この本は、熊本大学教授システム学専攻同窓生の荒木恵さんの書かれた本です。出版を聞き、また、この本を題材にしたまなばナイトが企画されたこともあり、読んでみました。この本の重要なメッセージは副題「成果から逆算する“評価中心”の研修設計」にあります。企業などの研修では、研修がいくら素晴らしくとも、その成果が仕事に反映されないと、意味はありません。そのことを伝えたいのだな、と思いながら副題を読みました。すると、やはり、この当たり前だけれども、見過ごされがちなことからこの本が始まっていました。(Chapter 1:ビジネスゴールから、組織の学びをデザインする)
また、Chapter 1ではゴール設定の重要性を説明しています。ここで、ビジネスゴールとパフォーマンスゴールを分けて捉えています。パフォーマンスの向上(社員の行動)がビジネスゴール(売り上げなど)につながることをわかりやすい図で示しています。わたしは図を眺めながら、今の職場である大学では、パフォーマンスゴールとビジネスゴールはどう繋がっているのだろうと、考えてしまいました。そして、この視点、うちの職場でも重要だなと思いながら、読み進めました。
Chater 2では、パフォーマンス分析について書かれています。ここで重要なのがギャップの明確化です。そりゃそうだ。パフォーマンス向上のためには、どんなギャップがあるかを明確にしなければ、と、また、わたしの頭は自分の職場でのギャップを考え始めました。
Chapter 3にはお馴染みのID理論がいくつも出てきます。「ID5つの視点とその関係図」「ケラーのISDモデル」によって「逆算」の意義について解説した後、「ガニェの9教授事象」「学習課題の種類と学習法略」「ARCSモデル」「ID第一原理」「TOTEモデル」「キャロルの時間モデル」「カークパトリックの4段階評価モデル」について紹介されています。これらのID理論を実際の研修でどう活用するか、それが、わかりやすく書かれています。
Chapter 4は事例です。医薬品メーカー2社と電機メーカー1社の事例が取り上げられています。それぞれに「データドリブンな現場マネージャー育成型」「未来の事業環境から逆算型」「高市場担当者のハイパフォーマー短期育成型」というタイトルがついています。マネージャーの育成に焦点を絞ったもの、全社員向けのもの、そして短期育成と、研修を異なる角度から眺めることができました。そしてやっぱりここでも、じゃあ自分の職場では、どんなゴール設定をしたら良いのだ、と考えさせられました。
最終章は、著者の荒木恵さんと鈴木克明先生との対談です。「日本でIDが普及しないのはなぜか?」という刺激的な小見出しがありました。対談の中で、荒木さんは「確かに、IDを導入して人材育成の仕組みを変えるのは、パワーとコストがかかります。」と述べています。そのパワーとコストに見合うだけのデータを見せることの重要性、伝わりました。鈴木先生の言葉で印象的だったのは、「数値で可視化するのは、伸びしろを測るためにやるものです。」でした。数値はランクづけのためだけにあるものでない、ということです。これも、しっかり伝えられました。
わたしは読みながら、自分の職場では? とか、自分なら? といろいろ考えることが多いのですが、この本を読みながら、うちの職場の人材の「職場での望ましい職務遂行能力」も、間違いないく、言語化して定義する必要のあるものだ、と思いました。
最後に、鈴木先生が「AARサイクル」について話しています。「受講者が状況を見通し(Anticipation)、必要な行動を起こし(Action)、振り返り(Reflection)を継続して自分の考えと改善していく力を養うサイクル」です。表紙の歯車はAARサイクルを表しているのでしょうか。ステキです!
(熊本大学大学院教授システム学専攻5期生 竹岡篤永)