新春号を記念して、何か始めなければ・・・と思いついたのは、初心に帰るということで、「ID理論」の紹介を再開することでした。このシリーズでは、ID分野の研究に携わる人で知らない人はいない、ライゲルース教授の「グリーンブック2」(正式名は、ID理論とモデル:Instructional-Design Theories and Models)の紹介をしてきました。まだ紹介していない理論も残っていますが、グリーンブックの三巻目が登場したので、しばらく第三巻の内容を取り上げることにします。
この「グリーンブック3」に関しては、2009年のe-Learning Conference 2009 Summerで発表しています。eLCの会員であれば、過去の資料をご覧いただけます。
今回は、予告編として「グリーンブック3」の概要について紹介します。
一言で言えば「グリーンブック(以下、GB)」はID理論集ですが、1・2・3巻とそれぞれの役割があります。GB1はADDIEモデルに代表される開発プロセスと出来上がった教材の青写真を描くためのIDモデル・理論の区別を提案し、IDがADDIEだけではないことを定着させ、本分野の研究者に強いインパクトを与えました。GB2は、1990年代後半の様々な理論を集めまとめたものであり,構成主義に立脚した数多くのIDモデルを紹介し、IDが時代とともに進化していることを示しました。そして、今回出版されたGB3では、徐々に変化する本分野も、徐々に成熟しつつあることを踏まえ、共通の用語を用いて、共通の知識ベース(基盤)を作りだそうとしています。それがGB3の副題「共通知識基盤の構築(Building a Common Knowledge Base)」に示されています。
1と2では、さまざまな理論をひとつずつ取り上げて紹介していますが、3では、これまで紹介してきた理論や最新の動向を、共通の枠組みを使って今までとは違う形で紹介しようとしています。今までは、認知領域や情意領域といった学習課題の種類ごとにまとめて理論やモデルを個別に紹介してきました。しかし、今回は、それらの集大成ともいえる一般理論(メリルの第一原理を採用)と、複数の教授要素(たとえば、コーチングや例示、例と例でないものの提示など)から構成される「アプローチ」と呼ぶ教授原理単位ごとの個別理論の二つに分けて概念化しています。情報時代となった今日では、学習課題ごとにまとめるよりも実際に使える状況ごとに整理したほうが、活用度が高まるという配慮からきているようです。
では。次回からをお楽しみに。
熊本大学大学院 根本淳子