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IDマガジン第26号

ID マガジンのご愛読ありがとうございます。
本年初の、IDマガジンです。本年もご愛読よろしくお願いいたします。
本年のIDマガジンの目標は、さらに内容を充実化させ、より多くの読者に読んでもらえるようにすることです。まずは、シリーズID理論を復活しますので、どうぞお楽しみに。

今回のコンテンツメニューはこちら↓
《 Contents 》
1. 【連載】ヒゲ講師のID活動日誌(26) ~履修主義でなく習得主義に立脚した学びの場~
2. 【シリーズID理論】第8弾「GB-III特集その1:予告編」
3. 【ブックレビュー】「イノベーションの普及」エベレット・ロジャース著
三藤利雄 訳
4. 【データを見る】ICT 準備度の国際比較ランキング
5. 【イベント】近々行われるイベントは?
★ 編集後記

【連載】ヒゲ講師のID活動日誌(25) ~履修主義でなく習得主義に立脚した学びの場~

2010年1月29日、ヒゲ講師はメルパルク京都にいた。国際フォーラム「(民立)京都レッツラーン大学校の設立に向けて」に参加するためだった。フランスからの招待講演者2人を招き、大学などのフォーマル教育以外にどのような制度を確立することで職業教育訓練をより多くの人たちに開放するか、その試みを学んだ。第二部では、「雇用可能性の確保と学びのコミュニティの役割」と題するパネルディスカッションで、生涯学習の現状、ネット時代の職能、eラーニングの可能性などが話し合われた。最後は「円卓会議」で3つのテーマに分かれて今後の方向性についての意見を交換した。とても充実した一日だった。

京都レッツラーン大学校は、NPO法人学習開発研究所が京都府委託事業としてその設立に向けて準備中の民立高等教育機関である。eラーニングを使って職能訓練を行うフォーマル教育以外の枠組みを模索する、という大きなチャレンジに一つ参画してもらえないだろうか、とヒゲ講師が尊敬する西之園晴夫先生に声をかけてもらい、その門出に立ち会う機会を得た。興奮が覚めやらぬ中で送った御礼メールを以下に引用し、この試みがIDの応用シーンとして益々発展することを楽しみにできる限りの「お節介」を続けていく気持ちを表明しておきたい。

ーーー以下、メールからの引用ーーー
見出し:門出に立ち会えて感謝
西之園先生、皆様:鈴木@熊本大学です。昨日はありがとうございました。とても刺激を受けました。

・履修主義でなく習得主義
・途中から始められる・必要なところをつまみ食いできる
・職務に直結する力がつく・それを確認できる

教習所に通って免許をとるのではなく一発試験に向けてみんなで空き地で練習する、問題を解きあう仲間というイメージを思い描きながら拝聴していました。大人の学びには「何も知らない」という前提から始めるのは無駄だということですね。

こんなことを実現するためには
たとえばシステムLSI技術のビデオコースでしたら、
・ビデオを見る前に職務に直結する実務的課題を提示する。
これが学習成果。課題は複数でも良い。ビデオを見る前にチャレンジしてできればそれで合格。
・この課題ができるようになるための道筋を見せる(実務課題とビデオとの関係マップ)
・学習計画をみんなで立てる
・自分が知っていることのビデオは見ないでもよい
という流れが良いのではないかと思いました。
最近のインストラクショナルデザインの理論と合致した進め方です。

うちの大学院でもこんな感じでやってますが、どうしても
・自分が知っていることのビデオは見ないでもよい
の部分ができません(正規カリキュラムとしての縛り=最低学習時間が決められている)。

#ビデオは極力使わずに本を読ませることで、斜め読みで済む人にはその自由を与えるようにはしていますが、
#公にはそれを強調できません。

この縛りがないのがレッツラーン大学校の特長だと思いました。

ありものを使ってどう学ぶか、その原則のようなものをデザインして(たとえば上記のようなもの)、それを最初のコースで試せれば特長が出せるのではないかと思いました。

レッツラーン大学校で学ぶと、ありものを組み合わせて学ぶ力も付く。
個々の内容領域の学習成果だけでなく、これも学習成果として掲げても良いと思いました。

また学ばせていただく機会を楽しみにしております。
とりいそぎ
ーーーメールからの引用おわりーーー

参考:京都レッツラーン大学校設立準備室 http://www.ks-pl.org/
NPO法人学習開発研究所 http://www.u-manabi.org/

(ヒゲ講師記す)

