トップIDマガジンIDマガジン記事[050-02] 【連載】ヒゲ講師のID活動日誌(46)~中国における大学教員開発:国際FDカンファレンス2013参加報告~

[050-02] 【連載】ヒゲ講師のID活動日誌(46)~中国における大学教員開発:国際FDカンファレンス2013参加報告~

ヒゲ講師は2013年10月29日青島ビールで有名な中国山東省青島空港に降り立った。福岡空港から約2時間だが国際線だから一応食事が出る。そのことを忘れて満腹で機上の人となったヒゲ講師は、機内食に手が出なかった(ちょっとだけ残念、そんなに残念ではない中身でした)。預け入れ荷物もないヒゲ講師は到着ロビーに1番乗りしたところ、迎えの人がいない。不安のうちに10分も経っただろうか、「早かったですねぇ」と流ちょうな日本語で東北師範大学の董(Dong)教授の出迎えを受けて、安堵。董教授はかつて宮城教育大学の本間先生のところに留学していた折にヒゲには会ったことがあるという。物覚えの悪いヒゲはその話にはお茶を濁し、共通の知人の安否情報の確認に話題をシフトしてホテルまでの道中を過ごした。

今回の中国行きは、高校教員発展国際会議での招待講演。中国では高校はHigher Educationを意味するので大学教員のこと。発展はDevelopmentだからFaculty Developmentとなる。FDの先進大学がいくつか集まり第1回の国際会議を開催したのが2011年長春でのことで、今回は第2回とのこと。参加者は中国全土から500人ぐらいいたかな。他の招待講演者には、台湾政治大学(文系理系分離批判のそもそも論)、華中技科大学(心理学の動向)、北京大学(Moocsの話)、香港理工大学(学習者中心、ゴールを意識した学生を育てる)の教授陣とホストの中国海洋大学にサバティカルで滞在中のLynn Sorenson博士(組織開発)がいたが、ヒゲとSorenson教授以外はすべて中国語での講演。2日目の分科会も全部中国語だったが、通訳とPPTの漢字に助けられて情報収集。なかなか興味深い体験でした(次からは私の英語版PPTにも漢字を併記すべきだと思いました)。

Sorenson博士の講演は初日の最後に行われたが、最も興味深かった。何しろ初めて、「この人はFDer(ファカルティ―デベロッパー)だ!」と実感できる人に会えた。Sorenson博士はユタ州立大学のFDを立ち上げるためにオクラホマ大学から1992年に赴任。来年の6月まで中国海洋大学に滞在中の招聘研究者。FDは教育能力だけでなく、大学教員の仕事全般を扱い、大学教員としての成長を促すものだとの次の定義が印象的だった。FD関係者には常識かもしれませんが、ヒゲにとっては目から鱗が落ちた瞬間でした。

Faculty development focuses on all the roles of a faculty member — teaching, research, pubishing, getting tenure (or rank advancement), time management, life balance, etc. — all the component of a faculty career. Faculty developer supports faculty members in developing their effectiveness in all areas of their professional life. (Sorenson, 2013, p.13)

三重円の中核にInstructional Development(授業の実施や学生の学びに焦点化)、次にFD(教員自身の発達支援)、一番外円にOD(組織開発:Institutional developmentとも呼ばれる)を配置する教育開発モデルを提示し、教員の発達は、大学教育に関する文献+自己の経験+同僚との共有の3つで達成できる(学ぶ→使う→評価→共有→省察のサイクルの図あり)、それを支援するのがFDerの役割だとした。論文の最後には、Dee Fink(元オクラホマ大)とともに1990年代から収集してきた大学教育に関するヒント集(文献)のリストをヒントを1例ずつ抜粋掲載して提供(上記の「学ぶ」に相当)。「こういうのを提供するのもFDerの役割の一つです」。なるほど、かっこいいと思いました!ちなみにFink著作は土持ゲーリー法一氏が和訳出版あり、その筋では著名な研究者のようでした。

2日目の分科会は、通訳を引き受けてくれた中国海洋大学准教授のLindaさん(英語名)と2つの分科会をはしごした。Lindaさんの解説もあり、「へー」「なるほど」「そうなのね」の連続でした(深謝)。

