トップIDマガジンIDマガジン記事[079-03]IDマガジン 第79号【ブックレビュー】GB3輪読シリーズ: 第17章「理論の構築」(チャールス・M・ライゲルース,ユン=ヨ・アン)

[079-03]IDマガジン 第79号【ブックレビュー】GB3輪読シリーズ: 第17章「理論の構築」(チャールス・M・ライゲルース,ユン=ヨ・アン)

新しいID理論を作り出すには、どうしたらよいのか。本章を読むにあたり、私の関心はこれでした。

本章は、教授理論を開発するための指針を提供することを目的として書かれています。

まず最初に述べられているのは理論と研究の基礎です。エッセンスをまとめると次の4点でしょうか。
(1)本章では、設計理論と記述理論(この違いは、第1章で説明)の両方の知識を同時に構築することを推奨しています。しかし、本章は設計知識の構築方法に焦点を当てています(記述理論の構築方法はすでに多くの記述があるので)。
(2)本章では、機能的文脈主義を採用することを強く支持しています。機能的文脈主義というのが難しいのですが、私の理解だと、類似の状況に応用できる実践的なもので、なおかつ教育改善を試みている人々の心のよりどころになるものが、ホンモノの設計理論だと考えることでしょうか。
(3)設計理論の研究上の関心は「好ましさ」です。これは実用性重視と言っていいと思います。
(4)本章では、理論開発の初期段階では方法や設計理論を「改善するため」の研究を、成熟段階ではある方法が別の方法よりも良い方法であることを「検証する」研究を勧めています。

次に、設計理論を構築するためのアプローチとして、次の4つを挙げられています。
1.データ中心型(data-based)理論開発
2.価値中心型(value-based)理論開発
3.方法中心型(methods-based)理論開発
4.実践者主導型(practitioner-driven)理論開発
1は「何がうまく作用するかというデータをもとに機能的に理論を構築すること」だそうです。一般的には「グラウンデッド理論開発」という方法が用いられます。
2は「価値観」を中心とした理論開発です。たとえば、「学習プロセスを振り返る能力を開発することは重要である」といった価値観があって、この価値観を具現化する学習(教育)方法を考え、実施し、この方法がどれくらいうまくいくか、改善点は何かを検証していきます。「形成的研究」と「デザイン研究」が有効な手段とされています。
3は「データ中心型」と「価値中心型」の合わせ技のようです。一般的な方法を選択して、それを適用したい状況にあわせてより精緻にカスタマイズして実施し、この方法がどれくらいうまくいくか、改善点は何かを検証していきます。ここでも「形成的研究」と「デザイン研究」が有効な手段とされています。
4は実践者の直感を重視したアプローチです。まずは用いられている状況を整理して、たいていの場合は暗黙知なのでそれを明示して、今やっている方法を精緻化します。そして、明確になった方法を別の状況でも試してみて、更なる改善について検討します。ここでも、「形成的研究」と「デザイン研究」が有効な手段とされています。

以上の4つのアプローチにおいて、研究方法としては次の3つが出てきました。
1.グラウンデッド理論開発
2.デザイン研究(DBR)
3.形成的研究
この3つの研究方法の概要は本章に書いてありますが、もしご自身の研究で使おうとお考えでしたら、グラウンデッド理論開発とデザイン研究(DBR)は、いくつか書籍があるので詳しい解説はそちらにゆずります。形成的研究は、本書のシリーズの2番目、通称GB2の第26章で、本章の著者であるライゲルース先生が解説していますのでご興味ある方は参考文献をどうぞ。
個人的には、デザイン研究と形成的研究がかなり似ているように思えて、どこが違うのか(どう使い分けるのか)が今一つわかっていません。とりあえずの理解として、デザイン研究の一形態が形成的研究としておきます。

本章の締めくくりのメッセージとして「我々は教授理論を構築するすべての人に対し、共通の知識基盤を継続的に改善することを目指して、インストラクションに関する共通の知識基盤を拡大させるという文脈の中に自分の研究を位置づけることを勧める(p.418)」とありました。教育(学習)設計においては、常に改善を続ける姿勢を大切にしつつ、ある段階に至ったら論文投稿しないとなぁと、改めて思いました。

最後に、私もコアメンバーの一人である日本教育工学会SIG-07(インストラクショナルデザイン)にて、昨年から本章を題材にした勉強会(自主ゼミ)を開催しています。宣伝で恐縮ですが、今後もこのような自主ゼミを開催していきたいと思いますので、ご関心がある方はホームページ(https://www.jset.gr.jp/sig/sig07.html)などをウォッチしていただけると嬉しいです。

参考文献:
Formative Research: A Methodology for Creating and Improving Design Theories. Instructional-design Theories and Models: A New Paradigm of Instructional Theory, Volume II: 2 (Instructional Design Theories & Models) (p.633). Taylor and Francis. Kindle 版.

(熊本大学大学院教授システム学専攻同窓生 高橋暁子)

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