トップIDマガジンIDマガジン記事[122-03]【ブックレビュー】『タブレットは紙に勝てるのかータブレット時代の教育ー』赤堀侃司著,ジャムハウス(2014)

[122-03]【ブックレビュー】『タブレットは紙に勝てるのかータブレット時代の教育ー』赤堀侃司著,ジャムハウス(2014)

「タブレットは紙に勝てるのか?」
結論からいうと,タブレットは紙に勝てないと著者は主張する.
タブレットや紙を含めたメディアには,それぞれ特性があるので,学習にはそれらの特性を活かしたブレンドが良いとの考えを示しているのが本書である.
本書は,教育工学分野で著名な赤堀侃司先生(東京工業大学名誉教授)が書かれた本である.

 

本書では実証実験の結果を用いて,紙,タブレット,PCといったメディアの特性を述べている.その実証実験の結果を一部紹介する.
紙は,下線を引いたりメモしたりしやすい特徴を持っているが,疲れ易い傾向があるという.一方,タブレットは,下線引きやメモ等はやりにくいが,もう一度触ってみたいという動機付けに効果的であることから,飽きないで学習しやすい特徴があるという.そして,PCは下線引きやメモなどはやりにくく,同時に疲れ易いので,紙やタブレットに比べると魅力が下がる傾向があるという.

 

これらのことから,紙は基礎的問題や知識・理解の問題に有効なメディアであり,タブレットは応用的問題や理解・総合の問題に有効なメディアであり,PCは特に目立った特性が見受けられなかったことを本書の中で報告している.
紙は文字や文章を中心とした内容に対して有効であり,学習者の思考がそれらの文字や文章に集中し,その記述された範囲における文章理解では極めて有効であるという.しかし,さらに発展して思考を拡散することには適していない.つまり,決められた範囲の定期試験や資格試験などには,紙は強力なメディアになるが,それ以上を期待することは難しく,学習することに飽きたり疲れたりするということを実証実験の結果を用いて示している.
これに対してタブレットが発展的な思考を促すことに有効であることは,写真などから受けるイメージを膨らませ,自分の意見を表現するメディアとして機能しているからと説明している.しかし,紙に比べて学習の実感性が低いことは,情報が脳に定着せず通り過ぎてしまうイメージを連想させるという.

 

他の実証実験の結果からは,写真や映像をタブレットで見るだけではあまり学習効果は上がらず,見るだけよりも,指で触れる,下線を引く,メモするなどのアノテーションを付加して,動作をさせることで学習効果が高くなるという.また,複雑で高度な計算が必要な場合は,紙と併用することが望ましいということを示している.

 

これらの結果より,現状においては,紙とタブレットの併用が好ましいと本書の著者は結論づけている.

 

本書の中で,特に興味深かった記述は,以下のものである.
「タブレットを用いた授業の基礎にあるのは,授業デザインの力であり,タブレット操作の技能ではない.経験年数の多い教員は,それだけ授業の場数を踏んでいる.この場合は,こうしたらいい,この場合は,こうしてはいけないと,発問の仕方,板書の仕方,情報の提示の仕方,など職人芸のように体で覚えた経験知を持っている.タブレットという新しいメディアが入ってきても,これまでの経験値によって,うまく取り入れて授業をデザインできる.よく言われるように,プロの料理人の腕にかかれば,どんな食材でも,おいしい料理に仕上げてしまう.」(p.99-100)
つまり,学習効果を上げるためには,デジタル機器の操作技能ではなく,授業の力量,特に授業をデザインし実施する力が重要であると本書のなかで主張している.

 

GIGAスクール構想により児童生徒1人1台のタブレットが導入された.教育工学関連の学会発表や論文誌を概観すると「タブレットを用いた・・・」というタイトルがとても多いことに気付く.著者の言葉を借りれば,「タブレットを用いた」という形容句は必要ではない.タブレットはあくまで道具であり,学習の場においては「透明」になるのが良いとのことである.
やはり,中心になるのは,道具ではなく学習設計(Instructional Design)であるということに本書は改めて気付かせてくれる.

 

(山梨大学/熊本大学大学院教授システム学専攻博士後期課程修了 三井一希)

カテゴリー

IDマガジン購読

定期購読ご希望の方はメールアドレスを登録してください。

定期購読の解除をご希望の方は以下からお願いします。

IDマガジンに関するお問い合わせは、id_magazineあっとmls.gsis.kumamoto-u.ac.jpにお願いします。(あっとは@に置換)

リンクリスト

おすすめ情報

教授システム学専攻の公開科目でIDの基礎を学習できます。おすすめ科目は以下です。

謝辞

本サイトは、JSPS科研費「教育設計基礎力養成環境の構築とデザイン原則の導出に関する統合的研究(23300305)」の助成を受け、研究開発を行いました。

このページの
先頭へ