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IDマガジン第10号

ID マガジン第10号

  • ID マガジン第10号
  • ヒゲ講師の新年度始まる:メリルの5つ星IDの要件
  • HRD JAPANに見るeラーニング ~eラーニングの変遷について考える~
  • 「マイケル・アレン氏に指導を受ける」 ~e-ラーニングインストラクショナルデザイン認定プログラムへの参加~
  • 第6弾 ランダ方式  Instructional Design
  • イベント情報
  • 編集後記

ID マガジン第10号 はじめに

ID マガジンのご愛読ありがとうございます。

突然の長期休業をしてしまい、ご無沙汰しております。
皆様お元気でしょうか。4月に入り気を引き締めなおして、IDマガジンを第10号を発行します。
また、近々にDマガジンのWebサイトをリニューアルします。皆様からのコメントをWebサイトで入力できるようになってますので活用していただけるといいなと思っております。過去の記事に関してもすべて閲覧できるようになっています。もう少しお待ちください。

ヒゲ講師の新年度始まる:メリルの5つ星IDの要件

IDマガジン発行どころじゃなく年度末が終わってしまいました。ゼミ合宿を経て修論・卒論完成から卒業式とあっという間に4月を迎えました。今頃は新入生オリエンテーションだろうなぁ、と岩手に思いを馳せながら、ヒゲ講師は今、JICA沖縄国際センターで12人の外国人研修員を相手に、彼らが製作中のマルチメディア作品をより良くするための道具としてIDを紹介する業務に従事しています。せめて、1年生が最初に研究室にやってくる日には挨拶を、と遠隔ゼミのために設置したシステムで沖縄と岩手をつなぎました。
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参考:井ノ上憲司・高橋充・鈴木克明(2004.9)「多地点間の遠隔地双方向ゼミナールを支援するシステムの構築」『日本教育工学会第20回講演論文集』15-3a-933-3

IDマガジンご愛読の皆様も、新しい年度を迎えて、気分も新たに(新しい職場で、あるいは新しい業務に、はたまたいつもどおりのルーチンに新しい気分で)お過ごしのことと存じます。遅れていますeラーニング関連3講座の第2弾・第3弾に邁進します。邁進する環境をまずは整えないとなりませんが(他にやることが多いのが悩み)。

今回は、メリルのID第一原理に基づく教授方略例をご紹介します。去年のeラーニングコンソシアム通常総会で少しお話ししましたが、メリルはID研究者の長老で、TICCITを支えたCDT(画面構成理論:REIGELUTH, 1983,鈴木 1989)や学習オブジェクトの考え方を採用した教授トランザクション理論(REIGELUTH,1999,鈴木 2005)を提唱している研究者。構成主義理論を背景に提案されている近年のIDモデルに共通して見られる特徴を「ID第一原理(First Principles)」として次の5つにまとめています(通称:5つ星IDの要件)。

●メリルのID第一原理に基づく教授方略例
1)問題(Problem):現実に起こりそうな問題に挑戦する
□現実世界で起こりそうな問題解決に学習者を引き込め
□研修コース・モジュールを修了するとどのような問題が解決できるようになるの、どのような業務ができるようになるのかを示せ
□単に操作手順や方法論のレベルよりも深いレベルに学習者を誘え
□解決すべき問題を徐々に難しくして何度もチャレンジさせ、問題同士で何が違うのかを明らかに示せ
2)活性化(Activation):すでに知っている知識を動員する
□学習者の過去の関連する経験を思い起こさせよ
□新しく学ぶ知識の基礎になりそうな過去の経験から得た知識を思い出させ、関連づけ、記述させ、応用させるように仕向けよ
□新しく学ぶ知識の基礎になるような関連する経験を学習者に与えよ
□学習者がすでに知っている知識やスキルを使う機会を与えよ
3)例示(Demonstration):例示がある(Tell meでなくShow me)
□新しく学ぶことを単に情報として「伝える」のではなく「例示」せよ
□学習目的に合致した例示方法を採用せよ:(a)概念学習には例になるものと例で
はないものを対比させて, (b) 手順の学習には「やってみせる」ことを, (c) プロセ
スの学習には可視化を, そして (e) 行動の学習にはモデルを示せ
□次のいくつかを含む適切なガイダンス(指針)を学習者に与えよ: (a) 関係する
情報に学習者を導く, (b) 例示には複数の事例・提示方法を用いる, あるいは (c)
複数の例示を比較して相違点を明らかにする
□メディアに教授上の意味を持たせて適切に活用せよ
4)応用(Application):応用するチャンスがある(Let me)
□新しく学んだ知識やスキルを使うような問題解決を学習者にさせよ
□応用(練習)と事後テストをあらかじめ記述された(あるいは暗示された)学習目標と合致させよ (a) 「~についての情報」の練習には、情報の再生(記述式)か再認(選択式), (b) 「~の部分」の練習には、その部分を指し示す・名前を言わせる・説明させること, (c) 「~の一種」の練習には、その種類の新しい事例を選ばせること, (d) 「~のやり方」の練習には、手順を実演させること、そして(e) 「何が起きたか」の練習には、与えられた条件で何が起きるかを予測させるか、予測できなかった結末の原因は何だったかを発見させること
□学習者の問題解決を導くために、誤りを発見して修正したり、徐々に援助の手を少なくしていくことを含めて、適切なフィードバックとコーチングを実施せよ
□学習者に異なる問題を連続的に解くことを要求せよ
5)統合(Integration):現場で活用し、振り返るチャンスがある
□学習者が新しい知識やスキルを日常生活の中に統合(転移)することを奨励せよ
□学習者が新しい知識やスキルをみんなの前でデモンストレーションする機会を与えよ
□学習者が新しい知識やスキルについて振り返り、話し合い、肩を持つように仕向けよ
□学習者が新しい知識やスキルの使い方について自分なりのアイディアを考え、探索し、創出するように仕向けよ

