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IDマガジン第85号

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━2020年3月16日━━━━
<Vol.0085> IDマガジン 第85号
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皆様、いつもIDマガジンのご愛読ありがとうございます。
感染症のニュースが気になるところですが、明るい話題も欲しいですね。
みなさまのお住まいの地域では、桜は咲き始めましたか?
どうぞ最後までお付き合いくださいませ。

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《 Contents 》
1. 【連載】ヒゲ講師のID活動日誌(80):新型コロナで「集まること」の意義を問い直す
2. 【ブックレビュー】『世界のエリートが今一番入りたい大学:ミネルバ大学』山本秀樹 ダイヤモンド社(2018)
3. 【報告】第44回まなばナイトレポート「著作物教育利用のスジを読もう」
4. 【ご案内】2020年度まなばナイト開催スケジュール
5. 【イベント】その他、近々行われるイベントは?
★ 編集後記

【連載】ヒゲ講師のID活動日誌(80):新型コロナで「集まること」の意義を問い直す

ヒゲ講師は、とある学会の会長として即断即決に迫られていた。信州大学で行われる予定の春季全国大会の現地開催が大学の警戒レベル引き上げで困難になった。懇親会中止は決めたものの、大会そのものをどうするか、状況が刻一刻と変化する中で、決めかねていた。そこへ現地実行委員会からの提案は、「オンラインですべてをやりましょう」。その内容は、260件もある口頭発表を予定通り、全部のセッションを並行して行うというもの。「そのための準備は整えました」と言われれば、やるしかないでしょう。そもそも教育にICTを如何に活用するかを研究している学会が参集できない状況でも平然とオンラインでやってのける姿を見せる良いチャンスじゃないか。「ぜひ、やりましょう」となった。

学会で発表を予定していた人も、発表なしで参加だけを予定していた人も、そして当日会場で参加費を払って参加する予定だった人もいる。そんな中ですべての人たちに公平公正な判断を下さなければならない。あれこれ議論の末、予稿集での掲載をもって発表したこととみなし、懇親会費以外の参加費は返却しないこと、オンライン開催は「試行」と位置づけて任意参加にすること、全体会とシンポジウムは無料で一般公開することとし、ついでに懇親会も遠隔でやろう、ということになった。

何が起きるか分からないが、「試行」だから失敗も成功とみなせる実験場、という気持ちで執行部は現地入りした。蓋を開けてみると、各セッションの準備は現地実行委員会の計画通り、デジタルネイティブの学生諸君が創意工夫を凝らしてデジタル移民たちを補佐し、完璧な運営をしてくれた。オンライン開催は任意参加となったためか、現地を訪れて発表する予定だったにもかかわらず、実際のオンラインでの発表者数は予定のおよそ半数だった。発表辞退者の情報は参加者に公開し、そのスロットは例年通り休憩として当初プログラムを維持した結果、物理的に集まるよりは簡便にセッションを行き来して参加する人たちがいたり、空きスロットでも引き続き議論が展開されるなど、「遜色がない」と言ってよいほどの盛り上がりを見せた。日頃の研究成果を実践に応用した先進的な事例となり、評判を呼んだ(例えば、https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/news/p1/20/03/05/06652/)。面目躍如と言ってよいと思う。

そうなると改めて問い直さなければならないのは、集まることの意味である。この経験を受けてオンライン開催を決めた別のとある学会では、「遠隔開催になりますが、4~5人で集まって参加することを推奨します」という方針をアナウンスした。オンライン開催に個人で参加するよりは、何人かでワイガイやりながら参加してもらう方が、この学会のこれまで目指してきたことが実現できる、という見通しを得たからである。「集まった時には集まった時にしかできないことを中心にやる」「そのために必要な個人の準備作業は集まる前に事前課題としてやってきてもらう」これが研修設計の根幹に据えるべき方針だとすれば、せっかく集まったのに話を聞くだけで帰るような大会にはしたくない。会員相互の交流を旨として、「集まることの価値」を追求してきたこれまでがあるだけに、「オンラインだって代替可能じゃないか」と簡単に言われたくない。そんな意地もあったのかもしれない。

集まってしかできないことは、懇親会だけだ。それが14年間オンラインだけで大学院教育を展開してきたヒゲ講師たちの経験値である。しかし今回、信州大学近くの宴会場と各地をオンラインでつないだ懇親会も結構盛り上がった。そうなると集まってしかできないことは、名刺交換だけになるかもしれない。遠隔地を相互につないだ懇親会で、メイン会場にいた我々と同じように盛り上がっていたのは、遠隔地でも何人かが集まって懇親会をやっていたグループに多かった。そんなことも経験値としてプラスされた。オンライン開催をやるならば、支部ごとに集まって相互に接続するのもよいかもしれない、というアイディアにもたどり着いていた。

