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IDマガジン第8号

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  • ID マガジン第8号
  • アメリカでIDを学ぶ
  • 国際協力事業におけるIDの実践~(第1回)ミャンマーにおいて民主化教育が普及できるのか?
  • 第4弾 TfU(Teaching for Understanding)フレームワークの紹介です。
  • 師走でもヒゲ講師は走り続ける?
  • イベント情報
  • 編集後記

IDマガジン第8号 はじめに
ID マガジンのご愛読ありがとうございます。

とうとう、師走。今年もあと少しです。この時期になると、クリスマスを越えて年末を意識するようになります。今年は皆様にとってどんな一年だったでしょうか。充実した一年でしたか。すこし時間をとって、振り返ってみてはいかがでしょうか。ひげ講師は、相変わらず快調に飛ばして振り返ると同時に進み続けてますが。IDマガジンのバックナンバーはここ(http://www.et.soft.iwate-pu.ac.jp/~id_magazine/)からご覧になれます。

アメリカでIDを学ぶ
8時半起床。キャンパス内のアパートに住んでいるので朝はいつもゆっくり目だが、週3回は朝からソフトウェア会社でインターンの仕事が入っている。コーヒーとドーナツを胃に流し込みつつ車を走らせ、キャンパスから10分ほどのところにあるオフィスへ。仕事内容は、同社主力製品である統計パッケージの日本語版開発のサポート業務。雑務も多いが、大学のアシスタントとして雇われているので、授業料免除とちょっとした月給がでる。自費留学だと年間300万円以上かかってしまうが、大学でアシスタント(リサーチアシスタントやティーチングアシスタントなど仕事内容はさまざま)の口を確保できれば、元手が乏しくても気合で何とかやっていくことはできる。

昼、大学院生の有志でやっているセミナーに参加。月一ペースで学内外からゲストを呼んで小一時間のセッションをやっていて、私も企画運営委員として参加している。今回のゲストスピーカーは、Educational Technology Magazineの名物編集者ラリー・リプジッツ氏。彼は、スキナーの行動主義の時代から教育工学分野の発展を支えてきた同雑誌の編集者として、30年以上にわたって教育工学の研究動向を見てきている。「教育工学者は幅の狭い教育メディア研究ばかりやってもらっては困る。インターフェースをちょっと変えた時の学習効果の差の研究なんてのも大事ではあるが、みんながそればかりやっていてよいことはない。学習科学、ID、構成主義など、いろんな立場からいろんなことが言われているが、教育システム全体をカバーできる概念は教育工学(Educational Technology)だ。最近は学習科学が流行っているが、その概念では教育すべてはカバーしない。」といった趣旨のトークが行なわれ、院生や教員達と議論。参加者たちは受身なご意見拝聴という姿勢でなく、率直に疑問をぶつけ、教員も院生も皆がオープンに議論に参加する。セ
ッションの後、リプジッツ氏と雑談する機会があったので、日本人の研究者と仕事することはあるかと聞いてみた。すると、「たまーに論文を見かけたりすることはあるが、ここ20年ほどでほんの数件だ。韓国や台湾のようなアジア各国からの留学生は増えてるのに、日本からは不思議なくらい来ないね。日本人は日本の教育システムに満足しているのか、それとも本気でよくする気がないんじゃない?」と鋭いコメントを返された。

セミナーの後は、研究プロジェクト科目のミーティング。教員のもとで数人の院生がプロジェクト形式で研究を進める。各教員、それぞれテーマもスタイルも違う。NASAから科学教育の補助金をもらって中学生向けの理科教育のコンテンツを作っているプロジェクトもあるし、20年以上も同じコンテンツを使って、メディアや教授方法の違いによる学習効果の差を研究しているプロジェクトもある。子どもの肥満予防のためのオンライン教材を構造主義的アプローチで開発するプロジェクトもある。私が参加しているプロジェクトは、オンライン学習コミュニティモデルの構築がテーマだ。毎学期、新しいプロジェクトを始める教員がいるので、参加するプロジェクトを変えることもできるし、継続的に一人の教員について研究を進めることもできる。私は指導教員が来期のプロジェクト科目をオファーしないので、他の教員のプロジェクトを探しているところである。来学期から医学教育用のシミュレーションゲーム開発プロジェクトが始まると聞きつけたので、そっちに参加してみようと思っている。

