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IDマガジン第27号

ID マガジンのご愛読ありがとうございます。
今年度も最後の月となりました。熊本はだいぶ暖かくなり、サクラの季節にずいぶん近づいていると感じています。
3月12日は、3年間取り組んできた大学院教育改革支援プログラム(GP)の成果報告会を東京で開催します。お忙しい時期と思いますが、皆様のご参加お待ちしております。

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《 Contents 》
1. 【連載】ヒゲ講師のID活動日誌(27)
~出入りの2月~
2. 【ブックレビュー】
「ゲームニクスとは何か―日本発,世界基準のものづくり法則」
3. 【シリーズID理論】第9弾「GB-III特集その2:1章ID理論を理解する」
4. 【イベント】近々行われるイベントは?
★ 編集後記

【連載】ヒゲ講師のID活動日誌(26) ~出入りの2月~

毎年のことながら2月はあっという間に過ぎていく。もとから2月には28日しかないことに加えて、2つのビッグイベントがあるからだ。まず第一週に行われた修士論文の公開発表会では無事3期生(+α)19名を送り出した。+αは2年より長く修学した末に修了を迎えた2期生数名と、昨年からJICA(国際協力機構)との連携で受け入れを始めた海外からの留学生第一陣の4名が含まれていた。みんな立派に発表と質疑応答を切り抜けて、最終試験へとコマを進めた。それに引き続いて行われた冬合宿@山鹿温泉では、「来年はあのようになれるのだろうか」と不安を感じながら公開発表会を聴講した第4期生を交えて、数少ない直接対面の場に日本らしい文脈をセットし、大いに盛り上がりを見せた。合宿での1年生による研究計画ポスターセッションでは、公開発表を終わったばかりの先輩が早速アドバイス。1年前の自分の姿と重ねて、成長を実感したに違いない。ヒゲ講師は和風正装(いわゆる「浴衣」)で加わり、美酒に心地よく酔っ払った。

あけて第2週は、入学試験。熊本と東京で開催する入試は、毎年その受験人数を知るまではドキドキで、そのあとはどんな人と会えるのかが楽しみなイベント。今年も粒ぞろいの17名(+α)を第5期生として迎え入れることになった。+αはここでは、JICA派遣の留学生2名と博士後期課程の第3期生5名を指す。合格通知とともに所在が知らされて、すでにオンラインでのオリエンテーションが始まっている。元科目等履修生も新たにスタートする新入生も、気持ちを新たに準備段階に入っていることだと思う。4月10日のオリエンテーションガイダンス+専攻学位記授与式には、出る人も入る人も、そしてすでに出ていった人も中にいる人も、みんな揃って顔を合わせ、新しい1年を開始できることを楽しみにしている。

第3週から4週は、合計12泊の長旅。鹿児島(NHK教え方教室)、大阪(科研費プロジェクト会議+オフィスアワー)、東京(恩師来日のお世話+コンサル業務)、神奈川(セミナー講師)、仙台(JSET冬の合宿)、名古屋(GP関連の会議出席)と回って帰るともう3月だ。学生の出入りも多い月だが、ヒゲ講師自身の移動距離も並大抵ではない。3月はゆっくりしよう。半分は海外だけど、それが仕事のペースを緩める一番の手段かもしれない。

(ヒゲ講師記す)

【ブックレビュー】「ゲームニクスとは何か―日本発,世界基準のものづくり法則」サイトウアキヒロ著 幻冬舎新書、2007年

ゲームニクスとは,ゲームとエレクトロニクス,テクニクスなどのニクスを組み合わせて著者が新しく作った造語。一言でいえば,ゲームの制作者がゲームを幅広い世代の人々に遊んで貰うために生み出したテクノロジー・法則の事といえます。

みなさんはゲームに対してどんなイメージをお持ちですか。「おもしろそう」とか「みんなでわいわい」といったポジティブなイメージを持っている人もいれば,「所詮遊び」とか「子供に悪影響」などといったネガティブなイメージを持っている人もいるでしょう。一方,事実として任天堂のゲーム機であるDSやWiiは,若者だけでなく,シニアの世代でも受け入れられヒットしています。本書では,ゲームを「おもしろそう」と感じさせるためにゲーム制作現場が行っている「工夫」を読み解きつつ,ゲーム以外のヒット商品(iPodなど)にもあてはまる,ゲームニクスの本質について述べられています。

