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IDマガジン第94号

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━2021年4月13日━━━━
                 <Vol.0094> IDマガジン 第94号
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皆様、いつもIDマガジンのご愛読ありがとうございます。
2020年度内に配信予定でしたが、2021年度を迎えてしまいました(汗)。
どうぞ最後までお付き合いくださいませ。

今回のコンテンツメニューはこちら↓
《 Contents 》
1. 【連載】ヒゲ講師のID活動日誌(86):年に1度の祝福の日に人生の節目を迎える
2. 【ブックレビュー】GB4輪読シリーズ:
    第9章「自己調整学習のためのインストラクションのデザイン」
    (ヨル・フー、チャールズ・M・ライゲルース)
3. 【報告】第49回まなばナイトレポート「コロナ禍での社会人学習はどうすればよいか」
4. 【ご案内】2021年度まなばナイト開催スケジュール
5. 【イベント】その他、近々行われるイベントは?
★ 編集後記

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【連載】ヒゲ講師のID活動日誌(86):年に1度の祝福の日に人生の節目を迎える
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ヒゲ講師は大学教員にとって年に1度の祝福の日を、2年連続オンライン環境で迎えた。大学教員にとっての年に1度の祝福の日とは、言わずもがな卒業式である。手塩にかけて育てた弟子たちが旅立つ日、大学院の場合は学位記授与式、そして学長名の学位記を部門ごとに授与するのが学位記伝達式と呼ばれる行事である。本専攻の場合は、4月の第2土曜日に入科式・オリエンテーションと同日に東京で行うのが伝統になっている。新旧入り乱れる祝祭の日であり、絶好の相互交流の機会である。大学院での学習自体はオールeラーニングのプログラムであるが、だからこそ、この日は対面で多くの方々の祝福が行き交うとても重要な日である。しかし残念ながら、コロナ禍のため2年連続オンラインでの挙行となった。

それでも大学教員にとって、そして旅立つ人、これから始める人たちにとっても、特別の日であることには変わりはない。厳かな儀式に緊張した面々。晴れ晴れとした顔。受賞の喜びに涙する者も、その涙にもらい泣きする者もいた。本専攻では、儀式には通常含まれない研究成果の要約発表と入学生の1分間自己紹介を取り入れている。入学生の自己紹介ではこれから始める人たちの多様性が確認できる。今年もバラエティに富む百戦錬磨の面々が選抜できたことが確認できた。そして、学位を手に旅立つ人たちの研究発表は、それぞれとても自信に満ちたものであった。2月の公開審査会では発表が終わった後の質疑応答に緊張度が一気に高まるが、その試練を経て、一息ついてからの発表である。今回は質疑応答がないから余計に堂々としていたように感じたのかもしれない面はあるとしても、堂々としたものだった。

その様子をとても嬉しく思い、学位記伝達式にあたり、専攻長として激励の言葉を述べた。以下、その要約。「君たちの発表はとても堂々として、自信に満ちているように思えた。それは、研究テーマがそれぞれの職務直結で実用的なものであり、学位を獲得した自分だけでなく周りを幸せにした手ごたえがあったからだろう。それに加えて、自分が実用的な結果を出せた背景には、学問的な裏づけを持っていた。なぜ功を奏したのかを説明できる力を備えるようになった。このことが大学院で学ぶ意義であり、実践知と理論知を往還できることが高度職業専門人になった証である。これからも本専攻が掲げる修了生コンピテンシーを十全に発揮し、同窓生として本専攻の発展に寄与するとともに、裏付けのある実用的な「介入」をどんどん産み出して周りに幸せを広げてほしい。」文章にすると格式高く感じるが、まぁこんな内容だったと思う(原稿を用意して読んだわけではないので・・・)。

