ヒゲ講師は3月の年度末のクソ忙しいときに周囲の迷惑も顧みずイスラエルを旅していた。その目的はibstpiの理事会。年に3回集まって集中審議をして、今後の方向性を決めていく。前回(昨年の10月)はバンコク出張と重なって一部の時間のみ遠隔からのSKYPE参加であったが、今回はフルに現地参加をした。主たる話題の中身は、IDコンピテンシーの改訂作業に伴う最終調査とオンライン学習者コンピテンシー策定の最終調整作業。ヒゲ講師は両方とも日本語に翻訳して調査に協力します、などと安請け合いをしてしまい、また仕事を引き受けて帰国する羽目になった。読者各位にもそのうち「協力をお願いします・・・」ということになると思うのでその節はよろしくお願いします。
理事会の会場となったのは、首都テルアビブにあるThe Center for Academic
Studiesという名称の高等教育機関。できて間もない大学院で、社会人を主たる対象とし、夜間とインターネット展開を主軸に急成長を遂げているところ。真新しいキャンパスの一角にある2つの教室を占有し、幹部からの熱烈歓迎を受けながら、審議に没頭できた3日間だった。そこに所属の理事とヒゲ講師以外の現地参加理事は、新しく代表理事に就任したキャサリン・スリーザー女史を含めて7名全員がアメリカ合衆国からの参加。チリと日本からの2名はSKYPE参加という構成であった。
それにしてもこの団体の理事たちと過ごす時間はとても楽しい。皆が様々なバックグランドを持っているが、教育専門家の地位向上をミッションにして、コンピテンシーという切り口から英知を集めようと喧々諤々の議論を重ねる。一方で、議論が終わったあとの夕食では、最近の出来事や身の回りの変化を交換し、一人の研究者として、また教育者として、人間的な交わりを楽しむ。遠隔参加者は、昼間の議論には参加してそれなりの貢献をすることはできるが、最後の部分に参加することができないので、やっぱり現地参加したいと思わせる魅力がそこにはある、とつくづく思う。オンライン大学院でも、国際組織でも、たまには直接会って、一献することが大事なんですね(無理にそこに結びつけなくてもいいとは思うが・・・)。
アメリカからの参加が多かったイスラエルでの理事会。ヒゲ講師をはじめとして、イスラエル初めて組も多く、それぞれが前後での「社会見学」も楽しんだ。キリスト教徒やユダヤ教徒、そしてイスラム教徒にとって、エルサレムは特別の場所。ヒゲ講師も念願のエルサレム旧市街で1日を過ごすことができ、幸運にも「嘆きの壁」の地下構造部ツアーにも潜り込むことができた。世界史の舞台で何度となく登場し、現在の世界情勢にもとても重要な意味を持つこの都市の空気に触れてみたい。その兼ねてからの希望が叶ったことも、イスラエルからの理事を構成員としたibstpiの理事であることのありがたみ。イエスが十字架を背負って歩いたとされる道、お墓があるとされる聖墳墓教会、アルメニア人地区にある聖ヤコブ大聖堂などで祈りに満ちた人との時間を過ごした。「嘆きの壁」の内側にはかつてソロモンの神殿があったとされる「神殿の丘」がある。ガイドブックには「イスラム教徒以外はモロッコ門を通って入る」と書いてあったが、厳重に警備されて何人も入ることができない様子であった。
ムスリム地区を歩いているとそこで耳にしたのは、ユダヤ人地区の教会堂改築落成に絡んで緊張が高まった旧市街を警備する軍隊の放った銃声だった。近隣の店が騒動に巻き込まれたくないと急いでシャッター(木の扉)をバタバタと閉めたり、もみ合いの喧嘩を目撃したり、緊張感が走った。後で聞いたところあの銃声はホンモノではなくゴム弾だったらしいが、それでも10人が負傷したとの新聞記事を翌朝見た。同じ日にガザ地区では観光客が一人流れ弾で死亡したとのニュースも流れ、数日後に予定していたibstpi理事会プレ・バスツアーの行き先もエルサレムから北部の都市アッコーに変更された。たまたま昼食をとったエルサレム旧市街キリスト教徒地区のレストランに張ってあったステッカーの文字がとても印象に残る旅となった:Peace will come; why not now.
参考リンク:The International Board of Standards for Training, Performance
and Instruction
http://www.ibstpi.org
鈴木克明・根本 淳子・松葉 龍一(2007.9)「教授システム学専攻修了生コンピテンシーの外的妥当性」『日本教育工学会第23回講演論文集』915-916
http://www2.gsis.kumamoto-u.ac.jp/~idportal/wp-content/uploads/a70924.pdf
(ヒゲ講師記す)