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【連載】ヒゲ講師のID活動日誌(119) :アカデミックインテグリティとは何かを教えることの大切さ

ヒゲは2026年8月22日名古屋のカラオケ屋さんにいた。歌うのは大好きなのだが今回は歌うためではなく、そこのパーティー会場を貸し切って開かれた第77回まなばナイト@名古屋に参加するためであった。テーマは「新版『学習設計マニュアルVer.2「おとな」になるためのインストラクショナルデザイン』を読み解く」。第1版から第2版に装いを新たにした書籍の中身の何がどう変わったかを徹底比較しようということで集まった兵ども。登場人物の高橋君と佐藤さんが入れ替わってリケジョを意識した配役になった、とか、男性も「君」ではなく「さん」づけになったね、とか、章の順序が入れ替わった箇所が2か所ある、とか、大幅に書き換えられた章がある一方で、あまり変わっていない章もある、などなど、鋭い指摘が乱れ飛んだ。ヒゲは、その背景にどんな考え方があったのか、と詰め寄られ、いつもならば美酒をゆっくり楽しんでいるところだが、その余裕もなく、とても濃密な対話時間を過ごした(詳細にわたる議論の様子は実施報告に述べられている(https://www.manabanight.com/info/manabanight77report)。

大幅に改訂して章の名前も新たにした第1章「自分の現在地を知る」では、アカデミックインテグリティが強調されている。アカデミックインテグリティ(Academic Integrity)とは、学問的誠実性を示す基盤概念であり、正直、信頼、公正、敬意、責任、勇気といった価値に基づく行動原理として国際的に整理されてきた(表1)。海外では30年以上にわたり研究が蓄積され、重点が、不正防止や規範遵守から、学習者の主体性や判断力を育成する教育的アプローチへと移っているとのこと。生成AIによって、誰が著者なのかの特定が困難な時代になった今こそ、学問的誠実性の重要性を冒頭でしっかり紹介して自らの行動を振り返ってもらいたい。この改訂の背景にはそんな思いがあった。読者諸氏自身はどうだろうか。読者が提供する学習環境ではこの大事なことをしっかりと伝えているだろうか。

表1 学問的誠実性の6つの基本的価値(ICAI 2021)
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価値            説明
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正直Honesty 偽りなく真実を語り誠実さの基盤となること
信頼Trust 他者の真実や能力を信じる基礎となること
公平Fairness 偏りなく公平に扱い倫理社会を築くこと
敬意Respect 自分と他者を尊重し多様な意見を評価すること
責任Responsibility 自らの行動に責任を持ち不正に立ち向かうこと
勇気 Courage 恐れず信念に従い困難に立ち向かうこと
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出典:鈴木・美馬(編著)(2026)『学習設計マニュアルver.2』北大路書房、p. 5、表1-2より引用

教育システム情報学会(JSiSE)では2026年度から研究活性化委員会のもとにSIGが設立された。その中の一つが「アカデミックインテグリティと学習デザイン」(略称:SIG-AID)である。SIG-AIDのWebサイトによると、その意義は次のように説明されている。「近年、生成AIをはじめとする学習支援ツールの普及により、学習者は自らの学び方や行動選択に、これまで以上の責任を負う状況に置かれている。このような学習環境においては、学習者のエンゲージメントの質を高めていくうえで、学びに向かう誠実性が一層重要になると考えられる。本SIGでは、アカデミックインテグリティを単なる不正防止の問題としてではなく、学習者が自らの学び方を誠実に選択・判断し、その結果に責任を持つ態度として捉える。インストラクショナルデザインをはじめとする教育工学の観点から、日本の教育におけるアカデミックインテグリティの学習デザインについて検討する(https://sites.google.com/view/sig-aid/?pli=1&authuser=0)」

思い起こせば、ICOME2025でのワイリーの基調講演でもカンニング問題に対する解決策は二つあると言っていた(本連載の113回で紹介済み)。その一つがイタチごっこを避けるために、「正直さと誠実さとを重視する手助けをして、脅威を与えるのではなく、鼓舞させること」。何がダメでどういう態度が望ましいかを教えることなしに、「水は低きに流れる」のを放置してはいけない。学問的誠実性とは何かを学んでもらう機会がしっかりあるか、点検する必要がありそうだ。

それにつけても、ワイリーの第二の解決策が改めて想起される。それは、「現在の学習活動と課題が意義があり、興味深く、有意味だと感じられるものかどうかを徹底的に見直すこと。答えがYesならば、学生は時間・努力・情熱を投資するだろう。俺は教師だから俺の指示に従え、という両親のような態度ではダメだ。学生が有益と感じられる学習活動や課題を作るのは、プロである教員の責任」。この言葉を胸に、改めて、学習者にとって有意義でチャレンジングな課題づくりが大切なデザイナーの仕事である、ということを忘れないようにしたい。

学問的誠実性とは何かを学べば「まじめな人」は今までの自己を振り返り、誠実であった側面を確認してそうでなかった側面を補おうとするだろう。他方で、「まじめな人」でない人は、「水は低きに流れる」という行動原理に従って、今まで通り抜け穴を探し続けるかもしれない。「カンニングしないことのインセンティブがカンニングすることのインセンティブを上回らない限り、このイタチごっこは続く」というワイリーの指摘通りになる。つまり、授業で求められていることが自分にとって有益であり、取り組む価値があるものだという納得感が得られない限り、抜け穴探しとそれを防止する方策の強化というネガティブな連鎖が続く。その負の連鎖を脱却するためには、「挑戦的な企て」と呼べるレベルの高い学習経験の場を提供するためのデザインが、生成AIの時代に(も)求められているということですね。「挑戦的な企て」レベルの学習経験をデザインするという行為自体が「挑戦的な企て」なので、デザイナーの腕の見せ所、ということ。失敗を重ねて洗練していく時間のかかるプロセスになるだろうが、やりがいが十分あるのが「挑戦的な企て」なのだから。

(ヒゲ講師記す)

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