「深い学びを得るにはいったい何が必要なのか?」帯に書かれたこのテーマ、IDを学び取り組む中で私たちが日ごろ考えていることと同じですね。「価値を見いだす」「目標を決める」「能力を伸ばす」「発展させる」「関係づける」「再考する」という6つのステップで書かれている内容にはIDとの類似点・共通点が非常に多く、我らが鈴木先生の『学習設計マニュアル』にも通じるものがあります。
IDとの相違点を考えながら読み進めると、IDのモデルや理論、基本的な考え方などに対する自分の理解度やスタンスの確認になります。全編に“Learn Better”のための具体策がちりばめられているので自分自身の学習方略として活用できるのはもちろんですが、翻って考えることで自分が携わる教育活動についてのインスピレーションが得られる側面もあります。疑問や興味を抱いた部分について参考文献をたどれば、学びが広がり新たな研究の種が見つかる可能性もあるでしょう。個人的には、自分が息子の学習に対してどのようにかかわってきたかをふり返ったり、今息子がどのように学ぶことに向き合っているかを客観的に考えたりすることにもつながりました。
改めて考えさせられたのは、深い論理的思考や推論思考など脳が高度な活動をするためには理性と感情の両方を必要とするということです。「頭の中が平穏でなければ頭の奥深くで理解することはできない」「自分にはできる」と思わなければ学習はできない」というのは自分にも思い当たる節があります。私が仕事で向き合っているのは外国人留学生ですが、彼らが抱える様々な事情を考慮し心や頭の中を整えるのに自分(たち)がすべきことにはもう少し工夫の余地があるように感じました。この本は、学習困難を抱えていた著者自身の経験と多くの参考文献に基づいて思考のスキルを身につけるための知見がまとめられたものです。これまでの経験、知識、偶然知り得たこと等と照らし合わせたり統合したりしながら読むと、一人ひとり異なる気づきが得られるのではないかと思います。
“本当にここに書かれていることは正しい?”“読んだ部分に何が書いてあった?”“書かれていたことを要約するとどうなる?”等々、読みながら自分に問いかけることで読むことは脳を働かせる「活動」になるとあります。秋の夜長に、2017年アメリカAmazonのベスト・サイエンス書『Learn Better』でアグレッシブな読書はいかがですか。
(熊本大学大学院教授システム学専攻 修士11期修了生 土屋理恵)
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