今回はパフォーマンス・コンサルティング(以下PC)の背景にあるISDとHPTをみていきましょう。
まず、ISDとHPTの関係についてです。Handbook of Human Performance Technology Second Edition(1999)では、以下のような記述があります。
「HPTを歴史的に見る場合に特に言えることだが、ISDのコンセプト、理論、手法は、HPTの基盤として最も重要なもののひとつである」(同書、P27)
「ISDのADDIEのようなモデルが開発されたことが、HPTの研究領域の確立に極めて重要だった。インストラクションがどれほどニーズを満たしたのかを示すために、インストラクショナルプログラムはニーズ分析に負うところがますます大きくなり、インストラクションの評価はより洗練されていった。それにつれ、様々なニーズを満たすことは、インストラクショナルプログラムだけではできないことが明らかになった。・・・略・・・より広いパラダイムが必要になったのだ」
(同書、P28)
ということで、HPTの上流にはISDがあり、HPTはISDが発展したものであることがわかります。
次に、PCとHPTの関係についてです。ロビンソン夫妻は、初版のPerformance Consulting (1995)で、PCはHPTの考え方をベースにしていると述べています(序章、第1章)。また、第二版では、PCもHPTも目指すところは同じで、「事業目標を達成するために、システム視点でかつ全体をとらえるアプローチでヒューマンパフォーマンスを分析し、改善する」ことだと述べています(拙訳『パフォーマンス・コンサルティング2』2010年、P17)。
大雑把な整理で誠に恐縮ですが、以上から「ISD→HPT→PC」という大きな流れが見えてくると思います。
それでは、もう少し、HPTのことをみてきましよう。HPTのプロセスを示す代表的なモデルとしてよく紹介されるのがISPI(International Society for Performance Improvement)の次のモデルです。
http://www.ispi.org/uploadedFiles/ISPI_Site/About_ISPI/About/whatshptmodel.pdf
このHPTのモデル図は一見複雑に見えますが、プロセスの大見出しを追っていくと、「A」がいくつか分かれていますが、基本はADDIEだとわかると思います。また、ギャップ分析の部分、原因分析の箱やソリューションの箱をご覧いただくと、第2回、第3回で見てきたPCの特徴や主要モデルのベースになっている考え方が含まれていることにお気づきになると思います。
このモデル図とIDerのみなさんにおなじみの『インストラクショナルデザインの原理』2007年、第2章に出てくる図2-1、2-2、2-3、2-4を比べていただくとおもしろいかもしれません。余談ですが、ASTDのHPIモデルはこのHPTモデルの要素をちょっと間引き、少しシンプルにした感じです。
少し硬くなりますが、HPTは次のように定義されています(Handbook of Human Performance Technology Third Edition, 2006, P9)。
「人の生産性や能力を向上させる体系的なアプローチのこと。一連の方法論やプロセス(問題解決の方略)を活用して、人のパフォーマンスを改善する。さらに具体的に言えば、人の行動と成果に影響を及ぼす最も費用対効果の高い複数の解決策を選択し、分析、設計、開発、評価するプロセスである。基本的には、パフォーマンス現状分析、原因分析、解決策の選択という3つのプロセスを体系的に組み合わせたものである。個人、小グループ、大組織に活用できる」
この定義からも、HPTは人の行動と成果を改善することを重視したプロセスであり、基本はADDIEということがわかると思います。
ISPIはHPTの10原則を定めています(http://www.ispi.org/content.aspx?id=54)。
もしご関心があれば、ご確認ください。原則の5番目以降はHPTモデルをなぞる感じになっています。
HPTのグルとして、T・ギルバートやG・ラムラーが有名ですが、次回はHPTの先人たちの言葉をみていきましょう。そうすれば、PCのベースにあるHPTの考え方がさらにわかりやすくなると思います。
株式会社ヒューマンパフォーマンス 鹿野尚登 http://www.human-performance.co.jp
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http://www.human-performance.co.jp/article/13478992.html