トップIDマガジンIDマガジン記事[127-02]【連載】ヒゲ講師のID活動日誌(102) :スタートダッシュに寄り添うことについての情報検索の旅

[127-02]【連載】ヒゲ講師のID活動日誌(102) :スタートダッシュに寄り添うことについての情報検索の旅

ヒゲ講師は、大学生活のスタートダッシュをどのように支えていくか、について専門家としての意見を求められている。専門家としての意見を求められたときに避けては通れないのは文献調査である。パソコンに向かい、ネット検索をして、有益な情報を整理している中で、様々なヒントに出会う。例えば、大学の入学前準備からオリエンテーション、履修登録、2年次進級、卒業、就職、同窓生になるまでの感情の動き・理想的経験・大学としての責務などを図示したStudent Journey Map。これは使えそうだ。準備度・成果・分析・決定の4要素を同定してルーブリック化したStudent Success Analyticsの枠組み。これも役に立ちそうだ。便利で使えそうだなと思うものが一つ見つかると、その参考文献のリンクをたどり、また次が見つかる。大半が英語で書かれているため、それを届けようと思うと、懐かしい作業(すなわち翻訳)をする必要に直面する。いつになっても、DeepLの時代でも生成AIがあっても、やっぱりヒゲの仕事には、いわゆる「横のものを縦にする」要素は続くようだ(生成AIを使っているの、と聞かれると困ってしまうが・・・)。

 

そんな検索の過程で引っかかってきた情報の一つ「大学1年生の学び体験を高める方略」を紹介しよう。大学1年生だけでなく、組織に新しいメンバーを迎える時のケアの大切さはオンボーディング(onboarding)というキーワードで重要事項として企業でも扱われている。「大学1年生」を「新人」と読み替えるとより広い場面で参考になりそうだ。ところでこの提案自体は20年も前に出版された書籍の中で書かれた情報のようだが、著者が2022年にResearchgateにアップしたことで、今回の検索での発見に至った。情報そのものは古いが、まだ使えそうなので、あえて要約(含む「超訳」)してみた。

 

大学1年生の学び体験を高める方略(Cuseo, 2005)

1. 大学1年生にアドバイザーと会うように仕向ける強いインセンティブを与える。

最低でも履修登録前に一度、アドバイザーに面会することを義務付ける。勝手に科目を選択して登録させることはリスキー(とくに1年生は)。履修登録のための一連の手続きとしてではなく、長期計画を議論できる余裕のあるタイミングで面会を設定すると良い。

2. アドバイザーとして有能な教員を見つけて彼らを「最初に使う」、つまり、大学1年生の担当として学生の大学経験の最初を担わせる。

大学のリソースを入学直後の学生に重点的に割り当てることが効果的。 最初の数週間での教員との出会いが大学での成功のカギになる。

3. 初年次のカリキュラムに組み込むことで、早くから大学生活とキャリアの計画を立てさせる。

最初の学期の独立科目(あるいは必修科目の一部)として大学での学びと将来のキャリアを結びつける学習活動や課題を課すことで実現できる。卒業後の進路を想定し、履歴書を書いたり、ポートフォリオをまとめることで、現時点での自分の実力として何が主張できるかを考える機会とし、それをアドバイザーと共有し、学習計画を立案する。アドバイザーが1年次必修科目の担当教員を兼任できると関係の継続と進化にさらに効果的。

4. アカデミックアドバイスとキャリアカウンセリングの担当部署を統合する。

学生の成功に向けてのワンストップサービスの機能を果たす。

5. 進路を決めかねている学生のためのオフィス・センター・部署を確立する。

不安感を抱える学生が安心して学習計画を立てたり意思を決定するプロセスを支援する「避難所」として機能させる。

6. 大学1・2年次に経験学習の機会を与え、多様なキャリアの現実を早い時点で認識できる機会を設ける。

多様な職種で働く人々にインタビューしたり、典型的な仕事の一日に随伴(Shadowing)したり、ボランティアやサービスラーニングの機会を持つことなどで実現できる。授業に卒業生を招聘したり、セミナーを開催したりし、参加した学生にリフレクションレポートを書いてもらうのも効果的。

 

出典:Cuseo, J. (2005). “Decided,” “undecided,” and “in transition”: Implications for academic advisement, career counseling, and student retention. In R. S. Feldman (Ed.), Improving the first year of college: Research and practice (pp. 27-50). New York: Erlbaum. Available from: https://www.researchgate.net/publication/359560162_Advising_Undecided_Students_Research_Practice [accessed Nov 15 2023].

 

どうだろうか。やっぱり企業への転用には少し工夫がいるかもしれませんね。

 

この記事を書くときに思いついたOnboadingというキーワード。これも探索してみる価値はありそうだ。なぜならば、大学1年生→新入社員への転用は困難だとしても、その逆は踏まえておく必要がある(なぜならば、大学で育てた者が巣立つ先は企業だから)。

 

かくして、検索の旅は続くのでした。

 

(ヒゲ講師記す)

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