トップIDマガジンIDマガジン記事[067-02]【連載】ヒゲ講師のID活動日誌(63)~ファシリテータとインストラクタとデザイナは何が同じで何が違うか~

[067-02]【連載】ヒゲ講師のID活動日誌(63)~ファシリテータとインストラクタとデザイナは何が同じで何が違うか~

ひげ講師はNPO法人日本ファシリテーション協会主催のファシリテーション・シンポジウム2017基調講演にお呼ばれした(https://www2.faj.or.jp/activity/symposium/s2017/content1.html)。「ファシリテーションであなたの明日と社会の未来をつくる」というテーマで、サブテーマが「他者の実践を自分のチカラに変換する2日間」。その基調講演の演題はサブテーマをそのままいただき「他者の実践を自分のチカラに変換するインストラクショナルデザイン」。ファシリテータさんたちが集まる場所で、講義をする訳にもいかず(どこでもやりませんけど)、IDを知りたいと思っている人が集まっているわけでもないのでいつもの調子でやる訳にもいかず、準備に難渋しました(=直前まで充実した時間を過ごしました)。

結論はこれ(もちろん2枚目のスライドに示したもの)。他者の実践を自分のチカラに変換するためには、真似するだけじゃダメで、基礎となる理論やモデルの目線で他者の実践を分析し、一般化・抽象化のレンズを通してみること。理論やモデルを学ぶためには、それを他者の実践の分析に用いるのと同じように、自分の実践にも応用して具体化すること。これが自分のチカラに変換するという意味でしょう。要するに、コルブの経験学習のサイクルを回すということです。もともと理論やモデルは数多くの実践知から導き出されたものですからね。
これだけ言わせてもらったのでもう帰ってもいいぐらいだ、というのは常套句。そこからが、もちろん、いつも通りに長い。

次なるヒゲ自身への問いは、ご参集のファシリテータの皆さまが、なぜIDを学ばなければならないのか、という疑問をどう払拭し、「それならばIDを学んでもいいかもしれない」と思ってもらうにはどうしたらよいか、というもの。そこで次なる問いを投げかけて、グループ討議・鈴木の私見とその理由の披露・それを受けてのグループ再討議・全体質疑のサイクルを3回まわした。いつものマイクロフォーマット方式だが、冒頭に何も情報提供しないでグループ討議を入れたのが、みんな一家言持っているだろうと想定したベテランをリスペクトするための一工夫。
1)ファシリテータはインストラクショナルデザイナか
2)ファシリテータはデザイナか
3)ファシリテータはインストラクタか
再討議のときは、AはBか、という問いを一歩深めて、「何がそうで、何が違うか」を議論してもらった。いつもながら「鈴木の私見とその理由の披露」の話が長くなるきらいはあったが、ファシリテータさんたちが集まるグループワークは、講師のファシリテーションいらずで盛り上がり、???だらけの2時間になったのではないかと思う。最後の全体質疑に「今演じたあなたの役割は、インストラクタかファシリテータだったのか」と高級な質問を頂戴し、「私はファシリテーションはしなかったです」と答えたぐらい何もしなかった。まぁデザインが良かったからですね、きっと。

もちろん上の3問に正解などない。それぞれがそれぞれの異同について考えて議論し、その結果として、「そう考えれば、そう言えないこともない」という結論をシェアして、何が考え方や印象の違いを生み出しているのだろうか、と考えることが重要である。ただその上で、鈴木の私見とその理由にも一筋の理屈を感じてもらい、そして、それがきっかけとなって「IDをもう少し学んでみてもいいかもしれない」と思ってもらえれば大成功だと考えていた。そのために、1)ではADDIEモデルと出入口+効果・効率・魅力のことや、2)では水戸岡鋭治氏の『電車をデザインする仕事』などからの引用、3)では反転授業やibstpiのインストラクタコンピテンシーを話題に乗せた。これらの材料が議論を深め、誤解を解き、新たな視座を得ることにつながったかどうか、アンケート結果が楽しみである(まだわからない、という意味です)。

最後の問いは、「IDの道具箱には何が入っているか」であったが、ここに来るまでに1時間半が経過していた。残りの30分はARCSモデルの紹介と「この道具はファシリテータにとって有用か」という問いをめぐるグループワークとなった。他にもいろいろな道具があるから、『IDの道具箱101』という書籍もあるし、熊大で様々な形で学びを深めることもできますよ、という宣伝も忘れずにしっかり結んで演台を降りた。

そういえば、インストラクショナルデザイナとインストラクタの違いについては、過去にこの連載でも取り上げたことを思い出した。上記の3つの問いについての鈴木の私見は何か、ということの直接的な答えにはならないけど、興味がある人は以下を復習してくださいませ。
【連載】ヒゲ講師のID活動日誌(42) ~教える内容を知らない教育専門職:教育設計者とインストラクタの違い~(2013年4月3日掲載) http://idportal.gsis.kumamoto-u.ac.jp/?page_id=55&cat=32&n=3712

ちなみに、基調講演の後に昼食をご一緒した当協会の設立者堀公俊氏は、基調講演を振り返り、弁当箱のフタに「コンテンツvsプロセスと実施vs設計」の四象限を描いて、「このあたりがファシリで、このあたりがデザイナかな」と見事な筆さばきを見せてくださった。ヒゲの質問には、「内容を知らないファシリには二回目のお呼びはかからない」という言い方で、ファシリ原理主義はダメだとも答えてくれた。そのあたりもファシリとIDerが似ているのかもしれないですね。

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