例えばセンター活動の事例としては、

1)上海交通大学ではセンターを2011年に設置、スタッフ20名(うち専任4名)、ミシガン大学のCRLTと連携して(1)研修:新任教員+学生対象(自由参加)、ワークショップで学生中心主義など10トピック(PPT活用法、最初のクラスをどうやるか、もある)、(2)研究:授業評価アンケートの分析など、学生インタビューを実施して開始直後と終了直前の変化を検証、研究プロジェクト(申請補助)などに取り組んでいること。
2)山東大学ではKrugerの氷山モデルを参照して学生中心を模索。FD活動に政府の支援を受けて海外から研究者招聘し、定年後の教師をアドバイザーとして招く。見せるだけのワークショップから実際の教室を訪問しての助言に変化させた。
3)北京工業大学では、中国高等教育省提供の研修は理論のみで実践がなく役立たたないと感じたため、新任教員研修を独自開発して学科ごとに実施。What to teach+How to teach wellの二本柱で前者は教育内容の問題点を洗い出す。新任1年目は講義担当なし。Undergraduate Teacher Certificateを出している。
4)中国全体の20%を占める(伝統大学211と研究大学985と呼ばれるTop Public Universitiesの外側に存在する)私立大学(上海にある)では、Teacher Efficacy(バンデューラ)を高めることをFDの目標として掲げて実践している。センター教員には教育学だけでなくカウンセリングの専門性も必要とした。
5)ホストの中国海洋大学は2007年にセンターを設立した先進校(今回の主幹大学:センター長は実行委員長の宋教授)。約20の学科を有する(海洋学では世界クラス)学生数1万5千人規模の大学で授業参観+助言者は30人体制。教員の昇格申請にはFDセンターのチェック+OKが必要とされるところまで実現した。

研究例としては、

1)長春市にある教育大学での調査結果University-based Teacher Educatorの特徴(教員200人対象のアンケート)。主な結果として、教育学部所属の教員の教育力は低い、学生の学びに対する関心は低い、テクノロジ利用の意向も低い(中国語の論文あり)
2)モンゴル自治区の4つの大学(師範・総合・民族・財経)での調査結果(教員50人、学生1200人対象)。主な結果として、教育能力が低く期待に応えていない、自己評価よりも管理者からの評価が低い、など。そうはいっても5段階評価の4以上は得ていた。
3)N大学のFDの戦略について(N大学=東北師範大学とのことらしい)。学習・実践・発表のサイクルをまわすモデルを適用して7学部が独自にFD活動をするのをセンターが支援した。学部固有のテーマを設けての実施をセンターが支援し、成果をまとめてWebや報告書として公開、大学当局はプロジェクトとして資金面の支援をした。

などがありました(書き取れたのはこれだけでした。ふぅ)。

それでヒゲは何をしゃべったか、って?IDポータルに英語の原稿を載せておきますので興味がある人はどうぞお読みください。主催者からの要求仕様は、「日本のFDととくにMOOCSについて紹介してほしい」というかなりの難題だったので、日本のFDの歴史を振り返り、MOOCSの前段としてICT利用(eラーニングとJOCW)を位置づけて概観し、その両者をつなげる意味でご自慢のサンドイッチモデルの話をこれまでになく詳しく紹介しました。中国語への流ちょうな同時通訳(董教授の評による)のお蔭もあって、好評だったのではないか、と「体感」しました。この自己評価の妥当性については、次の招待があるかどうかで判明するでしょう。

仕事を受けてから調べて学ぶ。学んだことを専門家のように伝える。
一人の大学教員のデベロップメントにつながる体験でした。

参考文献
Suzuki, K. (2013). University faculty development in Japanese context. An invited keynote address at the International Conference on Faculty/Educational Development 2013, Quandon, China (hosted by Ocean University of China), Oct. 31 – Nov. 1 (Proceedings 1-11).
http://www2.gsis.kumamoto-u.ac.jp/~idportal/wp-content/uploads/ICFD2013suzuki2.pdf

Sorenson, L. (2013). Organizational development and institutional effectiveness. An invited keynote address at International Conference on Faculty/Educational Development 2013, Quandon, China (hosted by Ocean University of China), Oct. 31 – Nov. 1 (Proceedings 12-31).

(ヒゲ講師記す)

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