前回はパフォーマンス・コンサルティング(以下PC)の定義をみました。そして、源流には、HPT、ISD、IDがあると述べました。今回はPCとIDの共通点・相違点をみていきましょう。HPTについては、回を変え、別途ふれようと思います。
まず共通点ですが、PCは基本的にADDIEに則っています。PCのプロセスは、1)エントリー(パフォーマンス改善プロジェクトの確立)フェーズ、2)現状分析フェーズ、3)ソリューション実行フェーズ、4)効果測定フェーズの4フェーズで構成されています(参照『パフォーマンス・コンサルティング2』2010年)。この2)~4)のフェーズはADDIEとほぼ同じです。
余談ですが、Performance Consulting,1995(拙訳『パフォーマンス・コンサルティング』2007年)の序章・9章では、Robert MagerのAnalyzeの考え方(Analyzing Performance Problems, 1970)が引用されており、ISDが根底に流れていることがわかります。
次に、相違点です。PCはADDIEのプロセスを踏むとはいえ、その中身が異なります。違いはいくつかありますが、ここでは主なもの5つをとりあげます。わかりやすくするために極端に述べますので、ご容赦ください。
第一に、焦点です。PCは事業目標の達成に役立つパフォーマンス(従業員の実務行動)を促すこと、その結果、事業成果(業績)を高めることに焦点があります。
この意味において、カークパトリックの4レベルで言えば、PCは最初から3レベル以上をねらっていると言えます。
第二に、分析(Analyze)の視点です。PCでは知識・スキル・態度(KSA)以外に、組織の外部要因(景気、規制、顧客の期待など)、職場環境要因(上司の期待、コーチング、インセンティブ、仕事の進め方など)も視野に入れて分析します。
というのは、パフォーマンス(従業員の実務行動)が低いという原因は、従業員個人のKSAだけでなく、これらの複数の要因にあると考える(HPTの視点)からです。中でも、前号の例で述べたような上司の指導や役割のあいまいさなど、職場環境の影響を重視しています。
第三に、ニーズ把握の考え方です。PCでは学習ニーズを把握するだけでなく、次の4つのニーズを把握します。それは、1)事業ニーズ(目指す事業目標、現状のギャップ)、2)パフォーマンスニーズ(事業目標の達成にカギとなる従業員の実務行動、現状のギャップ)、3)職場環境ニーズ(事業目標達成のカギとなるパフォーマンスの発揮を阻害・促進している組織内の要因)、4)能力ニーズ(事業目標達成のカギとなるパフォーマンスの発揮を阻害・促進している知識・スキル・特性)です。事業ニーズとパフォーマンスニーズはソリューションを実行する目的であり、常に一義的に考えます。
第四に、ソリューションです。PCでは、上記のような視点で設計・開発するため、学習施策はソリューションのひとつだと考えます。というのは、先にも述べたように、望ましいパフォーマンスを妨げている原因はKSAだけでなく、職場環境(上司のコーチング不足、業務区分があいまいなど)にもあるからです。したがって、従業員の研修だけでは問題が解決しないため、職場にかかわる施策も実施します。
平たく言えば、合わせ技で問題を解決するという考え方です。
第五に、パフォーマンス・コンサルタントの役割です。IDerはインストラクションの開発を自分で行いますが、パフォーマンス・コンサルタントはすべてのソリューション開発を自分で行うわけでありません。というのは、ソリューションが評価制度やインセンティブ、採用、ワークフローの見直しなど多岐にわたるため、それらすべてを自分で設計・開発するのは現実的に難しいからです。したがって、どちらかといえば、パフォーマンス改善プロジェクトの監督者的な立場になるというわけです。
次号では、PCの特徴を示す代表的なモデルについてふれていこうと思います。
(株式会社ヒューマンパフォーマンス 鹿野尚登)
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