【シリーズID理論】第8弾「GB-III特集その1:予告編」

新春号を記念して、何か始めなければ・・・と思いついたのは、初心に帰るということで、「ID理論」の紹介を再開することでした。このシリーズでは、ID分野の研究に携わる人で知らない人はいない、ライゲルース教授の「グリーンブックⅡ」(正式名は、ID理論とモデル:Instructional-Design Theories and Models)の紹介をしてきました。まだ紹介していない理論も残っていますが、グリーンブックの三巻目が登場したので、しばらく第三巻の内容を取り上げることにします。

この「グリーンブックⅢ」に関しては、2009年のe-Learning Conference 2009 Summerで発表しています。eLCの会員であれば、過去の資料をご覧いただけます。

今回は、予告編として「グリーンブックⅢ」の概要について紹介します。

一言で言えば「グリーンブック(以下、GB)」はID理論集ですが、Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ巻とそれぞれの役割があります。GBⅠはADDIEモデルに代表される開発プロセスと出来上がった教材の青写真を描くためのIDモデル・理論の区別を提案し、IDがADDIEだけではないことを定着させ、本分野の研究者に強いインパクトを与えました。GBⅡは、1990年代後半の様々な理論を集めまとめたものであり,構成主義に立脚した数多くのIDモデルを紹介し、IDが時代とともに進化していることを示しました。そして、今回出版されたGBⅢでは、徐々に変化する本分野も、徐々に成熟しつつあることを踏まえ、共通の用語を用いて、共通の知識ベース(基盤)を作りだそうとしています。それがGBⅢの副題「共通知識基盤の構築(Building a Common Knowledge Base)」に示されています。

ⅠとⅡでは、さまざまな理論をひとつずつ取り上げて紹介していますが、Ⅲでは、これまで紹介してきた理論や最新の動向を、共通の枠組みを使って今までとは違う形で紹介しようとしています。今までは、認知領域や情意領域といった学習課題の種類ごとにまとめて理論やモデルを個別に紹介してきました。しかし、今回は、それらの集大成ともいえる一般理論(メリルの第一原理を採用)と、複数の教授要素(たとえば、コーチングや例示、例と例でないものの提示など)から構成される「アプローチ」と呼ぶ教授原理単位ごとの個別理論の二つに分けて概念化しています。情報時代となった今日では、学習課題ごとにまとめるよりも実際に使える状況ごとに整理したほうが、活用度が高まるという配慮からきているようです。

では。次回からをお楽しみに。

熊本大学大学院 根本淳子

【ブックレビュー】「イノベーションの普及」 エベレット・ロジャース著 三藤利雄 訳

この本は、初版刊行時から40年を経て現在第5版、5,000以上の文献の分析を重ね、最新の研究やトピックを盛り込み、「イノベーションはどのように伝播していくのか?」という問いに理論的かつ経験的に解明しているものである。コミュニケーション、マーケティング、コンピュータ・ネットワークの社会的利用や新技術、新製品、新ライフスタイルなどのイノベーションは、社会に新たな選択肢や手段を提供することで、「不確定性」を増大させている。この本は、これらのような新たな不確定性をどのように?対処するのかという、情報伝播の仕組みを理解する上では、あらゆる研究に役立つものであるため紹介する。

イノベーションの普及理論の一般化・普遍化を目指した研究はこれからも進められるであろうが、一方でマーケティングや社会学、コミュニケーション学などに特化した研究が行われると予想できる。そのとき、研究者や実務家にとって羅針盤となるのがこの本である。

本書には普及研究の伝統に基づく知識の体系が蓄積されている。40年以上もの間、多く調査や理論的な展開とともにイノベーション普及過程に関する研究が拡張されてきている。しかし、基本的な枠組みは現在も踏襲されているようである。

イノベーションとは、本書では「新しい技術の発明だけではなく、新しいアイデアから社会的意義のある新たな価値を創造し、社会的に大きな変化をもたらす自発的な人・組織・社会の幅広い変革である。つまり、それまでのモノ、仕組みなどに対して、全く新しい技術や考え方を取り入れて新たな価値を生み出し、社会的に大きな変化を起こすことを指す。」とある。

