トップIDマガジンIDマガジン記事[062-04]【ブックレビュー】GB3輪読シリーズ:第2章「インストラクションを理解する」(チャールス・M・ライゲルース&ジョン・B・ケラー)

[062-04]【ブックレビュー】GB3輪読シリーズ:第2章「インストラクションを理解する」(チャールス・M・ライゲルース&ジョン・B・ケラー)

第2章「インストラクションを理解する」(チャールス・M・ライゲルース&ジョン・B・ケラー)では、インストラクションの構成概念を整理するための柔軟な枠組みを提供し、共通の知識基盤の構築を助けることを目標としています。

何故インストラクションの共通知識基盤を構築する必要性があるのでしょうか。そのヒントは、本巻の1つ前、本シリーズ第2巻の「インストラクショナルデザインの理論とモデル」(1999年)までさかのぼります。第2巻ではそれまでに提案されたID理論のいくつかを例示していま すが、そこで明らかになったのは、多くの教授理論が先行理論をほとんど無視して構築されていたということです(本巻第1章)。例えるなら、過去にAさんが考えたa理論があるにも関わらず、その理論との重なりや是非を問うこともないまま、Bさんが「私の考えたb理論は素晴ら しいだろう!」と主張し、続いてCさんも「私のc理論は…」といった具合で、さまざまな理論が整理されずに乱立している状態・・・。残念ながら、私は第2巻を読んでいませんが、恐らくこんな感じだったのでしょう。
ある分野が初期段階から成熟段階へと向かうには、お互いの成果のうえに理論を積み上げていく必要があります。しかし、このままでは初期段階から次の段階へは進まないという危機感から、理論家と研究者が互いの成果を積み上げられるような基盤が必要だというのが、本巻が目指した大きな柱の一つだと考えます。

本章では、インストラクションに関する構成概念をまとめ、それらの関係性を表現するための柔軟な枠組みを提案しようとしています。英語の文法が8つの品詞からなるのと同じように、数多くのインストラクションの構成概念を、特定の数で十分な柔軟性のある分類や記述 に落とし込むことで、「インストラクションの文法」を作ろうとしたのです。

インストラクションにとって重要な構成概念は、「教授方法」と「教授状況」の2つの大きな分類に集約されます。

本章では教授方法の分類について整理しています(教授状況は本巻第1章)。教授方法の分類の仕方については、これまでにも多くの提案がされています。しかし教授方法は多様性に富み、1つの概念枠にまとめることが難しく、実践者にとって効果的で有益な枠組みを考え る必要がありました。そこで本章では、文脈横断的に有用であり、多くの教授方法を分類するのに役立つ、「教授アプローチ」、「インストラクションの構成要素」、「内容の系列化」の3つの分類が提案されました。

簡単に言うと、教授アプローチはインストラクションの一般的な方向や道すじ、代表例としては、発見学習、直接教授法、プロジェクト学習といったものが挙げられます。そして、インストラクションの構成要素は、これ以上分割することのできない教授方策(要素)であり、例示、フィードバック、省察といったものが考えられます。この2つの分類を用いてインストラクションを捉えると、最初にアプローチを選択し、どの要素を選択するかを考えることが可能になります。そして内容の系列化は、教授アプローチ、構成要素の両方に適用されます。例としては、具体的、物理的、身近な経験のものから、抽象的、記号的な経験へと組織化(具体‐抽象系列化)、単純な手続きのステップについて、それらが実施される順序に沿って教える系列(手続き的系列化)などが考えられます。

3つの分類は相互に排他的ではないものの、たいていの教授手法は少なくともこのうちの1つには適合するようになっています。但し、各分類から教授方法を1つずつ取り出して活用するだけでは、効果的な教授設計ができるわけではないことに注意が必要です。本章の結論では、教授方法の特徴を理解し、動機づけが及ぼす影響力や状況に依存する効果と効率に関する知識に基づいた、分類間の関係性に対する洞察が必要だと述べられています。

結論までたどり着いたとき、まさに単純に各分類から教授方法を1つずつ取り出したらうまくインストラクションを組み立てられるかも!と読み進めていた自分が、ちょっと恥ずかしくなりました。

とはいえ、「どんな教授アプローチが利用されるべきか?」「このアプローチにおいて最も適切な要素は何か?」「インストラクションはどのように系列化すべきか?」の3つの問いは、教授設計を見直すときの共通言語として使えるのではないかと思います。そして、単な る手段として捉えがちだった、教授アプローチの特徴を理解する必要性や意味を改めて確認することができた内容でもありました。

参考文献:ライゲルース・カー=シェルマン(編著)、鈴木克明・林雄介(監訳)(2016)『インストラクショナルデザインの理論とモデルー共通知識基盤の構築に向けてー』.北大路書房

(熊本大学大学院 教授システム学専攻 博士後期課程 石田百合子)

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