最近ユタ州立大学を退官されてハワイに移ったメリル教授に、6月はじめにインタビュー訪問が実現します。放送大学大学院で来年度から開講予定の「人間情報科学とeラーニング」で取材のチャンスをいただき、とても楽しみにしています。というわけで、一足お先に、ご紹介です。詳細情報は、http://cito.byuh.edu/merrill/をどうぞ。鮮明なメッセージで始まるイントロやメリル教授自身が5つ星IDについて語るビデオも用意されています。

(ヒゲ講師 記す)

HRD JAPANに見るeラーニング ~eラーニングの変遷について考える~

2月7日(月)~2月10日(木)に日本能率協会主催の「HRD JAPAN2005第24回能力開発総合大会」が開催されました。 HRD JAPAN 能力開発総合大会(以下 HRD JAPAN)とはどのような大会かというと、「経営課題を達成する一助として、各企業の人事・教育スタッフをはじめ、経営トップ、学術者、専門家の方々を迎え、企業の組織・人事、人材開発の方向性や戦略について情報交流をはかり、人を基軸とした経営革新の推進を目的」(HRD JAPAN2005 第24回能力開発総合大会ホームページより)とした大会です。私も、2月10日(木)のeラーニングセッションに参加しましたので、大会の感想とともにHRD JAPANにおけるeラーニングの変遷について考えてみたいと思います。

まず、今回のHRD JAPANの感想です。
今年のHRD JAPAN でのeラーニングセッションは、なんと2セッションでした。
セッション1は会場の5割程度の入りで、セッション2が7割程度の入りでした。また、過去の大会に較べ、全体的に活気がなかったのが印象的でした。以下が発表の要旨です。

●セッション1:『eラーニングの有効活用-1-』
[1] e-learningによるJALグループ全社員に対するコンプライアンス教育について~株式会社日本航空~
eラーニングを活用し、グループ会社も含めた約48,000名に対するコンプライアンス教育を行った旨の報告でした。
WBTで学習できない者に対しては、VHSやCDRを配布し、集団視聴をさせるということで徹底したそうです。アンケートの結果も良好で、とりあえずはeラーニングの効果があったということでした。この発表で面白かったのは、運用を各セグメントに主管させたことです。これが効を奏し、各セグメントの自立的学習が進んだものと考えられます。メンター、チューターの重要性を考えさせてくれる発表でした。

[2] コンピテンシ強化戦略を実現するeラーニングの展開~富士ゼロックス株式会社~
富士ゼロックスの技術者教育として、キャリア開発と人材配員の両面からコンピテンシ・マネジメントを行っている旨の報告でした。年一回、コンピテンシアセスメントを実施しその差異分析を行うことでコンピテンシ強化戦略を策定するしくみにしているようです。また、WBTと集合教育をシステムの上で融合させ、効果的なHRMを行っているとのことでした。満足度を測定したところ、集合研修に較べてWBTの方が評価が高かったとの報告がありました。
●セッション2:『eラーニングの有効活用-2-』
[3] e-Learningを活用した被評定者研修【評価の透明性・納得性向上への取り組み】~東京電力株式会社~
従来行っていた評定者教育に、被評定者に対する教育をWBTで実施する事とした旨の報告でした。任意受講であるにも関わらず、8割を超える受講率に達したとのことで、これは驚異的な数値だと思います。人事考課という従業員の関心が高い内容であることがポイントだったのでしょう。従業員ニーズと会社の方針がマッチした好例だと思いました。

