トップIDマガジンIDマガジン記事[023-02] 【連載】ヒゲ講師のID活動日誌(22) ~日本教育メディア学会の温故知新~

[023-02] 【連載】ヒゲ講師のID活動日誌(22) ~日本教育メディア学会の温故知新~

2009年9月11日(金)ヒゲ講師は熊本から羽田経由でMaxとき325号に乗り新潟駅に着いた。日本教育メディア学会の新旧理事会と全国大会に参加するためであった。どこの学会でもそうだが、会長が任期満了を迎える頃に次の会長選挙が行われ、執行部が交代する。この日、前執行部の理事で構成する最後の理事会(旧理事会)と新しい会長の下に組織された最初の理事会(新理事会)が同日開催された。ヒゲ講師は幸いにも(かどうかは分かりませんが)両理事会の構成員であるが、旧理事会が終わって新理事会が開催される間の30分で、これまでの功績に感謝されながら会場を後にする重鎮たちに代わって、フレッシュな新人たちが登場する悲喜こもごも。こういう場面が目撃できる学会も珍しいですね。

日本教育メディア学会の歴史は古い。1956年創立の日本放送教育学会と1964年設立の日本視聴覚教育学会をその前身としている。「日本教育工学会論文誌」の前身「日本教育工学雑誌」の第一巻刊行が1976年であったことと比べると、20年先輩にあたる。両者が合併して設立された日本視聴覚・放送教育学会を経て、名称を現在のものに改めたのが1999年。その間、『経験の円錐』の著者エドガー・デールを招聘したり(1956年)、1960年代初頭には、ティーチングマシンとプログラム学習の研究を推進、のちにCAI学会(現在の教育システム情報学会)や日本教育工学会ができるまでは教育工学研究の最前線にあった。「由緒正しい」学術団体なのです。

この学会での見聞をもとに、かつて、教育メディア研究が今日に示唆するところを一段落でまとめたことがある。それは次のものだ。昔を知ると歴史は繰り返されているなぁと思うし、最先端の研究に参考にもなる。まさに温故知新だと思う。

(ここから引用)
技術革新で利用が可能になる様々な教育メディアでは何ができるのか、またそれらをどのように活用するのが良いかが検討されてきた。適性処遇交互作用(ATI:Aptitude Treatment Interaction)研究の手法を援用した教育メディア比較研究の知見としては、「どのメディアも万能薬にはならないが、どのメディアでも学習は成立する」ことや、「学習課題の特性と学習者の特性に応じて、最適な学習環境が異なる」、「より新しいメディアを使う方が学習効果は高まる(新奇性効果)」、「どのメディアを選ぶかよりも、そのメディアをどう使うかで差が出る(メディア属性、機能的同等性)」、「使うメディアに対する構えによって学習効果に影響が出る(メディア知覚)」、あるいは経済性の観点から「(どのメディアでも学習が成立するのだから)より簡単なメディアを使って、学習者を能動的にするのが良い(シュラムのまとめ)」などが主張されてきた。
(ここまで引用)
http://www2.gsis.kumamoto-u.ac.jp/~idportal/wp-content/uploads/2005a2.pdf(PDF 305KB)

ヒゲ講師は、大学時代に選んだ研究室がこの学会の事務局をしていたことから、教育工学の世界に入り込んだ因縁がある。いわゆる古巣なんですね。事務局員(電話番)を学生アルバイトで担当していたりもした。戦後日本に初めて輸入されたオーバーヘッドプロジェクタ(OHP)第一号機にも対面した。この学会の事務局長を長く務めた故石本菅生教授に卒業論文を真っ赤っかになるまで添削指導してもらった。そんなこんなのいきさつもあり、細々とこの学会の一員として名を連ね、たとえばNHK学校放送関連のお仕事や情報教育におけるメディアリテラシー育成など、教育メディア学会らしいテーマの研究もしてきた。毎年皆勤賞とまではいかないものの、全国大会にも参加し、かねてからの旧交を温めてきた(=ICUの同窓会的位置づけ)。今年は、手ぶらでは何だなと思ってまとめた「『学びたさ』の設計を支える研究の動向」を発表したが、嬉しいことに熊大の社会人学生も「同期型教育へのチャット導入に向けた予備的考察」の発表で加勢してくれたので、2本の貢献ができた。この小規模な学会の全国大会で「2本」は、大きい貢献でした。

前理事会におけるヒゲ講師の役割はもっぱらICoME関連であった。日本と韓国を行き来して韓国の兄弟学会と共同で毎年開催してきた日韓合同研究会のInternational Conference on Media in Education(略称:ICoME)。教育メディア研究の若手養成と国際舞台(すなわち英語での発表)の提供。我が国よりだいぶ先をリードする韓国側の研究者との交流も定例化し、日韓の文化差にも慣れて、また、そこから査読付国際ジャーナルも誕生した(International Journal of Educational Media and Technology)。そう、今頃お気づきのあなた、日本教育メディア学会はICoMEの主催組織だったのです。

新理事会におけるヒゲ講師の役割は上記の継続。加えて年3回の国内研究会も所轄する副会長も仰せつかりました。新会長久保田賢一教授@関西大学総合情報学部の要請とあらば、断ることはできません。ということで、来年度のICoME2010は日本教育メディア学会全国大会との同時開催というオマケ付きで熊本にてホストします。由緒ある小粒でピリッと辛い弱小学会が、先輩韓国の力を借りながら精一杯背伸びしている様子を、ぜひ応援しに来てください。開催は、2010年7月15-18日ぐらいを予定しています。読者諸氏ができる最大級の応援は、もちろん学会員になって、研究発表してもらうことだということもお忘れなきよう。

今からカレンダーに記入して、ICoME(私も来ます)熊本へ!

日本教育メディア学会ホームページ
http://wwwsoc.nii.ac.jp/jaems/

(ヒゲ講師記す)

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