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【ブックレビュー】
『情報リテラシーのための図書館』根本彰著 みすず書房(2017)
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図書館を「情報リテラシーを推進するための装置」と表現して、図書館情報学を専門とする著書が情報リテラシーの概念を解説している書です。『図書館――愛書家の楽園』の「夜の図書館」の紹介から始まり、著者が1枚の複製画の色調を確認した挿話やアニメ『耳をすませば』、『図書館戦争』などを織り交ぜて易しく展開されています。
タイトルにある「情報リテラシー」の定義が2~3章で述べられ、世界的に使われているアメリカ図書館協会(ACRL)の「高等教育のための情報リテラシー能力基準」の定義に基づくとしています。そして、国際的には情報コンテンツへのアクセスを中心に情報リテラシーを捉えられている、一方日本ではIT機器操作スキル中心に捉えていることが具体例を示して解説されています。
リテラシーは読む行為と密接に関係するとして4~5章では、リテラシーが世界一の水準にあった江戸期まで遡って日本における学びや読書について述べられています。まず、武士の学びの場であった藩校と庶民の寺子屋での学び方が述べられています。ここでは、教授者が特定の書の講義をした後に、学習者が円座を組み順番にその書を音読する輪読、講義の内容に関して学習者同士が質問応答方式で理解を確認しあう会読と呼ばれる江戸時代の特徴的な学び方が紹介されています。さらに、身分も年齢も超えた相互集団的な学びであり、江戸期の教育が極めて自由奔放で効果的であったとも述べられています。
また、「江戸時代の学びは、書くことに依って読めるようになり、声に出して読み、さらにそれをもとに検討するところまで行うものであり、基本的にはオーラルな方法に基づいている。」と述べ、明治以降の学校教育では、音読は初等教育のみであり、やがて黙読に移ることを学習目標とするように対照的であるとしています。くわえて、貸本業,大名文庫など図書館が萌芽し始めていたことも示しています。
明治以降の図書館について第5章で述べられています。近代化が推し進められ、義務教育制度により特定の教科書に依った学びとなり、さらにリテラシーは高まったと述べられています。しかし、教育の目的や方法が限定され、情報コンテンツへのアクセスが著しく制限されたことに言及して、学校教育が優先され図書館の整備は蔑ろにされてきたことも示されています。
6~8章では、専門職としての図書館員の配置が現在でも十分でないこと、および教育制度改革の動きに関連付けて情報リテラシー教育を担う図書館の意義が主張されています。
全体として、情報リテラシーの認知プロセスは「事実→情報→理解→知識→知恵」であると述べ、この認知プロセスを学習者自身で鍛えなければ学びを深めることができないと述べられています。そのため、情報リテラシーを体得する必然性が示されています。併せて、図書館のハードとソフトの充実の重要性が述べられています。
ACRLの情報リテラシー概念の理解を手助けできる書と思います。
(熊本大学大学院教授システム学専攻 修士11期修了生 峰内 暁世 )
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