「聞いて帰るだけ」の学会であれば、オンライン開催も簡単にできる。そうでない学会を目指していたからこそ、4~5人で集まって参加することを推奨することにした。さてこれをどう生かしてオンライン学会を設計するか。全員が一堂に会すること以上の成果をあげるデザインができるかどうか。新型コロナが教えてくれたことは、オンラインの学習環境を二流品と見下すのではなく、オンラインだからこそ活かせるメリットをどう組み込むか、その設計手腕が試されているということだったのかもしれない。

この点に興味がある読者諸氏は、以下の論考をご覧いただければ幸いです。
鈴木克明(2012.8)「遠隔教育者を支える同価値理論と交流距離理論」第19回日本教育メディア学会年次大会(東北学院大学)発表論文集 27-28
https://www2.gsis.kumamoto-u.ac.jp/~idportal/wp-content/uploads/JAEMS2012_suzuki27-28.pdf

(ヒゲ講師記す)

【ブックレビュー】『世界のエリートが今一番入りたい大学:ミネルバ大学』山本秀樹 ダイヤモンド社(2018)

教室に入ると、教師は前回の振り返りのために教科書を開くように学生に促す。教科書に書かれた復習内容を口頭で説明し10分後、さらに別のページを開くように伝える。今日の学習内容を説明するためである。練習問題を解く時間を与え、答えを黒板で表示しながら、解説を行う。教室で発言を行う学生はほとんどいなく、教師だけが話している状態、いまにも眠りそうな学生、あるいは、もう机に顔を伏せている学生もいる。集中できず、スマホをいじる学生、頬杖をつき教科書をぼんやり見つめる学生、まるで時間が経つのをひたすら待っているかのようだ。

これは私がこれまで受けてきた授業であり、語学教師となった後も、大学で実際に行っていた授業である。90分間、話し続ける教師も、それを聞き続ける学生も疲れ果て、非効率で効果がないと分かっていても続けてしまう。この悪循環から脱却するにはどうすればいいのか。

もし、あなたが教育の現場に携わり、同じような悩みを抱えているのであれば、「ミネルバ大学」について是非、知ってほしい。
2014年に開校されたばかりの新しい大学ではあるが、当初から注目を集め、初年度には98カ国1万1000人以上の応募があり、近年では毎年2万人以上の受験者に対し合格率はわずか1.9%という狭き門である。
驚くべきことは、ハーバードやスタンフォードなどの名門大学の合格を辞退してまで進学する学生がいること、各名門大学の学生ですらインターンを許されなかったトップクラスの研究所で大学1年生から社会人研究員と一緒にプロジェクトを遂行したり、1年生終了時のクリティカル思考力を測定する外部テストで全米の大学で圧倒的1位の成績を収めたりしているという事実である。

しかし、このミネルバ大学には、キャンパスもなく、全寮制なのに授業はすべてオンライン、教師は「講義」も「テスト」もしない等、今までの大学が当たり前としてきた体制とは真逆なのである。このような環境下で、一体、どのような教育が行われ、世界のトップエリートに劣らない、あるいは、それを超えてしまう人材をどのように育成しているのか。

本書では、ミネルバ大学が、既存の大学が解決できないでいた「学びの質」と「非効率な経営」を徹底的に考え直し、現代社会において本当に必要で価値のあることを学生が主体的に学べる戦略をどのように実現させていったのか、詳細に知ることができる。

本の序章では、ミネルバ大学の創立者であるベン・ネルソンの大学時代までさかのぼる。ペンシルベニア大学ウォートン校で「Student Committee on Under-graduate Education(通称SCUE)」という学生団体の代表として活動していた際、「知識の普及」から脱却し、学生自身が興味を持って取り上げてきた題材について、教授が学生たちに「どのように考えるべきか」について教え、「学び方を学ぶ」ことを習得できるカリキュラムを設計したいと考えるようになったという。在学中にその夢が叶うことはなかったが、その後、ベンがどのような経験を経て、ミネルバ大学を開校するまでに至ったのか、詳細が記されている。

第1章では、なぜミネルバ大学がゼロからの立ち上げに成功したのかについて、オール・オンライン授業を可能にした情報技術の開発や、社会的に影響力のある人物たちを駆使したマーケティング、MOOCの誕生により、「基礎科目を提供しない大学」が現実味を帯びてきた背景、そして、エリート大学市場にターゲットを絞った理由等、様々な観点から述べられている。

第2章では、既存の大学が抱く問題をミネルバ大学はどのように解決し、実践的な知識を学ばせるべく、どのようなカリキュラム設計を行い、完全なアクティブ・ラーニングを実現しえたのか、また、第3章では、日本人初のミネルバ大学入学者の経験等を踏まえ、ミネルバの学生たちがどのように学び、生活をしているのかについて述べられている。