[4] e-Learningを活用したキャリア開発~日本電気通信システム株式会社~
従業員のエンプロイアビリティ向上のための「キャリア開発研修」にeラーニングを導入し、ブレンディング研修を実施している旨の報告でした。WBTに埋め込まれているワークとアセスメント結果を持ち寄り、集合研修でカウンセリングを実施しているそうです。受講者の満足度も高く、今後もeラーニングの効果的な活用を進めていきたいとのことでした。
●HRD JAPANにおけるeラーニングの変遷
私は2001年からHRD JAPANに参加しています。そこで、HRD JAPANにおいて、eラーニングの取扱いがどのように変遷しているか調査してみました。HRD JAPAN2001では、「教育マルチメディアのシステム・インフラ・技術」と「教育マルチメディアの活用状況」の2本立て8セッションが行われました。各セッションに約100名程度が参加しています。この大会では、2000年の「eラーニング元年」熱が残っており、かなり注目されていました。また、インストラクショナルデザインをテーマにとりあげた発表も2例ありました。

HRD JAPAN2002では、「教育マルチメディア大会」として、2会場8セッションが行われました。まだまだ、eラーニング熱は健在ですが、大会全体の聴講者が減少しており、前回に較べると参加者数は減っています。この大会では、インストラクショナルデザインについて触れてある発表は1例のみでした。

HRD JAPAN2003では、日本イーラーニングコンソシアムの企画セッションが加わっているためeラーニング関連セッションは10セッションと過去最多になっています。しかし、会場は1つになっており、実質的には減少傾向になっていると考えられます。インストラクショナルデザインについては、やはり1例で、これは「人材プランニング」セッションでした。

HRD JAPAN2004では、さらに減少傾向で、eラーニング関連セッションは6セッションとなっています。ただし、他のセッションでもeラーニングが取り上げられており、eラーニングが人材開発に根付いてきた印象がありました。この大会では、我らのヒゲ講師こと鈴木先生も出講し「e-ラーニング成功のツールとしてのIDモデル」というテーマで発表しております(実は、私も出講しました)。この大会では、インストラクショナルデザインについては、2例の発表がありました。

そして、今大会では、eラーニング関連セッションがついに2セッションまで減少しています。前大会では、他のセッションにおいてeラーニングの活用事例も発表されていました。しかし、今大会においては、eラーニングがキーワードとして出てくるセッションはあまりありません。これは、eラーニング離れが始まっているのか、それとも浸透したため表面に現れていないのか、どちらなのかは解りません。あるリサーチ会社が行った従業員数1000人以上の企業138社に対する調査によれば、eラーニングの導入率は5割を切っているようです。ただし、未導入企業においての関心は高いようで7割を超えています。決してeラーニングに見切りをつけているわけではなく、様子をうかがっているのだと思います。もし、「eラーニングが踊り場」であるとすれば、一気に駆け上がれるよう背中を押していきたいものです。そして、その背中を押す力がインストラクショナルデザインなのだと確信しています。

以上

(四国電力 総合研修所 小笠原)

「マイケル・アレン氏に指導を受ける」 ~e-ラーニングインストラクショナルデザイン認定プログラムへの参加~

2005年1月31日-2月1日に、アメリカ・ラスベガスで行われたASTD Techknowledge 2005カンファレンス内、e-ラーニングインストラクショナルデザイン認定プログラムに参加しました。これはASTD主催の認定プログラムで、他にHPI(Human Performance Improvement)認定プログラム、トレーニング認定プログラム、測定と評価認定プログラムが用意されています。本年はさらに、ラーニングデザイン認定プログラムというのが7月から開始するようです。