授業が終り、帰り際にプログラムの同僚と雑談。ブルームの目標分類をクラスウォールがアップデートしたものが出ているのを教授から聞いたが、その本持ってるか?、とか、この間TAに勧められたクラークのE-learningの本(E-Learning and the Schience of Instruction)は参考文献としてなかなか使えるぞ、といった話が飛び交う。先週参加した学会で、教育用ゲーム関連の論文や事例を見つけてきたと話すと、後でメールで送ってくれとリクエストされた。みんな学期中は読書課題やレポートを山のように抱えているので、なかなかゆっくり話す時間は取れないのだが、ちょっとした会話で、探している情報や研究のアイデアが得られたりすることが結構ある。

— こんな感じで私の一日は過ぎていく。ちょっと補足をすると、私が在籍するペンシルバニア州立大学(通称ペンステート)インストラクショナルシステムズ(INSYS)プログラム博士課程は、Learning & Performance Systems学部に設置されていて、この学部には他に、成人教育学(Adult Education)プログラムと、職業教育学(Workforce Education & Development)プログラムが設置されている。IDを学べる大学院はアメリカに何十とあるが、それぞれに特徴や強みがある。K-12の学校教育カリキュラム学系の学部に設置されているものが結構多く、それらのプログラムは、当然ながら学校教育向けの内容が多い。学部の構成からわかるように、ペンステートのINSYSは高等教育、社会人教育寄りである。また、テクノロジー寄りのところと、理論やモデル研究寄りのところ、という違いもある。テクノロジー寄りのプログラムだと開発系の科目が多くなる。ペンステートは理論やモデル研究が中心で、開発系の科目はあまり強くない。

日本でもネットを駆使すればたいていの情報は手に入るし、オンラインでID系の学位を取れるプログラムも無くはない。日本にいてもかなりのことが学べるのだが、それでもはるばる留学してくる価値は計り知れないものだといろんな場面で気づかされる。ペンステートに来てすぐの頃、驚かされたのは大学でインストラクショナルデザイナーが大勢雇われていて、教員の支援や教材開発で活躍していることだった。Schreyer Instituteという教員支援センターがあり、そこではプログラムの卒業生や現役生が全学の教育の質を向上させるための仕事をしている。また、地球資源学カレッジは自前の教育開発センターを持っていて、4人のシニアインストラクショナルデザイナーがそこで働いている。院生たちも、インターンやアシスタントとしてそこで経験を積んでスキルを磨いている。そこでは、自分が学んでいることを実際に現場で実践しているプロが身近にいて、彼(女)らから指導を受ける機会が豊富にある。

このペンステートのINSYSプログラムには専任教員が8名いて、教育工学研究の若手から重鎮、研究関心も多様な精鋭がそろっている。単純な話、10年前、現在、10年後、20年後の鈴木教授のようなすごい研究者が8人いて、研究や教育にフル稼働しているような状況をイメージしていただければ、当たらずとも遠からずである。そこで生み出され、交換され、集積される知の量と質は相当なものだということはご想像いただけるかと思う。そんなプログラムが全米に何十とあって、研究成果を出し、何十人もの専門家を世に送り出している。そしてそこに来て学ぶ院生のかなりの割合は留学生(ペンステートINSYSプログラム6割が留学生)、うち韓国、台湾、中国などアジア諸国から毎年それぞれ数十人単位で入ってくる中で、日本人はどこもゼロか私のような稀な存在がポツリポツリといるだけである。