第4章では、教授法、職員、入試制度等、各項目において既存の大学にはないミネルバ大学の特徴がまとめた上で、現状における課題と今後の可能性について述べられている。
この中で、語学教員である私が考えさせられたのは、「第二、第三の言語習得を目指したい学生は、大学外の語学学校で学べばよく、必ずしも大学で提供しなければいけないサービスではないという立場を取っている」との一文である。
第5章で、ミネルバの思想を日本でどのように展開させるべきかについても触れているが、社会やニーズの変化に伴い、語学教育も知識伝達から脱却する時を迎えているのだと痛感した。勿論、ミネルバ大学のように、今すぐに大学から語学教育をなくすことはできないが、学生が一人でできる部分は事前に学習をさせ、授業ではそれを応用するという教育に転換する必要性を感じた次第である。

最後に、語学教育に限らず、教えることを職業とするすべての方々には是非、手に取ってほしい1冊である。ご自身の教育と照らし合わせながら、読み進めることで、参考になる工夫やアイディアを得ることになるであろう。
(熊本大学大学院教授システム学専攻 修士10期修了生 山下藍)

【報告】第44回まなばナイトレポート「著作物教育利用のスジを読もう」

令和二年初のまなばナイトは、今ホットな話題の「著作権の教育利用」についてを、広島大学情報メディアセンターの隅谷先生をお招きしてお話頂きました。

著作権法35条が改正され、教育機関はeラーニングでの利用についての保証金の金額も気になるところですが、残念ながら保証金についてはまだ決定されていないとのことでした。

まずは著作権の原則はなにか?というところからお話頂きました。
ネットに公開されているデータ等は「客観的なデータ」ということで、著作権には当てはまらない!仕事でデータが必要な時に気になりながら拾ってるデータなどは著作権に当たらない!え!グラフもそのまま使っていいの!!と少し気が楽になったのは私だけではないはずです。

とはいえ、著作権はかなり強い権利なので、複製権などを侵害したら1,000万以下の罰金や10年以下の懲役、法人の場合は3憶円以下の罰金を科せられるとのこと・・・。
気軽に使っていいものではないですね。
WEB上にあるイラストやデザイン等、バレないと思いながら使ったりすると大変なことになりそうです。現にプロダクトの丸パクリや会社説明資料、WEBサイトの丸パクリなど多々問題視されています。

今回の改正で、教育現場では補償金を支払うことで授業の録画配信やLMSでの配布は無許可で出来るようになるので、早く補償金が決定し、気にせず利用できる環境になればいいなと思います。

現在、コロナコロナで学校が休校になっているのでLMSで授業の補完がしやすくなるんじゃないかな?とコロナを追い風にしてもらいたいと思っています。

参考資料:出版物に関する35条ガイドライン策定について
http://jbpa.or.jp/pdf/guideline/new35guideline.pdf
(熊本大学大学院教授システム学専攻同窓生 北川 周子)

【ご案内】2020年度まなばナイト開催スケジュール

2020年度は以下の開催を予定しております。

6月6日 (土)東京
8月22日 (土)名古屋
10月24日(土)東京
12月5日(土)東京
2月6日(土)東京

詳細はまとまり次第告知サイトにてお知らせいたします。
http://www.manabanight.com/

【イベント】その他、近々行われるイベントは? 2020/4~2020/5

2020/5/9(土)教育システム情報学会研究会「学習環境デザインと実践のモデル/学習データの分析と応用/医療・看護・福祉におけるICTを利用した学習支援/その他」@早稲田大学早稲田キャンパス

2020/05/23(土)
日本教育工学会研究会「学習・教授システムの開発・利用/一般」@函館工業高等専門学校

2020/05/27(水) ~ 2020/05/29(金)
ラーニングイノベーション2020開催@東京国際フォーラム

★ 編集後記

感染症対策の影響でリスケの嵐です。一方で、ひげ講師の記事にもあったように、オンライン教育界隈が熱くなってきたような。私もなんだか忙しくなる予感です。
(第85号編集担当:高橋暁子)

よろしければ、お知り合いの方に、Webからの登録をお勧めしてくださいませ。
また、皆さまの活動をこのIDマガジンに載せてみませんか?
ご意見・ご感想・叱咤激励など常時お待ちしております!
【 mail to: id_magazine@ml.gsis.kumamoto-u.ac.jp】
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編 集 編集長:鈴木 克明
ID マガジン編集委員:根本淳子・市川尚・高橋暁子・石田百合子・竹岡篤永・仲道雅輝・桑原千幸
発 行 熊本大学大学院社会文化科学研究科  教授システム学専攻同窓会
http://www.gsis.jp/
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