「エッセンシャル」を説くだけあって、内容の本質にぶれがない。言いたいことは、「自分の持てる資源を本質に集中せよ。さらば、最大の果実を収穫することができる。」とまあ、そんなところになるでしょうか。大手オンラインショッピングサイトのレビュー欄には、「仕事や生き方の参考になります」という類いのことばがあふれているのですが、IDマガジンの読者なら、これを教材作成、教育カリキュラム・プログラム、そして、学習プランなどに役立てることができるのではないかと思います。
例えば、教育プログラムを考えているとき、ついつい、あれもこれもと欲張りな目標を盛り込んでしまうことはないでしょうか。いやそれではいけないと、挙げた目標を減らす場合、よりどころとなるのは、その教育プログラムで達成したい本質的なこと、ということになるのではないかと思います。本質は、だからといって、抽象ではありません。この本での本質目標は、「具体的かつ魅力的」「意味があり心に残る」とされています。IDに通じるとこと大な捉え方だと感じました。
各章にちりばめられた「非エッセンシャル思考/エッセンシャル思考」の対比もID的に参考になると思いました。例えば、非エッセンシャル思考は「選ぶ余地がない」。それに対応するエッセンシャル思考は「自分で選び取る」。なるほど。学習者に自ら選び取らせる工夫は、本質に集中させるためにも効果がありそうだ、と気付かされます。「良くすることは、何かをつけ加えること/良くすることは、何かを削ること」という対比も、教材やプログラムを開発する上で参考になりそうです。
学習者として学習に取り組むときには、次のような「非エッセンシャル思考/エッセンシャル思考」の対比を心にとめておくとよいかもしれません。「どの選択肢も平等に扱う/決定的に重要なことだけをとる」「どうすれば全部できる?/何に全力を注ぐ?」「声の大きい意見に反応する/ノイズのなかにシグナルを探す」「やりつづければ、いつか報われるはずだ/今これをやめたら、何に時間とお金を使えるだろう?」「過去と未来に引き裂かれている/現在に集中している」
すべてがすばらしい教材・プログラムというわけではないのですから、自分自身で何が自分にとって重要かを選ぶことが大切になると感じました。
わたしに関して言えば、なんとなく考えていたことがこの本を読むことによって形になり、関わるプロジェクトを減らすことを決意し、そう上司に告げました!
(熊本大学大学院教授システム学専攻 修士5期修了生 竹岡篤永)