「普及」とは、本書では「イノベーションが、あるコミュニケーション・チャンネルを通じて、時間の経過の中で、社会システムの成員に間に伝達される過程である。メッセージが新しいアイデアに関わるものであるという点で、普及はコミュニケションの特殊な形式の一つである。コミュニケーションとは、それの参加者が相互理解に到達するために、互いに情報を創造し分かち合う過程である。」とある。

これまでイノベーションは、よく「技術革新」や「経営革新」、あるいは単に「革新」、「刷新」などと言い換えられてきた。しかしながら、ソフトウェアの側面での改革や新たな取組なども社会変化には、大きく影響を与えていると思われる。
私がこの本に興味を持った理由は、自身の研究内容をどのように実践の場で普及できているのか?自身の研究内容との関連において、大変興味深いテーマであったからである。私の研究は、「高等教育における全学的なeラーニング推進に関わる研究」である。そこで、全学的にeラーニングの効果的な活用方法等が伝わり、採用する教員が増えていく過程には、何らかの普及理論が介在していると考えられる。多くの研究は、何らかの役に立つものとして研究が進められるであろうが、良いものは自然に普及していくというものではない。この普及理論は、とても参考になる1冊である。

イノベーションはどのように伝わっていくのか?
イノベーションの普及に関わる主要な要素は、(1)イノベーション、(2)コミュニケーション・チャンネル、(3)時間の経過、(4)社会システム、と著者は定義している。この中でも社会システムとは、共通の目的を達成するために共同で課題の解決に従事する、相互に関連のある成員の集合のことである。

ロジャースの本書で有名なのは、イノベーションを採用するタイミングに合わせて、イノベーション採用者のタイプを5つに分類したことが有名である。①イノベータ、②初期採用者、③初期多数派、④後期多数派、⑤ラガード(採用の最も遅い人々)が採用者のカテゴリーである。こうした採用者をカテゴリーに分けることもとても重要であるが、私は、高等教育機関に従事し、eラーニングをどのように伝播していくのかという研究課題において、オピニオン・リーダーのリーダーシップがとても重要な役割を果たしていることが、とても参考になった。

また、本書では、「オピニオン・リーダーが、重要な役割を果たす」ことが記されている。基本的にオピニオンリーダーとは、ある製品のプロトタイプを使用し、その製品の魅力を他者に伝える役割を担う。プロトタイプを使用するオピニオン・リーダーに、その製品に関する知識を得ることも考えられるが、もともと詳しい情報を持っている人を選択することも戦略として考えることも必要である。オピニオン・リーダーは、頼りにされる人材であるため、その製品を詳しく説明できることだけでなく、製品に付随する情報にもついても説明できることで、よりイノベーションを普及させることにつながるということである。

相対的にみて他の人の態度や行動が望むべき方向に頻繁に向かうように、非公式に影響力を行使できる度合いがイノベーションの成功の確率と関係している。また、イノベーションの初期の採用者が、普及過程に大きく影響を及ぼすこともポイントである。

主要な普及研究の類型は8つあり、次のとおり著者は示している。
1) イノベーションを知る早さ
2) 社会システム内部での異なるイノベーションごとの普及速度
3) 革新性
4) オピニオン・リーダーシップ
5) 普及ネットワーク
6) 異なる社会システムごとの普及速度
7) コミュニケーション・チャンネルの活用
8) イノベーションの帰結

この本は、多くの研究者のイノベーションを普及させる過程で、大いに役立つものである。
私自身は、「4)のオピニオン・リーダーシップ」は、大変参考になった。高等教育機関において、教育改革に奮闘する方へは、2)社会システム内部での異なるイノベーションごとの普及速度、4)オピニオンリーダシップ、7)コミュニケーションチャンネルの活用、などは、誰に、何を、どのように提起し、進めていくのか。ヒントがこの本にはある。お勧めである。さらに熟読したい。
その上で、高等教育機関で、eラーニングを普及させるために何が必要であるのかを明らかにしていきたい。

以上

(熊本大学大学院 社会文化科学研究科 教授システム学専攻 博士後期課程
日本福祉大学 教育デザイン研究室 兼 教育開発室主幹 仲道雅輝)

【データを見る】ICT 準備度の国際比較ランキング

日本はインターネットユーザ数と普及率はアジア2位である一方で、ICT準備度について発表されてきた国際ランキングでは、シンガポール・台湾・香港・韓国に比べて遅れていることが指摘されてきた。