このメッセージをもって、専攻創設以来の15年間の長きに及んだヒゲ講師の専攻長としての仕事は完了した。15年という節目にあたり、交代を願い出て、周囲(特に次を継ぐ人たち)の理解を得ることができたお陰である。入科式・オリエンテーションからは新年度の専攻長に委ねたため、専攻長としてのヒゲ講師のあいさつはなかった。それがさびしいと言ってくれる人がいたことも、今年の祝福の日をより特別なものにした。同時に、創設以来4年務めた研究センター長の役割も後進に託した。同じ時期に学会長も任期満了となったので、「長」としてのすべての肩の荷を下ろしたことになる。やれやれ、無事に(たぶん)終わった(教授としての定年ではありませんので、誤解なきように)。世代交代にはまだ課題は残っているものの、これまで多忙を理由に先延ばしにしてきたことへの言い訳がなくなったことだけは確かである。

一息入れたら、早速動き出そう。そうしないと次を継いでくれた人たちに申し開きが立つまい。

(ひげ講師記す)

追記:ヒゲ講師の入科式・オリエンテーションでの専攻長としてのあいさつは、以下の3つが定着していた。もう言う機会はないだろうから、ここに記しておく。1)オプションを大切に。本専攻には学位取得に必須でないオプションがたくさんある。無理のない範囲で自分で貪欲に選んでプラスαのチャンスを生かしてほしい。2)学位は与えられるものではなく奪い取るものである。学生からの援助要請がない限り、問題なくやっていると解釈し、余計なおせっかいは焼かない(大人扱いする)ので、必要な援助要請は遠慮なく。3)家庭第一、第二が仕事、第三が本専攻での学びである。この優先順位を間違えないように。多忙な社会人にやさしい専攻であるように柔軟な運営をモットーとしているので、安心して取り組んでほしい。


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【ブックレビュー】GB4輪読シリーズ:第9章「自己調整学習のためのインストラクションのデザイン」(ヨル・フー、チャールズ・M・ライゲルース)
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インストラクショナルデザインを学ぶ方の必読書である『学習者中心の教育を実現するインストラクショナルデザインの理論とモデル』のブックレビューが前号から始まっています。原著の装丁が緑色なので通称「グリーンブック4」とも呼ばれる本書の、今回は第9章をご紹介します。
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第9章は「自己調整学習(self-regulated learning: SRL)」のためのインストラクションのデザイン原理について詳細な解説がされています。これは第4章で説明された「個人に合わせたインストラクションの原理」の具体例をより詳細に解説したものです。
情報化時代において、教育の役割は全学習者を知識労働者へと育てることにシフトしました。工業化時代には指導者が学ぶべきことを決めて学習を制御し、工業労働者を大量生産していましたが、情報化時代では継続的な革新と知識創造が求められます。教育の価値は学習者中心に置かれ、学習者が自分たちの学習を自己主導し(self-direct)、そして自己調整する(self-regulate)能力と責任が求められるようになりました。ここでの調整とは、自分のゴールを達成するために自分の認知、行動、動機づけ、および環境を調整するということです。

たとえば、5ヶ月後に憧れの高校の入学試験がある中学生は、どんなことをするでしょうか。過去問を解いてみて不足している知識を洗い出す、残された時間を勘案したうえで勉強計画を立てる、先生に相談して自分のミスの傾向に気づいて対策を講じる、自分が10分でどれぐらいの英文が読めるのか測ってみる、気が散る漫画は押し入れにしまって高校の写真を机に貼ってみるなど、ゴールを達成するために様々な努力をした経験はありませんか。画一的なカリキュラムのお仕着せではなく、何をゴールにするか、そのゴールにどうやって辿りつくかを、個々の学習者が責任をもって考え、コントロールし、自分だけの学習を組み立てるのです。それが、自己調整学習です。

自己調整学習は1980年代にはすでに教育分野で注目されており、たとえば問題を解いて間違えたところは類似した問題を出すドリルシステムなどが多く開発され、関連する理論も蓄積されたのですが、残念ながら当時の教育技術や環境では個人化できる部分は十分とはいえない状況がありました。しかし、最近の技術発展に伴い、個人に合わせてカスタマイズされた学習の可能性が広がってきたため、自己調整学習が再び注目されています。新しい技術を適用し、自己調整学習をデザインする際には、先人が遺した学習理論や研究成果から概念的枠組みや成功要因を学ぶことが助けとなるでしょう。