当プログラムに参加してから、約二ヶ月が過ぎてしまいましたが、それでもIDマガジン読者の皆様には紹介しなくては!と思い、書かせて頂くことにしました。

e-ラーニングインストラクショナルデザイン認定プログラムは、教育部門の経験がなく、新しくe-ラーニングに関わることになった人、最新のテクニックを修得したいと思っている人、インストラクショナルデザイナー、教育マネージャー、カリキュラム作成者、インストラクターから教材開発側に移る人など幅広い人を対象に、実際に活用されているコンテンツを使ってeラーニングの魅力を実感し、魅力的な教材作成には、どのようなことを意識しながら作成するべきかを学ぶ2日間のワークショップです。初代Authorwareの設計者、かつRoger.C.Shank のもとでGBS(Goal-BasedScenario)理論開発に関わってきたマイケル・アレンがコース・テキストを開発し、自分でインストラクタも担当するというコースで、それに参加できるということだけで、喜んで現地に向かいました。

ワークショップは、説明→質問→ディスカッションを繰り返し行い、最後に一つだけグループディスカッションを行うための問題が出されました。アレン氏が説明中でも、質問がバンバン飛び交い、周囲の参加者とは、自己紹介、質問、お互いの仕事や興味に関して話すこともでき、なんとか切り抜けてきました。

彼のメッセージは、「つまらないeラーニングは廃止しよう!」であり、それを実現するための要素は、
・ 学習者が高く動機付けがされていること
・ 学習行動が広がっていく課題に集中させること
・ 意義があり、記憶に残る経験を作り出すこと
という事でした。この3要素を取り込むとどのようによい作品ができるのかは、Allen Interactions社が作成したコンテンツを受講者に触らせ、それに関する詳細な説明が繰り返し行われることで伝えるようになっていました。
このコンテンツの見本はCD-ROMでお持ち帰りができるというサービスの良いものでしたが、その中のいくつかはAllen Interactions社のウェブサイトから見ることができます。見てもらうのが一番ですので、是非http://www.alleni.com/へアクセスしてDemoのページを訪れてみてください。

彼らが提供する教材のほとんどは、ストーリー仕立てで、学習者が実務と同じ役を演じながら一つずつ問題を解決していく形になっています。常に選択をせまられ、不適切な回答をすると、ゲームに出てくるようなエネルギーバーが下がることで失敗したことを知らせたり、他の人から指導を受けたりとすぐにフォローが返ってくるように作られています。学習が終わると、全体に対する評価も「フィードバック」という形で表示されます。

すべての学習は、チューターをつけることもなく、説明書などを読まなくても自学自習ができるようになっています。その完成度の高さには、圧巻です。今回受講して、シナリオ型のeラーニングが成功する秘訣は、内容をかなり絞って具体的に学習者に何ができるようにするか落とすことにあるのではと感じました。アレンの話の中には、ADDIEプロセスモデルに関してもう古いものだと否定的な言葉も出てきましたが、コンテンツを作る際に、SMEとデザイナーがプロトタイプを見せながら入念に打ち合わせをし、その中でニーズ分析と対象とする学習内容がしっかり落とされた後に開発を行うところは、しっかりとIDプロセスモデルに沿って開発していることが伝わってきたからです。

参加者の大半はアメリカ人でしたが、香港と韓国から来た参加者にも会いました。トレーニングマネージャー、LMSにのせるコンテンツ開発を企業で初めて開発することになった技術者、人事部所属の教育の担当者、カスタマーサービス部のとりまとめでかつeラーニング導入の担当者、インストラクターから教材設計を担当する予定の人など、担当する業務もかなりバラエティに富んでいましたが、それぞれが楽しんでいたようです。アメリカはIDやeラーニングに関する技術がすすんでいるといっても、現場の皆さんは日本と同じような悩み(いかに質の高い教材をつくるか、コストを抑えられるかなど)を抱えているんだなぁと感じました。みんなでランチを食べながら、担当者の意見を聞ける場というのはとてもよかったです。

この2日間のワークショップに参加するだけで、認定証をもらってしまってよいのか?と思いますが、テスト、プレゼンテーション、レポートなどで評価されることになると・・・英語に自信がないので正直ホットしています。また、このカンファレンスに関しては簡単にまとめてありますのでよろしければhttp://www2.et.soft.iwate-pu.ac.jp/~hrst/report/tk2005.htm を見てください。

□参考URL:
*e-ラーニングインストラクショナルデザイン認定プログラム:
http://www.astd.org/ASTD/Templates/OneBox.aspx?NRMODE=Published&NRORIGINALURL=%2fastd%2fEducation%2felearningcert%2ehtm&NRNODEGUID=%7b855DB937-4E01-41D3-AF48-0EE46266B27E%7d&NRCACHEHINT=NoModifyGuest#agenda

