世代は多数の選択肢があると圧倒されるが、ネット世代は混沌の中から自分のニーズに合致した選択肢を選ぶことができる。仕事にも勤務方法等の選択の自由を求める。
2.カスタム化
ネット世代は、周りにあるものをカスタマイズしたり、パーソナライズすることを好む。親の世代は、手に入れた物がうまく動くことだけを望むが、ネット世代は何かを手に入れると、使いやすく(あるいは美しくみえるように)カスタマイズする。
3.調査能力
ネット世代は、調査能力に長けている。製品やサービスの情報にアクセスする権利は当然と考える。虚偽の情報や詐欺などがあふれているので、真実と嘘を見分ける能力が身についている。「信頼するが検証もする」をモットーにし,そのためにテクノロジーを活用する。
4.誠実性
ネット世代は,誠実性とオープン性を重視する.透明性を維持し,真実を語り、約束を守ることを高く評価する。企業が何か悪いことをすれば、不買運動すら起こる。一方で、誠実性には二面性があり、自己正当化しながら音楽の違法ダウンロードは行っている。
5.コラボレーション
ネット世代は、コラボレーションを得意とする。常に人と繋がっていたいと感じている。コラボレーションの文化を職場や学校などに持ち込み、コミュニケーションのための新たなツールを躊躇なく利用する。仮想的なコミュニティが一日中続いているかのようである。
6.エンターテインメント
ネット世代は、職場、学校、生活において娯楽を求める。仕事と遊びの間に明確な境界を引いていない。親の世代は働くときとリラックスして楽しむときは分けるべきととらえるが、この2つが一緒になっている。ビデオゲームに親しんでいる。
7.スピード
ネット世代は、スピードを当然のものとして受け止める。世界中の誰もが迅速に応答(対応)することを期待し、他人もそれを望んでいることがわかっている。
かつてないスピードでコミュニケーションが進められる一方、プレッシャーを感じるものもいる。
8.イノベーション
ネット世代は、常に新しい方法を求めている。イノベーションがリアルタイムでおきている文化の中で育ってきたこともあり、最新かつ最上の製品を持ちたがる。職場の環境も革新的で独創的であることを望み、最先端のテクノロジーが利用されることが当然と考えている。
本書は、この8つの行動基準を踏まえながら、教育、企業の人材管理、消費者、家庭、行政などに論を展開している。本書を通して著者が一貫して述べているのは、ネット世代には独自の文化(8つの行動基準)があるため、それを拒否せずに、その強み(有能さ)を発揮できる環境を整備していくべき(あるいはその特徴を踏まえてサービスを提供すべき)で、そのためには革新が伴うというメッセージである。
インストラクショナルデザインにおいて学習者の特徴を把握することは重要であり、私は大学の教員として、まさにネット世代を相手にしているということもあって、本書を手にとってみた。もちろん米国と日本の違いもあるために、すべてが日本に当てはまるとは言えないだろうし、著者が多少誇張している面もあるかもしれない。一方で、うちの研究室の学生も多彩な最新のコミュニケーションツールを駆使しながら、学生同士や友人同士、卒業生ともつながっていることも事実である。自分の大学で行っている授業を振り返ると、学生のネット世代としての強みを生かしているとは言い難い面がある。もっと今の学生たちに合った面白い授業ができるかもしれない。そんなことに想像力をかき立てられながら、この本を読んだ。
(岩手県立大学ソフトウェア情報学部 市川 尚)