この第9章では、まず基本的な理論的背景や価値観についての解説が詳細にされています。学習者中心の教育では、学習者は自分の学習に対してより大きな責任とオーナーシップを負うため、自己調整学習が不可欠な要素であるということが説明され、その後、シャンク、ボーカーツ、ジマーマン、ピントリッチなど代表的な研究者らが開発した自己調整学習の枠組みの類似点を整理し概説したうえで、修正版の概念的枠組み「自己調整学習のための連続変化フレームワーク」として紹介しています。これは計画立案、遂行、振り返りの各段階において、自己効力感やメタ認知・行動、動機づけ・信念が担う役割がどのように変化していくかを図示したものです。後半では、自己調整学習のインストラクションのデザインがうまくいくコツを6つの具体的な普遍的原理として提案し、詳細な解説と方法が述べられています。どの原理もID理論や社会的認知理論などの知見に基づいた具体的な提案です。また、クラスの規模が大きいとき、学習者が年少の場合はどうしたらいいかなど、3つの状況的原理についても紹介されています。加えて、指導者が自己調整学習のスタイルを受け入れていない場合など、起こりがちな問題点と対応のためのアイデアが述べられています。

本章で私の印象に強く残った部分(アツアツポイント)は以下です。
・自己調整学習は教えることができるスキルである(p.249)
・現在、学習内容基盤型の指導でも、自己調整学習スキルが活用できるように再設計することができる(p.249)
・教師も学習者も自己調整学習の重要性を認識し、受け入れなければならない(pp.247-249)
・敬意と思いやりを持って学習者に接すること(p.249)
皆さんに響く部分はどこでしょうか。ぜひ読んでみてください。

以上、第9章の概要について説明しました。ちなみに、SRLは初等・中等教育で盛んに研究されていたもので、従って自治体や学校が決めたカリキュラムがある、つまり既にゴールがある程度決まった段階からどう自分を調整していくかというところに焦点が置かれていました。一方、私はあらかたの学校教育を終えたパート主婦なので、特に何のゴールも強制されていません。そういった人が自分の経験から学ぶべきことに気づき、学習目標として落とし込み、遂行し評価していくというプロセスは,自己主導型学習(self-directed learning)といわれます。実は私自身はこの自己主導型学習を促進したいと考え研究対象の中心に据えています。しかし、一度ゴールが定まれば、その後のプロセスはだいたい自己調整学習と同じです。ですから、もし自己調整学習は子ども向けであり,成人を対象としている自分には必要ないと思われている方がいたら、ぜひ本書をご一読ください。きっと参考になる部分があるはずです。

(熊本大学大学院教授システム学専攻博士後期課程単位取得退学[学術博士]、甲斐晶子)


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【報告】第49回まなばナイトレポート「コロナ禍での社会人学習はどうすればよいか」
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2021年1月のまなばナイトは特定の話題提供者はおかず、参加者のみなさんがそれぞれにお持ちの悩みや考え、アイデアを出し合うワークを行いました。

ディスカッションテーマは以下の3点です。
・コロナ蔓延での環境の変化 -今困っていること-
・私が考える解決策 -今やってること-
・グループでの気づき -多職種で議論したからこそ見えたこと-

様々な立場の方が参加され、活発にディスカッションがなされていました。

コロナ禍でオンライン研修、オンライン会議が主流になり、対応できる人、対応出来ない人等様々な人がいる中、特に多かった意見としては、「新しい信頼関係の構築」が難しいと話題にあがることが多かったように見受けられます。

すでに信頼関係が構築されている人とはオンラインでも意見交換やディスカッションしやすいが、初めてオンラインで顔を合わせる人がいると、同じ組織内でも意思の疎通が難しいという意見がありました。

