「教育ってなんでこんなにお金がかかるんだろう」という言葉を、最近色々なところで聞くことが多いと感じます。子供の塾代、大学の入学料・授業料等、教育を受けるにはお金がかかるというのはやむを得ないのかもしれません。その際、オープンエデュケーションという手段について考えてみてもよいかもしれません。
今回ご紹介する書籍「デジタル時代の教育」は、イギリスのオープン・ユニバーシティの初動時にスタッフとして参加し、これまで高等教育機関における遠隔教育の推進に尽力した Tony Bates 博士が執筆されたものです。メディアの利活用を前提とした教育環境において、私たちは何を知っておくべきかをまとめた書籍となります。2019年に第2版、2022年に第3版が発行されており、第3版ではCOVID-19による高等教育への影響についても言及されています。日本国内でも翻訳チームが第1版を翻訳・公開しています。
この書籍では、「第1章 教育における根底からの変革」での教育と労働市場の関係性への言及には始まり、第2章から第4章にかけては、認知主義やコネクティビズムといった基本理念およびADDIEモデル等のIDでおなじみの概念を説明、第5章ではMOOCsの歴史や長所と短所、政治的、社会的な面からみた考察を説明しています。また、第6章から第9章にかけて、教育と利用するメディアの関係性や、Bates博士が提唱した教育におけるメディアの選択で配慮すべき要因をまとめたSECTIONSモデル等について詳細に説明しています。
そして、「第10章:オープンエデュケーション」ではオープンエデュケーションの基本理念に加え、オープンエデュケーショナルリソース(OER)、オープンテキストブック、さらにコースやプログラム設計にとって「オープン」が何を意味するのかについて言及されています。
Bates博士によると、オープンエデュケーションの形態として、特定の地域の誰もが利用できる、無料または非常に安価な学校や大学の教育や、学生が自由に利用できるオンラインの教科書であるオープン・テキストブック等が紹介されています。また、各国におけるオープンエデュケーションの進捗状況等も紹介されています。さらに、自身の授業に適した教材にするためにOERを改変したい場合、OERのライセンスにはどのような種類があるのかについても、詳細に説明されています。
ちなみにこの書籍もOERの一種であるオープン・テキストブックとして、Pressbookというオープンテキストブック公開用のプラットフォーム上で公開されています。このように、無償で使える教科書が普及すると、教材費等が安くなり、少しは学習者側の経済的な負担が減るのかもしれません。
なお、オープンエデュケーションと関連するお話として、UNESCOでは現在、OERの普及を進めるために「Recommendation on Open Educational Resources (OER)」を提唱しており、各国でどのようにOERを推進しているのか調査するアンケート等も実施されています。このような取組が進み、授業や研修を設計する際に無償で利用できるリソースが増えると、学習者にとってもより学びやすい環境が整備されるのではないかなと思います。
参考文献:
デジタル時代の教育 教育と学習をデザインするための指針
https://pressbooks.bccampus.ca/teachinginadigitalagejpn/
オープン教育資源(OER)に関する勧告/2019年11月25日 第40回ユネスコ総会採択
https://www.mext.go.jp/unesco/009/1411026_00001.htm
Pressbook Platform
https://pressbooks.directory/
(熊本大学大学院教授システム学専攻同窓生 長岡千香子)