トップIDマガジンIDマガジン記事[048-03] 【ブックレビュー】Joe Lambert著(2013) “Digital Storytelling: Capturing Lives, Creating Community”

[048-03] 【ブックレビュー】Joe Lambert著(2013) “Digital Storytelling: Capturing Lives, Creating Community”

今回紹介する本は、Joe Lambert著の「Digital Storytelling: Capturing Lives, Creating Community」である。最初に出版されたのは2002年6月。その後、2006年、2009年、2013年に改訂版が出版された。現在第4版となっており、Amazon Kindleでも購入可能となっている。

ストーリーテリング(storytelling)は、storyをtellすることだが、欧米には長い歴史がある。ストーリーテリングとは、言葉(words)や画像(images)などを用いて、現実に起こったことや空想上のできごとを描いたものであり、日本語では「物語」や「お話」を意味する。文字がない時代には、口承で人から人へ、そして壁画という形で、さらに、文字の発明とともに、物語は記録され、より多くの人、多くの地域へと伝えられた。近年では、小説、映画などという形で世界に伝えられている。娯楽、教育、文化保存、道徳的な価値を教え込むことを目的に、ストーリーテリングは活用されてきた。また、ストーリーテリングは、人に何かを伝えたり、人を楽しませたりする、人が生まれ持った言語能力を必要とされるため、「表現力」を高めることを目的に、米国ではあらゆる教育現場にストーリーテリングが伝統的に導入されてきた。
テクノロジーの発達により、コンピュータを用いて、ナレーション、写真や絵、BGM等を合わせ、誰もがストーリーテリングを容易に作成できるようになり、こうしてできたストーリーテリングをデジタルストーリーテリング(Digital Storytelling)と呼ぶようになった。コンピュータを用いた制作では、動画編集ソフトウェア「Windows ムービーメーカー」や「Macintosh iMovie」が利用される。
デジタルストーリーテリングという用語を初めて用いたのはDana Atchleyである。まだ、コンピュータがマルチメディア対応していなかった1980年代のことだという。Atchleyは、1990年にthe American Film Instituteでデジタルストーリーテリングのワークショップを開始している。その後、1994年に、Atchleyは、Joe LambertとNina Mullenとともに、The San Francisco Digital Media Center を設立し、そのセンターは、その後、The Center for Digital Storytelling (CDS)と発展し、ワークショップを積極的に展開し、デジタルストーリーテリングはアメリカ全土に広がった。このワークショップでは、自分で書いた文章に写真とBGMを合わせ、2分から5分程度の作品を作り上げていく。

私の手元には、第1版(First)、第2版(Second)、第4版(Fourth)の「Digital Storytelling: Capturing Lives, Creating Community」があるが、第1版と第2版はほぼ同じ内容であるが、第2版と第4版を比べてみると、第4版では内容がかなり新しくなっている。
第1版から第4版まで、最初に、2000年にこの世を去ったDana Atchleyのためのページがあり、彼の写真とメッセージが載せられている。メッセージは
For Dana Atchley
Artist, Friend, Digital Storyteller
Your final exit was beyond reason.
Your vision will live on.
See you on the flipside.
となっている。Atchleyは、デジタルストーリーテリングがまだ世界に広まっていく前、道半ばで、59歳の若さで亡くなった。Lambertは、一緒にThe Center for Digital Storytelling (CDS)を設立したAtchleyを、デジタルストーリーテリングの開拓者として、大事に思っている。

