米国を中心に2千以上の大学などが加盟する高等教育機関のICT活用推進非営利団体EDUCAUSEは、2020年春休みを直撃したコロナ禍は「史上最大の非伝統的教育の実験であった」と総括した論文を掲載した。中断はイノベーションを産み出すのが歴史の常であり、コロナ禍で在宅勤務が広がったように、アフターコロナの高等教育の「ニューノーマル」に残すべき意義ある改善のポイントを次の5つにまとめた。いずれも教壇からの講義を減らし、学生により強い関与を求めるための工夫としてコロナ禍のベストプラクティスで観察できたものであり、これを「ニューノーマル」として広く普及させるべきであるとしている。
1.意味生成のための協働的テクノロジー
ネットワーク上の共同編集文書、ディスカッションボード、ホワイトボードなどを講義ノートの作成のためでなく、学習内容や教員、あるいはクラスメートとつながるために活用し、情報の生成・共有・フィードバック供与・省察のプロセスを可視化し、タイムリーに進行させるために用いる。
2.学習とテクノロジーの学生エキスパート
コロナ禍以前から有効であったピアチュータリングをテクノロジーに強いデジタルネイティブの活動に広げ、学部学生が学習とテクノロジーの両面で活躍・貢献できる場面を増やす。自然発生的に活発になった学生相互の助け合いの輪を制度的に定着させ、新しいテクノロジーの活用を提案してもらい、教員の指南役をも果たしてもらう。
3.インフォーマルコミュニケーションのためのバックチャンネル
テキストメッセージの交換を日常的に行っている世代に親和性が高いチャット機能を用いてインフォーマルで抵抗感が少ない会話を維持し、挙手による発言よりも気軽な形でのやり取りを可能にする。「はい」「いいえ」での回答を促すことから、質疑応答、多様な視点の表明など学生の積極的な関与を促す気軽な道具になる。
4.協働学習のためのブレークアウトルーム
数人ずつの学生ごとに区分した小部屋を設け、最初に前提知識を確認したり、与えられたケースの解釈を試みたり、振り返りや質問をまとめる協働学習で学生を関与させる。ブレークアウトルームでの活動中もそれぞれの部屋でホワイトボードや画面共有、ネット検索などのツールを併用させることができ、教員は入退室して進捗状況を把握できる。
5.学習空間拡張のための録画提供
反転授業を採用している場合であってもなくても、授業に出席できない学生のために録画を提供することで、学生の再視聴と教員の授業分析を可能にする。オンラインセッションの録画・公開は容易になり、欠席者だけでなく、試験対策や外国人学生の再学習の機会となり学習空間が拡張できるメリットは大きい。
1から4は同期型授業のことで、5だけが非同期への拡張。やはり関心は非同期型のデザインではなく同期型の改善が主流なのかな、残念、と思いつつ、一つずつの説明に日本ではあまり注目しないキーワードがちりばめられている。与える教育から学び合う教育へ。デジタルネイティブ向けの教育への変換。ICT利用が一気にグンと進展した今こそ、新しい発想で、古くなったKKD(D=惰性)をトランスフォーメーションするためにIDの活躍が期待される、と解釈した(普通はそうは読めないかもしれませんが・・・)。動向を調査してヒントをまとめて欲しいとの依頼を受けて調べた結果、いろいろ見つかったものの一つがこれだった。勉強になりました!
(ヒゲ講師記す)
出典:Glantz, E., Gamrat, C., Lenze, L. and Bardzell, J. (2021 March). Improved Student Engagement in Higher Education’s Next Normal. EDUCAUSE Review, Teaching & Learning. [Available online]: https://er.educause.edu/articles/2021/3/improved-student-engagement-in-higher-educations-next-normal#fn12