私の研究者としてのゴールの一つは、将来このペンステートのような強力なプログラムを日本の教育機関でも提供できるようにすること。そしてそれを複数に拡げて、インストラクショナルデザイナーを年数十人単位で世に送り出せる基盤を整備することである。もしそうなればわざわざ留学しなくてもいい環境が提供されているかもしれない。しかしそれはまだ先の話であって、IDを学ぶのにベストの環境を得るためには、今しばらくはアメリカ高等教育の胸を借りないといけない。留学というのはいろいろと障壁があって実現するまでの苦労も多い。留学してからも苦労は多いし、いろんなことが起こる。しかし苦労するだけの価値は大いにある。しかもIDの専門家は現在日本では稀少な存在なので、実力さえちゃんと身につければ、日本に帰ってからの活躍の場も多い(たぶん)。IDを学ぶ皆さんへ、ID留学、心を込めてお勧めである。

藤本 徹 (ペンシルバニア州立大学インストラクショナルシステムズプログラム博士課程)

国際協力事業におけるIDの実践~(第1回)ミャンマーにおいて民主化教育が普及できるのか?
ちょっとドラスッティックなタイトルになりましたが、この12月に始まったばかりの フレッシュで且つチャレンジングな教育分野の国際開発プロジェクトを皆さんに紹介 したいと思います。

最近教育分野の国際協力において大きなトレンドとなっているのが、学校運営や就学 率向上を地域住民参加で進めていくプロジェクトと、もうひとつが途上国での教育に おいて児童中心型教育(注1)の考え方や手法を導入する案件です。本稿では現在私 が仕事で参加している国際協力のプロジェクト「ミャンマー児童中心型教育強化プロ ジェクト」について紹介したいと思います。このプロジェクトは2004年12月に私の所 属する会社が国際協力機構(JICA)から競争入札で受諾した案件で、2007年11月まで 3年間かけて、これまでの教師が主役の詰め込み主義の教育から児童中心教育へと変 革を導入するとてもチャレンジングなプロジェクトです。

(注1)児童中心型教育とは、子どもの興味・関心を最大限に考慮し、子どもの興 味・関心に基づいて能動的で活動的な学習活動を展開していこうとする教育です。児童中心型の学習においては、子どもに自由に考える機会を与え、創造的かつ想像的な 思考の発達をめざします。また、子どもを取り巻く環境に注目し、社会で直面する 様々な問題や困難をいかにして解決するかという問題解決型学習を取り入れます。)

来週ミャンマーに出張し、教育省においてワークグループを編成し、プロジェクトの 各コンポーネントの目標や実施方法を議論しますが、皆さんもご存知の通りミャン マーは鎖国に使い閉鎖的な社会主義そして軍事政権で、最近またアウンサン・スー チー氏(ミャンマーの民主化運動のリーダーで91年ノーベル平和賞受賞者)が自宅軟 禁されたという話は聞いていると思いますが、ミャンマー人の海外への出国は基本的 に認められず、インターネットも一部の環境でのみ政府に閲覧を登録したサイトしか アクセスできません。国際電話も全て盗聴されており、以前わが社のコンサルタント が話の中で「日本の民主化教育が始まったのは。。。」という話がちょっと出ただけ で、当時会場にいた参加者全員が家宅捜索を受けたという話です。このような国で学
習者が自ら考えて行動することを進める児童中心型教育の普及とはまさしく民主化教 育を促進するための試みなのです。この案件がどのような経緯で現地の政府の承認を 受けて日本政府に正式に協力要請されたか詳しいことはまだわかりませんが、不安と 期待で複雑な心境です。

私が担当する国内20校の教育大学カリキュラム改善も含め、プロジェクト自体がID の見直しと普及が中心であるため、これから展開するドラマと開発のプロセスをIDマガジンを購読している皆さんと共有していければと思います。とりあえず今回は第1回としてプロジェクトの概要を紹介します。
(以下JICA入札公示書類から抜粋しコメ ントを付け加えた)

【プロジェクトの背景】
ミャンマー国の初等教育は、正規の就学率が67%、修了率が40%程度と低い水準にと どまっており、その理由として、暗記・暗唱を中心とした教授方法及び硬直した進級・進学制度が指摘されています。現行の評価制度では、暗記量を測る試験により進級・進学が決定されるため、暗記できない児童は進学ができなません。このため、暗記・暗唱中心型の学習から児童中心型の学習への転換が必要とされています。
JICAは、1997年から1999年にかけて個別専門家「基礎教育カリキュラム改善」を教育省に派遣しました。その後2001年3月から2004年3月まで、開発調査「基礎教育改善計画調査」を実施し、暗記型学習から児童中心型学習への転換を支援するため、(1)理科・社会科・総合学習の3教科における教師用指導書の作成、(2)教育大学における教育・研修機能強化方策の提案、(3)小学校建設・補修にかかる整備計画の策定を行いました。

