2022年7月31日、ひげ講師は山形県のとある温泉宿で爽快な朝風呂を味わっていた。昨夜の宴会はコロナ禍で「お流れ」になってしまったが、それでもスタッフ4人だけで美酒に酔い、「ここまで手ごたえを感じることができるようになりましたね」と達成感をともに味わった。その翌朝で、しかも晴天に恵まれた朝風呂。実にすがすがしいこと、この上なし。
昨日は、長年かけて整えてきた医療系のIDセミナー(研修設計編)を県南の総合病院で開催した。日本教育工学会のFDセミナーを病院向けにアレンジし、『研修設計マニュアル』の一部を教材として活用したもの。大学や専門学校の教員向けの「授業設計編」の医療版とともに、日本医療教授システム学会の研修として姉妹編を毎年開催している。それを今回は、この病院の求めに応じて、院内開催。教育専任師長の司会の下、昨年東京で開催した「研修設計編」を修了した看護師4人が養成段階のラーニングアシスタント(LA)として補助に入り、新たに8人の受講者を迎えての開催となった。
この病院では、IDの考え方が着実に浸透しつつある。数年前に同じ軌跡をたどって受講者からLA養成を経て司会者をつとめてくれた教育専任師長。「私を教育専任にするのならば、院内の新任看護師研修を抜本的に変えます」と宣言し、それを実行に移したのが1年半前。その成果を院内で共有するために他部署を巻き込んで院内の研究発表会を開催したのが半年前。実践の成果を事例検討会の発表にまとめ、学会の総会・学術集会で最優秀発表賞を受賞したのが4カ月前。改革推進の仲間を学会の研修に次々に送り込み、とうとう今回の病院での研修開催に漕ぎつけた。「共通言語で会話ができる人が増えたことがありがたい」「もう元には戻れない」と教育専任師長は言う。改革1年目は疑心暗鬼で進めたが、その成果が病棟の学習文化を変え、手ごたえが得られたからこそ2年目も継続ができた。この調子で改革の灯が絶えることなく、幸せの輪がさらに広がってくれることを願わずにはいられない。
思い返せば、IDの前提(病院版)を提案したのは2018年3月のことだった(連続日誌68参照:https://idportal.gsis.jp/magazine/doc_magazine/157.html)。その冒頭に記されている提案は「1)人によって学習ペースは違うが,その人にとって十分な時間をかければみんな最後には学習目標を達成し、任せられる仕事が徐々に増えていく(時間モデル)」である。新人を全員集合させて同じ研修をしてからそれぞれの病棟に送り出す、というこれまでの慣習を捨てた。早めに各病棟に配属し、仕事をしながら病棟で鍛え、任せられる仕事の範囲を広げていくというアプローチ。病棟では新人の面倒を見る必要が生じるが、戦力がそれだけ増えていく。人材育成の主役は新人本人と病棟の先輩と師長。それを側面から支え、日々の仕事の省察を促し、新人と先輩と師長を励ますのが教育担当の役割。ジャストインタイムで新人の成長に合わせて仕事を与えて育てていくというこの理にかなった方式が、より広く受け入れられていく起爆剤になってくれればと思う。
現場に意味のある変化を産み出し、それを定着させてこそのIDだ、という思いを新たにした、すがすがしくも身が引き締まる朝だった。
(ヒゲ講師記す)