トップIDマガジンIDマガジン記事[039-02] 【連載】ヒゲ講師のID活動日誌(35) ~四度目のミャンマー:将来への布石~

[039-02] 【連載】ヒゲ講師のID活動日誌(35) ~四度目のミャンマー:将来への布石~

ひげ講師は8月4日、ヤンゴン国際空港に降り立った。4度目のミャンマー訪問。
目的は同じJICAプロジェクト「児童中心型教育強化プロジェクト第2フェーズ」、今回の目的はセミナーの基調講演と学習意欲のワークショップ補助であった(注:プロジェクトの詳細は以前書いた日誌[21]を参照ください)。

常夏の国といっても、今年の日本の夏(とくに熊本の夏)に比べれば朝晩が過ごしやすい。雨季にあたるため湿気は多いし、雨もよく降るが、熱帯夜にはならない。さらに良いのは、サンダル履きが許されること。サンダルにロンジと呼ばれるスカートを着用するのが正装である。ひげ講師はベルトもなにも付いていない巻きつけるだけのスカートがずれ落ちはしないかと心配なので、短パンにサンダル履きで過ごした。靴下を履かないで済むのはとてもありがたい。

さて、今回の訪問は昨年12月に続いて4回目。プロジェクトも今年12月末で4年間続いた第2フェーズが終わるため、ひげ講師が指導したIDに基づく現職教員研修パッケージの開発も終了し、最後の実地検証も終わっていた。前回、これでミャンマーを訪れるのも最後だな、と思ってここを後にしたのだが、再び訪れる機会をいただいた。プロジェクトの成果を関連機関と共有するためにセミナーを開くので、その基調講演をやってくれ、という依頼を受けたたためである。土日の2日間開催されたセミナーの初日、開会式の直後に、ひげ講師は130人余りの聴衆が待つ壇上に招かれた。

基調講演では、学習者中心型の教育がいかに大事であるかを話して欲しいというリクエストに答えて、UNESCOの採択宣言や「人はいかに学ぶか」を引用しながら、子どもたちを活動的にすることで、集中力を持続させ、失敗を恐れずにやってみる気持ちを醸成し、とりわけ低学力層に効果的な授業になることを述べた。そして、第2フェーズでの3年間で、4教科の指導案付き教師用ガイドが全学年向けに揃ったこと、5万人を超す小学校教師がこのプロジェクトでの研修を修了したこと、そして残りの70%の小学校教師にも研修が継続できる道筋が整ったことなど、他に類を見ない規模と堅固な品質で成果をあげたことを祝福し、さらなる発展への各位の協力を呼びかけた。

37地区の5万人を超える小学校教師に5日間の研修をどうやって実施したか。ここにIDの真価が発揮された、と思う。3段階でのいわゆるカスケード式研修(プロジェクト直轄で実施する中央研修→各地の教育大学教員等が実施する地方研修→それを受けて地区の小学校教員が受講する教員研修)でネズミ算式に受講者数を増やしていく。その間に減衰しない堅固な品質を維持するための「研修マニュアル」を用意した。IDのノウハウを活かして効果的な研修を設計・評価・改善し、実施方法もすべて書き込むことで研修の品質が落ちなかったという結果を得ることができた。とても満足している。

もうひとつの5つの並行ワークショップのうちの一つとして提供した学習意欲についてのワークショップは、いわゆる技術移転の最終段階であった。つまり、プロジェクトのミャンマー側の構成員(カウンターパートと呼ぶ)である教育大学の先生がミャンマー語で実施するワークショップをその準備段階で指導し、自立してワークショップが展開できるようすることを目指した(これを教育技術の移転と呼ぶ)。ARCSモデルを知ってもらうことを目標に据え、しかし説明から入らずに日常の学習意欲にかかわる問題点や解決策をまずグループで出し合ってから理論を紹介し、ARCSのカテゴリーに分類することを通して「ARCSモデルって便利だね、私にも使えそう」と思ってもらう構成にした。その全体構成、パワポの使い方(作業内容を提示しておく)、模造紙上のポストイットの使わせ方、グループ討議から全体討議への収束など、カウンターパートと一緒に話し合いながら準備した。このセミナーでは同じワークショップを初日と二日目に2回やることになっていたことも功を奏して、初日での省察を二日目に活かした形で腕をあげ、無事、免許皆伝、ささやかな技術移転を果たした。

思えば、このプロジェクトのカウンターパート6名を日本に迎えて1ヶ月間の研修を行ったのは2005年。ひげ講師がまだ岩手に居たころである。あれからすでに6年、その間に様々な交流を重ね、旧知の仲になった感じがする。あの折に連れて行った徳島大学での日本教育工学会全国大会での見学経験が、6年の時を経て今回のセミナー開催へとつながった。この国が軍事政権からの政権交代を経て、徐々に様々な活動が可能な国になり、自分たちの手で実践の成果を交流していく活動を盛り上げてくれるようになることを楽しみに、ひげ講師は帰国の途についた。

(ひげ講師記す)

※注釈
(1)[022-02] 【連載】ヒゲ講師のID活動日誌(21) ~ID実践@ミャンマー~
http://www2.gsis.kumamoto-u.ac.jp/~idportal/?page_id=55&cat=36&n=1846

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