JICAのこれらの協力は、ミャンマー国の教育改革にインパクトを与え、教育省は、個別専門家の提言を採用しました。さらに開発調査の提言を踏まえ、児童中心型学習を基礎教育における基本的な教授・学習方法とすることを全国に通達し、その普及のための中核的機関として基礎教育リソース開発センター(Basic Education ResourceDevelopment Center: 以下BERDC)を新たに設置しました。

【プロジェクトの目的】
本プロジェクトの目的は、BERDC及び全国の教育大学(全20校)を拠点としたカスケード方式(注2)により、児童中心型学習を選定された地区の小学校で実践することです。主な活動として、児童中心型学習の普及の担い手となる(1)BERDCスタッフ、(2)教育大学の教員、(3)教育管理者及び学校郡トレーナー、及び(4)学校教員を対象とした研修プログラムの開発・実施、教育大学のカリキュラムの改訂、児童中心型学習の考え方に基づいた児童の評価制度の開発、児童中心型学習の実践に対するモニタリングを実施します。

(注2)カスケード方式とは滝のように下へ流れていく仕組み。言い方を帰ればねずみ講式で指導を受けた人がその下の人たちに更に指導して技術や知識が広がっていく仕組みのこと。

【団員構成】
団員は以下のメンバーで構成されています。
プロジェクトマネージャー(総括):笹尾隆二郎(アイシーネットシニアコンサルタント)
研修開発(副総括):坪内睦(アイシーネット教育コンサルタント)(彼女はこれまで3年間開発調査の専門家として関わってきた人)
CCA技術指導:田島伸ニ(国際識字文化センター代表、元ユネスコアジア・文化センター職員)(彼も前の開発調査の団員)
CCA普及・モニタリング:山岡智亙(アイシーネットスタッフ、元協力隊理数科教育隊員)
教育評価:久保田賢一(関西大学教授、ご存知教育工学会副会長の久保田先生)
教育大学カリキュラム:伊藤拓次郎(アイシーネットコンサルタント)

(CCA:Child Centered Apprach,つまり児童中心型教育のこと)

【対象地域】
ミャンマーの20の教育大学を通じてそれぞれの大学周辺の合計27のタウンシップにおいて随時学校教員に対してCCA研修を実施していきます。
ちなみにミャンマーの教育大学は高校卒業後1年と2年のコースがあり、日本では短大に相当します。

今回は2週間だけの現地調査ですが、来年2月~3月には1ヵ月半強現地入りし、CCA理論に照らし合わせた教員養成大学カリキュラム見直しから、教員への教育方法のトレーニングなどを開始します。難しいのは、3年間で現地に実際に行って活動するのは合計7ヶ月、毎年2ヶ月間強程度しかないのです。現地カウンターパート(つまり仕事を一緒に進めるパートナー)の能力やポテンシャルをいかに引き出すか、そして如何にして自立発展していく仕組みを作り出すかが目標達成のポイントです。

3月にはIDマガジン特集のその2で、如何にして大学教員の態度の変容へ導くのか、また参加型手法を用いたカリキュラム・教材見直し改善作業について紹介したいと思います。どうぞお楽しみに。 (鈴木研究室D3伊藤拓次郎)

第4弾 TfU(Teaching for Understanding)フレームワークの紹介です。
岩手県立大学鈴木研究室では、ID理論に関する通称GreenBook(みどり本)と呼ばれる”Instructional-design theories and models.”のVolume2を輪読しています。今回はその中で第5章のDavid N. Perkins とChris UngerによるTfU(Teaching for Understanding)フレームワークについて紹介します。