*Allen Interactions社:
http://www.alleni.com/

*ASTD Techknowledge 2005カンファレンス
http://www.astd.org/astd/conferences/tk05/tk05_home
岩手県立大学 根本 淳子

第6弾 ランダ方式  Instructional Design

関西地方を中心とした教育工学を専門とする若手研究者(筆者の前任校は京都外国語大学でした)らが立ち上げたeel研究会(http://www.murakami-lab.org/masayuki/eel/)において、ID理論に関する通称GreenBook(みどり本)と呼ばれる”Instructional- design theories and models.”のVolume2を題材に勉強会を開いてきました。
今回はその中で第15章のLandamatics Instructional Design(ランダ方式)について紹介します。
<ランダ方式とは>

現代の情報化社会においては、知識の変化はとても早いので、今日学んだことがすぐに古くなり、使うことができなくなってしまうということが一般的によく言われるようになってきました。
そのような状況の中で、どのように知識を獲得していけばいいのか、すでにそうした効果的な知識の獲得と適用を学習してきている科学的または実践的活動のフィールドにおける専門家は、様々な種類の知識を学び、利用するために同じ認知の働きとプロセスを使っているといわれています。異なる内容においても、どんな状況においても「考える」方法、また一般的な論理構造の定義を明確にするという方法など、「高次の思考力」が求められています。このような「高次の思考力」をどのように教えるかというのがLev N. Landaにより提唱されているLandamatics Instructional Design(ランダ方式)です。

ランダ方式においては、「考え方」を習得するための「方法」として、2点が挙げられています。
(A)問題を解決したり、タスクを実行するための一連の活動 (活動のシステムとしての方法(Ma))
(B)実行される行動を導くための指示 (指導のシステムとしての方法(Mp))
新しい問題を解いたり、新しいタスクを実行したりするための方法を探すさい、まずはじめにMaを発見し、それをMpに変換すると考えられています。
ランダ方式は目的のある明確な教授方法を通して一般な定義、概念、考えるプロセスを形成し、考える方法(MaもMpも)を身に着けるアプローチとして開発されました。
<ランダ方式での実践例>

ランダ方式には定式化された手法があります。以下では、例として直角三角形の定義について学ぶときにランダ方式ではどのような学習(活動)が行われるかをまとめます。
なおこのプロセスはランダ方式では「ストラテジ1(導かれた発見)」と言われます。文章を見ると長いように見えますが、実際に行ったところでは15分から20分以下であるということです。

1.生徒が独自に直角三角形の概念を発見する
2.三角形にその概念を表す名前をつける(科学において概念を示すために使われる言葉)
3.論理的に正しい概念の定義を組み立てる
4.概念を適用するため知的システム(Ma)に関する独自の発見
5.発見方法(Mp)の形成
6.練習、方法の適用に関する学習
7.方法の指導(Mp)の内化
8.方法の働き(Ma)の自動化とそれの完璧なマスターを保証する

上記の8ステップののうち、4から8に関してがランダ方式に特有のもので、指導目標とそれに対する活動が示されています。

4.概念を適用するため知的システム(Ma)に関する独自の発見
-指導目標4:定義された類型に所属するかしないかを判断するタスクを行うことで、生徒が組み立てた概念、その定義を含む心の中の活動(Ma)を発見させ、気づかせる。
教育的活動:生徒に決定させるためには三角形であっても、直角三角形であっても定義を確認するために頭の中で何をすべきかを聞く。本例においては、生徒は三角形が直角を持っている かどうかをチェックしなければいけないということを言う。

5.発見方法(Mp)の形成
-指導目標5:生徒に指導のシステム(Mp)に対応した明確な形式化をさせる
教育的活動:(1)判断の詳細な方法を形式化させることについて聞く。(たとえば、直角三角形の定義をどのように使うか、また自分たち以外の人が与えられた三角形が直角三角形かそうでないかを決定するためには何をすべきかということを聞く)
(2)もし生徒が方法を正しく形式化すれば、次の指導目標に進むことができる。もし違えば三角形が直角か直角でないかを気づかせるために活動の方法(Mp)をどのように形成するかを以下のような方法を実施させることで彼らに説明する。

[1]直角三角形の定義を参照し、その特徴的な側面(90度を持っていること)を抜き出す。
[2]自身でこの特徴を与えられた三角形に重ね合わせる、そしてそれが90度を持つかどうかをチェックする。
[3]以下のルールに従って、結論を導く
(a)もし三角形が90度を持つなら、直角三角形である。 (b)もし90度を持たないなら、それは直角三角形ではない。
[4]形式化された方法(アルゴリズム)を黒板に書かせるか、他のメディアを利用して示させる(準備の必要あり)。