・ゲームにおける暗黙的な目標
ゲーム制作の現場では,主なターゲットである子どもが飽きずに使い続けてくれる物を作ることが大前提です。子どもは本来飽きっぽいので,使用することに苦痛を与えない「直感的な操作性」と,ゲームを自然にやり込むための「段階的な学習効果」の2つが重要と考えられてきたようです。そして,子どもをターゲットにしているので,他の年代においても使いやすいのです。

・ゲームニクスの法則
このような目標を達成するために,ゲーム制作で必要な配慮を「ゲームニクスの法則」として4つ挙げています。

1.直感的なユーザー・インターフェースであること
・使いやすいこと
・どこで何をするかをわかりやすくする画面や操作感の工夫
・ゲームを操作することに苦痛を与えてはいけない

2.マニュアルなしでルールを理解してもらう
・画面を見ただけで何をするか理解できる自然な流れを取り入れること
・自然にルールを理解してもらうために,チュートリアルを必要なときに仕込む

3.はまる演出と段階的な学習効果
・ゲームを進めることで夢中にさせる工夫
・アニメーションや効果演出,ストーリーなどによって画面に集中させる
・ゲームの難易度が状況に応じて次第に上がる
・新しいアイテムやイベントの登場
・こつこつと続けている成果が分かったり,ほめてもらえる

4.ゲームの外部化
・ゲームと実社会の関係がわかる演出を入れる
・現実世界のことをテーマとして扱う(シリアスゲーム)
・ゲーム内の体験が現実でも役立つあるいは,効果がある
・現実をうまく抽象化して分からせる

・ゲームと他の情報機器はどこが違う?
使いやすさを考え,何をするか迷わず,ストレスを感じさせないシンプルで自然なインターフェースを実現しているところは大きな違いです。デジタルテレビのリモコンに比べて,ゲーム機のコントローラーは非常にシンプルですよね。これは,表面上の奇抜さや機能ばかりでなく,利用者のためを思って丁寧な物作りをすることを前提にした結果です。本書では,ゲームニクスっぽいゲーム(スーパーマリオ・インベーダーなど)やデジタル機器(DS・PS・iPodなど)と,そうでない機器(銀行ATM・テレビ・携帯電話など)を例に挙げ,どこがどう違うのかをわかりやすく説明しています。

一見当然とも思えるゲームニクスの法則ですが,使いやすさの追求,自然に使いこなせる作り込みを明確な目標とすることはそうたやすいことではないでしょう。ゲームの開発現場で生まれた法則がどんなところに応用されているか,考えながら生活してみるのもおもしろいかもしれません。機能的な機器にあふれる現代だからこそ,シンプルに使いこなすことが出来るインターフェースが求められるのではないでしょうか。

(長崎大学大学教育機能開発センター 助教 井ノ上憲司)

【シリーズID理論】「GB-III特集その2:1章ID理論を理解する」

まず、本の構成について簡単に説明します。

GBIIIは4部13章で構成されています。第1部がID理論に関する共通の知識とその理解を築くための基礎情報をまとめたものであり(「ID理論を理解するためのフレームワーク」)、それに続く第2・3部ではID理論を複数ずつ紹介しています。第2部と第3部の違いは、紹介する理論のどこに焦点を当てているかという点です。第2部は、どんな手段(教え方)を用いた理論なのかという点を中心に(「インストラクションに対する異なるアプローチのための理論」)、第3部はどんな学習成果を得るための理論であるのかという点からまとめられています(「インストラクションに対する異なる学習成果のための理論」)。このように異なる視点から理論をまとめて紹介しているのは、実際に使える状況ごとにまとめたほうが利用しやすいという配慮からのようです。最後の第4部は「共通知識基盤を作るためのツール」と題して、この分野が発展していくためのキーワードと理論を進化させるための理論構築方法などについてまとめられています。

