本号からインストラクショナルデザインを学ぶ方の必読書である『インストラクショナルデザインの理論とモデル: 共通知識基盤の構築に向けて』の輪読を開始します!(※原著の表紙が緑色のシリーズの第3弾なので、通称グリーンブック3といいます。以降では本書を「GB3」と略します)初回の本号では、どーんと2章分掲載です!
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第1章「教授理論の理解」(チャールス・M・ライゲルース&アリソン・A・カー=シェルマン)は、教授理論を記述し理解するために用いられている概念や用語を点検し、インストラクションに関する共通知識基盤と共通言語を構築することを目標としています。要するにこの本を読んでいく上で、読者がてんでばらばらな解釈をしていたらいけないので、いったんここで整理しておきましょうということです。一番最初に定義されているのは「インストラクション」です。いざ改めてインストラクションってどういう意味?って聞かれると答えに詰まりますよね。これからは「インストラクションとは、目的を持って学習を促進させるために行うことすべてです」と答えましょう。「ご飯を食べてすぐに横になると牛になるよ!」という昭和テイストあふれるフレーズも立派なインストラクションということです。
次が最初からクライマックス的な感もありますが、個人的にとっても面白かった部分です。
世の中では「教える(instruction)」と「学ぶ(construction)」が対立的に捉えられていて、「教える」場合は学習者は受動的であり、「学ぶ」場合は学習者は能動的であると考えられがちです。しかし、この本では「そもそも学習は受動的になんて起こらへんわ!」と喝破して、「教える」は「学ぶ」を支援することだと捉えています。すなわち、その支援こそが「instruction」なのだ、と。簡単にまとめると、
instruction vs. construction
じゃなくて、
instruction ―支援→ construction
だって言ってるんですよ。だから、「インストラクション」の定義は「目的をもって学習を促進させるために行うことすべて」なんですね。すげえ。
さて、この超基盤的用語への定義を踏まえた上で、この章の残りでは3つのブロックで共通用語の確認とそれらの関係について述べられています。1つ目のブロックは「インストラクションに関連する理論の性質」であり、ここではインストラクションを設計理論、ID理論、学習者アセスメント設計理論、カリキュラム設計理論、学習理論、教授のための学習理論と関連付けています。さらにID理論にはいくつかの側面(事象、分析、計画、構築、実施、評価)があること指摘し、最後に各側面をデザインレイヤーの概念に関係づけています。
2つ目のブロックは「教育改革における教授理論の役割」で、教育の改革には新しいパラダイムが必要で、そこでは学習者中心になる必要があることが述べられています。ここで面白かったのは、工業時代のパラダイムでの学校教育は時代遅れだから、新しい教育のパラダイ ムが求められていると述べられていて、その新しい教育のパラダイムって何?と考えてたら、「個別の達成度ベース」ってさらっと書かれていたことです。そりゃそうですよねー。そんなの僕は小学生の時から思ってました。なんでわかりきったことを何度も何度も説明しやがるんだと思って、それを態度にそっと表したら(具体的には他のことをして遊んでいたら)教員に嫌われました。ま、いいんですけどね。
3つ目のブロックは「教授理論の特質:構成概念と用語」であり、教授理論に関わる概念や用語をデルファイ調査(専門家たちへの反復型アンケート調査)を踏まえて整理したり合意を得たりしていき、「推奨された構成概念と用語」の一覧と説明が述べられています。この 一覧と説明はテキストを読んでもらうとして、目からうろこみたいなものが落ちてきたのは、
設計理論=教授方法+教授状況
ってところです。教授方法というのは要するに教え方です。教授状況ってのは要するにどういう人がターゲットで、どうなるのが良いと考えられていて…というような学習者やそれを取り巻く文化も含めた状況ですね。教授方法だけだとバカの一つ覚え(ARCSに基づくのが正しいんです!みたいな)だし、教授状況だけだとKKD的な達人(経験に基づいてその場の状況に応じてある程度の対応は取れる)になってしまう。でもそれじゃ不十分。だから、状況をよくよく分析して、本当のニーズやらなんやらをしっかり見極めた上で、適切な教授方法を選んでいくのがいいんですよ、みたいな話だと僕は解釈しました。
参考文献:ライゲルース・カー=シェルマン(編著)、鈴木克明・林雄介(監訳)(2016)『インストラクショナルデザインの理論とモデルー共通知識基盤の構築に向けてー』.北大路書房
(熊本大学大学院教授システム学専攻 修士7期修了 平岡斉士)