特に新入社員に関しては、同期とも同じ部署の社員とも顔を合すことなく入社し、オンライン会議等で人間関係の構築が難しいのではないかという話があがりました。これについては大学でも2020年4月入学の学生も入学式もなく授業はフルオンライン、オンライン授業参加はするが顔は出さないので誰が同級生か分からず1年を過ごした人も多いのではないでしょうか。

また、テレワーク等で業務をするにあたり「ON/OFF」の切替がうまく出来ない、家庭のネット環境の充実さも問題点としてあがりました。

学習方法が変わりつつあり、対応出来る人、出来ない人との格差や、オンラインなので地域関係ないと思うがやはり情報格差があるように感じる等、テレワークやオンラインに対応しきれていない方がいるようです。

オンライン学会や勉強会が増え、今まで距離を考えて参加を見送っていた会にも参加はしやすくなったが、休憩時間の雑談や開始までの場の温め等が難しい。また、ブレイクアウトルームであっても1対1での会話が終わるまで話掛けにくい。話すタイミングが難しい等の話もあがりました。

オンデマンドで参加できるものは期限までに観ればいいと思い、結局観ずに終わってしまったりするものもあったとのことです。

今後、オンライン研修、オンライン会議は避けては通れなくなるため、「どう進めていけばうまく行くか」を社内で検討し進めて行くしかない。その中でチームビルディングや体験の共有等で今までと違った視点をもち、「"うまくいかなくて当たり前"というチャレンジ精神で進めて行きたい」、「継続していくことに意味がある。」等前向きに捉えられている方が多かった印象です。

グループに分かれてのディスカッションでは、第47回のまなばナイトでも活用事例が取り上げられたGoogleのJamboardでグループごとのテンプレートが用意され、発表にも活用されました。

事前の告知や練習もなく使われましたが、大きな混乱なく使えたようで、またほかのグループの様子がチラ見できるなど体験することができました。 

グループに分かれてのディスカッションでは、これらの話題提供も受け、日頃のおなやみや改善アイデアについての議論がされ、発表タイムでも熱のこもったトークが繰り広げられました。

参加者のさまざまな体験と、そこから発せられる悩みがありありと出され、共感あり提案あり、深堀したりと濃厚な議論が聞けました。

テレワークやオンライン授業のみで他人と関わることがなく、ひとり暮らしで「コロナ鬱」という言葉をよく聞くようになりました。今回の話の中ではその言葉を聞くことがなかったので、メンタル的にサポートされている企業が多いのではないかと感じました。素晴らしいことだなと感じました。

またリアルに顔を合わせての開催ができることを楽しみにしつつ、次回以降もまたよろしくお願いします。

(熊本大学大学院教授システム学専攻同窓生 北川 周子)

写真入りのレポートは以下をご覧ください。
https://www.manabanight.com/info/%E7%AC%AC%E5%9B%9E%E3%81%BE%E3%81%AA%E3%81%B0%E3%83%8A%E3%82%A4%E3%83%88%E3%83%AC%E3%83%9D%E3%83%BC%E3%83%88


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【ご案内】2021年度まなばナイト開催スケジュール
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2021年度は以下の開催を予定しております。
会場は仮のもので、オンライン開催の可能性もあります。

6月19日 (土)東京
8月21日 (土)名古屋
10月23日(土)大阪
12月11日(土)東京
2月19日(土)東京

詳細はまとまり次第告知サイトにてお知らせいたします。
http://www.manabanight.com/

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【イベント】その他、近々行われるイベントは? 2021/4~2021/5
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2021年5月8日 (土)
教育システム情報学会2021年度第1回研究会「DX時代に向けた学習環境の変革/ヘルスケア分野におけるICT活用の高度化/一般」@オンライン

2021年5月22日 (土)
日本教育工学会研究会「STEAM教育/一般」@オンライン

★ 編集後記
引っ越しをしました。せっかく新しい土地を探索したいのに、コロナ禍で出かけられない・・・落ち着いたらぜったい飲み歩きます。
(第94号編集担当:高橋暁子)

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