●Internet Worlds Stats によれば、2009年現在のアジアのインターネット利用者は世界の42.2%を占めている(人口比は56.3%)。そのうちのほぼ半数(48.2%)は中国であり、日本はアジア第2位のユーザ数を有している。日本は普及率でも韓国(77.3%)に続くアジア2位(74.0%)である。

●国際電気通信連合(ITU)の統計(Digital Opportunity Index)によれば、日本は世界1位の韓国に続いてインターネット接続度世界2 位と高く評価されている。
http://www.itu.int/ITU-D/ict/doi/

●一方、関係者にショックを与えた国際ランキング「eラーニング準備度」ではわが国は世界23位だった(2003年)。同ランキングでは、韓国がアジアトップの第5位、シンガポールが第6位、台湾が16位、香港が19位であり、マレーシアは日本に差し迫る25 位と評価されていた(このランキング発表は2003 年を最後に中断している)。
https://www-04.ibm.com/jct03001c/services/learning/solution
s/pdfs/eiu_e-learning_readiness_rankings.pdf

●最新の「e準備度」ランキング(2009年度)では、日本は世界22位であり、アジアをリードするシンガポール(世界7位)、香港(8位)、台湾(16位)、韓国(19位)から出遅れていると評価された。
http://www-935.ibm.com/services/us/gbs/bus/pdf/e-eadiness_rankings_june_2009_final_web.pdf

●世界経済フォーラム(WEF)が発表している最新の指標「ネットワーク準備度」(2008-2009)によれば、シンガポール(第4位)を筆頭にアジア太平洋地域の6カ国が世界のトップ20入りを果たしている。上位から韓国(11位)、香港(12位)、台湾(13位)、オーストラリア(14位)、そして日本(17位)である。
http://www.weforum.org/pdf/gitr/2009/gitr09fullreport.pdf

世界経済フォーラムの報告書からは、アジアのICT 先進国が国策として取り組んできた成果としてランキングが上位になったことに比べ、日本ではビジネス面では先行しているものの規制・行政・インフラ面での問題が顕著であると指摘された。

2009 年はICT教育利用の転機であった。新「情報教育に関する手引き」(増補版)の公表、「学校ICT 環境整備事業(スクール・ニューディール)の補正予算獲得と政権交代による凍結、そして「メディア教育開発センター」の独立行政法人の整理に伴う放送大学ICT 活用・遠隔教育センターとしての改組。たまには国際ランキングなどを見ながら、わが国の将来の行く末を考えてみることも必要ではないだろうか。

さらに知りたい方は次の文献をどうぞ:
鈴木克明(2010)「ICT準備度の国際比較ランキングから見えること」平成21年度日本教育メディア学会第2回研究会@金沢星陵大学
http://www2.gsis.kumamoto-u.ac.jp/~idportal/wp-content/uploads/b00130jaems.pdf

鈴木克明(2009)「日本のeラーニングの過去・現在・未来
Brain Korea 21 International Seminar報告」第36回ランチョンセミナー、熊本大学eラーニング推進機構
http://cvs.ield.kumamoto-u.ac.jp/wpk/?p=524

【イベント】近々行われるイベントは?

○2010/02/27(土) ~ 2010/02/28(日)
日本教育工学会 冬の合宿研究会「教育現場とつくる実践研究のデザイン」
@かんぽの宿 松島
URI:http://www.jset.gr.jp/study2/index.html

○2010/03/06(土)
日本教育工学会研究会「教育実践を指向した学習支援システム/一般」
@広島大学
URI:http://www.jset.gr.jp/study-group/files/20090307.html

○2010/03/13(土)
教育システム情報学会2009年度第5回研究会
生涯教育と情報教育/一般@畿央大学
URI:http://www.jsise.org/

○2010/03/14(日)~2010/03/15(月)
第58回人工知能学会先進的学習科学と工学研究会(SIG-ALST)@山代温泉
URI:http://home.hiroshima-u.ac.jp/jsai-sig-alst/

★ 編集後記

1月中に発行する予定が、お時間頂戴してしまいました。気づいたら、2月に突入です。ふぅ。焦りました・・・。こんな私ですが、頑張ってIDマガジンを続けて行きますので、ご支援お願いします。

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