「語源由来辞典」によれば、「学ぶ」は、「まねぶ(学ぶ)」と同源で、「まねる(真似る)」とも同じ語源です。そのため、学ぶの語源は「真似ぶ(まねぶ)」とされることも多いようです。「シミュレーション」も、「まねすること」「模擬すること」です。ラテン語の「similis シミリス(似ている)」「simulare シミュラーレ(模倣する)」「simulat(真似た、コピーした)」といった用語から生まれたものとのことです。まねすることから学びにつながっていくわけです。
それでは、教育的なシミュレーションとはどのようなものでしょうか。本書第9章では、次の5つの点から定義されています。
1.物理的または概念的な体系の1以上の動的なモデルであり,
2.学習者に操作に対する状態変化を示すモデルとの相互作用に取り組ませ,
3.非線形論理に従い,
4.1つ以上の教育効果を増加させるように設計された機能による補足を伴い,
5.1つ以上の教育ゴールの追求において用いられる。
そして、次の3つの基準が、教育的シミュレーションの設計にあてはまります。
・適応性(adaptivity)の基準:学習者の行為に基づいて教育経験の特性を変更する
・生成性(generativity)の基準:実行時に教育的な人工物の一部を生成する能力
・拡張性(scalability)の基準:コストが線形増加することなく,より大きなスケールの教育経験を生み出す能力
これらの5つの定義や3つの基準は、熊本大学大学院教授システム学専攻(以下、GSIS)のSCC (Story Centered Curriculum)の「Meet the Mind社」(詳細はランチョンセミナー第6話やIDマガジン第52号を参照)にあてはまるでしょうか。
GSISのSCCでは、MTM社の新入社員になりきって、上司から与えられるミッションに対処していきながら、体系的に学んでいくことになります。学習者は与えられたミッションを取り組む中で同じ科目を履修する仲間からのコメントや各科目の担当教員の指導を受けながら進むので定義1のとおり動的であり、学習者の対応や提出課題によって各科目の担当教員の指導も学習者による成果物も異なってくるので定義3のように非線形です。そして、定義5のようにストーリーを通して学習することの教育ゴールが定められています。
一方で、定義2にある「モデルとの相互作用」の点では、相互作用する対象は、モデルではなく、担当教員であったり同じ科目を履修する仲間であったりします。また、定義4での「設計された機能」も、予め設計されたものとまでは言えず、提出された業務課題へのフィードバックによって教育効果が増大されることになるでしょう。やはり、SCCはSCCであって、シミュレーションとは異なるようです。
また、この章では、教育的シミュレーションの設計原理が、7つの機能(コンテンツ機能/方略機能/制御機能/メッセージ機能/表現機能/メディア論理機能/データ管理機能)の観点から詳細に述べられています。
例えば、「メッセージ機能」については、「メッセージ要素」「メッセージ構造化のためのアプローチ」「実行時のメッセージ構築」という3つの原理が挙げられており、表9.1では「学習者の行動に伴う典型的なフィードバックに含まれるメッセージ要素」として、「正誤の通知」「学習者の反応」「期待された回答」「期待回答の理由」「正しい原理」のそれぞれに対するメッセージの意図が示されています。シミュレーションを用いたアプローチではなくても、学習者のフィードバックを検討する際やeラーニング教材を設計・開発する際の参考になりそうです。
この章の最後では、「シミュレーションは特に強力で、効果的である」と断言しています。「本章が教育シミュレーション設計のための共有知識のための知識の現状を知る一助となると信じている」と結んでいるように、学習の効果・効率・魅力を高めるための教育的シミュレーションおよびマイクロワールドを取り入れようとしている方は、設計ガイドラインとして本章を参照してください。真似ることから学びましょう!
(熊本大学大学院教授システム学専攻 博士後期課程 谷塚光典)
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ランチョンセミナーは、熊本大学eラーニング授業設計支援室が主催するeラーニングを中心とした学びに関する研究や実践に関する情報交換の場です。毎週水曜日お昼の時間に行っています(現在はお休み中)。2016年度はGB3の輪読を行いました。 詳しくは以下からどうぞ。
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