◆概要
「TfU(Teaching for Understanding)フレームワーク」は、教師や大学教授、カリキュラム開発者などが活用対象者であり、学習者が『理解のための学習活動(Understanding performances)』を行うように授業を設計・開発することが目的です。これは、ハーバード大学大学院教育学研究科のzeroプロジェクトにおいて何年間にも渡り、学校の教師と共に実践を重ねて作られました。筆者らは「理解」の重要性を説いており、「理解」は教育の成果としてすべての学習者に求められる基本であると位置づけています。この理解を導くための授業を設計・開発するために作られたのがTfUです。理解が優先される学習にはどこにでも適しており、授業実施前、実施中、実施後にTfUフレームワークを当てはめてみて、必要なものは何かを確かめたり、自分の教授法が正しいものだったかを認識したりする、という使用法が考えられます。
TfUフレームワークは4つのカテゴリー『発展性のある題材』『理解のための目標』『理解のための学習活動』『学習中の評価』から構成されており、設計や教授方略を考えるための実践的なツールになるものとして紹介されています。各カテゴリーについては、「体の関節(joints of the body)」という例を取りあげて詳しく記述されています。

◆4つのカテゴリーとは
I.発展性のある題材(Generative topics)
『発展性のある題材』を考えることは、教師やカリキュラム開発者が、豊富で啓発するような題材が選択できることを支援します。『発展性のある題材』の選択基準には以下の4つがあります。
[1]専門領域の中心となるもの:例えば、「体の関節」という題材を考えた場合、自動車を学習する時は台車の部品と捉えることができます。また、スポーツや医学的な内容を学習する時は、人体の関節と捉えることができます。このように「体の関節」という題材は様々な分野における中心的なものと捉えることができます。[2]学習者にとって利用しやすくおもしろいもの:学習者にとって利用しやすく、おもしろい題材であれば、学生は熱中しつつ、効果的に題材に取り組むことができます。[3]教師にとっておもしろいもの:題材に対して情熱を持っている教師は、より熱意を持って、想像的に取り組むでしょう。そして、その題材の準備を念入りにして、学生を真剣に取り組ませ、深い学習を行わせることができます。[4]種々の専門領域や文脈へつながりやすいもの:良い発展性のある題材とは専門領域を越えて、様々なテーマに関連させることができ、「底なし」の特徴を持っています。

II.理解のための目標(Understanding goals)
『発展性のある題材』を考ると、多くの題材が出てくるため、焦点を絞るために『理解のための目標』が必要となります。『理解のための目標』の基準には、以下の3つがあります。
[1]明白で誰にでもわかる目標:分かりやすい目的は、公共性という特徴を持っています。黒板に書いたり、プリントとして配ったりすると目標と一緒に学習全体像も把握することができます。[2]入れ子にされた目標:TfUフレームワークを使った教授活動が、半年間や1年間という期間に渡る場合、目標が複数設定され入れ子になります。 [3]専門領域の中心となる目標:専門領域の中心となる目標を保持するには、「専門領域内の内容知識」「専門領域内の方法」「専門領域の目的」「専門領域内の表現」の4つの視点でチェックすることが大切です。

III.理解のための学習活動(Understanding performances)
『理解のための学習活動』には特徴が二つあります。計画された学習活動には学習者の(1)現段階の理解を表示することと、(2)理解を進めることです。『理解のための学習活動』を選択するために5つの基準が設けられています。
[1]理解のための目的に直接つながるもの:『理解のための学習活動』は、授業の単位ごとに決められた『理解のための目的』につながる必要があります。[2]練習を通しての理解の発展と応用:具体的な活動としては、学生が草案を書いたり、批判したり、さらに訂正したりすることなどです。[3]多様な学習スタイルや形の表現の確保:グループ学習、個別学習どちらにおいても、理解のための学習活動は異なる学習スタイルや表現を認めるべきです。[4]挑戦的で、取り組みやすい作業における熟考した取り組みの促進:『理解のための学習活動』はただ行動するだけではなく、しっかり考えることを要求すべきです。そして、ただ親しみやすい学習活動だけではなく、試行錯誤させるような学習活動も必要です。[5]誰にでもわかる理解の明示:学習者は自分自身がしていることを把握するためにも、学習活動は可視的である必要があります。そして、他の人(同僚の学生、教師、親)はフィードバックを提供できるような位置にいる必要があります。

