トップIDマガジンIDマガジン記事[104-02]【連載】ヒゲ講師のID活動日誌(91):良い質問を集める工夫をして即答力を鍛えよう

[104-02]【連載】ヒゲ講師のID活動日誌(91):良い質問を集める工夫をして即答力を鍛えよう

ヒゲ講師は昨年12月、2回開催されたID公開講座(応用編)の質問回答コーナーを担当していた。講座の中身と運営のルーチンは定着し、しっかり回せるようになっているこの講座。「IDを使ってうまくいっている事例はありますか」という質問には、「この講座はうまくいっているものの一つだと自負しています」と言えるようになって久しい。一方で、質問回答コーナーには、毎回、なかなか興味深い質問が寄せられる。毎年ヒゲの即答力を鍛え上げてくれる瞬間でもあり、緊張もする。
例えばこんな質問。読者諸氏であればどのような答えを考えるだろうか。

・客先の人事教育制度上の必須研修で、強制参加。参加者の何割かはやる気がなく、個人ワーク時は机に伏して手を付けない、グループワークでは発言もせず、主催者も履修主義で「とにかくやってくれればいいです」と言ってはばからない研修仕事をやる際、鈴木先生は自らの動機づけをどうされておられますか?

私の答えは、今となってはうろ覚えではあるが、こんな感じであった(もう少し短かったかな)。
私だったら、そのような事態に陥らないように最大限の努力をするでしょう。仕事を受ける時点で、例えばこんなことはやってよいか、と具体的な案を提示し、ネゴする。さすがに履修主義の相手に合否を判定して再履修させる事後テストをやりたい、という案は受け入れられそうもない。でも、研修の目的が達成されたかどうかを確認するクイズをやること自体は(とにかくやってくれればよい、という主催者であれば)、受け入れてくれるかもしれない。不合格者は再履修とはしないという条件は付けられそうだが、それは受け入れるとしよう。さすがに一方的な講義にしてくれとは言われないとは思うが、そうであれば、(なぜか急に、その日の都合が悪くなったりして)断るかもしれない。参加者のやる気がないことが受注時点で分かっていれば、それなりの(最大限の)工夫を準備して臨む。失敗事例とそのまずい結末を示して、それを避けることができますからしっかり取り組みましょう、と入って、ARCSのRをやや上向かせる効果をねらうかな。事後テストに相当するクイズを研修冒頭でやってもらうのも覚醒効果が期待できる常套手段だ。いずれにせよ、受注した時点で「負け」が決まっているような消化試合的お仕事は受けないのが一番良い。なるほど最悪な与件だ、と思っても、試したいアイデアがあれば、引き受けて、最大限に努力して、その成果を確認することで、受注者としての実力アップを図る。仕事に鍛えられる構図と言ってよいだろう。この案件にリピートオーダーが来ても、それは「波風が立たなかった」以外の何の証左にもならないことは心に留めておく。

IDの伝道師としては(読者諸氏にもその立場を自覚してもらいたいと思っています)、もう少しやり方を変えることはできますよ、というメッセージを出し続ける責務があると思う。なかなかどうして、担当者のカベは強力ですが、そこに挑み続けなければ何も変わらない。依頼するだけして研修中は見学すらしない人たちではできることは限定的であるが、受講者に何らかの成果を残して終わる研修にするための最大限の努力をして、その成果を見せることで「変えることができる」ことを実感してもらいたいものだ。そのためにも、担当者に受け入れてもらえそうな提案をやんわりと持ち掛け、それならばやってもいいよ、と言ってもらうプロセスは重要だろう。少しでも現状を変えていく地道な努力が求められている。そうですよね?
今になって気づくのは、上記の回答は年1回の講演会としてアリバイ工作型研修が定着した各大学で行われているFD(ファカルティデベロップメント)の依頼を受けたときに、何とかしたいと逆提案を繰り返してきた経験が土台にあるということだ。最近のコロナ禍を受けて依頼されるFDでは、安心感を与えて今後の方向性を啓蒙する講演会である(これは研修ではない)と割り切って、ストレートトークを敢えて選択することもある。それでも、何に困っているかを事前アンケートすることは可能か、あるいは事前にすでにネット上に公開している資料を読んでもらい事前質問を考えてもらうことは可能かなど、先方の状況を探る。それでも快い返事が得られない場合でも、以前はお断りしてきた案件も、最近は受ける率が高まっている気がする。これもコロナ禍のなせる業、ということにしておこう。興味がある方は、「講演型FD研修会を脱却するための研修モデルについてのご提案」(https://www.gsis.kumamoto-u.ac.jp/fd-1/#3)を参照ください。

ちなみにこの公開講座(応用編)の質問回答コーナーは、グループワークをやってきたチームごとに質問シートを準備し、そこに優先順位をつけて3つ以上の質問を書き込む時間を15分程度設けたのちに1チーム5分間で全体質問を受け付ける方式を採用している。手上げ方式で質問をその場で口頭で受け付けるよりも、良く練られた質問が集まりヒゲの即答力を鍛えてくれている。良質な質問を集めるためのデザインとして参考にしてもらえればうれしいです。

(ヒゲ講師記す)

カテゴリー

IDマガジン購読

定期購読ご希望の方はメールアドレスを登録してください。

定期購読の解除をご希望の方は以下からお願いします。

IDマガジンに関するお問い合わせは、id_magazineあっとmls.gsis.kumamoto-u.ac.jpにお願いします。(あっとは@に置換)

リンクリスト

おすすめ情報

教授システム学専攻の公開科目でIDの基礎を学習できます。おすすめ科目は以下です。

謝辞

本サイトは、JSPS科研費「教育設計基礎力養成環境の構築とデザイン原則の導出に関する統合的研究(23300305)」の助成を受け、研究開発を行いました。

このページの
先頭へ