ヒゲ講師は6月のとある日、名も知らぬ海外の研究者から一通のメールをもらった。「Creation and cultural validation of an ARCS motivational design matrix」というタイトルのあなたがケラー教授と発表した原稿を探しているのだが助けてもらえないか、と。そんなタイトルの発表は、やった覚えがない。一番近いものはJSISEの全国大会で発表した「Using ARCS motivational design matrix: Designing units using computers at Sendai Daiichi Junior High School」というものだった。たまたまケラー教授が来日中だったので、金沢方面に旅行するついでに、仙台一中で実践したARCS簡略版マトリックスについて発表したもの。IDポータルに発表原稿の脱稿時のものとおぼしき一次情報があったので、そのリンクとともに返信した。「これですか?」に対してすぐ、「そうです、それが探していたものです。助かりました、ありがとうございます。」と返信があった。
何らかの役に立てたようなのだが、どうも腑に落ちない。なぜ、異なるタイトルなのに、「そうです、それが探していたものです。」と断言できたのか。そもそも、へんてこりんなタイトルはどこから探してきたものなのか。いわゆるハルシネーションで生成AIさんがでっち上げた文献だったのだろうか。それはともかく、久しぶりに見たWebに公開中の30年も前に発表した予稿集脱稿時の原稿からは、肝心な表1が欠落していることに気づいてしまった。しかし、タイミングよく、古い荷物の整理中に紙に印刷された表1に遭遇。スキャンして、「欠落した表1を発見したのでこれも送っておきます」と再返信(なんて親切!)。「ありがとうございます。これは役に立つかもしれません」と返信があった。「かも」だから、すでに役割を終えた情報なのかもしれない、と思ったが、義理は果たせたということで満足した。あとはこの表1をIDポータル上の原稿にも追加しなければならない(まだやってません、そのうちやります・・・)。
この手の照会には、できるだけ応じるようにしている。それは、せっかく欲しいと言ってきてくれた同輩研究者への責務だと思うからである。しかし同時に、それが単なる手間だけに留まらず、今回のような情報の欠落などの不備に気づくチャンスになることもある。ちなみに、2000年前後に発信した情報には不完全なものがあることが知られている(自分には)。今思えば、Webへ公開するときに、テキスト情報だけをとりあえずアップして、図表はあとから追加しよう、と思っていた。それほど、多忙な時期だった。もちろん、それがそのまま、20余年もの間、放置されていたことになる(申し訳ないです)。このアーカイブの完成度を高めるプロジェクトは、おそらく引退後に本格的に着手することになりそうだが、それまでは場当たり的にでも、リクエストがあれば応じていきたいと思っている(遠慮なくどうぞ)。
先日も、GSISで修士論文に取り組む学生から「ARCS科研の報告書が見当たらないが、その中にある質問票の出典情報が知りたい」というリクエストを受けた。過去の修士論文で引用元が示されているが、出典が英語論文なのに質問票は日本語で書かれている。出典として記されている英語論文の前には日本語で作成された質問票があるはずだ、ということである。科研の報告書は最近はWeb公開するのが常であるが、当時は冊子体の報告書を作成して提出していた。当然、冊子体の報告書は手書きで作っていたわけではなく、デジタルデータを入稿していたので、オリジナルデータはどこかに存在する。そもそも報告書の類は、IDポータルで全部公開しているはずである。が、ARCS科研の報告書は見当たらない。そういう不備が、リクエストを受けるたびに露呈するのである。当面の措置として、リクエストしてくれた学生には、デジタル版の報告書のデータを探して、それを共有した。次に、これをIDポータルでも公開しなければならない(まだやってません、そのうちやります・・・)。当面、発掘されたARCS科研の成果物「ARCS改善ガイドブック」への仮置き場所リンクを示しておこう。ここにも「ARCS評価シート」の項目が含まれています。
https://ichi-lab.net/suzukilab-archive/jaja/arcsguidebook/check_arcs.cgi?mode=teacher
ところで、冒頭の問い合わせにあった「Creation and cultural validation of an ARCS motivational design matrix」という妙なタイトルがどこから来たのか、という謎が解けた。問い合わせメールをもう一度よく読むと、このタイトルが参照されていたのは、ケラー教授と共著で書いた別の論文(Keller & Suzuki, 2004)であると記されていた。え、そんな馬鹿な。だれが創作したタイトルなのかわからないが、確かにそう書かれているではないか。この文献の参考文献としてリストされたおかげで、CiNiiにも間違った文献情報がエントリーされてしまっている。これだけ類似していて、しかもその出所が私らだとすれば、「そうです、それが探していたものです」と直感できたことにも、うなずけた。生成AIさん、ごめんなさい。妙なタイトルは、ハルシネーションではなく、人間の作業の不正確さ・いい加減さが原因でした。みなさま、文献情報は正しく書きましょうね!
追記:
ARCS科研の成果も仙台一中で開発した簡略版マトリックスも、そういえば、ケラー教授の単著(とその和訳)では紹介されているはずだ。両方とも書籍は手元にないので、クラウド上のデジタル情報アーカイブ(非公開)を探した。しかし、見つからない!
いったいどこに保存されているのだろう・・・。捜索対象がまた増えてしまった。
(ヒゲ講師記す)
参考文献
Keller, J.M. & Suzuki, K. (2004) Learner motivation and E-learning
design: A multinationally validated process, Journal of Educational Media, 29(3):229-239,DOI:10.1080/1358165042000283084
Keller & Suzuki (2004)で用いられた誤った文献情報
Suzuki, K. & Keller, J. M. (1996) Creation and cultural validation of an ARCS motivationaldesign matrix, paper presented at the Annual Meeting of the Japanese Association forEducational Technology, Kanazawa, Japan.
https://cir.nii.ac.jp/crid/1573105976169261184
正しい文献情報
Suzuki, K., Keller, J. M., & Computer Project Team (1996). Using ARCS motivational design matrix: Designing units using computers at Sendai Daiichi Junior High School. A paper presented at the 21st Annual Meeting of the Japan Society for Informatics and Systems in Education, Kanazawa, JAPAN [Available online]:
https://idportal.gsis.jp/~idportal/wp-content/uploads/1996b.html