IIII.学習中の評価(Ongoing Assessment)
学習者は有益なフィードバックを受けることで学習活動を洗練することができます。学習中の評価は教師や開発者に学習過程において常に素早く有益なフィードバックをする計画を立てることを求めています。『学習中の評価』設定の基準として以下の4つが挙げられています。
[1]明白で誰にでもわかる適切な基準:学習活動のために、明白な基準を持つことは学習者を非常に助けます。例えば、ルーブリック(rubric)を作成すると明白な基準を示すことができます。[2]高頻度の評価:学習中にはさまざまな形で評価が常に行われていることが大切です。[3]フィードバックの多様な情報源:グループの仲間同士の議論の中にあったり、家で親と話している中でなどフィードバックは教師だけではなく、他の学生や親などからもなされます。また、教師は評定をつけるといった公式のフィードバックも行う必要もあります。[4]進展の測定をしたり計画を満たしたりする評価:進行状況を評価することや、計画を活気付けることが『学習中の評価』には必要です。教師は、個々の学生がどのようにうまく学習活動を行っているかを見ることで、彼らの特有のニーズに対応することができます。クラス全体がどのように動いているかをよく見ることによって、緊急な問題に対処したり、新たに察知したチャンスを汲み取ったりすることができます。

以上、大まかに紹介しましたが、さらに詳しい内容は、鈴木研究室「輪読の輪」のページ(http://www.et.soft.iwate-pu.ac.jp/~core/)の「輪読の輪 第2弾 インストラクショナルデザイン 理論とモデル 2」の第5章の項目に例・図表などと合わせてまとめたものが載っていますのでご覧下さい。

参考文献:
David N. Perkins & Chris Unger(1999) .”Teaching and Learning for Understanding”. In C. M. Reigeluth (Ed.). [Instructional-Design Theories and Models Vol.||(pp425-453.;Chapter 5)]: A New Paradigm of Instructional Theory.illsdale,NJ:Lawrence Erlbaum Associates.

(岩手県立大学大学院:岡本 恭介)

師走でもヒゲ講師は走り続ける?
本年のメインイベントの一つが無事に(?)終わった。eラーニングフォーラム2004Winterで実施したeラーニングファンダメンタルの続編「eラーニングマネジメント」の試行としての「発注者のためのeラーニング要求仕様の作り方と導入マネジメント」である。「試行」にもかかわらず通常のトラックと同額の参加費を徴収する、という悪条件にもかかわらず、約60名の参加者を得て、わいわいがやがやと一日が過ぎた。参加していただいた皆様に感謝。

無事に(?)としたのは、出口アンケートの結果をまだ見ていないからだが、まずまずの手ごたえは得られたと思っている。詳細は、新春特別号(かどうかはわからないが)としてお届けする次号に譲るとして、当日配布資料などは、コンソーシアムのWebサイトにあるので、ご覧いただきコメントを期待しています。当日約束したワークシートの中身もまとめて近日公開の予定です。読者の皆さんでこの日参加された方は、出口アンケートに書ききれなかった感想、主催者には言えなかったけど「こんなことを気づいてしまった」という打ち明け話など、是非お寄せください、お願いします。

続編については、今年度中に正式講座が開けるかどうかは、まさに今後の精進如何ですが、やっぱり4月以降になるような気もしています。しばらくお待ちくださいませ。

ちなみに、その前日には、トラックA「先生のためのeラーニング・コースウェア設計とeラーニング活用」として、NHK学園高校の猪貝達弘氏、早稲田大学の向後千春氏、広島大学の安武公一氏との楽しい対談もあった。こちらも配布資料はコンソーシアムのWebサイトにあります。この日の質疑応答の概要も、近日公開します。