今回紹介する第1章では、社会が産業化時代から情報化時代に変化しているように、教育も時代の変化に合ったパラダイムへシフトされることが必要であることを踏まえ、現代のID理論の枠組みを整理しています。

ID理論に含まれる大きな2つの構成概念は二つあると整理されています。ひとつは、学習を促進するためのすべて(ツール)を含む「教育手法(Instructional method)」であり、二つめは、与えられた状況でどのツールを用いてよいのか、または用いるべきではないのかを判断するための要素すべてを含む「教育状況(Instructional situation)」です。「教育状況」には対象となるインストラクションの「価値(学習目標・評価・方法)」と「条件(学習内容・学習者・学習環境・開発制約)」が含まれます。かたや「教育手法」には具体的にどのような方法(教え方やツールなど)を用いれば良いのかという内容を含みますが、教育の規模や範囲などによって「教育手法」に含む部分も変化することが強調されています。

本質的な枠組みはこれまでと大きくは変わっておらず、ID理論には教授法(どんな教え方をするか、どんなツールを使うか)とその教授法を用いることが効果的である状況(学習内容・対象者のレベルや年齢・学習内容)の情報を含んでいるということが確認できました。一方で、以前から言われていることですが、同じ教育実践は二つと存在しないため、当該理論そのまま活用しても同じ成功を得ることはできないことから「教育手法」の提示方法が工夫されているのだと思います。基本的にはGBIやIIで提案してきたものの発展形と感じています。

このような概念を作り出す過程で、ライゲルース氏はデルファイ調査を実施しています。GBのすべてのボリューム執筆した全員と著名な研究者を対象者とし、53名から回答を得ています。「ID理論」という呼び方については、”Instructional Theory”が人間の学びと発達をファシリテートするための用語として適切だとの支持を得たようです。Instructionの他には、educationとの回答もあり、また、デザイン理論という表現が目的指向型(goal-oriented)を表すのに適切だとする回答の他にも、代替案としてInstructional theoryという用語や、学習科学が良いという回答もあったようです。専門家たちの意見を活用するという試みはこれまでなかったことですが、柔軟性のある用語定義と本分野におけるデザイン理論に対する重要性が支持されたことも本書における枠組み設定の裏にあるようです。

(熊本大学大学院 根本淳子)

【イベント】近々行われるイベントは?

4. 【イベント】近々行われるイベントは?

○2010/03/08(月)
平成21年度熊本大学GPフォーラム@熊本大学くすの木会館
URI:http://www.kumamoto-u.ac.jp/pageimages/whatsnew/2009/img/100308chirashi.pdf

○2010/03/12(金)
熊本大学大学院教授システム学専攻GP成果報告会@キャンパス・イノベーションセンター東京
URI:http://www.gsis.kumamoto-u.ac.jp/gp/symposium/

○2010/03/16(火)
第3回 熊本大学 eポートフォリオ研究会
(第3回 Ja-Sakai カンファレンス)
― 次世代Web技術を活用した学習環境の新展開 ―@熊本
URI:http://www.gsis.kumamoto-u.ac.jp/gp/symposium/

○2010/03/13(土)
教育システム情報学会2009年度第5回研究会
生涯教育と情報教育/一般@畿央大学
URI:http://www.jsise.org/

○2010/03/14(日)~2010/03/15(月)
第58回人工知能学会先進的学習科学と工学研究会(SIG-ALST)@山代温泉
URI:http://home.hiroshima-u.ac.jp/jsai-sig-alst/

★ 編集後記

春は旅立ちの季節ですね。今年も無事に修了生を輩出できることは嬉しいことですが、やはりどこかで寂しさを感じます。また、学内のスタッフのかなりの人数がごっそりと抜けるので、それもとても悲しく、不安になります。それでも進むしかないと、言い聞かせている最近の私でした。

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編 集 ID マガジン編集部 根本 淳子
発 行 熊本大学 大学院社会文化科学研究科
教授システム学専攻 鈴木 克明
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