6.練習、方法の適用に関する学習
-指導目標6:形式化された方法(Mp)を適用する練習を行わせる
教育的活動:(1)生徒に今から行われるタスクが、他の三角形において直角三角形に気づくために形式化された方法を適用する練習をするためにあるということを教える。
(2)生徒に様々な三角形を見せ、直角三角形とそうでないものとを区別させる。
(3)step-by-stepでその方法を使うべきであることを説明する。はじめの指示を見て言われていることをする、そして次の指示を見て行うなど。

7.方法の指導(Mp)の内化
-指導目標7:特別な練習によって方法を内化させる、そして、完全にマスターさせる
教育的活動:(1)生徒にもう黒板での指導(教示)は必要ないこと、生徒たちで置き換えることができることを教える。
(2)黒板上のインストラクションを消し、生徒にあと2、3の三角形を見せることを言う。彼らはそのうちのどちらかが直角三角形であるか、黒板上のインストラクションの代わりに、彼ら自身のインストラクションで決めさせることを伝える。

8.方法の働き(Ma)の自動化とそれの完璧なマスターを保証する。
-指導目標8:方法の知的操作に関する効果的自動化
教育的活動:(1)生徒にさらに自己インストラクションでさえも必要ではないこと、それは彼らが直角三角形に気づくにはどうすればよいかをすでに知っているからだということを伝える。
(2)彼らが直角三角形を見つけなければならない最後の組み合わせを見せる。自己インストラクションなしにできるだけ早く見つけるように言う。生徒は課題を簡単にやり、早く直角三角形を見つけることができる。

<その他のストラテジ>
ストラテジ1というのは効果があると思われつつも、多少の時間がかかります。そのため、完全な時間が無いときにはストラテジ2(解説教授)を用いることがあります。ストラテジ2においては、上記の例で言えば、生徒に直角三角形のコンセプトを発見させることのかわりに、教師がその定義づけをし、すべて知識を整理した形で(適切な絵と練習をもって)生徒に教えることになります。
またランダ方式をより確実なものとするために、両者を組み合わせたストラテジ3(混合ストラテジ)も存在します。これはどのトピックをどちらのストラテジによって教えるかは与えられた時間の中で、教師の目的、各方法に関連する利益によって決定されます。
<抽象化の方法>
ただ上記した例は直角三角形を選択するという学習のときのみに当てはまるのであって、その方式がそのままその他の状況(たとえばひし形などの図形ではどうか、数学的な問題以外のときではどうかなど)に当てはまるのかというと必ずしもそうではありません。他の定義にも当てはめていくことができるように、ランダ方式は論理構造を定義する段階(「90度を持っている三角形が直角三角形である」という部分)で多層的に抽象化が図られています。
これについては、そのプロセスがあまりに長いので本メールにはまとめることができませんが、興味のある方は是非原文にあたってみてください。

(寺嶋浩介 長崎大学)

イベント情報

○2005/04/25 教育システム情報学会 シンポジウム 14:00-18:00 (東京電機大学)
「eラーニングのオープンソース」

○2005/05/21 日本教育工学会 研究会 (北海道教育大)
「多様な遠隔教育の実践と評価」
URL:http://www.nime.ac.jp/EduTech/files/20050521.html

○2005/06/3-4 教育システム情報学会 研究会 (青山学院大学総合研究所)
6/3 「 eラーニング環境のデザイン/一般」
6/4「 eラーニングの実践報告とシステム公開デモセッション」

編集後記

★編集後記
個人的な都合により、3ヶ月ほど、IDマガジン発行を休みました。反省しています。
継続的に発行できるように、努めたいと思います。
今回、ホームページを刷新しようと試みています。トラックバック機能なども付いてますが、皆さんどこまで活用してくれるか、楽しみであり不安でもあります。

皆様からのご意見・ご感想・叱咤激励など常時お待ちしております!
【 mail to: idportalあっとml.gsis.kumamoto-u.ac.jp 】

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最後までお読みいただき、ありがとうございました。

※このメールは、先日行ったeLF追跡アンケートで、メールマガジンの購読を希望するとお答えいただいた方・IDマガジンWebページより購読の申し込みをして頂いた方に配信しております。

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本サイトは、JSPS科研費「教育設計基礎力養成環境の構築とデザイン原則の導出に関する統合的研究(23300305)」の助成を受け、研究開発を行いました。

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