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さてと、今ヒゲ講師は、シンガポールに来ている。アジアeラーニングネットワークの第3回国際会議に、ワーキンググループ3「eラーニングプロフェッショナル」のメンバーとして参加している。会場のパンパシフィックホテルは、クリスマスに向けて改装中で、部屋からのインターネットアクセスサービスが一時中断中であるが、会議場には臨時の無線LANが用意され、こうして会議中にもかかわらず、内職ができたりしています。先月(11月8日)に東京で開かれた第1回のWG3会合には、午前中しか参加できなかったので、無理を承知ではるばるシンガポールにまで来てしまった。アジア諸国からのリポートは、何と言ってもインストラクショナルデザイナ(ID者)が名実ともにeラーニングの中核的な専門家として認知されていることが印象的。主催国日本が、アジア諸国の先進的な事情を学ばせてもらっているという皮肉な関係が歴然とここにはある。それを痛感しただけでも、来た甲斐があったというものです、はい。

今年は海外に出る気配はあまりなかったが、最後の2ヶ月で3回も海外に出ることになった。11月の始めには、国際協力機構(JICA)短期専門家としてフィジーの南太平洋大学遠隔教育・情報通信技術強化プロジェクトで、調査+ワークショップ+公開講義に超多忙な2週間を過ごした。12月始めには、再びJICA短期専門家として、中華人民共和国水利人材養成プロジェクトで福建省福州市に赴いた。そして今回のシンガポール。外に出るたびに、日本の食べ物は世界一だと思う一方で、日本のIDはどうもねぇ、と思い知らされる。まぁ、がんばらないとね。

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ここ2ヶ月の間に、毎日インタラクティブの平野さんには何度もお会いした。何度も記事を掲載していただいた。ベネッセ先端教育技術学講座第4回公開研究会基調講演「教材開発とインストラクショナルデザイン」、教育情報システム学会eラーニング技術委員会主催シンポジウム「パネルディスカッション:大学で使いやすいeラーニング学習環境とは」モデレータ、そして冒頭のeラーニングフォーラム2004Winter。毎度お世話になります。

一方で、記事にならなかったイベントとしては、平成16年度第55回放送教育研究会全国大会(ヒゲ講師は統括指導者)、第22回 ICTE情報教育セミナーin仙台(ヒゲ講師はパネルセッション「教科『情報』で育てる学力と評価をめぐって」登壇者)など。それぞれのイベントでの講演資料などは下記にあります。見てやってくださいませ。

毎日インタラクティブの記事
http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/edu/news/20041109k0000e040108000c.html
http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/edu/news/20041109k0000m040115000c.html
http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/edu/elearningbusiness/topics/news/
20041208org00m040070000c.html
http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/edu/elearningbusiness/topics/news/
20041209org00m040049000c.html

第55回放送教育研究会全国大会を終えて
http://www.nhkk.or.jp/taikai/
http://www.nhkk.or.jp/taikai/55_aisatu.html

第22回 ICTE情報教育セミナーin仙台
http://www.icte.net/seminar/H16/20041121.htm
http://www.iwate-pu.ac.jp/home/ksuzuki/resume/addresses/a41121.html

イベント情報
○2005/01/22 日本教育工学会 研究会
「国際交流と教育工学」 場所 長崎大学(長崎市)
URL:http://www.nime.ac.jp/EduTech/files/20050122.html

○2005/01/22 教育システム情報学会 2004年度第5回研究会(東京)
「高等教育におけるICT利用システム-遠隔教育,生涯教育を含む」
URL:http://www.jsise.org/

○2005/01/28 13:30~17:00 第13回SEA新春教育フォーラム
「教育工学の現状を切る ~教育は理論と実践を尊重しているか~」 場所 東京都南部労政会館
URL:http://www.sea.jp/SIGEDU/forum.htm

編集後記
○2005/01/22 日本教育工学会 研究会
「国際交流と教育工学」 場所 長崎大学(長崎市)
URL:http://www.nime.ac.jp/EduTech/files/20050122.html

○2005/01/22 教育システム情報学会 2004年度第5回研究会(東京)
「高等教育におけるICT利用システム-遠隔教育,生涯教育を含む」
URL:http://www.jsise.org/

○2005/01/28 13:30~17:00 第13回SEA新春教育フォーラム
「教育工学の現状を切る ~教育は理論と実践を尊重しているか~」 場所 東京都南部労政会館
URL:http://www.sea.jp/SIGEDU/forum.htm

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