トップIDマガジンIDマガジン記事[122-02]【連載】ヒゲ講師のID活動日誌(100) :受け継いでほしい思い:IDを考える前提とID7か条

[122-02]【連載】ヒゲ講師のID活動日誌(100) :受け継いでほしい思い:IDを考える前提とID7か条

この連載も100回目を迎えた。この先ヒゲ講師はどのぐらい生きながらえるか分からないが、この好機に、受け継いでほしい思いを書き残したいと思う。たぶん、そう簡単にはくたばらないとは思うが、念のため(健康で70歳を迎えることを目指して少しずつ努力はしています)。というか、100回目に直面したので、これまでを振り返ってみたいという衝動にかられたからだ。

 

前提となるこだわり:IDのIとDについて
 IDのIはLearningではなくInstruction。だから学習設計とは呼ばずにID(無理やり訳せば、教授設計)と呼ぶ。学習は学ぶ人がやることであり、デザイナーの役割は学習を支援すること(それがインストラクションであると定義したのはIDの始祖ガニェ)。Learningは「教える行為」がなくても成立するが、IDはLearningを意図的に支援したいという思い(斉藤孝が「教育欲」と呼ぶもの)に支えられたしくみづくりである。何が善い教育かはそれを設計している人にもそれを実施している人にもわからないという「教育のパラドックス」(村井実)を受け入れ、「教えた」と「教えたつもり」を区別して使う「成功的教育観」(沼野一男)をその前提に置く。
 IDのDは設計Design。デザインは、自己表現のArtではなく他者(=学習者)のための営みである(だからその成否を学ぶ側の変化で捉える「成功的教育観」との相性が良い)。デザインは工学Technology/Engineeringでも科学Scienceでもなく、欲しかったがそこまでは思い描けなかった何か(Unexpected expected)を創り出すこと。だからこれまでの理論やモデルを活用したとしても一発でうまくいくとは限らない(それなのに「マニュアル」という言葉を敢えて使ったシリーズもある)。誰がやっても同じ結果になるわけでもなく、試行錯誤を経て、当初思い描けていたものを超えた何かが産み出され、「これが欲しかった」と思ってもらえるまで続けられる(あるいは妥協の産物で我慢する)。デザインは様々な制約の下で今までに存在していなかった何かを特定の文脈にもたらす行為であり、他の文脈でも同じようにうまくいくとは限らないと知りつつも、他のデザイナーにも役立ててもらえそうな知見(ノウハウ・原則・モデル・理論)も同時に産み出そうとする。それがデザイン研究DBRである。

 

ID7か条(暫定版)
さて、IDへのこだわりはこだわりとして、どのようなものを実現すべきだろうか。こだわっているだけで「これが欲しかった」と思えるものが産み出せなければ意味がない。ではどんなものを目指すべきか。7か条にまとめてみた。チェックリスト風に使えば、現在取り組んでいるID(あるいは過去に取り組んだ成功・失敗事例)を棚卸できるかもしれない。
1.自分が受けたくない教育は提供しない。ダメな教育を再生産してはダメ。
2.金太郎飴の製造で終わらない。「自分なり」を少しずつ加えて自己調整学習(SRL)から自己主導学習(SDL)へ進歩させる。
3.覚えさせるのではなく記憶に残る教育を。挑戦的企てで構成し、忘れられない出会いの出現度を高める(学習経験モデル)。
4.学ぶ楽しさを実感できることを目指す。学ぶとは本来、楽しいことだから。自分の成長を実感できると「動機づけ」は不要になるから。
5.学び合う仲間づくりにつながる方法を選ぶ。互いに学び合うことができれば、より遠くまで行けるから。
6.成長を確認し味わいながら一歩ずつ進む方法を教える。失敗から学ぶ術、それが評価。達成を味わう、それも評価。
7.自分の得意を伸ばし、もっと役に立てる人になることを目指してもらう。それが生き甲斐になるから(アドラー心理学)。

 

何かもっと大事なことが抜けているような気もするが、当面、「それは気のせいだ」、ということにしておこう。よって暫定版としてお届けします。

 

(ヒゲ講師記す)

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