ひげ講師のこの夏の熊本滞在率は、約1割だった。つまり月平均三日程度。もともと熊本の夏はひげ講師の身体には厳しすぎるので、他へ他へという逃避行動癖はあった。でも見事にこの夏は居なかった。まあそれだけ充実していたということでもあり、熊本の仕事はオンラインだから熊本以外に居てもできることの証でもあった。
ハワイで初開催のICOMEから帰国して三日間、熊本で立て直した後、ネパールに向かった。ネパールから帰国したあとは、その足でJSISE全国大会を皮切りに岡山・名古屋・東京・仙台・東京と移動して熊本に戻り(この間約1か月)、熊本で三日間立て直した後に札幌・函館・盛岡・松江(JSET全国大会)・大阪・東京・千葉・岡山・仙台・岐阜とまわって合宿までの再び約1か月はノマド生活。書いただけでも目が回りますが、読んだだけでも目が回りましたか?
なぜネパールへ?
JICAのプロジェクトで現地講師を務めるため。JICAプロジェクトでは、これまでミャンマーやトルコ、フィジーなどで色とりどりの分野でIDに基づく助言をしてきた。そのうちのいくつかは、この連載でも紹介してきた(連載21・35・39など)。今回のネパールは、第39回でご紹介した「甘美な」アレンジメントの続編ではあるが、分野は全く異なる地方行政官の育成。このプロジェクトは地震の影響で開始が数年遅れたものの、現在地方分権を進めるネパールにとって、その成否を分ける重要なもの。そう聞いては、熱も入るというもの。毎回2週間程度3年間の貢献を約束した第1回目の渡航でありました。
どこの国でも、どの分野でも研修設計の問題は同じだ。何しろ講師がしゃべりたがる。ずっと座って聞いているだけの研修は「頭脳移植型(Knowledge Transfer Model)」といって批判されるダメなものですよ(Brain Dumpとも揶揄されている)。しゃべるだけが研修じゃない。まずはこの道具を使って現状を確認してみましょう。そう言って紹介する道具は恩師ガニェの9教授事象。たちまち事象4しかやっていない現状が明るみに出て、確かにしゃべるだけじゃぁダメ、インプットだけではダメで、アウトプットが大事であることが分かる。何といっても9個の事象のうち、3・6・8・9はアウトプットですからねぇ。
でもその前に、インプットの中身もよろしくない。抽象的な中身が中心で、事例が示されない。講師によってはそのあたりの差があるようだが、せっかくID的に分析して学習目標を作り、事前事後テストをやっているにもかかわらず、あまり具体的なイメージを持てない研修に終始してしまう。もっと現実を反映した中身にしましょう。学習目標として目指すのは、暗記ではなく応用。そんなもの覚えても仕方ないから、見ながらできることを目指しましょう。やっているうちに参照回数は減って覚えてしまうものですよ。Show meですよ、Tell meじゃなく、とID第一原理へつなげる。
そもそも研修目標の設定がお勉強に留まっていて、研修後の行動変容を促す中身じゃない。研修といえばお勉強、そのあとの応用は研修後に現場で。この二分法がまずいのですよ。この点はカークパトリックが評価の4段階として明確に区別しています。レベル2の研修をレベル3につながる中身としてデザインしましょう。研修の冒頭から現場の問題を提示して、自力で考えさせて、解決できないことを確認してから解決事例を示す。類似事例で練習してできるようになれば、現場に行っても同じような問題には対処できるようになるでしょ?
これをIDの第一原理と呼びます。使えるでしょ?
まぁどこに行ってもひげ講師がやることはあまり変わらない。それだけIDは汎用的な問題解決の枠組みであるという証左でもあるわけです。
今回のネパールでは、9教授事象もろくにできていない現状に対して、レベル3やID第一原理までを一気に視野に入れて、研修の大改革を目指した。このやり方は、「一度にやりすぎ」だと批判されても仕方ない乱暴なインプットであったことは自覚している。でも、インプットそのものは理論やモデルの紹介ではなく、それをどう応用して何をどう変えるかを例示して考えてもらう形式であった。そうでないと、紺屋の白袴になってしまいますからねぇ。短い滞在ではあったが、来夏にネパールを訪れる頃までには、9事象だけでなく第一原理も踏まえた研修のサンプルができていることを宿題として、現地を後にした。さてどうなることか、来夏の訪問が楽しみである。
今回は観光の「か」の字もできなかったネパールであったが、次は地方都市にあるセンターの訪問も含めてもらい、少しはネパールの田舎も見てみたい。そのアレンジも含めてプロジェクトリーダーの采配で、プラスαも期待してまた彼の地を訪れることとしよう。むろん、どこにいてもオンラインでの仕事は抱えていくのだが・・・。
(ひげ講師記す)