ゲームニクスとは,ゲームとエレクトロニクス,テクニクスなどのニクスを組み合わせて著者が新しく作った造語。一言でいえば,ゲームの制作者がゲームを幅広い世代の人々に遊んで貰うために生み出したテクノロジー・法則の事といえます。
みなさんはゲームに対してどんなイメージをお持ちですか。「おもしろそう」とか「みんなでわいわい」といったポジティブなイメージを持っている人もいれば,「所詮遊び」とか「子供に悪影響」などといったネガティブなイメージを持っている人もいるでしょう。一方,事実として任天堂のゲーム機であるDSやWiiは,若者だけでなく,シニアの世代でも受け入れられヒットしています。本書では,ゲームを「おもしろそう」と感じさせるためにゲーム制作現場が行っている「工夫」を読み解きつつ,ゲーム以外のヒット商品(iPodなど)にもあてはまる,ゲームニクスの本質について述べられています。
・ゲームにおける暗黙的な目標
ゲーム制作の現場では,主なターゲットである子どもが飽きずに使い続けてくれる物を作ることが大前提です。子どもは本来飽きっぽいので,使用することに苦痛を与えない「直感的な操作性」と,ゲームを自然にやり込むための「段階的な学習効果」の2つが重要と考えられてきたようです。そして,子どもをターゲットにしているので,他の年代においても使いやすいのです。
・ゲームニクスの法則
このような目標を達成するために,ゲーム制作で必要な配慮を「ゲームニクスの法則」として4つ挙げています。
1.直感的なユーザー・インターフェースであること
・使いやすいこと
・どこで何をするかをわかりやすくする画面や操作感の工夫
・ゲームを操作することに苦痛を与えてはいけない
2.マニュアルなしでルールを理解してもらう
・画面を見ただけで何をするか理解できる自然な流れを取り入れること
・自然にルールを理解してもらうために,チュートリアルを必要なときに仕込む
3.はまる演出と段階的な学習効果
・ゲームを進めることで夢中にさせる工夫
・アニメーションや効果演出,ストーリーなどによって画面に集中させる
・ゲームの難易度が状況に応じて次第に上がる
・新しいアイテムやイベントの登場
・こつこつと続けている成果が分かったり,ほめてもらえる
4.ゲームの外部化
・ゲームと実社会の関係がわかる演出を入れる
・現実世界のことをテーマとして扱う(シリアスゲーム)
・ゲーム内の体験が現実でも役立つあるいは,効果がある
・現実をうまく抽象化して分からせる
・ゲームと他の情報機器はどこが違う?
使いやすさを考え,何をするか迷わず,ストレスを感じさせないシンプルで自然なインターフェースを実現しているところは大きな違いです。デジタルテレビのリモコンに比べて,ゲーム機のコントローラーは非常にシンプルですよね。これは,表面上の奇抜さや機能ばかりでなく,利用者のためを思って丁寧な物作りをすることを前提にした結果です。本書では,ゲームニクスっぽいゲーム(スーパーマリオ・インベーダーなど)やデジタル機器(DS・PS・iPodなど)と,そうでない機器(銀行ATM・テレビ・携帯電話など)を例に挙げ,どこがどう違うのかをわかりやすく説明しています。
一見当然とも思えるゲームニクスの法則ですが,使いやすさの追求,自然に使いこなせる作り込みを明確な目標とすることはそうたやすいことではないでしょう。ゲームの開発現場で生まれた法則がどんなところに応用されているか,考えながら生活してみるのもおもしろいかもしれません。機能的な機器にあふれる現代だからこそ,シンプルに使いこなすことが出来るインターフェースが求められるのではないでしょうか。
(長崎大学大学教育機能開発センター 助教 井ノ上憲司)