本書「Digital Storytelling: Capturing Lives, Creating Community」では、The Center for Digital Storytelling (CDS)が進めるワークショップで基本となることや背景が述べられている。第4版の目次では、
(1) The Work of Story
(2) Stories in Our Lives
(3) A Rad Travelled: The Evolution of the Digital Storytelling Practice
(4) The World of Digital Storytelling
(5) Seven Steps of Digital Storytelling
(6) The Story Circle: Facilitating the Digital Storytelling Workshop
(7) Approaches to The Scripting Process: Prompts and Processes
(8) Storyboarding
(9) Designing in Digital: Working with Digital Imaging, Audio, and Video
(10) Distributions, Ethics, and the Politics of Engagement
(11) Applications of Digital Storytelling
(12) Silence Speaks: Interview with Amy Hill
(13) Stories from Fishing Lake, Alberta: Interview with Yvonne Pratt
(14) Humanizing Healthcare
(15) Digital Storytelling in Higher Education
となっているが、第2版と比べてみると、第2版の第5章では、デジタルストーリーテリングの「7つの要素(Seven Elements)」が示されており、第4版では、「7つのステップ(Seven Steps of Digital Storytelling)」と変更されている点が興味深い。第2版では、「7つの要素(Seven Elements)」の副題が「デジタルストーリーテリングにおけるストーリーの構造とデザイン(Story Structure and Design in Digital Storytelling)」となっており、Lambertが示している7つの要素は次のとおりである。
(1) Point of View 視点
(2) A Dramatic Question ドラマティックな問い
(3) Emotional Content 感情的な内容
(4) The Gift of your Voice あなたの声の贈り物(天賦の才能)
(5) The Power of the Soundtrack サウンドトラック(BGM)の力
(6) Economy 節約(エコノミーさ)
(7) Pacing ペース(テンポ)
この7つの要素は、LambertがCDSでの2~3年間のワークショップ実践後にまとめられたようだが、マルチメディアでのストーリーづくりにはこの7点を考慮するとよいというものである。特に4点目に「声の贈り物」を挙げているが、制作者自身の声での語りはデジタルストーリーテリングでは重要なものである。また、第4版の改訂でLambertらは、7つの要素より、7つのステップを重視するようになっている。第4版の第5章で示されたデジタルストーリーテリングの「7つのステップ」は、具体的に、
(1) Owing Your Insights 深い理解力を持つこと
(2) Owing Your Emotions 感情/感動する心を持つこと
(3) Finding The Moment その瞬間を見つけること
(4) Seeing Your Story ストーリーを見ること
(5) Hearing Your Story ストーリーを聞くこと
(6) Assembling Your Story ストーリー組み立てること
(7) Sharing Your Story ストーリーを共有すること
である。
Lambertが7番目のステップに「ストーリーを共有すること」と挙げているように、CDSでのワークショップでは、ストーリー作り構想の段階から作品を視聴するまで、ストーリー作りを通したコミュニティを重要視している。(7) Sharing Your Storyでは、「あなたの作品を見てくれるオーディンスは誰ですか?」「デジタルストーリーをはどんなプレゼンテーションで視聴されるのでしょう?」ということを意識せよ、とLambertは指摘している。また、本書第4版の第6章に「The Story Circle: Facilitating the Digital Storytelling Workshop」があることからも、ストーリーサークルの存在や育成を大切にしていることがよくわかる。

私が大学や小中学校でデジタルストーリーテリングにとり組み始めて8年。デジタルストーリーテリングは学校教育の様々な場面で使える手法である。デジタルストーリーテリングの学習利用にとり組んできたが、本書では、デジタルストーリーテリングをどのように学習利用するかはほとんど述べられていない。著者LambertやAtchleyは、Artの面からデジタルストーリーテリングにとり組んでおり、教育利用の専門家ではないからである。
デジタルストーリーテリングを取り入れた授業や学習環境をどのように設計するかは、AECT(Association for Educational Communications and Technology)の国際会議発表をみてもほとんどなく、これからの課題である。
私の8年のデジタルストーリーテリング教育実践経験から言えることだが、デジタルストーリーを創作することは授業設計・実践と似ている部分が多い。例えば、一つのデジタルストーリーを、効率・効果的に作り、オーディエンスに自分自身のストーリーの魅力を伝えることは、授業づくりによく似ている。本書「Digital Storytelling: Capturing Lives, Creating Community」に、designという語がよく出てきているが、デジタルストーリーテリングのデザイン、そして、デジタルストーリーテリング学習環境のデザインに関するヒントが数多く埋まっている本なのだと思う。

[三重大学 教育学部附属教育実践総合センター
熊本大学大学院 教授システム学専攻 博士後期課程 須曽野仁志]

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